労働時間の「15分丸め」「30分丸め」は違法?正しい給与計算と企業が注意すべき未払い賃金リスク

経営

従業員の労働時間を15分単位や30分単位で計算している企業は、今も少なくありません。

例えば、午前9時46分に出勤した従業員の始業時刻を午前10時とし、午後7時14分に退勤した従業員の終業時刻を午後7時として給与を計算する方法です。

こうした処理は一般に「労働時間の丸め」と呼ばれています。

しかし、実際に働いた時間を一律に切り捨てる処理は、労働基準法に違反し、未払い賃金を発生させる可能性があります。

労働時間の管理は、単なる給与計算の事務作業ではありません。従業員の権利を守るとともに、企業の法的リスクを防ぐ重要な経営管理業務です。

今回は、労働時間を1分単位で計算する法的根拠、例外的に認められる端数処理、勤怠管理システムの注意点、タイムカードと実際の労働時間の関係について整理します。

労働時間は1分単位で計算することが原則

労働時間の計算について、最初に確認しておきたいのは、実際に働いた時間を原則として1分単位で把握し、計算する必要があるということです。

例えば、所定労働時間が午後6時までの従業員が、業務上の必要から午後6時13分まで働いた場合、その13分も労働時間として扱う必要があります。

会社が給与計算の簡便化を理由に、午後6時までしか働いていないものとして処理することは認められません。

この原則は、アルバイトやパートタイマーだけに適用されるものではありません。

正社員、契約社員などについても、実際の労働時間を適正に把握する必要があります。

特に注意したいのは、残業時間の計算です。

1日ごとの残業時間について15分未満を切り捨てる処理を続けていると、従業員が実際に働いた時間と給与計算上の時間との間に差が生じます。

その差が積み重なることで、未払い残業代が発生する可能性があります。

1分単位の計算を求める法的根拠

労働基準法には、労働時間を必ず1分単位で計算しなければならないと直接明記した条文があるわけではありません。

しかし、複数の規定から、使用者には労働時間を適正に把握し、実際の労働に対応した賃金を支払う義務があると考えられています。

まず、労働基準法第24条第1項は、賃金全額払いの原則を定めています。

従業員が実際に働いた時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わなければ、この原則に違反する可能性があります。

次に、労働基準法第37条は、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払いを定めています。

割増賃金を正確に計算するためには、対象となる労働時間を適切に把握しなければなりません。

さらに、労働基準法第108条と労働基準法施行規則第54条では、賃金台帳の調製と記載事項について定めています。

賃金台帳には、労働者ごとに労働時間数や時間外労働時間数などを記録する必要があります。

これらの規定を踏まえると、企業が実際の労働時間を把握せず、便宜的な丸め処理だけで給与を計算することには法的な問題があります。

15分丸め・30分丸めが招く未払い賃金

労働時間の切り捨てがどの程度の影響を及ぼすのか、具体例で考えてみます。

時給1,500円の従業員について、毎日10分の労働時間が切り捨てられているとします。

1か月の勤務日数が20日であれば、切り捨てられる時間は200分、つまり3時間20分になります。

通常の時給で計算すると、未払い賃金は1か月で5,000円です。

これが12か月続けば、年間60,000円になります。

従業員が50人いれば、単純計算で年間300万円です。

これは通常の時給で計算した例ですが、切り捨てられた時間が法定時間外労働などに該当する場合には、割増賃金の問題も生じます。

さらに、賃金請求権の消滅時効との関係から、過去の未払い賃金について請求を受ける可能性もあります。

現在、賃金請求権の消滅時効期間は原則5年とされていますが、当分の間は3年とする経過措置が設けられています。

企業にとって、毎日の数分間の切り捨ては、決して小さな問題ではありません。

例外的に認められる1か月単位の端数処理

労働時間については、あらゆる端数処理が禁止されているわけではありません。

行政通達では、割増賃金の計算に関して、一定の端数処理が認められています。

具体的には、1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの合計時間について、1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる方法です。

