ゴルフ会員権の価格上昇によって、長年保有していた会員権の売却を検討する人も増えていると考えられます。
関東の主要150コースの平均会員権価格は305万円台となり、2019年末と比較して約8割上昇しました。
一部の人気ゴルフ場では、会員権価格が数倍になった事例もあります。
こうした状況では、会員権を売却した場合にどの程度の税金がかかるのか、気になる人も多いのではないでしょうか。
ゴルフ会員権は、株式や投資信託とは異なる税務上の取扱いを受ける場合があります。
特に重要なのが、譲渡所得の計算方法、所有期間による課税の違い、売却損失の取扱いです。
今回は、個人がゴルフ会員権を売却した場合の所得税を中心に、具体的な計算例を交えながら解説します。
ゴルフ会員権の売却益は原則として譲渡所得
個人がゴルフ会員権を売却して利益を得た場合、一般的な預託金制や株主会員制の会員権については、原則として譲渡所得として課税されます。
ただし、ゴルフ会員権にはさまざまな種類があります。
預託金返還請求権を伴うもの、株式の保有を通じて会員資格を得るもの、単なる施設利用権に近いものなどです。
契約内容や権利の性質によって税務上の取扱いが異なる可能性があるため、すべての会員権を一律に判断することはできません。
一般的なゴルフ会員権の譲渡所得は、次の考え方で計算します。
譲渡所得の金額は、売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。
さらに、総合課税の譲渡所得に該当する場合には、年間最高50万円の特別控除が適用されます。
取得費には、会員権の購入代金のほか、取得に直接必要となった名義書換料や仲介手数料などが含まれる場合があります。
一方、毎年支払う年会費や通常のプレー料金は、原則として会員権の取得費には含まれません。
この区別が、売却時の税額を計算するうえで重要になります。
取得費の確認が税額を左右する
ゴルフ会員権を売却する場合、まず確認したいのが取得費です。
例えば、会員権を300万円で購入し、名義書換料100万円、購入時の仲介手数料10万円を支払ったとします。
これらが取得費に該当する場合、取得費の合計は410万円です。
その後、会員権を600万円で売却し、売却時の仲介手数料として20万円を支払ったと仮定します。
この場合、譲渡益は次のようになります。
売却収入600万円から取得費410万円と譲渡費用20万円を差し引くと、170万円です。
さらに、他に総合課税の譲渡所得がなく、50万円の特別控除を全額適用できる場合、控除後の金額は120万円になります。
ただし、実際の課税対象額は、会員権の所有期間によって異なります。
取得費を正確に把握できるかどうかは、税負担に直接影響します。
購入時の契約書、領収書、名義書換料の支払記録などは、売却するまで保管しておくことが重要です。
所有期間5年以下と5年超では課税が異なる
ゴルフ会員権の譲渡所得では、所有期間が重要になります。
一般的な総合課税の譲渡所得では、所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得に区分されます。
短期譲渡所得は、特別控除後の金額が原則として全額、総所得金額に算入されます。
一方、長期譲渡所得は、特別控除後の金額の2分の1が総所得金額に算入されます。
例えば、先ほどの事例で、特別控除後の譲渡所得が120万円だったとします。
所有期間が5年以下であれば、原則として120万円が総所得金額に算入されます。
所有期間が5年を超えていれば、その2分の1である60万円が総所得金額に算入されます。
この違いは、所得税や住民税の負担に影響します。
なお、ゴルフ会員権の譲渡所得における所有期間の判定は、土地や建物の譲渡所得に適用される年初基準とは異なります。
売却時点で実際に5年を超えて所有しているかどうかを確認する必要があります。
売却益300万円の場合の税負担を比較する
次に、売却益が300万円発生した場合を考えてみます。
ここでは、売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いた利益が300万円であり、50万円の特別控除を全額適用できるものとします。
特別控除後の譲渡所得は250万円です。
所有期間が5年以下であれば、原則として250万円が総所得金額に算入されます。
一方、所有期間が5年を超えていれば、125万円が総所得金額に算入されます。
