2026年度税制改正により、企業グループ内の取引について、新たな書類保存のルールが設けられました。
「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」と呼ばれる制度です。
親会社と子会社、兄弟会社などの間で行われる経営指導、技術指導、経費配賦などについて、取引金額の計算方法が既存の契約書や請求書などから確認できない場合、その計算過程を明らかにする書類の作成・保存が求められます。
適用されるのは、原則として2026年4月1日以後に開始する事業年度からです。
企業グループ内では、親会社が負担した経費を子会社に配賦したり、経営指導料や技術指導料を請求したりすることがあります。
こうした取引について、これまでは契約書や請求書が保存されていても、金額の算定根拠までは明確に記録されていないケースがありました。
今回の改正は、こうした取引の透明性を高め、税務調査などにおいて取引内容と計算過程を客観的に確認できるようにすることを目的としています。
企業の経理担当者や経営者にとって重要なのは、すべてのグループ内取引について新たな書類を作成する必要があるわけではないという点です。
制度の対象となる取引を正しく把握し、既存書類に不足している事項だけを補完することが、効率的な実務対応につながります。
関連者間取引の書類保存特例が創設された背景
一般的に、第三者間の取引では、取引金額は当事者間の交渉によって決定されます。
そのため、見積書、契約書、発注書などに金額の算定過程が残されることが少なくありません。
一方、企業グループ内の取引では、必ずしも同様の手続が行われるとは限りません。
例えば、親会社がグループ全体の経営管理業務を担当し、その費用を各子会社に配賦する場合があります。
このとき、子会社には請求書だけが送付され、配賦金額の計算方法や基礎となる費用の内容が十分に説明されていないことも考えられます。
また、親会社の技術者が子会社に技術指導を行い、その対価として技術指導料を請求する場合もあります。
請求書に技術指導料500万円と記載されていても、その金額がどのような計算によって決定されたのかが明らかでなければ、取引の実態を客観的に確認することは困難です。
今回の制度は、こうした計算過程を記録として残すことを求めています。
制度の対象となる関連者の範囲
本特例の対象となる「関連者」とは、一定の特殊な関係にある法人をいいます。
代表的なのは、親会社と子会社の関係です。
一方の法人が他方の法人の発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有している場合などが該当します。
また、同じ親会社などによって50%以上の株式等を保有されている兄弟会社同士も対象となります。
株式の保有関係だけでなく、役員の兼務などを通じて事業方針を実質的に決定できる関係も含まれます。
したがって、単純に連結子会社だけを確認すればよいわけではありません。
企業グループの資本関係や実質的な支配関係を整理し、対象となる法人を把握する必要があります。
なお、本特例における関連者は法人に限られます。社長や役員などの個人との取引は、この特例の対象ではありません。
対象となる取引と対象外の取引
関連者との取引がすべて対象になるわけではありません。
本特例は、関連者が自社に対して行う一定の取引のうち、自社の販売費、一般管理費その他の費用の額の基因となるものを対象としています。
代表的な取引には、次のようなものがあります。
- 親会社から子会社への経営指導
- 親会社の技術者による技術指導
- グループ内の情報提供や管理業務
- 研究開発費や広告宣伝費などの経費配賦
- 特許権や著作権など一定の権利の譲渡・貸付け
一方、グループ会社からの商品仕入れなど、売上原価となる取引は本特例の対象外です。
また、重要なのは取引の方向です。
例えば、親会社が子会社に技術指導を行い、子会社が技術指導料を支払う場合、書類の作成・保存義務を負うのは、原則として費用を計上する子会社です。
逆に、子会社が親会社に役務を提供し、親会社が費用を負担する場合には、親会社が義務者となります。
親会社か子会社かという立場ではなく、どちらが役務等の提供を受け、費用を計上する側なのかという視点で判断することが重要です。
特定事項記載書類とは何か
今回の制度で重要になるのが「特定事項記載書類」です。
これは、既存の取引関連書類等に記載されていない事項を補完するための書類です。
