2026年12月から、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢が拡大します。
これまでは原則として65歳未満までだった加入可能年齢が、一定の条件を満たす場合には70歳未満まで延長されます。
人生100年時代を迎え、60歳で定年退職した後も、再雇用や転職、自営業などによって働き続ける人が増えています。
65歳以降も給与所得や事業所得を得る人にとって、iDeCoの加入期間延長は、老後資金を積み増す新たな機会になります。
一方で、加入できる年齢が延びたからといって、すべての人が70歳まで掛金を拠出できるわけではありません。
年金の加入状況や受給状況などによって、加入資格が異なります。
また、60歳以降は現役時代と比べて所得が減少することも多く、掛金の所得控除による節税効果も変わります。
今回の制度改正を踏まえ、60歳以降も働く人がiDeCoをどのように活用すべきかを考えます。
iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで拡大
iDeCoは、公的年金に上乗せする老後資金を自分自身で準備する私的年金制度です。
従来の制度では、加入できる年齢は原則として65歳未満まででした。
今回の改正では、一定の要件を満たす60歳以上70歳未満の人にも加入対象が広がります。
対象となるのは、iDeCoの加入者や運用指図者、企業年金からiDeCoへ資産を移換する人などです。
また、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していないことなどの条件があります。
制度開始から一定期間は経過措置も設けられています。
重要なのは、70歳未満まで誰でも無条件に加入できるわけではないことです。
本人の年金加入状況や過去の加入歴、受給状況などによって、加入資格が異なります。
60歳以降の加入を検討する際には、金融機関やiDeCoの公式情報で、自分自身が対象になるかを確認する必要があります。
60歳以降も働く人が増える背景
日本では、定年退職後も働き続ける人が増えています。
高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。
また、70歳までの就業機会確保についても、企業に努力義務が設けられています。
こうした制度整備に加え、人手不足や健康寿命の延伸などを背景に、高齢期の就業機会は広がっています。
60歳で定年退職した後、同じ会社で再雇用される人もいれば、別の会社へ転職する人もいます。
また、長年の経験や専門資格を生かして、自営業やフリーランスとして働く人もいます。
従来は60歳前後で老後資金の積立を終了し、その後は資産を取り崩すという考え方が一般的でした。
しかし、65歳や70歳まで働く場合には、積立期間と取り崩し期間を柔軟に考えることができます。
今回のiDeCoの加入期間延長は、こうした働き方の変化に対応する制度改正といえます。
65歳以降も積み立てることによる効果
加入期間が延長されることで、老後資金を積み増す機会が広がります。
例えば、加入資格を満たし、月額6万2,000円を5年間拠出できる場合を考えます。
年間の掛金は74万4,000円です。
5年間の掛金合計は372万円になります。
さらに、年率3%で運用できたと仮定すると、5年間の積立資産額は約401万円になります。
これは毎月末に積み立て、一定の利回りで運用できたとする概算であり、手数料などは考慮していません。
実際の運用成果は金融市場の状況によって異なります。
また、月額6万2,000円という上限を利用できるかどうかは、本人の加入区分や勤務先の企業年金制度などによって変わります。
重要なのは、60歳以降も働くことで、生活費を給与や事業所得で賄いながら、老後資金を積み増せる可能性があることです。
資産を取り崩し始める時期を遅らせることも、老後資金の長寿化につながります。
再雇用で給与が下がる場合の注意点
60歳以降も働く人のなかには、定年後再雇用によって給与が減少する人も少なくありません。
例えば、定年前の年収が800万円だった人が、再雇用後に年収400万円になる場合を考えます。
所得税は累進税率であるため、給与が減少すると所得税の限界税率も低くなる可能性があります。
iDeCoの掛金は全額所得控除の対象になりますが、その節税効果は課税所得によって異なります。
仮に所得税と住民税の限界税率の合計が30%から15%に下がった場合、同じ年間60万円の掛金でも、単純計算による節税額は18万円から9万円に減少します。
実際の節税額は所得控除や税率区分などによって異なりますが、所得が減少すると掛金控除の効果も小さくなる傾向があります。
したがって、定年前と同じ掛金を継続することが必ずしも最適とは限りません。
再雇用後の給与水準や生活費を踏まえ、掛金を見直すことが重要です。
65歳以降の公的年金受給との関係
65歳以降のiDeCo活用では、公的年金との関係も重要です。
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として65歳から受給できます。
ただし、受給開始時期を繰り下げることで、年金額を増やす仕組みがあります。
今回のiDeCoの加入可能年齢拡大では、老齢基礎年金を受給していないことなどが加入要件に関係します。
そのため、65歳以降にiDeCoへの拠出を継続したい場合には、公的年金の受給開始時期との関係を確認する必要があります。
特に、老齢基礎年金と老齢厚生年金では、受給開始時期を別々に選択できる場合があります。
また、老齢厚生年金を受給しながら働く場合には、在職老齢年金制度によって年金額の一部が支給停止となることがあります。
iDeCoへの加入可否と、公的年金の受給開始時期、在職老齢年金による調整は、それぞれ異なる制度上の問題です。
単にiDeCoの掛金控除を受けるためだけに公的年金の受給を遅らせることが有利とは限りません。
公的年金の受給額や税負担、生活資金の必要性を総合的に判断することが重要です。
60歳以降の転職と企業年金の関係
60歳以降に転職する場合には、勤務先の企業年金制度も確認する必要があります。