仮に所得税の限界税率が20%の人で、追加所得の全額に同じ税率が適用されるとすれば、所得税の増加額は短期の場合50万円、長期の場合25万円となります。
さらに、復興特別所得税や住民税の影響も考慮する必要があります。
住民税の所得割を10%として単純計算すると、短期では25万円、長期では12万5,000円です。
復興特別所得税を含めた税負担の増加額は、短期で約76万円、長期で約38万円となります。
ただし、これは所得控除や税額控除の変化などを考慮しない概算です。
実際の税額は、給与所得や年金所得などを含む年間所得の状況によって変わります。
また、譲渡所得の増加によって所得税の累進税率の区分が変わる場合には、単純な税率計算とは異なる結果になります。
50万円の特別控除は会員権ごとではない
ゴルフ会員権の譲渡所得で誤解しやすいのが、50万円の特別控除です。
この控除は、ゴルフ会員権を1件売却するたびに50万円ずつ適用できるというものではありません。
総合課税の譲渡所得について、原則として年間最高50万円が適用されます。
例えば、同じ年に2つのゴルフ会員権を売却し、それぞれ80万円と70万円の譲渡益が発生したとします。
他に調整すべき譲渡損益がない場合、譲渡益の合計は150万円です。
ここから特別控除50万円を差し引くと、100万円になります。
2つの会員権を売却したからといって、100万円の特別控除が適用されるわけではありません。
また、同じ年にゴルフ会員権以外の総合課税の譲渡所得がある場合には、それらとの関係も考慮する必要があります。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の両方がある場合には、特別控除の適用順序にもルールがあります。
複数の資産を売却する年には、年間の譲渡所得全体を確認することが重要です。
ゴルフ会員権の売却損失は給与所得と損益通算できない
ゴルフ会員権の税務で特に注意したいのが、売却損失の取扱いです。
かつては、一定のゴルフ会員権の売却損失について、給与所得などとの損益通算が認められる場合がありました。
しかし、2014年度税制改正によって取扱いが変更されました。
2014年4月1日以後の譲渡については、ゴルフ会員権などの生活に通常必要でない資産の譲渡損失は、原則として給与所得や事業所得などと損益通算できません。
例えば、500万円で購入したゴルフ会員権を200万円で売却した場合を考えてみます。
取得費や譲渡費用を単純化すれば、300万円の売却損失が発生します。
しかし、この300万円を給与所得から差し引いて所得税を減らすことは原則としてできません。
ゴルフ会員権の価格が大幅に下落した場合でも、売却損失によって給与所得に対する税負担を軽減できるわけではないのです。
なお、生活に通常必要でない資産の譲渡損失には、同じ年の一定の譲渡益との内部通算が認められる場合があります。
したがって、すべての譲渡所得との調整が一切できないという意味ではありません。
実際の取扱いは、売却した資産の種類や譲渡所得の区分を確認して判断する必要があります。
会員権が無価値になった場合の税務
ゴルフ会員権では、ゴルフ場の経営悪化によって会員権の市場価値が大きく下落することがあります。
さらに、ゴルフ場の閉鎖や運営会社の破綻によって、会員権の価値が事実上失われる可能性もあります。
この場合、購入時に支払った金額を税務上の損失として処理できるのでしょうか。
重要なのは、会員権の価値が下落したことと、税務上の譲渡損失が発生したことは同じではないという点です。
単に市場価格が下落しただけでは、原則として譲渡損失は実現していません。
また、ゴルフ場が破綻した場合には、会員権に含まれる預託金返還請求権の性質や、法的整理の内容によって税務上の判断が異なることがあります。
預託金の返還不能が直ちに譲渡所得の損失になるわけではありません。
会員権の権利内容、破綻手続き、返還請求権の処理などを確認する必要があります。
特に高額な会員権については、契約書や運営会社からの通知などを保管し、個別に税務上の取扱いを検討することが重要です。
相続したゴルフ会員権を売却する場合
ゴルフ会員権は、相続によって取得する場合もあります。
例えば、父親が長年保有していた会員権を子どもが相続し、その後売却するケースです。
一般的な譲渡所得の計算では、相続によって取得した資産の取得費や取得時期を、原則として被相続人から引き継ぎます。
そのため、相続した時点の会員権の時価が、そのまま譲渡所得計算上の取得費になるわけではありません。