例えば、契約書に技術指導の内容や期間が記載されていても、技術指導料の計算方法が記載されていない場合があります。
この場合、既存の契約書に記載されている事項をすべて書き直す必要はありません。
不足している計算方法や計算の基礎となる数値を記録すればよいことになります。
また、契約書、請求書、業務報告書など、複数の書類を総合して必要な事項を確認できる場合には、それらの書類によって対応できます。
新たな書類の作成が必要になるのは、既存書類を確認しても必要な事項が不足している場合です。
この点を理解せず、すべての取引について詳細な説明資料を新規作成すると、経理部門の事務負担が必要以上に増加してしまいます。
特定事項記載書類に記載する内容
技術指導などの個別役務型取引では、主に次の2つの事項が求められます。
1つ目は、役務の提供の明細および内容です。
例えば、親会社の技術者が子会社の工場で技術指導を行った場合には、指導の対象、指導内容、実施期間、従事した技術者の人数、延べ従事時間などが考えられます。
2つ目は、対価の額の明細および計算の方法です。
例えば、技術指導料を次の方法で計算している場合です。
技術指導料=技術者の時間単価×延べ従事時間+旅費等の実費
この場合、計算式だけでなく、時間単価、延べ従事時間、旅費等の実費といった計算の基礎となる数値も確認できるようにします。
時間単価の根拠となる単価表、従事時間を確認できる業務報告書、旅費等の精算書などとの対応関係も整理しておくことが望まれます。
重要なのは、第三者が書類を確認したときに、支払金額の計算過程を客観的に把握できることです。
どこまで詳細に記載する必要があるのか
実務担当者が最も悩みやすいのは、記載の詳細さです。
例えば、技術指導料について「人件費を基礎として算定した」とだけ記載しても、具体的な計算過程はわかりません。
一方、技術者が行った作業を日報単位ですべて転記することまで求められているわけではありません。
国税庁の事務運営指針では、関連者間取引の内容を第三者の立場から客観的に把握できる程度の記載が求められています。
したがって、実務上は、計算方法とその基礎数値を確認することで、支払金額を再現できるかどうかが重要な判断基準になります。
また、本特例は、第三者との取引価格を比較して、対価の妥当性を立証することまで求める制度ではありません。
例えば、技術指導料の時間単価が市場価格と比較して適正かどうかを、本特例への対応として必ず証明する必要はありません。
ただし、これは関連者間取引の金額が法人税法上、無条件に認められるという意味ではありません。
本特例による書類保存義務と、取引金額の税務上の適正性は、区別して考える必要があります。
書類の作成期限と保存期間
特定事項記載書類の作成・取得期限は、対象となる取引を行った事業年度の確定申告書の提出期限までです。
また、保存期間は、原則として確定申告書の提出期限を起算日として7年間です。
保存場所についても、納税地または取引に係る国内の事務所等で適切に管理する必要があります。
親会社がグループ全体の資料を一元管理している場合でも、支払側の法人が税務調査などで遅滞なく必要書類を提示できる体制を整えておくことが重要です。
なお、同じ内容の取引が反復継続し、取引条件に変更がない場合には、同一内容について1通の書類で対応できるとされています。
毎月同じ条件で経営指導料を支払う場合などには、こうした取扱いを踏まえて事務負担を抑えることが考えられます。
電子取引と電子帳簿保存法との関係
本特例では、特定事項を電子取引によって取得した場合、その取引について特定事項記載書類を作成する必要がないとされています。
ただし、電子取引によって取得したデータについては、電子帳簿保存法に基づく保存が必要です。
したがって、電子メールや電子データで受領した資料については、本特例への対応と電子帳簿保存法への対応を整理する必要があります。
企業グループ内で契約書、請求書、業務報告書、配賦計算資料などを電子的に共有している場合には、必要な情報がどの資料に記録され、どの法人で保存されているのかを明確にしておくことが重要です。
電子化が進んでいる企業ほど、書類を新たに増やすのではなく、既存の電子データを適切に保存・管理する仕組みを整えることが合理的です。
書類保存義務に違反した場合のリスク
本特例は、書類が保存されていないことだけを理由として、直ちに費用の損金算入を否認する制度ではありません。
