子どもを育てながら働く人にとって、大きな問題の一つが仕事をしている時間に子どもを誰が見るのかということです。
保育所などを利用できれば仕事を続けやすくなりますが、通常の保育時間では対応しにくい働き方もあります。
子どもの急な事情によって、いつもの保育サービスを利用できなくなることもあります。
こうした仕事と育児の間に生じる問題を、企業自身が支援する方法の一つとして考えられるのがオフィス内シッターです。
こども家庭庁が2027年度の創設を目指す新しい子育て支援企業の認定制度でも、オフィス内シッターなどを対象とする方向が示されています。
子育て支援を従業員個人だけの問題にせず、企業が働く環境の中に育児サービスを組み込む考え方です。
オフィス内シッターとは何か
オフィス内シッターは、企業のオフィスなどで子どもの見守りや保育を支援する仕組みです。
一般的なベビーシッターでは、シッターが利用者の自宅などを訪れて子どもの世話をする形が多くあります。
これに対してオフィス内でサービスを提供できれば、保護者が働いている場所の近くで子どもを預けることができます。
例えば、企業がオフィス内などに一定のスペースを確保し、外部のシッター事業者と契約してサービスを提供する方法が考えられます。
企業が自ら保育の専門家を雇用するのではなく、専門事業者と連携することもできます。
企業のオフィスという働く場所と、育児サービスを組み合わせることがポイントです。
通常のベビーシッターとの違い
一般的なベビーシッターは、保護者が個人でサービスを契約し、料金を負担する形が基本になります。
利用する家庭が事業者を探し、利用時間などを調整します。
そのため、仕事と育児を両立するための負担が家庭側に集中しやすくなります。
一方、企業がオフィス内シッターを用意すれば、企業がサービスの利用環境を整えることができます。
従業員は一から事業者を探す必要がなくなる可能性があります。
企業が利用料金の全部または一部を負担すれば、従業員の経済的な負担も軽くできます。
個人が自分で育児サービスを調達する仕組みから、企業が働くために必要な育児サービスを用意する仕組みへ変わるわけです。
企業が費用を負担する意味
企業がシッター費用を負担すると聞くと、企業にとって単純なコストに見えるかもしれません。
しかし、従業員が育児を理由に仕事を続けられなくなれば、企業にも損失が生じます。
長年働いてきた従業員が退職すれば、その人が持っていた知識や経験を失います。
代わりの人材を採用するためには採用費が必要です。
採用した人を教育し、同じ水準まで仕事をできるようにするにも時間と費用がかかります。
そのため、シッター費用を負担して従業員が働き続けられるのであれば、その支出を人材維持のための投資と考えることもできます。
福利厚生費を増やすというより、人材流出を防ぐための費用という見方です。
仕事と育児の時間をつなぐ
保育所などのサービスがあっても、すべての働き方に完全に対応できるとは限りません。
例えば、通常より早い時間から仕事が始まる場合があります。
仕事が遅くなる日もあります。
保育所の利用時間と勤務時間の間にずれが生じれば、その時間を誰かが埋めなければなりません。
祖父母などの家族に頼れる家庭もありますが、すべての家庭が同じ環境にあるわけではありません。
こうした小さな時間のずれが、仕事を続けるうえで大きな障害になる場合があります。
シッターサービスは、既存の保育サービスをすべて置き換えるのではなく、こうした隙間を補う役割を持つことができます。
企業内保育所とは考え方が違う
企業による育児支援としては、企業内の保育施設を思い浮かべる人もいるでしょう。
企業内保育施設は非常に有効な方法ですが、企業にとって整備や運営の負担が大きくなる場合があります。
一定のスペースや設備を確保し、継続的な運営体制を整える必要があります。
特に従業員数が少ない企業では、常設施設を用意しても利用者が十分に集まらないことがあります。
一方、外部のシッター事業者などを活用する方式であれば、必要な時間や利用人数に合わせて柔軟にサービスを提供できる可能性があります。
すべての企業が同じ育児支援制度を持つ必要はありません。
企業規模や従業員のニーズに応じて、保育施設やシッターなどを使い分けることが重要になります。
人材確保につながる理由
企業がオフィス内シッターなどの育児サービスを用意することは、採用にも影響する可能性があります。
求職者が企業を選ぶ基準は給与だけではありません。
育児休業を取得できるか、柔軟に働けるか、子どもが生まれても仕事を続けられるかといった点も重要になります。
特に将来子どもを持つことを考えている若い世代にとって、育児支援制度は長期間働ける会社かどうかを判断する材料になります。
企業が具体的な育児サービスまで提供していれば、単に子育てを応援しますと掲げるより、実際の支援内容を示しやすくなります。
人手不足が進むほど、こうした働く環境の違いが企業の採用競争力につながる可能性があります。
女性だけの制度にしないことが重要になる
育児支援というと、女性従業員を対象とした制度と考えられがちです。
しかし、仕事と育児の両立は男性にとっても重要です。
男性の育児休業取得が広がれば、育児を夫婦で分担する家庭も増えていきます。
シッターなどの育児サービスを男女ともに利用できる環境にすれば、育児を女性だけの問題として扱わない企業文化にもつながります。
男性が保育園への送迎を担当したり、子どもの世話のために勤務時間を調整したりすることが普通になれば、女性側の育児負担も軽くなります。
企業の育児支援は、男女双方の働き方を変える問題でもあります。
税制や補助金で導入を後押しできる
オフィス内シッターを企業が導入する場合、費用が発生します。
シッター事業者への委託費だけでなく、サービスを提供するスペースの整備などが必要になる場合もあります。
企業が全額を負担すれば、利用する従業員には大きなメリットがありますが、企業側の負担は重くなります。
そこで、新しい子育て支援企業認定制度と法人減税や補助金を組み合わせる意味が出てきます。
一定の子育てサービスを提供する企業の負担を政策的に軽くすれば、導入する企業を増やせる可能性があります。
特に中小企業では、導入費用の一部を補助することが重要になる場合があります。
オフィスだけに限定する必要はない
働き方が多様化している現在では、育児支援もオフィスだけで考える必要はありません。
在宅勤務をする従業員であれば、自宅で利用するシッターサービスを企業が支援する方法もあります。
複数の企業が入居するビルで共同の育児サービスを設ける方法も考えられます。
商業施設や駅などと企業が連携することも可能です。
重要なのは、企業が自前ですべての育児施設を持つことではありません。
従業員が働き続けるために必要な育児サービスへアクセスしやすい環境をつくることです。
企業単独では難しい場合でも、外部事業者や地域と連携することで実現できる可能性があります。
結論
オフィス内シッターは、企業のオフィスなどに育児サービスを組み込み、従業員が仕事と子育てを両立しやすくする仕組みです。
一般的なベビーシッターでは家庭が事業者を探して費用を負担しますが、企業がサービスを用意すれば、その負担の一部を企業側に移すことができます。
企業にとって費用は発生しますが、育児を理由とした退職を防ぎ、経験のある人材を維持できれば、人材投資として考えることもできます。
さらに採用力の向上や企業ブランドにもつながる可能性があります。
2027年度に創設が検討されている新しい子育て支援企業認定制度で、こうしたサービスが法人減税や補助金などと結び付けば、企業が育児サービスを提供する経済的なハードルも下がります。
子育てを従業員が家庭だけで解決する問題と考えるのではなく、働くために必要な社会インフラの一つとして企業も支える。
オフィス内シッターは、福利厚生と人材戦略を結び付ける新しい子育て支援の形といえます。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税