営業活動に欠かせない自動車の選び方が、大きく変わりつつあります。
従来はガソリン車やディーゼル車が中心でしたが、現在ではハイブリッド車(HEV)や電気自動車(BEV)も選択肢に加わっています。
燃料価格の上昇、車両価格の高騰、脱炭素への対応など、企業が営業車を選ぶ際に考慮すべき要素も増えています。
特に中小企業では、営業車の購入費用だけでなく、燃料費、整備費、税金、保険料などが経営に与える影響も無視できません。
営業車は単なる移動手段ではなく、企業の収益力や生産性を左右する経営資産です。
今回は、営業車の動力源による違いを整理するとともに、中小企業が車両を選ぶ際の判断基準について考えます。
営業車選びで重要になる総保有コスト
営業車を選ぶ際、最初に注目されやすいのが車両の購入価格です。
しかし、購入価格が安い車が、必ずしも経済的とは限りません。
営業車の経済性を判断するためには、購入から売却・廃車までに発生する総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を考える必要があります。
主な費用には、次のようなものがあります。
- 車両購入費用
- ガソリン代や軽油代、電気代
- 自動車税や自動車重量税
- 自動車保険料
- 車検費用や定期点検費用
- タイヤなどの消耗品交換費用
- 修理費用
- 駐車場代
- 売却時の残存価値
例えば、購入価格が50万円高い車でも、年間の燃料費が10万円安ければ、5年間で燃料費の差額は50万円になります。
ただし、実際には整備費用や税金、残存価値なども異なるため、燃料費だけで優劣を判断することはできません。
重要なのは、営業車を何年間使用し、年間何km走行するのかを明確にしたうえで、総費用を比較することです。
ガソリン車は導入しやすさが強み
ガソリン車の最大の強みは、車両の選択肢が豊富で、導入しやすいことです。
全国に給油設備が整備されており、長距離移動や地方への営業活動にも対応できます。
整備や修理を依頼できる事業者も多く、部品の調達が比較的容易であることもメリットです。
一方、燃料価格が上昇すると、営業活動に伴う費用が増加します。
特に年間走行距離が長い企業では、燃費の違いが経営コストに大きく影響します。
ガソリン車は、年間走行距離が比較的短く、車両購入費用を抑えたい企業に適した選択肢といえます。
ハイブリッド車は燃費と実用性のバランスが強み
ハイブリッド車(HEV)は、エンジンとモーターを組み合わせて走行する自動車です。
一般的なHEVは外部充電設備を必要とせず、ガソリンスタンドで給油できるため、従来の営業活動を大きく変えずに導入できます。
特に市街地での営業活動では、発進と停止を繰り返すため、ハイブリッド車の燃費性能が生かされやすくなります。
資料で紹介されているトヨタのプロボックスHEVは、WLTCモード燃費が24.2km/Lとなっています。
同資料に掲載されているメーカー希望小売価格は230万8,900円です。
例えば、年間2万km走行し、ガソリン価格を1L当たり180円と仮定すると、単純計算による年間燃料費は約14万9,000円です。
ただし、実際の燃費は積載量、道路状況、運転方法、冷暖房の使用状況などによって変わります。
ハイブリッド車は、燃費性能と積載能力、運転のしやすさを重視する企業にとって、有力な選択肢です。
ディーゼル車は長距離走行と積載能力に強み
ディーゼル車は、低回転域から大きなトルクを発生させやすいことが特徴です。
重量のある荷物を積載する営業車や、長距離移動の多い企業に適しています。
資料で紹介されているトヨタのハイエースバンのディーゼル仕様は、最大積載量が2名乗車時で1,000kg、WLTCモード燃費が12.4km/Lとなっています。
建設業、設備工事業、配送業などでは、荷物の重量や大きさによって車両の選択が制約されることがあります。
こうした業種では、燃費だけでなく、必要な積載能力を確保できることが重要です。
一方、ディーゼル車では排出ガス浄化装置などの整備費用にも注意が必要です。
短距離走行を繰り返す使用方法では、車両の仕様によって排出ガス浄化装置の再生に支障が生じる場合もあります。
ディーゼル車は、走行距離が長く、重量物を運搬する機会が多い企業で、その特徴を生かしやすいと考えられます。
電気自動車は使用条件によって経済性が変わる
電気自動車(BEV)は、外部から充電した電力でモーターを駆動する自動車です。
走行時に排気ガスを排出しないことから、脱炭素への対応を進める企業にとって重要な選択肢となっています。
資料では、トヨタ、ダイハツ、スズキが共同開発した軽商用BEVが紹介されています。
トヨタのピクシスバンBEVは、WLTCモードでの1充電走行距離が257km、メーカー希望小売価格が314万6,000円となっています。
BEVの経済性を考える際には、車両価格と電気料金だけでなく、充電設備の設置費用も考慮する必要があります。
また、充電に要する時間が営業活動に影響する可能性もあります。
営業所と取引先を往復するなど、毎日の走行距離が比較的安定している企業では、BEVを導入しやすいと考えられます。
一方、長距離移動が多い企業や、充電設備を確保できない企業では、運用上の制約が大きくなる可能性があります。
BEVの導入は、環境への配慮だけでなく、実際の営業活動との適合性を確認することが重要です。
営業車の経済性は年間走行距離によって変わる
車両選びでは、年間走行距離が重要な判断材料になります。
