3,000万円で購入した不動産小口化商品が、贈与税を計算するときには484万円と評価される。
この数字だけを見ると、なぜこれほど大きな差が生じるのか疑問に感じる人も多いでしょう。
国税庁が示した事例では、49歳の人物が3,000万円の不動産小口化商品を購入して子に贈与したところ、贈与税評価額は484万円となりました。
購入価格の約16%です。
その結果、現金で3,000万円を贈与する場合と比べて、贈与税は438万円少ない5万円に抑えられました。
不動産小口化商品が相続や贈与の節税商品として急速に広がった理由が、この大きな評価差にあります。
現金3,000万円なら3,000万円で評価される
まず、現金と不動産では財産の評価方法が違います。
3,000万円の現金を持っている場合、相続税や贈与税を計算するときの財産価額は原則として3,000万円です。
銀行預金についても基本的な考え方は同じです。
現金を別の金融機関へ移したところで、財産の価値が大きく下がるわけではありません。
ところが、不動産は違います。
実際に購入した金額をそのまま相続税評価額として使用するわけではありません。
土地や建物について、税務上定められた方法によって評価します。
ここに不動産を利用した相続対策が成立する理由があります。
不動産には市場価格と税務上の価格がある
不動産には、実際に売買される市場価格があります。
一方、相続税や贈与税を計算するための評価額があります。
土地については路線価などを利用し、建物については固定資産税評価額などを基礎として評価するのが一般的です。
市場価格と税務上の評価額は必ずしも一致しません。
例えば市場で1億円で取引されている不動産でも、相続税評価額が1億円になるとは限りません。
この評価差は以前から存在していました。
そのため、現金を不動産に変えることで相続財産の評価額を圧縮する方法は、相続対策として広く利用されてきました。
都心不動産の値上がりが評価差を広げた
近年、この問題を大きくした要因の1つが都心不動産価格の上昇です。
市場で取引される不動産価格が急速に上昇する一方、相続税評価に使われる価格が同じ速度で上昇するとは限りません。
市場価格が大きく上昇すればするほど、両者の差が広がる場合があります。
特に都心の一等地にあるオフィスビルなどでは、この差が大きくなりやすくなります。
そこで注目されたのが、不動産小口化商品です。
個人が都心の大型オフィスビルを丸ごと購入するには巨額の資金が必要です。
しかし、小口化すれば500万円や1,000万円単位で購入できます。
つまり、これまで一部の富裕層しか利用できなかった大型不動産による相続対策を、より小さな金額から利用できるようにしたともいえます。
3,000万円が484万円になるインパクト
国税庁が示した事例をもう一度見てみましょう。
商品の購入価格は3,000万円です。
これに対して贈与税評価額は484万円でした。
評価額は購入価格の約16%ですから、約84%が圧縮された計算になります。
現金で3,000万円を持っていれば3,000万円として評価されるところを、不動産小口化商品に変えることで484万円として評価されたわけです。
しかも、商品そのものの経済的価値が484万円になったわけではありません。
ここが重要です。
実際には3,000万円で取引される商品でありながら、税務上の評価額だけが大きく低下していました。
国税庁が問題視したのは、この実際の価値と税務上の価値との大きな乖離です。
相続対策として利用しやすかった理由
不動産小口化商品には、通常の不動産投資にはない使いやすさもありました。
例えば3,000万円を使って相続対策をしたい場合、通常の不動産では3,000万円前後の物件を探さなければなりません。
希望する地域や物件が見つかるとは限りません。
購入後には建物管理や入居者対応なども必要になります。
小口化商品なら、こうした負担の多くを事業者側に任せることができます。
さらに500万円や1,000万円単位で購入できれば、保有する現金の一部だけを不動産へ移すこともできます。
資産額や相続人の人数に合わせて口数を調整しやすいことも、相続対策との相性を高めました。
分けやすさも相続では重要になる
小口化にはもう1つ特徴があります。
通常の不動産は分割しにくい財産です。
例えば1億円のマンションを3人の子どもが相続する場合、物件そのものを3等分することはできません。
共有名義にすれば、その後の売却や管理を巡って問題になることもあります。
一方、1,000万円単位などに小口化されていれば、複数の相続人に分けやすくなります。
節税だけでなく、遺産分割という面でも使いやすい商品だったわけです。
この利便性と評価圧縮効果が組み合わさったことで、不動産小口化商品は相続市場で急成長しました。
節税効果が大きすぎれば制度は見直される
税制を利用した資産対策を考えるときに忘れてはいけないことがあります。
制度上認められている評価方法であっても、経済的な実態との乖離が極端に大きくなれば、制度そのものが見直される可能性があるということです。
不動産小口化商品では、市場価格が比較的明確です。
3,000万円で販売されている商品が税務上484万円と評価されるのであれば、その差を合理的に説明できるのかという問題が生じます。
一部の商品では、本来の投資収益よりも評価圧縮効果が購入理由として重視されるようになりました。
こうなると、不動産投資というより、税務上の評価差そのものが商品価値になってしまいます。
今回の評価ルール見直しは、こうした状況に対応するものと考えられます。
節税額だけで商品を選ぶ危険
相続対策では「いくら税金が減るか」という数字が目立ちます。
しかし、本来見るべきなのは家族に残る財産の総額です。
例えば3,000万円の商品を購入して相続税を数百万円減らせたとしても、その後、不動産価格が大幅に下落すれば意味がありません。
空室が増えれば分配金が減少する可能性があります。
管理費や修繕費などが増えることもあります。
さらに、売却したいときに希望する価格で売却できるとは限りません。
節税効果は確定的に見えやすい一方、不動産投資にはさまざまなリスクがあります。
相続税だけを見て資産全体の価値を見失わないことが重要です。
相続対策は税額ではなく手取り財産で考える
相続対策の目的は、相続税をゼロにすることではありません。
家族にできるだけ多くの財産を円滑に引き継ぐことです。
そのためには、
相続税はいくらになるのか。
資産価値はいくら残るのか。
収益はいくら得られるのか。
必要なときに換金できるのか。
相続人同士で分けやすいのか。
こうした要素を総合的に考える必要があります。
税金が100万円減っても資産価値が200万円下がれば、家族の財産という観点ではマイナスです。
この単純な原則は、不動産小口化商品でも変わりません。
結論
3,000万円の商品が484万円として評価された事例は、不動産小口化商品が相続や贈与対策として急成長した理由を象徴しています。
現金では得られない大きな評価圧縮効果があったからです。
しかし、実際の取引価格と税務上の評価額との差があまりにも大きくなれば、課税の公平性という問題が生じます。
その結果として、2027年1月から市場価格をより反映した評価方法への変更が予定されています。
今回の改正から得られる教訓は、不動産小口化商品だけに限りません。
大きな節税効果を最大の魅力とする商品は、その税制が変われば商品価値そのものが大きく変わります。
相続対策で重要なのは、目の前の節税額だけではありません。
税制が変わっても価値が残る資産なのか。
家族に最終的にどれだけの財産を残せるのか。
この視点から判断することが、これまで以上に重要になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換