しかし、書類の作成・保存義務に違反した場合には、青色申告の承認取消事由に該当する可能性があります。
青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除など、企業の税務に大きな影響を及ぼすことがあります。
もっとも、国税庁の事務運営指針では、書類の保存状況だけで機械的に承認取消しを判断することは適切ではなく、違反が軽微な場合には改善指導にとどめることができるとされています。
したがって、書類の不足が直ちに青色申告の承認取消しにつながるわけではありません。
それでも、制度の対象となる取引を把握せず、必要な書類を整備していない状態を放置することは避けるべきです。
経理部門が進めるべき実務対応
企業グループに属する法人では、まず対象となる取引の棚卸しが必要です。
具体的には、関連者に該当する法人を確認し、その法人との間で行っている経営指導、技術指導、経費配賦などの取引を洗い出します。
次に、自社が費用を計上する側となっている取引を特定します。
そのうえで、契約書、請求書、業務報告書、配賦計算資料などを確認し、取引内容と対価の計算方法が明らかになっているかを点検します。
不足している事項があれば、特定事項記載書類を作成するか、必要な情報を記載した資料を取得します。
この際、経理部門だけで完結させようとしないことも重要です。
例えば、技術指導料の計算根拠は技術部門が保有している場合があります。
経営指導料の算定資料は経営企画部門、経費配賦の計算資料は親会社の管理部門が保有していることも考えられます。
したがって、経理部門が制度対応の責任部署となり、関連部署と連携して必要資料を収集・管理する仕組みが望まれます。
特に、親会社と子会社の間で資料の保管責任が曖昧になっている場合には、今回の制度を契機として、グループ全体の文書管理体制を見直すことも有効です。
中小企業グループでも確認が必要
本特例は、大企業グループだけの問題ではありません。
中小企業でも、持株会社を設立して複数の事業会社を管理しているケースや、オーナー企業が複数の法人を経営しているケースがあります。
例えば、親会社が各子会社に経営管理業務を提供し、毎月一定額の経営指導料を受け取っている場合です。
その金額の計算方法が契約書などから確認できなければ、本特例への対応が必要になる可能性があります。
また、グループ内で共通して利用するシステム費用や広告宣伝費などを各社に配賦している場合も、取引内容を確認する必要があります。
中小企業では、親会社と子会社の間で業務が一体的に運営され、取引金額の決定過程が文書化されていないこともあります。
こうした企業ほど、取引の実態と金額の計算方法を記録として残すことが重要になります。
結論
2026年度税制改正で創設された関連者間取引の書類保存特例は、企業グループ内の取引について、対価の計算過程を明確にするための制度です。
重要なのは、すべての関連者間取引について新たな書類を作成する必要があるわけではないという点です。
関連者との一定の取引に該当し、自社が費用を計上する側であり、既存書類に必要な事項が記載されていない場合に、不足する事項を補完することが求められます。
また、本特例は取引価格の適正性を第三者比較によって立証する制度ではなく、実際にどのような方法で対価を計算したのかを記録する制度です。
企業の経理部門にとっては、関連者間取引の棚卸し、既存書類の点検、計算根拠の整理、保存体制の整備という順序で対応することが合理的です。
特に、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることを踏まえ、決算や申告の直前になって資料を集めるのではなく、期中から準備を進めることが重要です。
税務対応のために書類を増やすこと自体が目的ではありません。
取引の内容と金額の計算過程を、第三者が客観的に確認できる状態にしておくことが本質です。
今回の制度を、企業グループ内の取引管理と経理業務の透明性を高める機会として活用することが期待されます。
参考
企業実務 2026年11月号「何をどこまで書けばよいのか?『関連者間取引の書類保存特例』とは」池田祐香
法人税法施行規則第59条の2
法人税法第127条
国税庁「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」に関する事務運営指針(2026年6月30日付)