相続税対策として急速に広がってきた不動産小口化商品が、大きな転換点を迎えます。
政府と与党は2026年度の税制改正大綱で、不動産小口化商品の相続税や贈与税の評価方法を見直す方針を示しました。2027年1月から、従来の路線価などを利用した評価から、市場価格をより反映する評価へ変更する方向です。
これまで不動産小口化商品が相続対策として利用されてきた最大の理由は、購入価格と相続税評価額の間に大きな差が生じる場合があったことです。
この差が縮小すれば、相続対策としての商品価値も大きく変わります。
今回は、なぜ評価方法が見直されるのか、そして2027年以降の相続対策にどのような影響があるのかを整理します。
不動産小口化商品とは何か
不動産小口化商品は、オフィスビルやマンションなどの高額な不動産を小口化し、複数の投資家が購入できるようにした商品です。
例えば数十億円する都心のオフィスビルを、500万円や1,000万円などの単位に分けて販売します。
購入者は不動産から発生する賃料収入などを原資として分配を受けます。
個人では購入することが難しい都心の大型不動産にも比較的少額から投資できるため、本来は不動産投資の選択肢を広げる仕組みです。
ところが近年は、投資商品としての魅力以上に相続税や贈与税の節税効果が注目されるようになりました。
現金と不動産では相続税評価が違う
不動産小口化商品の節税効果を理解するためには、まず現金と不動産の評価方法の違いを知る必要があります。
例えば3,000万円の現金を持っていれば、相続税を計算する際の財産評価額も原則として3,000万円です。
一方、不動産は購入価格そのものを相続税評価額とするわけではありません。
土地については路線価など、建物については固定資産税評価額などを利用して評価するのが基本です。
そのため、実際に売買されている価格と相続税評価額との間に差が生じます。
特に都心の不動産価格が大きく上昇すると、市場価格の上昇に相続税評価額が追いつかず、その差が拡大する場合があります。
この仕組みを利用したのが、不動産による相続税対策です。
小口化によって大きな評価差が生じた
不動産小口化商品でも、不動産としての評価方法が利用されてきました。
その結果、商品の購入価格と相続税や贈与税の評価額との間に極端な差が生じるケースが出てきました。
国税庁が示した事例では、49歳の人物が3,000万円の不動産小口化商品を購入し、子に贈与しています。
ところが贈与税を計算する際の評価額は484万円でした。
購入価格3,000万円に対して評価額は約16%です。
現金3,000万円をそのまま贈与した場合と比べると、贈与税は438万円少ない5万円に抑えられました。
もちろん、すべての不動産小口化商品でこれほど大きな評価差が発生するわけではありません。
それでも、市場価格と税務上の評価額との乖離が節税商品としての大きな魅力になっていたことは確かです。
国税庁が問題視したのは価格差
今回の評価方法の見直しで重要なのは、不動産小口化商品そのものが問題視されているわけではないという点です。
問題は、実際の経済的価値と税務上の評価額との間に大きな乖離が発生していることです。
例えば3,000万円で購入でき、市場でもそれに近い価格で取引される資産が、贈与税では484万円と評価されるのであれば、税負担能力を適切に反映しているのかという問題が生じます。
しかも、小口化商品には販売価格が存在します。
通常の土地や建物よりも取引価格を把握しやすいにもかかわらず、税務上は大幅に低い評価額となるケースがありました。
国税庁が過度な節税手段として問題視する背景には、こうした事情があります。
2027年から市場価格を反映する方向へ
政府と与党は2026年度の税制改正大綱で、不動産小口化商品の評価方法を見直す方針を示しました。
2027年1月から、相続税や贈与税を計算する際、市場価格をより反映した評価方法へ変更する方向です。
これまでのように単純に路線価などを基礎として評価するのではなく、商品の実際の取引価値に近づけることが狙いです。
仮に3,000万円で購入した商品の評価額が市場価格に近い水準まで引き上げられれば、これまでのような大幅な評価圧縮は難しくなります。
つまり、不動産小口化商品を購入するだけで相続財産や贈与財産の評価額を大幅に下げるという節税手法は、大きく制限されることになります。
相続対策の判断基準も変わる
評価方法の変更によって、相続対策の考え方も変える必要があります。
これまでは不動産小口化商品を検討する際に、
どの程度評価額を圧縮できるのか。
どの程度相続税を減らせるのか。
という点が重要視されていました。
しかし2027年以降は、それだけでは商品を選べません。
どのような不動産を保有しているのか。
賃料収入は安定しているのか。
空室リスクはどの程度あるのか。
管理費などを差し引いた実質利回りはいくらなのか。
将来売却するときに買い手がいるのか。
こうした不動産投資として当たり前の判断が、これまで以上に重要になります。
節税効果と投資価値を分けて考える
今回の改正を考えるうえで最も重要なのは、節税効果と投資価値を分けることです。
仮に税金を500万円減らせたとしても、購入した不動産の価値が1,000万円下落すれば、家族全体の財産は増えていません。
反対に節税効果が小さくても、長期間にわたり安定した賃料を生み、将来も一定の価格で売却できる不動産であれば、資産としての価値があります。
相続対策では税額だけに目を向けると、この基本的な視点を見失うことがあります。
「税金がいくら減るか」ではなく、「税引き後で家族にいくら財産を残せるか」を考える必要があります。
2026年中の駆け込みにも注意
2027年1月から評価方法が変わるのであれば、2026年中に購入したり贈与したりすればよいと考える人もいるでしょう。
実際に制度改正を前に駆け込み需要が発生しているとされています。
しかし、ここは慎重に考える必要があります。
形式的に改正前の取引であれば、どのようなケースでも従来の評価方法が認められるとは限りません。
市場価格と相続税評価額の差が極端に大きく、取引時期や取引目的などから租税負担を不当に減少させるための取引と判断されるようなケースでは、税務上の問題が生じる可能性があります。
相続や贈与の直前に大きな資産を動かす場合には、特に注意が必要です。
結論
2027年に予定されている評価方法の見直しは、不動産小口化商品市場にとって大きな転換点です。
これまでの市場では、都心不動産への投資という魅力に加えて、購入価格と相続税評価額との差を利用した節税効果が大きな販売材料になっていました。
その評価差が縮小すれば、節税だけを目的として商品を購入する意味は大幅に低下します。
一方、不動産小口化という仕組みそのものがなくなるわけではありません。
少額から優良不動産へ投資できるという本来の機能は残ります。
2027年以降に問われるのは、「いくら税金を減らせる商品なのか」ではなく、「節税効果がなくても保有したい不動産なのか」ということです。
今回の改正は、不動産小口化商品を節税商品から投資商品へ戻す制度変更と見ることもできそうです。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換