人生100年時代の働き方改革 転職できる自由と働き続ける自由

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人生100年時代を迎え、私たちの働き方は大きな転換期にあります。

かつては学校を卒業して企業に就職し、60歳で定年退職するという働き方が一般的でした。

しかし、現在では65歳まで働く人が増え、70歳までの就業を視野に入れる人もいます。

一方、AIの普及や企業の事業再編によって、長年勤めてきた会社で働き続けることが必ずしも安定を意味しない時代になっています。

こうした環境の変化を背景に、今すぐ転職するつもりがなくても、求人情報を調べたり、自分の市場価値を確認したりする「ゆる転職層」が増えています。

2026年10月21日の日本経済新聞によると、2026年4月から6月期の転職等希望者数は969万人に達しました。

2020年同期と比較すると約20%増加しています。

一方、実際の転職者数は325万人で、転職を希望する人の増加ほどには伸びていません。

この数字は、転職に関心を持ちながらも、現在の勤務先にとどまる人が多いことを示しています。

しかし、転職しないことは、必ずしも消極的な選択ではありません。

外部の労働市場を調べた結果、現在の勤務先で働き続けることが最も合理的だと判断する場合もあるからです。

これまで9回にわたり、ゆる転職層の増加、AIによる仕事の変化、市場価値の確認、50代以降のキャリア形成、60歳以降の給与制度、独立開業などについて考えてきました。