例えば、1か月の時間外労働の合計が42時間20分であれば、42時間として計算することが認められます。

一方、42時間33分であれば、43時間に切り上げる必要があります。

重要なのは、この処理が1か月の合計時間に対して認められるものであるという点です。

毎日の残業時間を30分単位で切り捨ててもよいという意味ではありません。

また、30分未満の端数だけを切り捨て、30分以上について切り上げを行わない方法も認められません。

企業の給与計算担当者は、日々の労働時間の集計と、月間の割増賃金計算における端数処理を明確に区別する必要があります。

勤怠管理システムの丸め機能に注意

近年は、クラウド型の勤怠管理システムを導入する企業が増えています。

勤怠管理システムには、出退勤時刻の記録、残業時間の集計、休暇管理、給与計算システムとの連携など、さまざまな機能があります。

その一方で、多くのシステムには、労働時間を5分、10分、15分、30分などの単位で丸める設定機能が用意されています。

ここで注意したいのは、システムに機能が存在することと、その機能を利用した給与計算が適法であることは別問題だという点です。

例えば、勤怠管理システムの初期設定が15分単位の切り捨てになっていた場合、その設定を確認せずに運用すると、未払い賃金が発生する可能性があります。

システムを導入しただけで、適正な労働時間管理が実現するわけではありません。

企業は、実際の労働時間を正確に記録できる設定になっているか、給与計算に反映される時間が適切かを確認する必要があります。

特に、システムの更新や給与計算ソフトとの連携を変更する際には、端数処理の設定を再点検することが重要です。

タイムカードの打刻時刻と労働時間の違い

労働時間の管理で、もう一つ重要なのが、タイムカードの打刻時刻と実際の労働時間の関係です。

例えば、所定の終業時刻が午後6時で、従業員が午後6時5分に退勤の打刻をしたとします。

この5分間は、必ず残業時間になるのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。

労働時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれていた時間であるかによって判断されます。

業務を終了した後、私物の整理や私的な用事によって会社に残っていた時間は、直ちに労働時間になるわけではありません。

一方、終業時刻後も業務を継続していたのであれば、労働時間に該当する可能性があります。

ただし、企業がタイムカードだけで労働時間を管理し、実際の業務終了時刻を確認していなければ、打刻時刻まで労働していたと判断されるリスクがあります。

そのため、単に打刻時刻と所定労働時間との差を機械的に処理するのではなく、実際の勤務状況を確認できる管理体制が必要です。

残業の事前承認制だけでは不十分

残業時間を適正に管理するため、上司による事前承認制を採用している企業もあります。

この仕組みは、不要な残業を防ぎ、業務量を管理するうえで有効です。

しかし、残業を承認制にしているからといって、承認を受けていない時間がすべて労働時間から除外されるわけではありません。

例えば、従業員に所定労働時間内では到底終わらない業務量を与え、上司も残業の実態を把握していた場合です。

形式上は残業の承認を受けていなくても、黙示の指示があったものとして労働時間に該当する可能性があります。

実際の裁判例でも、残業の承認制度が存在することだけでなく、その運用実態や業務上の必要性が重視されています。

企業に求められるのは、残業申請の有無を確認することだけではありません。

従業員の業務量、業務の進捗状況、上司による指示の内容などを含めて、実際の労働時間を把握することが重要です。

始業時刻前の早出出勤も確認が必要

終業時刻後の残業だけでなく、始業時刻前の出勤についても注意が必要です。

例えば、午前9時始業の従業員が、午前8時40分に出勤した場合です。

通勤時の交通事情を考慮して早めに到着し、始業時刻まで休憩していたのであれば、その20分間は通常、労働時間には該当しません。

一方、午前8時40分から業務の準備や作業を開始していた場合には、労働時間に該当する可能性があります。

特に、始業前の清掃、朝礼、業務準備などが会社の指示によって行われている場合は、その実態を確認する必要があります。

企業としては、始業時刻前に業務を行う必要があるのか、上司がどのような指示をしているのかを明確にすることが重要です。

単に早く出勤しているという理由だけで労働時間と判断することも、反対に所定始業時刻前だからという理由だけで一律に除外することも適切ではありません。

企業が見直したい労働時間管理の実務

未払い賃金リスクを防ぐためには、給与計算の結果だけでなく、労働時間の記録方法から見直す必要があります。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者が自ら現認して確認する方法や、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎として確認する方法が原則とされています。

企業では、次のような事項を確認することが重要です。

  • 出退勤時刻が正確に記録されているか
  • 日々の労働時間を一律に切り捨てていないか
  • 勤怠管理システムの丸め設定が適切か
  • 残業の申請・承認制度が実際に機能しているか
  • 打刻時刻と実際の労働時間に差がある場合、その理由を確認できるか
  • 始業前や終業後の業務について管理ルールが明確になっているか
  • 給与計算における端数処理が行政通達の範囲内に収まっているか

また、給与計算を外部の社会保険労務士事務所や給与計算代行会社に委託している場合でも、労働時間を適正に管理する使用者としての責任がなくなるわけではありません。

企業自身が勤怠管理の仕組みを理解し、適切な運用状況を確認することが必要です。

労働時間管理は経営管理と内部統制の問題

労働時間の計算は、人事労務部門だけの問題ではありません。

経理部門や経営者にとっても重要な管理課題です。

未払い残業代が発生すれば、追加の人件費負担だけでなく、労働基準監督署への対応、従業員との紛争、企業の信用低下などにつながる可能性があります。

また、給与計算システムの設定ミスが長期間放置されていた場合には、内部統制上の問題として捉える必要があります。

特に、従業員数の多い企業では、数分単位の誤差が積み重なることで、金額的にも大きな影響を及ぼします。

経理部門としても、人事労務部門と連携し、勤怠データから給与計算までの処理が適正に行われているかを確認することが重要です。

労働時間の記録、残業の承認、給与計算、支払結果の確認という一連の業務について、責任者と確認手順を明確にすることが求められます。

結論

労働時間の15分丸めや30分丸めは、従来の給与計算実務で行われてきた方法であっても、実際の労働時間を一律に切り捨てる処理であれば、労働基準法に違反する可能性があります。

労働時間は原則として1分単位で把握し、計算する必要があります。

例外的に認められる端数処理は、1か月の時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの合計時間について、30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げる方法などに限られます。

また、タイムカードの打刻時刻が必ずしもそのまま労働時間になるわけではありませんが、実際の勤務状況を確認できない管理体制では、未払い賃金を巡る紛争が生じるリスクがあります。

企業にとって重要なのは、給与計算を簡便にすることではなく、実際の労働時間を正確に把握し、適正な賃金を支払う仕組みを整えることです。

勤怠管理システムの設定、残業の承認手続、始業前後の業務実態などを改めて確認することが、未払い賃金の防止と健全な労務管理につながります。

労働時間の適正な管理は、従業員の権利を守るだけでなく、企業の信頼性と経営の安定性を支える重要な内部統制の一つといえます。

参考

企業実務 2026年11月号「違法な『丸め』に注意!正しい労働時間の計算方法を確認しよう」(特定社会保険労務士・久野航氏)

労働基準法第24条、第37条、第108条

労働基準法施行規則第54条

昭和63年3月14日基発第150号

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

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