人口減少が進む地域では、スーパーなど日常生活を支える店舗の維持が難しくなっています。
スーパーが一店舗閉店するだけなら、企業の経営上の問題に見えるかもしれません。
しかし、その店舗が地域で唯一のスーパーだった場合、問題の意味は大きく変わります。
食料品や日用品を身近な場所で購入できなくなり、地域住民の生活そのものに影響するからです。
令和9年度税制改正要望でエッセンシャルサービスへの税制支援が求められている背景には、こうした人口減少時代特有の問題があります。
買い物難民とは何か
日常の買い物をすることが難しい人を、一般に買い物難民などと呼ぶことがあります。
近くにスーパーがなく、自動車を利用できなければ、食料品を購入するだけでも大きな負担になります。
特に影響を受けやすいのが高齢者です。
若い世代であれば、自動車で離れた店舗へ行ったり、インターネット通販を利用したりすることもできます。
しかし、すべての高齢者が自動車やインターネットを自由に利用できるわけではありません。
店舗の撤退がそのまま生活の不便につながりやすい人が存在します。
なぜ地方のスーパーは撤退するのか
スーパーも民間企業ですから、事業を続けるには一定の採算を確保する必要があります。
人口が減少すると、地域全体の顧客数が減ります。
さらに、少子高齢化によって働き手の確保が難しくなる場合もあります。
一方、店舗を営業するには人件費、光熱費、物流費、建物の維持費などがかかります。
利用者が減ったからといって、これらの費用が同じ割合で減るわけではありません。
売上が減少しても一定の固定費が残るため、人口密度の低い地域ほど採算を確保することが難しくなります。
店舗がなくなるとさらに人口が減る可能性もある
問題は、店舗がなくなった時点で終わりではありません。
スーパーや病院、金融機関、交通機関などの生活サービスが減っていけば、その地域で暮らすこと自体が不便になります。
すると、より生活しやすい地域へ移住する人が増える可能性があります。
人口が減少する。
店舗の利用者が減少する。
店舗が撤退する。
生活が不便になる。
さらに人口が減少する。
このような循環が起きれば、地域の生活基盤を維持することがますます難しくなります。
スーパーには商業施設以上の役割がある
都市部では、スーパーは数ある店舗の一つとして捉えられることが多いでしょう。
しかし、人口の少ない地域では違った意味を持つことがあります。
食料品や日用品を購入できる場所であるだけではありません。
人が集まる場所になったり、地域住民同士が顔を合わせる機会になったりすることもあります。
地域によっては、スーパーの存在そのものが生活圏を維持する重要な要素になっています。
そのため、単純に一企業の採算だけでは判断できない公共的な側面が出てきます。
それでも赤字企業を税金で守ればよいわけではない
ここで難しい問題があります。
地域に必要な店舗だからといって、採算の取れない企業を無条件に税金で支え続ければよいわけではありません。
人口が大幅に減少している地域で、従来とまったく同じ規模や運営方法を維持することが合理的とは限らないからです。
そこで重要になるのが事業運営の効率化です。
複数の事業者が協力したり、店舗や物流のあり方を見直したりすることで、人口が減少してもサービスを維持できる仕組みをつくる必要があります。
今回のエッセンシャルサービス支援でも、こうした事業運営の効率化を図る認定計画が重要な位置を占めています。
税制支援は事業を続けるための一つの手段
令和9年度税制改正要望では、エッセンシャルサービスを確保するため、登録免許税、不動産取得税、固定資産税の軽減措置が求められています。
たとえば事業再編によって店舗や不動産を取得すれば、取得段階で税負担が発生します。
その後も土地や建物を所有していれば、固定資産税を継続して負担します。
こうした税負担を一定程度軽減することで、地域で必要なサービスを維持しやすくしようという考え方です。
税制支援は売上そのものを増やすものではありません。
しかし、事業を維持するためのコストを下げる効果は期待できます。
移動販売や宅配という方法もある
地域の買い物環境を維持する方法は、従来型の大型店舗を残すことだけではありません。
人口が少ない地域では、移動販売、宅配、共同配送、小規模店舗など、地域の人口規模に合わせた方法も考えられます。
重要なのは店舗という形を守ることではなく、住民が必要な商品やサービスを利用できる状態を維持することです。
人口減少が続くのであれば、従来の店舗網をそのまま残すだけでは限界があります。
税制支援と同時に、サービスを提供する方法そのものを変えていく視点も必要になります。
税制の目的も変わっていく
これまで企業向け税制では、設備投資を増やす、研究開発を促進する、賃上げを促すといった成長政策が注目されてきました。
しかし、人口減少社会では別の役割も重要になります。
それが、地域で最低限必要な生活サービスを維持することです。
新しいサービスを増やすだけではなく、現在存在するサービスをどう残すのか。
今回のエッセンシャルサービスに対する税制改正要望は、こうした日本社会の変化を反映したものと見ることができます。
結論
地方のスーパーがなくなる問題は、一企業の撤退だけで終わる話ではありません。
特に自動車などの移動手段を持たない高齢者にとって、身近な店舗の消失は日常生活に直接影響します。
さらに、生活サービスが減ることで地域の利便性が低下し、それが人口流出につながる可能性もあります。
一方で、採算の取れない事業を無条件に支え続けることにも限界があります。
そのため、事業運営の効率化を進めながら、金融支援や税制支援によってサービスを維持するという考え方が重要になります。
人口減少時代の地域政策では、スーパーを守ること自体が目的なのではありません。
住民がその地域で生活を続けるために必要なサービスを、どのような形で残していくのか。
エッセンシャルサービスをめぐる税制改正は、その答えを探す取り組みの一つといえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を