転職先に企業型確定拠出年金や確定給付企業年金がある場合、iDeCoの拠出可能額は、その企業年金の掛金相当額などによって変わります。
2026年12月からは、企業年金とiDeCoを合わせた拠出限度額が月額6万2,000円になります。
企業年金のない会社員は、原則として月額6万2,000円まで拠出できます。
一方、企業年金のある会社員は、月額6万2,000円から企業型DCの事業主掛金やDB等の他制度掛金相当額を差し引いた金額が上限になります。
ただし、実際の加入資格や拠出限度額は、年齢や公的年金の加入状況などによって異なります。
また、転職によって企業型DCの加入資格を失った場合には、資産の移換手続きが必要になることがあります。
手続きを放置すると、自動移換によって運用できない期間が生じたり、手数料が発生したりする場合があります。
60歳以降の転職では、給与だけでなく、企業年金とiDeCoの取扱いも確認することが重要です。
60歳以降に独立開業する場合の活用
定年退職後に独立開業し、自営業者やフリーランスとして働く人もいます。
この場合、会社員時代とは公的年金の加入区分が変わる可能性があります。
60歳以降は国民年金の強制加入期間が終了していることが多く、国民年金への任意加入の有無などによって、iDeCoの加入資格が異なります。
今回の改正では、一定の条件を満たす60歳以上70歳未満の人にも加入対象が広がりますが、すべての独立開業者が自動的に加入できるわけではありません。
また、独立開業後は事業所得が変動するため、掛金の所得控除による節税効果も変わります。
開業初年度に事業所得が少ない場合には、掛金を拠出しても所得税の軽減効果が限定的になることがあります。
さらに、独立開業には設備投資や運転資金、納税資金などが必要です。
iDeCoに拠出した資金は原則として60歳まで引き出せず、受給開始年齢に達した後も掛金として拠出した資産を自由に途中引き出しできるわけではありません。
独立開業後の資産形成では、節税効果だけでなく、事業資金の確保を優先する必要があります。
60歳以降は運用リスクの管理が重要
iDeCoでは、加入者自身が運用商品を選択します。
投資信託を利用する場合には、株式や債券などの価格変動によって資産額が増減します。
30代や40代では、老後までの運用期間を長く確保できます。
一方、60歳以降は受給開始までの期間が短くなる場合があり、市場下落後の回復を待つ時間が限られることがあります。
そのため、積立期間の延長に合わせて、運用商品の構成を見直すことも重要です。
例えば、株式中心の運用を続ける場合には、大きな価格変動に耐えられるかを確認する必要があります。
一方、預貯金などの元本確保型商品を中心にすると、価格変動リスクは抑えられますが、物価上昇によって実質的な資産価値が目減りする可能性があります。
年齢だけで運用方針を決めるのではなく、資産全体の状況や受給開始予定時期を踏まえる必要があります。
受給開始時期と掛金拠出期間を分けて考える
iDeCoでは、掛金を拠出する期間と、老齢給付金を受け取る時期を分けて考える必要があります。
老齢給付金は原則として60歳から受給できますが、通算加入者等期間が短い場合には、受給開始可能年齢が遅くなります。
また、老齢給付金の受給開始は原則75歳までの間で選択できます。
今回の加入期間延長によって、一定の条件を満たす人は60歳以降も掛金を拠出できるようになります。
しかし、老齢給付金を受給した後は、原則として再びiDeCoの掛金を拠出することはできません。
そのため、60歳以降も積立を継続する予定がある場合には、受給開始時期を慎重に検討する必要があります。
また、一時金として受け取る場合には退職所得控除、年金方式で受け取る場合には公的年金等控除が関係します。
勤務先の退職金や公的年金の受給時期によって、税負担が変わる可能性があります。
積立期間の延長と受給時期の選択は、一体として考えることが重要です。
70歳まで働く時代の老後資金設計
人生100年時代の老後資金設計では、60歳や65歳を一律に資産形成の終了時期と考える必要はありません。
60歳以降も働く場合には、給与や事業所得によって生活費を賄いながら、金融資産の取り崩しを遅らせることができます。
さらに、加入資格を満たせばiDeCoへの掛金拠出を継続できる可能性があります。
ただし、長く働けることを前提に老後資金計画を立てすぎることには注意が必要です。
健康状態や家族の介護、勤務先の雇用方針などによって、予定より早く働けなくなる場合もあります。
そのため、60歳以降の資産形成では、就業収入が続く場合と、途中で収入が減少する場合の両方を想定することが重要です。
公的年金、退職金、iDeCo、NISA、預貯金などを組み合わせ、生活資金を確保しながら資産形成を継続することが求められます。
結論
2026年12月のiDeCo拡充によって、一定の条件を満たす人は70歳未満まで掛金を拠出できるようになります。
60歳以降も働き続ける人にとって、老後資金を積み増す期間が広がることは大きなメリットです。
特に65歳以降も給与所得や事業所得がある人は、掛金の所得控除による節税効果を得られる可能性があります。
一方で、加入資格は公的年金の加入状況や受給状況などによって異なり、すべての人が70歳まで加入できるわけではありません。
また、再雇用による給与減少や独立開業による所得変動によって、所得控除の効果も変わります。
60歳以降は、積立額を増やすことだけでなく、運用リスク、受給開始時期、公的年金との関係を総合的に考える必要があります。
人生100年時代の老後資金設計では、働く期間、積み立てる期間、資産を取り崩す期間を一体として考えることが重要です。
今回のiDeCoの加入期間延長を、60歳以降の働き方と老後資金計画を見直す機会にすることが求められます。
参考
日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊
「iDeCoが12月大幅拡充、利用拡大へ『企業年金弱者』加入が焦点」
厚生労働省「確定拠出年金制度」
厚生労働省「2025年の制度改正」
国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」
日本年金機構「年金の繰下げ受給」
厚生労働省「高年齢者雇用安定法の概要」