「正社員には住宅手当があるのに、契約社員には支給されない」「パート社員には家族手当がない」。このような待遇差は、以前は多くの企業で見られました。しかし現在では、「同一労働同一賃金」の考え方が定着し、不合理な待遇差は認められにくくなっています。
特に各種手当については、支給目的によって待遇差が許される場合と許されない場合があります。企業は制度の趣旨を明確にし、合理的な説明ができることが求められています。
今回は、同一労働同一賃金の考え方と、手当との関係について解説します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、同じような仕事をしている労働者について、不合理な待遇差をなくそうという考え方です。
働き方改革関連法の施行により、短時間労働者や有期雇用労働者と正社員との間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されました。
ここでいう「同一賃金」とは、すべての労働者に同じ給与を支払うという意味ではありません。
仕事内容や責任の範囲、人材活用の仕組みなどに違いがある場合には、その違いに応じた待遇差は認められます。
問題となるのは、合理的な理由がない待遇差です。
パート・有期雇用労働法の考え方
同一労働同一賃金のルールは、パート・有期雇用労働法によって定められています。
企業は、基本給だけではなく、賞与、各種手当、福利厚生についても待遇差が合理的かどうかを説明できなければなりません。
例えば、通勤手当は通勤に必要な費用を補うことが目的です。
正社員もパート社員も通勤費用が発生するのであれば、雇用形態だけを理由に支給しないことは合理的とはいえません。
一方で、転勤を前提とした制度に基づく手当などは、その制度の違いが待遇差の理由となる場合があります。
このように、手当の「目的」が判断の重要なポイントになります。
最高裁判例が企業に与えた影響
同一労働同一賃金を巡っては、多くの裁判が行われてきました。
最高裁判所も、各種手当について、その支給目的に照らして合理性を判断する考え方を示しています。
例えば、通勤手当や食事補助、皆勤手当などは、雇用形態によって目的が変わるものではないため、不合理な待遇差と判断された事例があります。
一方で、住宅手当や退職金などについては、企業の人事制度や転勤の有無などを踏まえ、待遇差が認められた事例もあります。
つまり、「どの手当だから認められる」「認められない」と一律に判断されるのではなく、制度の目的と実態が重視されるのです。
手当制度の見直しが進んでいる
こうした法改正や判例を受け、多くの企業では手当制度の見直しが進められています。
支給対象を広げる企業がある一方で、手当そのものを廃止し、基本給へ組み込む企業も増えています。
参考資料でも、日本では職務や習熟度とは直接関係しないさまざまな手当を支給することが特徴的な賃金体系である一方、その内容は時代の変化に応じて見直されていることが紹介されています。
手当の趣旨が曖昧なままでは、不合理な待遇差が生じる可能性があるため、企業は制度の目的を明確にすることが重要です。
今後の見直しのポイント
今後は、雇用形態ではなく仕事内容や役割を重視する賃金制度への移行がさらに進むと考えられます。
そのため、各種手当についても「なぜ支給するのか」という目的を明確にし、その目的に照らして支給対象を決めることが重要になります。
また、ジョブ型雇用の普及に伴い、生活事情に応じた手当よりも、職務や成果を反映した報酬制度へ移行する企業が増える可能性もあります。
企業は法令を遵守するだけでなく、従業員が納得できる公平な制度を構築することが求められています。
結論
同一労働同一賃金は、雇用形態だけを理由とした不合理な待遇差をなくすことを目的とした考え方です。
各種手当についても、その支給目的に合理性があるかどうかが重要な判断基準となります。
企業には、手当制度の趣旨を明確にし、公平性と説明責任を意識した制度設計が求められています。今後は、職務や成果を重視する人事制度の広がりとともに、手当の在り方もさらに見直されていくでしょう。
参考
企業実務 2026年8月号
「手当」を手当てするとき