国税庁では、AIやデータ分析を活用して申告漏れのリスクをスコア化する予測モデルの構築を進めています。
過去の税務調査の実績、申告や決算情報、法定調書などのデータを分析し、調査の必要性が比較的高い納税者を絞り込む仕組みです。
ここで気になるのが、AIによるスコアが高ければ自動的に税務調査の対象になるのかという点です。
結論からいえば、AIだけで税務調査の実施が決まるわけではありません。
予測モデルの判定結果を一つの材料として、国税職員がさまざまな資料をさらに分析し、調査の要否や優先度を最終的に判断します。
税務行政のAI活用を理解するには、AIと人間がそれぞれどのような役割を担うのかを見る必要があります。
予測モデルは調査候補を絞り込む
国税庁には膨大な申告情報が集まります。
限られた職員ですべての申告を同じように詳しく調べることはできません。
そこでAIやデータ分析を利用して、申告漏れのリスクを分析します。
過去の税務調査の結果や申告、決算情報、法定調書などを利用し、調査の必要性を判断するための材料を作ります。
大量の申告の中から、より詳しく確認する必要がありそうな案件を効率的に絞り込む役割です。
AIは税務調査そのものを行うというより、まず調査候補を探す段階で力を発揮します。
スコアは最終判断ではない
リスクがスコア化されると、数字が高い案件から自動的に税務調査が行われるように思えるかもしれません。
しかし、国税庁はそのような仕組みとして説明していません。
青木孝徳国税庁長官は、予測モデルの判定結果に加え、職員が各種保有資料などをもとにさらに分析、検討し、調査の要否や優先度を最終的に判断するとしています。
つまり、リスクスコアは判断材料の一つです。
AIが示した結果を人が確認し、ほかの情報も含めて総合的に判断します。
ここが税務行政におけるAI活用の重要なポイントです。
なぜ人による確認が必要なのか
税務申告には数字だけでは分からない事情があります。
同じような数値の変化があっても、その背景は納税者によって異なります。
事業内容が変わった場合もあれば、大きな取引が一時的に発生した場合もあります。
データ上では通常と異なる動きに見えても、合理的な理由が存在することがあります。
反対に、数字だけを見れば大きな変化がなくても、ほかの資料を組み合わせることで確認すべき問題が見えてくることも考えられます。
そのため、データ分析だけで結論を出すのではなく、税務の専門知識を持つ職員による検討が必要になります。
国税職員は保有資料も確認する
国税庁が税務調査の必要性を判断するときに利用するのは、予測モデルだけではありません。
各種の保有資料なども分析します。
税務行政では、納税者本人から提出された申告情報だけでなく、法定調書をはじめさまざまな情報が集まります。
こうした情報と予測モデルの結果を組み合わせることで、個別の事情をさらに詳しく検討できます。
AIによる大量データの分析と、国税職員による個別案件の分析を組み合わせる仕組みです。
調査するかどうかだけでなく優先順位も決める
国税職員が判断するのは、税務調査を実施するかどうかだけではありません。
調査の優先度も重要です。
調査候補が多数存在しても、すべてを同時に調べることはできません。
そこで、どの案件から重点的に確認するのかを判断する必要があります。
国税庁は、調査必要度に応じた最適な接触方法を選択し、必要度の高い納税者に重点的に対応する事務運営を進めています。
予測モデルは、この優先順位を考えるための材料にもなるわけです。
必ずしも実地調査とは限らない
税務当局と納税者との接触方法は一つではありません。
確認の必要性や内容に応じて対応方法を選択します。
すべてのケースで直ちに深い実地調査を行うのではなく、調査必要度に応じて適切な方法を選ぶ考え方です。
一方、分析の結果、調査の必要性が高いと判断された納税者については、深度ある調査を実施します。
AIの活用によって目指しているのは、むやみに調査を増やすことではなく、必要性に応じて限られた調査能力を適切に配分することだと考えられます。
KSK2で人とAIの組み合わせがさらに重要になる
2026年9月24日には、国税庁の新しい基幹システムKSK2が導入されます。
KSK2の導入によって、利用可能なデータが増加する予定です。
国税庁は、それを予測モデルの精度向上につなげる方針です。
さらに生成AIなどの最新技術も活用していくとしています。
利用できるデータが増え、AIの分析能力が高まれば、機械による分析の役割は大きくなっていくでしょう。
しかし、それは人間の判断が不要になることを意味しません。
むしろAIが大量の情報を処理し、人が個別事情を踏まえて判断するという役割分担が一段と重要になります。
納税者が意識すべきことは変わらない
AIが税務調査に利用されると聞くと、どのような申告が高いスコアになるのかが気になるかもしれません。
しかし、納税者が予測モデルを推測して対応することに意味はありません。
基本となるのは、取引を正確に記録し、必要な証拠資料を保存し、税法に従って適正に申告することです。
データ分析が高度化すれば、申告情報とさまざまな資料との整合性を確認しやすくなります。
だからこそ、特殊なAI対策ではなく、日頃の記帳や資料保存、正確な申告が重要になります。
結論
国税庁はAIやデータ分析を利用し、申告漏れのリスクをスコア化する予測モデルを構築しています。
しかし、そのスコアだけで税務調査の対象が自動的に決まるわけではありません。
予測モデルの結果に加え、国税職員が各種の保有資料などを分析し、調査の要否や優先度を最終的に判断します。
AIは膨大なデータから確認すべき案件を効率的に探し、人は税務の専門知識と個別の情報を使って判断する。
これからの税務調査では、このAIと国税職員の役割分担が一段と重要になっていくのです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 青木新長官にインタビュー、KSK2導入で納税者の利便性向上へ