大胆な投資促進税制では、一定の要件を満たす特定生産性向上設備等のうち、一定規模以上のものが特定機械装置等として税制優遇の対象になります。
そこで重要になるのが取得価額です。
一見すると、設備をいくらで購入したのかを確認するだけの単純な問題に思えるかもしれません。
しかし、大規模な設備投資では複数の機械や装置を組み合わせて1つの生産ラインを構築することがあります。
この場合、生産ライン全体の取得価額で判定するのか、それとも個々の機械や装置ごとに判定するのかによって、税制の適用関係が変わる可能性があります。
令和8年度の法人税関係法令の改正を受けた国税庁の通達でも、取得価額の判定単位について取扱いが新設されています。
なぜ取得価額に基準があるのか
大胆な投資促進税制は、すべての設備投資を対象とする制度ではありません。
一定の要件を満たす設備投資を税制面から後押しする制度です。
そのため、対象設備について一定規模の要件が設けられています。
ここで問題になるのが、何を1つの設備として取得価額を判定するのかという点です。
100億円の工場を新設したからといって、100億円すべてを1つの資産として判定するわけではありません。
税務上は複数の資産に分けて考える必要があります。
大型投資は複数の資産からできている
たとえば新しい工場を建設するとします。
投資総額が50億円だったとしても、その中身はさまざまです。
建物があります。
電気設備や空調設備などの建物附属設備があります。
製造機械があります。
搬送設備があります。
器具備品があります。
さらに、生産管理などに利用するソフトウエアが含まれることもあります。
経営上は50億円の新工場プロジェクトでも、税務上は複数種類の減価償却資産によって構成されています。
したがって、プロジェクト全体の金額だけでは大胆な投資促進税制の適用を判断できません。
生産ライン全体を1つと考えてよいとは限らない
製造業では、複数の機械を接続して1つの生産ラインを構築することがあります。
原材料を投入する機械があります。
加工する機械があります。
検査する装置があります。
梱包する機械があります。
企業の現場では、これら全体を1つの生産ラインと呼ぶかもしれません。
しかし、現場で1つの生産ラインと呼んでいるからといって、税務上も必ず1つの資産として取得価額を判定するとは限りません。
税制適用では、資産としてどの単位で取得価額を判定するのかを確認する必要があります。
取得価額の判定単位が重要になる理由
仮に税制の対象となるために一定額以上という取得価額要件があるとします。
複数の設備を合計すれば要件を満たすものの、個々の設備では基準に達しない場合があります。
反対に、1つの設備として判定できれば要件を満たす場合もあります。
つまり、判定単位によって制度の適用結果が変わる可能性があります。
そのため、企業側が自由に設備をまとめたり分けたりして判断するのではなく、税務上の考え方に沿って判定する必要があります。
契約書の単位と税務上の資産単位は同じとは限らない
設備投資では、1つの契約で複数の設備を購入することがあります。
たとえばメーカーとの契約金額が5億円だったとしても、その契約の中に複数の独立した機械が含まれている場合があります。
反対に、複数の契約に分かれていても、設備として一体的に機能する場合も考えられます。
そのため、契約書や請求書の金額をそのまま取得価額の判定単位にできるとは限りません。
設備の機能や構成などを確認する必要があります。
会計上の固定資産管理とも関係する
企業は設備を取得すると固定資産台帳へ登録します。
その際、どの単位で固定資産として管理するのかを決めます。
1つの大型設備として登録する場合もあれば、複数の機械に分けて登録する場合もあります。
取得価額の判定では、このような固定資産管理とも密接に関係します。
ただし、社内の管理上まとめているという理由だけで税制上の判定が決まるとは限りません。
税法上どのような単位で判定するのかを別途確認することが重要です。
付随費用も取得価額に関係する
設備の取得価額は、本体価格だけとは限りません。
設備を購入して実際に使用できる状態にするまでには、さまざまな費用が発生することがあります。
運送や据付けなど、取得に伴って発生する費用について、税務上どこまで取得価額へ含めるのかという問題があります。
大型設備では、本体価格だけでなく設置までに多額の費用が発生することがあります。
取得価額要件を判定する場合には、単に請求書に記載された機械本体の価格を見るのではなく、税務上の取得価額がいくらになるのかを確認することが必要です。
税額控除額にも取得価額が影響する
取得価額は、対象になるかどうかを判定するためだけに重要なのではありません。
税額控除を選択する場合には、取得価額が税額控除額の計算にも関係します。
大胆な投資促進税制では、機械装置などについて取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物について4%相当額の税額控除が設けられています。
したがって、取得価額をどのように計算するかによって税額控除額にも影響が及びます。
即時償却を選択する場合にも、取得価額は償却額を計算する基礎となります。
取得価額の判断は制度全体の土台になるわけです。
投資計画の段階から資産を分けて整理する
大規模設備投資では、完成後に初めて資産を分類しようとすると大変です。
数十億円規模の工場建設では、多数の契約や設備が存在することがあります。
そのため、投資計画の段階から、
建物
建物附属設備
構築物
機械装置
工具
器具備品
ソフトウエア
などに整理しておくことが重要です。
さらに、それぞれの資産について取得価額や使用目的を把握できるようにしておけば、税制適用の検討もしやすくなります。
経理部門だけでは判断できない場合がある
設備の判定単位を考えるためには、その設備がどのように機能するのかを理解する必要があります。
経理担当者が請求書だけを見ても判断できない場合があります。
どの機械とどの機械が一体として機能するのか。
それぞれ独立して使用できるのか。
生産工程の中でどのような役割を持つのか。
こうした情報は、設備担当者や製造部門の方が詳しいでしょう。
大型投資では、経理、税務、製造、設備などの部門が連携して固定資産を整理することが重要になります。
結論
大胆な投資促進税制を利用する場合、設備投資総額だけを見て対象になるかどうかを判断することはできません。
重要なのが取得価額の判定単位です。
新工場や生産ラインは、経営上は1つの投資プロジェクトでも、税務上は建物、建物附属設備、構築物、機械装置、器具備品など複数の資産から構成されています。
また、複数の機械をまとめて1つの生産ラインと呼んでいても、それだけで税務上の判定単位が決まるわけではありません。
契約単位や請求書の単位とも必ずしも一致しません。
どの単位で取得価額を判定するのかによって、一定規模以上という要件を満たすかどうかが変わる可能性があります。
さらに取得価額は、税額控除や即時償却の計算にも直接関係します。
だからこそ、大規模な設備投資では完成後に税制を確認するのではなく、投資計画の段階から資産の種類と判定単位を整理しておくことが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について