税務調査というと、国税職員が申告書を読み込み、経験や知識をもとに調査先を選んでいるというイメージを持つ人も多いでしょう。
もちろん、人による判断は今も重要です。
しかし、税務調査の対象を絞り込む段階では、AIやデータ分析の活用が進んでいます。
国税庁は、過去の税務調査の実績、申告や決算の情報、法定調書などのデータを利用し、申告漏れのリスクをスコア化する予測モデルを構築しています。
2026年9月24日に新しい基幹システムKSK2が導入されることで、利用可能なデータはさらに増える予定です。
税務調査は、データを使って調査の必要性を見極める時代へ進んでいます。
なぜ税務調査の対象を絞り込む必要があるのか
日本では膨大な数の個人や法人が税務申告を行っています。
一方、国税庁の職員は全国で約5万6,000人です。
すべての申告について実地調査を行うことはできません。
そこで重要になるのが、どの申告について詳しく確認する必要があるのかを判断することです。
国税庁は、調査の必要度に応じて最適な接触方法を選択し、必要度の高い納税者について重点的に対応する事務運営を進めています。
限られた人員を、より調査の必要性が高い案件へ振り向ける考え方です。
申告漏れリスクをスコア化する
その判断を支えるのが予測モデルです。
国税庁は、保有しているさまざまなデータを利用し、申告漏れのリスクをスコア化しています。
簡単にいえば、大量の申告の中から、詳しく確認する必要性が比較的高いものをデータ分析によって見つけ出す仕組みです。
すべての申告を人が同じように確認するのではなく、まずデータによってリスクを分析します。
その結果を、税務調査を行うかどうかを検討する際の材料の一つとして利用します。
過去の税務調査の結果がデータになる
予測モデルに利用される重要な情報の一つが、過去の税務調査の実績です。
税務調査を行えば、どのような申告で申告漏れが見つかったのかという結果が蓄積されます。
反対に、調査しても大きな問題がなかったケースもあります。
こうした過去の結果を大量に分析すれば、どのような特徴を持つ申告で問題が見つかりやすかったのかを把握する材料になります。
税務調査の結果が次の調査対象を選ぶためのデータとして利用されるわけです。
申告や決算情報も分析される
予測モデルでは、申告や決算に関する情報も利用されます。
法人であれば売上、利益、経費などさまざまな数字が申告や決算情報に含まれます。
個人についても所得や控除などの申告情報があります。
重要なのは、単に一つの数字だけを見るのではなく、さまざまな情報を組み合わせて分析できることです。
データ処理が進めば、過去との変化や複数項目の関係などについても効率的に確認できるようになります。
KSK2が進める書面処理からデータ処理への転換が、こうした分析の基盤になります。
法定調書も重要な情報になる
国税庁には、納税者本人の申告以外からも情報が集まります。
その代表的なものの一つが法定調書です。
法定調書は、法律に基づいて一定の支払などについて税務署へ提出される資料です。
本人が申告した情報だけでなく、第三者から提出された情報を組み合わせることで、申告内容を確認する材料が増えます。
データ化が進むほど、異なる情報同士を効率的に照合、分析しやすくなります。
税務行政にとってデータが重要になる理由の一つです。
スコアが高ければ自動的に税務調査になるわけではない
ここは重要なポイントです。
AIや予測モデルによって申告漏れリスクが高いと判定されたからといって、自動的に税務調査が決定するわけではありません。
青木孝徳国税庁長官は、予測モデルの判定結果に加えて、国税職員が各種の保有資料などをもとにさらに分析、検討すると説明しています。
そのうえで、調査の要否や優先度を最終的に判断します。
つまり、AIによる分析は人間の判断を置き換えるものではありません。
AIが候補を絞り込み、国税職員が専門的に判断するという組み合わせです。
調査必要度が高ければ深く調べる
国税庁は、調査の必要性が高いと判断した納税者に対しては、深度ある調査を実施する方針です。
ここにAIを活用する大きな意味があります。
問題がある可能性の低い案件にも同じだけの時間を使っていれば、本当に確認が必要な案件へ十分な人員を投入できません。
データ分析によって調査の必要性を見極め、優先順位をつけることができれば、必要性の高い案件へ調査能力を集中できます。
AIは単に税務調査の件数を増やすためのものではなく、限られた人員をどこへ投入するかを判断するためにも使われるわけです。
KSK2で利用できるデータが増える
2026年9月24日に導入されるKSK2も、今後のAI活用と深く関係します。
国税庁によれば、KSK2の導入によって利用可能なデータが増加する予定です。
利用するデータが増えれば、予測モデルの精度向上に取り組める余地も広がります。
さらに国税庁は、生成AIなどの最新技術も活用していく方針を示しています。
税務行政は、申告書を一件ずつ確認するだけではなく、大量のデータからリスクを見つけ出す方向へ進んでいるのです。
大切なのは申告内容の正確性
納税者側から見ると、AIによる税務調査の選定に特別な対策をするという考え方は適切ではありません。
予測モデルの詳しい仕組みを推測して申告方法を変えるのではなく、取引を適切に記録し、税法に従って正確に申告することが基本です。
データ活用が進めば、申告情報だけでなくさまざまな資料との照合が容易になります。
そのため、帳簿や証拠資料と申告内容の整合性を保つことは、これまで以上に重要になります。
税務行政が高度化しても、納税者側の基本は変わりません。
結論
国税庁では、AIやデータ分析を利用して申告漏れのリスクをスコア化する予測モデルを構築しています。
利用されるのは、過去の税務調査の実績、申告や決算情報、法定調書などのデータです。
ただし、AIの判定だけで税務調査が決まるわけではありません。
予測モデルの結果と各種資料を国税職員が分析し、調査の要否や優先度を最終的に判断します。
KSK2の導入によって利用可能なデータが増えれば、こうした予測モデルの精度向上も進められます。
これからの税務調査では、人の経験や専門知識に加えて、AIと大量のデータを使って調査の必要性を見極める仕組みが一段と重要になっていくのです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 青木新長官にインタビュー、KSK2導入で納税者の利便性向上へ