最終回となる今回は、人生100年時代における働き方の基本的な考え方を整理します。

転職することだけがキャリア形成ではない

転職という言葉には、現在の勤務先を辞めて新しい企業へ移るという意味があります。

そのため、転職活動を始めた以上、実際に転職しなければ意味がないと考える人もいるでしょう。

しかし、転職活動には、自分の市場価値を確認するという重要な役割があります。

例えば、現在の勤務先で年収1,000万円を受け取っている人が、外部の求人情報を調べた結果、同じ職務内容では年収800万円程度の募集が多いことに気付いたとします。

この場合、現在の勤務先で働き続けることが経済的に有利である可能性があります。

反対に、現在の年収が600万円でも、専門能力を生かせる企業から800万円の条件を提示される場合もあるでしょう。

重要なのは、現在の給与や役職を当然のものと考えず、外部の労働市場と比較することです。

転職活動の結果として転職しないことも、十分な情報に基づいた合理的な判断になり得ます。

働き続ける自由には経済的な価値がある

人生100年時代には、何歳まで働くことができるのかが重要になります。

高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。

また、70歳までの就業機会確保措置についても努力義務が設けられています。

ただし、60歳以降の給与水準は企業によって異なります。

例えば、60歳以降も年収1,200万円を維持できる場合、60歳から70歳までの10年間の給与収入は単純計算で1億2,000万円になります。

一方、60歳以降の再雇用によって年収が大幅に減少する場合もあります。

この違いは、老後の資産形成に大きな影響を与えます。

特に現在の勤務先で高い給与水準を維持できる人にとっては、働き続けられること自体に大きな経済的価値があります。

ただし、給与が高いという理由だけで、健康を損なうほど働き続けることが望ましいわけではありません。

経済的な安定と健康を両立できることが重要です。

転職できる自由が現在の仕事にも安心をもたらす

一方、現在の勤務先で働き続けることを選ぶ場合でも、転職できる能力を維持しておくことには意味があります。

企業の業績悪化や組織再編によって、将来の雇用条件が変わる可能性があるためです。

例えば、長年勤務してきた企業であっても、事業の縮小によって担当業務がなくなる場合があります。

そのとき、社外でも評価される専門能力があれば、新しい働き方を選択しやすくなります。

反対に、現在の勤務先でしか通用しない業務知識に依存している場合には、転職が難しくなる可能性があります。

そのため、現在の仕事を続けながら、専門知識を更新し、外部の求人情報を確認することが重要です。

転職できる自由を持つことは、必ずしも転職するためではありません。

現在の勤務先で安心して働き続けるための備えにもなるのです。

AI時代には専門能力の更新が欠かせない

AIの普及によって、経理、税務、金融、法務などの専門職の仕事内容も変化しています。

情報収集、資料作成、データ分析などの定型的な業務は、AIによって効率化される可能性があります。

一方、複雑な問題を判断し、顧客や経営者に適切な助言を行う能力は、引き続き重要になると考えられます。

例えば、経理分野では、決算書を作成する能力だけでなく、財務数値から経営課題を発見する能力が求められます。

税務分野では、法令や通達を調べる能力だけでなく、個別の事実関係に基づいて適切に判断する能力が重要です。

金融分野では、金融商品を説明するだけでなく、顧客の生活設計やリスク許容度を踏まえた助言が求められます。

法務分野では、契約書を作成するだけでなく、事業上のリスクを評価する能力が必要です。

AI時代に専門職として働き続けるためには、これまでの経験と新しい技術を組み合わせることが重要になります。

50代は将来の働き方を設計する時期になる

50代になると、定年後の働き方を考える機会が増えます。

しかし、定年が近づいてから準備を始めるのでは、選択肢が限られる可能性があります。

例えば、60歳で独立開業したい場合には、専門知識だけでなく、事業内容、顧客需要、料金体系などを事前に研究する必要があります。

また、65歳や70歳まで会社員として働く場合にも、給与制度、退職金、企業年金などを確認することが重要です。

50代から準備を始めれば、転職、継続雇用、独立開業などの選択肢を比較する時間を確保できます。

さらに、資格取得やAIの学習などを通じて、専門能力を高めることもできます。

50代は仕事人生の終盤ではなく、次の働き方を設計する重要な時期と考えることができます。

60歳以降の給与と年金を総合的に考える

60歳以降の働き方を考える際には、給与と公的年金の関係も重要です。

2026年4月から、在職老齢年金の支給停止基準額は月額65万円に引き上げられました。

これにより、従来よりも高い給与水準で働きながら老齢厚生年金を受給しやすくなっています。

ただし、給与や賞与に基づく総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が基準額を超える場合には、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されます。