例えば、父親が200万円で取得した会員権を相続し、その後500万円で売却した場合を考えます。
取得費や譲渡費用について他の調整がなければ、譲渡益は300万円になります。
相続時の評価額が400万円だったとしても、原則として400万円を取得費に置き換えることはできません。
また、一定の要件を満たす場合には、相続税の取得費加算の特例を適用できる可能性があります。
ただし、この特例には相続税が課税されていることや、一定期間内に譲渡することなどの要件があります。
相続した会員権を売却する場合には、相続税と所得税の両方を考慮する必要があります。
法人が保有するゴルフ会員権は取扱いが異なる
ここまで説明したのは、主として個人がゴルフ会員権を保有し、売却する場合の税務です。
法人が保有するゴルフ会員権については、取扱いが異なります。
法人がゴルフ会員権を売却した場合、売却損益は原則として法人税の所得計算に反映されます。
ただし、会員権の取得目的や権利の内容、資産計上の方法などによって、具体的な会計処理や税務処理を確認する必要があります。
例えば、法人が500万円で取得した会員権を300万円で売却した場合、帳簿価額や譲渡費用などに応じて売却損失が発生します。
個人のゴルフ会員権の売却損失とは異なり、法人では原則としてその損失が所得計算に反映されます。
もっとも、法人による会員権の取得や利用には、役員や従業員への経済的利益、交際費、福利厚生費などの問題が関係する場合もあります。
特定の役員だけが私的に利用しているようなケースでは、別途税務上の検討が必要になります。
個人と法人では、同じゴルフ会員権であっても税務上の取扱いが異なることを理解しておく必要があります。
売却前に確認したい税務上のポイント
ゴルフ会員権を売却する前には、いくつかの事項を確認しておくことが重要です。
まず、会員権の取得時期です。
所有期間が5年を超えるかどうかによって、課税対象となる譲渡所得の金額が変わる場合があります。
次に、取得費です。
購入代金だけでなく、取得時に支払った名義書換料や仲介手数料などについて、取得費に含められるか確認します。
さらに、売却時の仲介手数料など、譲渡費用に該当する支出も整理します。
また、同じ年に他の資産を売却している場合には、総合課税の譲渡所得全体を確認する必要があります。
売却損失が発生する場合には、給与所得などとの損益通算が原則としてできない点にも注意が必要です。
相続によって取得した会員権であれば、被相続人の取得費や取得時期を確認することも重要です。
こうした資料を事前に整理しておけば、売却後の確定申告を円滑に進めることができます。
結論
ゴルフ会員権の価格上昇は、長年保有してきた会員にとって、売却を検討する機会にもなっています。
しかし、会員権の売却では、市場価格だけでなく、税引後にどれだけの資金が残るかを考える必要があります。
個人が一般的なゴルフ会員権を売却して利益を得た場合、原則として総合課税の譲渡所得として課税されます。
所有期間が5年を超える長期譲渡所得では、特別控除後の金額の2分の1が総所得金額に算入されるため、短期譲渡所得とは税負担が異なります。
一方、売却損失については、2014年度税制改正以降、給与所得などとの損益通算が原則として認められなくなっています。
この点は、ゴルフ会員権を金融資産と同じ感覚で保有する場合に、特に注意したい事項です。
また、相続した会員権では取得費や取得時期の引継ぎが問題となり、法人保有の場合には個人とは異なる税務処理が必要になります。
人生100年時代には、趣味や交流を楽しむために資産を活用することも重要です。
ただし、会員権は購入時だけでなく、保有中、売却時、相続時にも税務や資産管理上の問題が生じます。
ゴルフ会員権を安心して活用するためには、購入から売却、相続までを見据えた長期的な視点が欠かせないのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月18日 ゴルフ会員権8割高、愛好家が猛アプローチ バブル期とは異なる熱狂
国税庁 タックスアンサー ゴルフ会員権の譲渡による所得
国税庁 タックスアンサー 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
国税庁 タックスアンサー 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例