住宅価格の上昇が続くと、若い世代が自分たちの収入や貯蓄だけで住宅を購入することは難しくなります。
そこで利用されてきた制度の一つが、父母や祖父母から住宅購入資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置です。
令和9年度税制改正要望では、国土交通省が住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置などについて、必要な検討を行い、所要の措置を講じることを求めています。
住宅価格が高騰するなかで、親や祖父母の資産を子や孫の住宅取得へ早期に移転することが、改めて政策課題になっています。
住宅取得資金の贈与税非課税とは何か
通常、個人から財産の贈与を受けると贈与税の対象になります。
親から子への贈与であっても、原則は同じです。
ただし、父母や祖父母などの直系尊属から、自分が住む住宅の新築、取得、増改築などのための資金を贈与された場合、一定の要件を満たせば一定額まで贈与税を非課税とする特例があります。
住宅取得という特定の目的に使う資金について、通常の贈与よりも税負担を軽くする仕組みです。
なぜ住宅購入だけ特別扱いするのか
この制度には、大きく二つの政策目的があります。
一つは住宅取得を支援することです。
住宅価格が高くなるほど、頭金などを準備する負担も大きくなります。
そこで親や祖父母から資金援助を受けやすくすることで、若い世代などの住宅取得を後押しします。
もう一つは、高齢世代が保有する資産を若い世代へ早期に移転することです。
相続まで資産が動かなければ、子どもが財産を受け取る時点では自身も相当な年齢になっている可能性があります。
住宅を購入する時期に資産を移転できれば、資金を必要とする時期と資産移転の時期を合わせやすくなります。
通常の贈与税との違い
贈与税には暦年課税の場合、年間110万円の基礎控除があります。
その範囲内の贈与であれば、原則として贈与税はかかりません。
しかし、住宅取得には数百万円、数千万円単位の資金が必要になる場合があります。
年間110万円の基礎控除だけでは、大きな住宅取得支援を一度に行うことは難しくなります。
住宅取得等資金の非課税措置は、一定の要件のもとで住宅取得のためのまとまった資金移転を可能にするところに意味があります。
どんな住宅でも同じではない
住宅取得資金の贈与であれば無条件に非課税になるわけではありません。
贈与を受ける人や住宅について一定の要件があります。
また、住宅の性能によって非課税限度額が異なる仕組みも設けられています。
省エネルギー性能など一定の基準を満たす住宅について、より大きな非課税枠を認めることで、単に住宅取得を増やすだけではなく、良質な住宅ストックの形成を促すという政策目的があります。
国土交通省が今回の要望で掲げているのも、住宅取得負担の軽減や住宅需要の刺激だけではありません。
良質な住宅ストックの形成も目的とされています。
住宅価格高騰で制度の意味が変わる
住宅価格が比較的安定していれば、自己資金と住宅ローンを組み合わせて住宅を取得できる世帯も多くなります。
しかし、住宅価格が大幅に上昇すると状況が変わります。
住宅ローンの借入額を増やせば、毎月の返済負担も大きくなります。
さらに金利が上昇すれば、同じ借入額でも総返済額が増える可能性があります。
そこで親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けられれば、住宅ローンの借入額を抑えることができます。
住宅価格の高騰局面では、贈与税の非課税措置が住宅取得能力に与える影響も大きくなりやすいと考えられます。
親から援助を受けられる人だけが有利になる問題
一方、この制度には公平性という論点があります。
住宅取得資金を援助できる親や祖父母がいる世帯は、制度を利用できます。
しかし、親世代に十分な資産がなければ利用できません。
同じ所得の若い世代でも、親の資産状況によって住宅購入の条件に差が生じる可能性があります。
また、高齢世代から若い世代への資産移転を促進するといっても、そもそも移転できる資産を持つ家庭でなければ恩恵を受けられません。
住宅政策としての効果だけではなく、世代間や世帯間の公平性も税制を考えるうえで重要になります。
贈与する側の老後資金にも注意が必要
税金が非課税になるからといって、親や祖父母が無理をして住宅取得資金を贈与すればよいわけではありません。
高齢期には、生活費だけでなく医療や介護など予想しにくい支出が発生する可能性があります。
住宅購入を支援するために多額の資金を贈与した結果、自分自身の老後資金が不足してしまえば本末転倒です。
贈与税の節税だけを見るのではなく、贈与後に自分の生活資金が十分残るかを確認することが重要です。
税制上有利かどうかと、家計全体として合理的かどうかは別の問題です。
今後は制度の具体的な内容を確認する
令和9年度税制改正要望では、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置などについて、必要な検討を行い、所要の措置を講じることが求められています。
現段階で具体的な改正内容が確定しているわけではありません。
今後、制度の期限、非課税限度額、住宅の性能要件などがどのように扱われるのかが注目点になります。
住宅購入を予定している人にとっては、要望段階の情報だけで贈与時期を決めるのではなく、最終的な税制改正の内容を確認することが大切です。
結論
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置は、父母や祖父母などから住宅取得のための資金を受け取った場合に、一定の要件のもとで贈与税を非課税とする制度です。
目的は、住宅取得の負担を軽減するとともに、高齢世代が持つ資産を若い世代へ早期に移転することにあります。
住宅価格が高騰するなかでは、親世代からの資金援助によって住宅ローンの借入額を抑えられる意味も大きくなります。
一方、親から援助を受けられる世帯と受けられない世帯との差や、贈与する側の老後資金という問題もあります。
住宅取得資金の贈与を考える場合には、贈与税が非課税になるかだけではなく、親子双方の資産と将来の生活設計を含めて考えることが重要です。
令和9年度税制改正でこの制度がどのように扱われるのか、今後の税制改正大綱まで確認していく必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を