一方、老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象にはなりません。

また、老齢年金には繰下げ受給の制度があります。

70歳まで繰り下げた場合には42%、75歳まで繰り下げた場合には84%の増額率が適用されます。

ただし、在職老齢年金によって支給停止される老齢厚生年金の部分は、繰下げ増額の対象になりません。

さらに、配偶者の年齢によっては加給年金の取扱いも重要になります。

年金の受給開始時期は、本人の給与収入だけでなく、配偶者の年齢や世帯全体の生活設計を踏まえて判断する必要があります。

独立開業は年齢よりも準備状況が重要になる

人生100年時代には、60歳、65歳、70歳などの節目で独立開業を考える人もいるでしょう。

しかし、独立開業に適した年齢は一律には決まりません。

例えば、65歳以降も高い給与水準を維持できる場合には、70歳まで会社員として働くことが経済的に有利になる可能性があります。

一方、独立後の事業に十分な需要があり、早い段階から事業を成長させたい場合には、65歳独立が合理的な選択になることもあります。

重要なのは、独立後の収益見通しを具体的に検討することです。

専門知識が豊富であっても、顧客を獲得できなければ安定した事業収入にはつながりません。

また、独立開業には、契約管理、資金繰り、税務処理など、会社員とは異なる能力が必要です。

そのため、退職する前から市場環境を調べ、事業計画を整理しておくことが重要です。

独立開業の成否は、何歳で始めるかだけでなく、どの程度の準備ができているかによって左右されると考えられます。

副業禁止でも将来の準備は進められる

現在の勤務先で副業が禁止されている場合でも、将来の働き方に向けた準備を進める方法はあります。

例えば、資格取得、専門知識の学習、公開情報の調査、AIの活用方法の習得などです。

また、勤務先の規則に抵触しない範囲で専門分野の情報発信を行えば、知識の整理や説明能力の向上につながる可能性があります。

ただし、無償の活動であっても、内容や実態によっては就業規則上の問題が生じる場合があります。

勤務先の機密情報を利用しないことや、競業避止義務を守ることも重要です。

将来の独立準備と、実際の営業活動や報酬を得る活動は区別する必要があります。

現在の仕事に責任を持ちながら、認められる範囲で専門能力を高めていくことが基本になります。

人生100年時代には複数の働き方を組み合わせる

これからの働き方は、一つの企業で定年まで勤務するか、転職するかという二者択一ではなくなると考えられます。

例えば、60歳まで管理職として勤務し、その後は専門職として働く方法があります。

65歳まで会社員として働き、退職後に小規模な相談業務を始める方法もあります。

また、70歳まで会社員として働き、その後は仕事量を抑えながら専門知識を生かすことも考えられます。

こうした働き方では、年齢に応じて収入、労働時間、仕事内容を調整することができます。

特に高齢期には、給与収入を最大化することだけでなく、健康や家族との時間を重視することも重要です。

若い時期には収入や昇進を重視し、50代以降は専門能力を高め、60代以降は働き方の自由度を高めるという考え方もあります。

人生100年時代には、一つの働き方を生涯続けるのではなく、状況に応じて柔軟に変えていくことが重要になるでしょう。

経済的自立が働き方の自由を支える

転職する自由や独立開業する自由を持つためには、一定の経済的な基盤が必要です。

例えば、生活費の大部分を給与収入に依存している場合には、収入が不安定になる転職や独立開業を選びにくくなります。

一方、退職金、金融資産、公的年金などによって生活費を確保できる場合には、収入だけにとらわれず働き方を選択しやすくなります。

そのため、50代からのキャリア形成では、専門能力の向上と資産形成を並行して進めることが重要です。

また、住宅ローンなどの負債を管理し、将来の生活費を把握することも必要です。

例えば、65歳以降の生活費が年間400万円で、公的年金が年間250万円の場合、年間150万円を別の収入や金融資産で賄う必要があります。

この不足額をどのように補うかによって、必要な就業期間や独立後の目標収入が変わります。

経済的な余裕があれば、無理に高い収入を追い求める必要はありません。

働き方の自由は、専門能力と経済的自立の両方によって支えられるのです。

働き続けることの価値は収入だけではない

高齢期に働き続けることには、収入以外の価値もあります。

仕事を通じて社会とのつながりを維持できることや、専門知識を生かして他者に貢献できることなどです。

また、日々の仕事によって生活に規則性が生まれ、学習や人との交流を続ける機会にもなります。

一方、仕事に多くの時間を使うことで、家族との生活や趣味の時間が制限される場合もあります。

そのため、何歳まで働くことが望ましいかは、本人の価値観によって異なります。

70歳まで高い給与を受け取りながら働くことが理想的な人もいれば、65歳で仕事量を減らし、家族との時間を増やしたい人もいるでしょう。

重要なのは、他人の働き方と比較することではありません。

自分にとって何が大切なのかを明確にし、その価値観に合った働き方を選ぶことです。

結論

人生100年時代の働き方改革で重要なのは、転職することでも、長く働き続けることでもありません。

自分の意思で働き方を選択できる状態を維持することです。

そのためには、現在の勤務先で働きながら、自分の市場価値を確認し、専門能力を更新することが必要です。

AIの普及によって仕事内容が変化する時代には、長年の経験だけに依存せず、新しい技術を活用する能力も求められます。

また、50代から60歳以降の給与制度、退職金、公的年金などを確認し、将来の収入を具体的に試算することが重要です。

現在の勤務先で高い給与水準を維持できるのであれば、働き続けることが合理的な選択になる可能性があります。

一方、専門能力を生かして新しい仕事に挑戦したい場合には、転職や独立開業も重要な選択肢になります。

その際には、収入だけでなく、健康、家族、仕事の満足度などを総合的に考える必要があります。

人生100年時代には、60歳や65歳で仕事人生が終わるわけではありません。

70歳以降も、本人の希望と能力に応じて社会に貢献する機会があります。

だからこそ、将来の働き方を一つに決めつける必要はありません。

転職できる自由と、現在の勤務先で働き続ける自由の両方を持つことが重要です。

そして、必要になれば独立開業するという第三の選択肢も準備しておくことが望ましいでしょう。

ゆる転職とは、転職を急がず、将来の可能性を広げるために自分の市場価値を確認する活動です。

その考え方は、人生100年時代のキャリア形成そのものに通じています。

働き方を会社や年齢だけで決めるのではなく、自分の専門能力と経済的な基盤を整え、自分の意思で選択することが、これからの時代に求められる働き方だと考えます。

参考

日本経済新聞 2026年10月21日 ゆる転職層広がる 焦らず慎重に検討、AI時代の変化に備え

総務省 2026年 労働力調査 2026年4月から6月期平均

厚生労働省 2026年 高年齢者雇用安定法に関する資料

日本年金機構 2026年 在職老齢年金制度に関する資料

日本年金機構 2026年 年金の繰下げ受給に関する資料

世界経済フォーラム 2025年1月 仕事の未来レポート2025

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