例えば、年間走行距離が5,000kmの企業と3万kmの企業では、燃費性能が経営に与える影響が大きく異なります。
仮に燃費が15km/Lの車と25km/Lの車を比較します。
ガソリン価格を1L当たり180円とすると、年間走行距離が1万kmの場合、燃料費の差額は約4万8,000円です。
年間走行距離が3万kmになると、その差額は約14万4,000円になります。
5年間では、それぞれ約24万円、約72万円の差になります。
この計算は燃費と燃料価格を一定とした単純な比較ですが、走行距離が長いほど燃費性能の重要性が高まることが分かります。
ただし、燃費のよい車ほど購入価格が高い場合には、追加投資を回収できるかどうかを検討する必要があります。
積載能力と運転のしやすさも重要な判断基準
営業車は、燃費や購入価格だけで選ぶものではありません。
運搬する荷物の大きさや重量、訪問先の道路事情、駐車場の広さなども重要です。
資料では、営業車をワンボックス、ライトバン、コンパクトバン、軽バン、BEVなどに分類して紹介しています。
大量の荷物を運搬する場合には、ハイエースバンなどのワンボックス車が適しています。
小型の商品や部品を運ぶ場合には、プロボックスなどのライトバンが選択肢になります。
都市部で狭い道路を頻繁に走行する場合には、軽バンの小回り性能が役立ちます。
例えば、資料に掲載されているスズキのエブリイは、最小回転半径が4.1mです。
営業先の駐車場が狭い場合や、住宅街を頻繁に訪問する場合には、こうした性能が業務効率に影響します。
また、長時間運転する従業員の負担を考えれば、シートの快適性や安全運転支援機能も重要です。
車両の使いやすさは、従業員の疲労軽減や事故防止にもつながります。
購入とリースのどちらが有利か
営業車の導入方法には、購入とリースがあります。
購入の場合、車両を自社で所有するため、使用期間や売却時期を柔軟に判断できます。
一方、購入時にはまとまった資金が必要になります。
リースの場合、契約内容に応じて月額費用を平準化でき、車両管理の負担を軽減できることがあります。
特にBEVでは、駆動用バッテリーの劣化や交換費用が将来の不確実性となります。
資料でも、商用BEVについてはリースの活用が選択肢として示されています。
ただし、リース契約には走行距離制限、中途解約条件、残価精算などの確認事項があります。
また、税務上の取扱いは契約内容によって異なり、リース料が常にそのまま全額経費になるわけではありません。
購入とリースを比較する際には、資金繰り、税務処理、契約期間、車両の使用実態を総合的に判断する必要があります。
営業車の選択は経営管理の問題
中小企業では、営業車の選択を現場担当者の判断に任せている場合もあります。
しかし、車両台数が増えるほど、購入価格や維持費の違いが企業全体の収益に影響します。
例えば、営業車を10台保有する企業で、1台当たり年間5万円の維持費を削減できれば、年間50万円の費用削減になります。
5年間では250万円です。
さらに、故障による営業活動の停止、事故による損失、従業員の移動時間なども考慮する必要があります。
営業車の選択は、単なる経費削減ではなく、企業の生産性向上にも関係します。
経理部門や管理部門には、車両購入時の予算管理だけでなく、使用実績を把握し、車両ごとの経済性を検証する役割が求められます。
年間走行距離、燃料費、整備費、修理費などを継続的に記録することで、次回の車両更新時に合理的な判断ができるようになります。
脱炭素と経済合理性の両立
企業には、環境負荷の低減に向けた取組みも求められています。
営業車のBEV化は、その具体的な手段の一つです。
ただし、すべての営業車を一律にBEVへ切り替えることが、必ずしも最適とは限りません。
長距離移動が多い車両では、HEVやディーゼル車が実務上適している場合があります。
一方、営業所を拠点として短距離移動を繰り返す車両では、BEVの導入効果を得やすい可能性があります。
企業全体で車両を管理する場合には、用途に応じて複数の動力源を使い分けることも有効です。
環境への配慮と経済合理性を対立するものとして考えるのではなく、業務内容に応じた最適な組合せを検討することが重要です。
結論
営業車の選択に、すべての企業に共通する正解はありません。
ガソリン車には導入しやすさ、ハイブリッド車には燃費と実用性のバランス、ディーゼル車には長距離走行や積載能力、電気自動車には走行時の排出ガス削減という特徴があります。
重要なのは、車両価格や燃費だけで判断しないことです。
年間走行距離、積載する荷物、営業地域、充電環境、整備体制、資金繰りなどを総合的に考える必要があります。
特に中小企業では、営業車を経営資産として捉え、購入から処分までの総保有コストを把握することが大切です。
また、車両の選択は従業員の安全性や働きやすさにも関係します。
今後、BEVの普及や燃料価格の変動によって、営業車の経済性はさらに変化していくと考えられます。
そのため、一度決めた車両構成を固定するのではなく、更新時期ごとに使用実績と経済性を検証することが必要です。
営業車選びは、単なる自動車の購入判断ではありません。
企業の収益力、業務効率、安全性、環境対応を総合的に考える経営判断であることを認識する必要があります。
参考
企業実務 2026年11月号「EV? ガソリン? ディーゼル? 営業に最適な車はどれか」(齊藤優太、58~61ページ)
※車両価格、燃費、航続距離等は参考資料掲載時点の数値です。燃料費の試算は説明のための仮定に基づくものであり、実際の費用は使用条件等によって異なります。