上場企業の監査というと、公認会計士が決算書の数字を確認する仕事を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、企業の財務報告の信頼性を高めるには、出来上がった決算書だけを確認すればよいわけではありません。
その決算書が正しく作られる仕組みが会社の中に整備され、実際に機能しているのかを見ることも重要です。
そこで登場するのが「内部統制監査」です。
会計不正を防止するうえでも、決算書の数字と、その数字を作り出す会社内部の仕組みは切り離して考えることができません。
内部統制監査とは何か
内部統制監査とは、財務報告に関する企業の内部統制について経営者が行った評価を、監査人が監査する仕組みです。
ここで重要なのは、内部統制を整備し、その有効性を評価する責任はまず経営者にあることです。
監査法人が企業に代わって内部統制を作るわけではありません。
経営者が自社の内部統制を評価し、その結果を内部統制報告書として開示します。
監査人は、その経営者による評価が適正なのかを監査します。
つまり、経営者による評価と監査人による監査という二段階の仕組みになっています。
財務諸表監査とは何が違うのか
財務諸表監査と内部統制監査は、対象が異なります。
財務諸表監査では、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が重要な点において適正に表示されているかについて、監査人が意見を表明します。
一方、内部統制監査では、財務報告に関する内部統制についての経営者の評価を監査します。
簡単にいえば、財務諸表監査が「出来上がった決算書」を見るのに対して、内部統制監査は「決算書を正しく作るための仕組み」に目を向けるものです。
ただし、実際には両者は密接につながっています。
内部統制がしっかり機能していれば、財務諸表に重要な誤りや不正が発生するリスクを低くできるからです。
J-SOXとは何か
日本の内部統制報告制度は、一般にJ-SOXと呼ばれています。
米国で導入された企業改革法であるSOX法を参考に、日本でも金融商品取引法に基づく内部統制報告制度が導入されました。
背景には、大規模な会計不正によって企業の財務報告に対する信頼が揺らいだことがあります。
会計不正が発覚した後に問題を調べるだけではなく、そもそも誤った財務報告が作られにくい仕組みを企業内部に構築することが重要だと考えられるようになりました。
内部統制は、不正が起きてから対処するだけではなく、不正や誤りを未然に防止したり早期に発見したりするための仕組みなのです。
具体的にどのような仕組みを見るのか
例えば売上高を考えてみます。
営業担当者が受注しただけで自由に売上を計上できる会社では、不適切な売上計上が発生するリスクがあります。
そこで、注文、出荷、請求、入金などの各段階で適切な確認を行う仕組みを設けます。
取引を承認する人と会計処理をする人を分けることもあります。
システム上、権限を持たない社員が会計データを変更できないようにすることも重要です。
決算時には、通常とは異なる仕訳について上位者の承認を必要とする仕組みも考えられます。
こうした一つ一つの統制が積み重なって、財務報告の信頼性を支えています。
整備されているだけでは足りない
内部統制では、立派なマニュアルを作れば終わりではありません。
実際にその仕組みが運用されている必要があります。
例えば「1000万円以上の支払いには部長の承認が必要」というルールがあるとします。
社内規程にそう書かれていても、実際には承認なしで支払いが行われているのであれば、内部統制は有効に機能しているとはいえません。
内部統制では「ルールが存在すること」と「ルールが実際に守られていること」の両方が重要です。
監査でも、制度が書類上存在するだけではなく、実際に運用されているかを確認します。
不備が見つかったらどうなるのか
内部統制に問題が見つかった場合、すべてが同じ重大さというわけではありません。
小さな不備もあれば、財務報告に重大な影響を及ぼす可能性のある問題もあります。
特に重要なのが「開示すべき重要な不備」です。
財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制上の問題があれば、経営者は内部統制報告書でその内容などを開示する必要があります。
投資家にとっても重要な情報です。
現在の財務諸表に直ちに巨額の誤りがあることを意味するとは限りませんが、将来、不適切な財務報告が発生するリスクを考える材料になります。
内部統制があっても不正はゼロにならない
内部統制を整備すれば、会計不正を完全になくせるのでしょうか。
残念ながら、そうではありません。
例えば複数の社員が共謀すれば、本来は互いにチェックする仕組みをすり抜ける可能性があります。
さらに大きな問題が、経営者による内部統制の無効化です。
経営者は企業内部で大きな権限を持っているため、本来の承認手続きを無視したり、部下に例外的な会計処理を指示したりできる場合があります。
内部統制には限界があるからこそ、経営者を監督する取締役会や監査役、さらに外部の監査人の役割が重要になります。
財務諸表監査と一体で見る意味
財務諸表監査と内部統制監査を別々の制度として考えるだけでは、その意味を十分に理解できません。
例えば監査人が売上高について重要な不正リスクがあると判断したとします。
その場合、売上高の数字そのものを確認するだけではなく、売上を計上する社内の仕組みがどのようになっているのかも重要になります。
誰が売上を入力できるのか。
誰が承認するのか。
決算期末の売上について特別な確認が行われているのか。
数字と仕組みの両方を見ることで、財務報告の信頼性をより深く検討できます。
投資家も内部統制報告書を確認できる
個人投資家が企業を分析するときには、決算短信や有価証券報告書だけでなく、内部統制報告書も情報源になります。
特に開示すべき重要な不備が報告されている場合には、なぜその問題が発生したのかを確認することが重要です。
単純なシステム上の問題なのか。
人員不足によってチェック体制が機能しなかったのか。
海外子会社まで本社の管理が届いていなかったのか。
経営者が不適切な会計処理に関与していたのか。
同じ内部統制上の不備でも、その背景によって意味は大きく異なります。
さらに、その後どのような改善策を実施したのかを見ることも重要です。
結論
内部統制監査とは、財務報告に関する企業の内部統制について経営者が行った評価を、監査人が監査する仕組みです。
財務諸表監査が出来上がった決算書を見るのに対して、内部統制監査は正しい決算書を作るための会社内部の仕組みに目を向けます。
会計不正を防ぐには、決算後に数字を確認するだけでは十分ではありません。
取引の承認、職務分掌、システムのアクセス権限、決算仕訳のチェックなど、日常の業務のなかに不正や誤りを防ぐ仕組みを組み込む必要があります。
一方、内部統制にも共謀や経営者による無効化といった限界があります。
だからこそ、経営者による内部統制の整備と評価、監査役などによる監督、外部監査人による監査を組み合わせることが重要になります。
決算書の信頼性は、決算日に突然作られるものではありません。
一年を通じて会社の中でどのようなチェックが働いているのか。
その仕組みまで見るのが内部統制監査なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載