東京都と地方の財政力格差が再び大きく広がっています。
その対策として、2027年度税制改正では東京などに集中する地方税収を地方へ再配分する仕組みの拡大が検討されています。
税収の少ない自治体に財源を移せば、自治体間の財政力格差を縮める効果は期待できます。
しかし、ここで1つ考えておきたいことがあります。
東京から地方へ税収を移せば、本当に地方は豊かになるのでしょうか。
財源を再配分することと、地方経済そのものを成長させることは同じではありません。
再配分には重要な役割がある
まず、税収再配分そのものを否定する必要はありません。
自治体によって税源には大きな違いがあります。
東京都の2026年度の財政力を示す数値は1.525です。
これに対して東京を除く46道府県全体では0.588、最も低い高知県は0.278です。
これほど税源に差がある状態で、すべての行政サービスを自治体自身の税収だけで賄うことは現実的ではありません。
そこで地方交付税や法人関係税の再配分などを通じて財源を調整しています。
どこに住んでいても一定水準の行政サービスを受けられるようにするため、再配分は重要な役割を果たしています。
再配分は財政力を補う仕組み
ただし、再配分によって増えるのは基本的に自治体が使える財源です。
地域の企業数が直接増えるわけではありません。
雇用が増えるわけでもありません。
住民の所得が上がるわけでもありません。
地方自治体が必要な行政サービスを維持するための財源を補うことと、地域経済そのものが成長することは別の問題です。
ここを区別する必要があります。
東京の税収が増える理由を考える
東京都の税収は2008年度の5兆2,801億円から、2026年度には7兆3,856億円になると見込まれています。
18年間で約4割増えました。
しかも足元では、年間約1.6兆円に及ぶ税収再配分の影響があります。
それでも東京都の税収は増えています。
なぜでしょうか。
東京に企業、本社機能、高所得の雇用、人口、消費、資産が集中しているからです。
つまり東京の強い財政力は、税制度だけによって生まれているわけではありません。
その背景には巨大な経済基盤があります。
税収だけ移しても企業は移らない
東京の税収の一部を地方へ移したとしても、東京都内にある企業の本社が地方へ移るわけではありません。
東京で働く人が地方へ移住するわけでもありません。
高付加価値の仕事が地方に増えるわけでもありません。
地方に新しい産業が誕生するわけでもありません。
再配分によって地方自治体の財政状況を改善することはできても、東京に集中している経済活動そのものは変わらないのです。
この違いが再配分政策の大きな限界です。
格差が広がるたびに再配分するのか
これまで国は税収偏在の是正を繰り返してきました。
2008年度には法人事業税を利用した再配分を始めました。
2014年度には法人住民税にも対象を広げました。
2019年度には法人事業税を利用した再配分を恒久的な制度としました。
それでも東京都と地方の財政力格差は再び2008年度以来の大きさまで広がっています。
そこで2027年度税制改正では、法人事業税の再配分拡大に加えて固定資産税まで議論に上っています。
この流れが続けば、格差が広がるたびに別の税源を再配分するという対応になりかねません。
再配分だけでは原因ではなく結果を動かしている
東京への税収集中は結果です。
その原因は、企業や人、所得などの東京集中にあります。
東京に企業が集まります。
雇用が集まります。
人が集まります。
所得と消費が集まります。
その結果として税収も集まります。
税収の一部を地方へ移す政策は、この最後の税収という部分を調整していることになります。
しかし、その前にある企業や雇用の集中が変わらなければ、時間がたてば再び税収格差が広がる可能性があります。
根本原因を変えず、結果だけを調整し続ける構造になってしまいます。
地方に必要なのは税収を生み出す力
地方財政を本当の意味で強くするためには、その地域自身が税収を生み出せるようになる必要があります。
企業が成長すれば法人関係税が増えます。
雇用が増えれば住民の所得が増えます。
所得が増えれば住民税や消費も増えます。
人口が定着すれば住宅や地域サービスへの需要も生まれます。
地域経済が成長することで、その結果として地方税収が増える構造をつくることが重要です。
他地域から移された財源ではなく、自ら生み出す税源を増やすという考え方です。
企業誘致だけでも十分ではない
地方経済を強くする方法として企業誘致がよく挙げられます。
もちろん重要な政策です。
しかし工場や物流施設を誘致するだけでは、十分とは限りません。
より重要なのは、高付加価値の仕事を地域に増やすことです。
経営、研究開発、金融、情報通信、専門サービスなど所得水準の高い仕事が地域に増えれば、地域全体の所得も上がりやすくなります。
企業の拠点を誘致するだけでなく、地域で意思決定や付加価値創出が行われる経済構造をつくることが重要になります。
人口流出を止める視点も必要
地方の税収を考えるうえでは人口も重要です。
特に若い世代が進学や就職を機に東京へ移り、そのまま戻らなければ、地方では働く人と納税する人が減ります。
一方、東京では働く世代が増え、所得税や住民税、消費などを通じて税源が厚くなります。
地方の税収を増やすためには、若者が地域に残りたいと思える仕事をつくる必要があります。
単に人口を増やす政策ではなく、所得を得られる仕事と生活環境をセットで整えることが重要です。
再配分と成長政策は役割が違う
ここで重要なのは、再配分政策と地方経済の成長政策を対立させないことです。
再配分は必要です。
人口が少ない地域でも道路、医療、教育、福祉などの行政サービスは必要だからです。
すべての自治体が東京と同じ税収を得ることは現実的ではありません。
したがって一定の財政調整は欠かせません。
しかし再配分だけに依存すれば、地方の税源そのものは増えません。
再配分によって現在の行政サービスを支えながら、同時に将来の自主財源を増やす経済政策を進める必要があります。
地方自治の自立にも関係する
自主財源が増えることには、税収額以上の意味があります。
国から配られる財源への依存度が低くなれば、自治体自身が政策を決められる余地が広がります。
地域の実情に応じて教育や産業振興、子育て支援などに財源を使いやすくなります。
地方自治とは、本来、自らの地域について自ら決める仕組みです。
そのためには政策決定だけでなく、財源面での自立も重要になります。
地方自身が税収を生み出せる経済基盤を持つことは、地方自治そのものを強くすることにもつながります。
結論
東京から地方へ税収を再配分することには重要な意味があります。
税源の少ない自治体でも必要な行政サービスを提供できるようにし、地域による生活条件の極端な格差を防ぐためです。
しかし、再配分によって地方経済そのものが自動的に豊かになるわけではありません。
東京から1億円の税収を移しても、地方に1億円の新しい付加価値を生み出す企業が誕生するわけではないからです。
東京への税収集中の背景には、企業、雇用、所得、人口、消費の集中があります。
この構造を変えないまま税収だけを動かせば、将来また同じ問題が起きる可能性があります。
再配分は現在の財政格差を調整する政策です。
地方経済の成長は、将来の税源をつくる政策です。
この2つを同時に進めることが重要です。
地方財政の本当の強さとは、東京からどれだけ財源を受け取れるかではなく、自らの地域でどれだけ継続的に所得と税収を生み出せるかにあるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 東京と地方の財政格差、08年度以来の大きさ 総務省が再配分拡大検討