企業融資は「決算書の数字」だけでは決まらない――金融機関の本音と中小企業が知っておきたい資金調達の新常識

経営

中小企業の経営において、資金調達は事業の存続と成長を左右する重要な経営課題です。

売上が増加していても、資金繰りが悪化すれば事業を継続できません。反対に、一時的な赤字に陥っていても、金融機関の理解と支援を得ることで、経営を立て直せる可能性があります。

しかし、金融機関が何を基準に融資を判断し、どのような企業を支援しようとしているのかについて、十分に理解している経営者は必ずしも多くありません。

月刊『企業実務』2026年11月号に掲載された、西武信用金庫理事長の髙橋一朗氏と株式会社Arriba代表の谷本一将氏による対談「企業融資の本音と建前――金融機関を知り、資金調達を知る――」は、これからの中小企業金融を考えるうえで、多くの示唆を与える内容です。

特に注目したいのは、金融機関の役割が、過去の決算書を評価して融資先を選ぶことから、企業の将来性を見極め、経営改善を支援する方向へ変化しているという点です。

税理士・FPの視点から、金融機関の考え方と中小企業が実践すべき資金調達戦略について整理します。

黒字企業だけに融資する時代の限界

かつての日本では、企業数が増加し、経済成長に伴って資金需要も拡大していました。

高度経済成長期からバブル経済期にかけて、金融機関は預金を集め、財務内容の良好な企業へ融資することで事業を拡大できました。

融資審査では、売上高、利益、自己資本、担保などが重視され、赤字企業や財務内容の悪い企業は融資対象から外されやすい状況にありました。

ところが、バブル崩壊以降、日本経済を取り巻く環境は大きく変わりました。

人口減少や国内市場の縮小が進み、企業数も減少しています。

対談では、現在の企業の約6〜7割が赤字であるという認識が示されています。

この数字は、赤字企業の定義や集計対象によって異なるため、すべての中小企業が同じ状況にあることを意味するものではありません。

それでも、黒字企業だけを選別して融資する従来型の金融モデルには限界があるという問題提起は重要です。

金融機関が赤字企業への融資を一律に避ければ、地域経済を支える企業への資金供給が細り、金融機関自身の事業基盤も弱くなる可能性があります。

これからは、現在の赤字だけで判断するのではなく、その原因や改善可能性を見極めることが求められます。

金融機関は企業を選ぶだけの存在ではなくなる

対談で印象的なのは、西武信用金庫が掲げる企業支援の考え方です。

同金庫では、融資先の財務状況を審査するだけでなく、企業の売上拡大や経営改善を積極的に支援する方針を採っています。

具体的には、販路開拓、ビジネスマッチング、人材紹介、経営計画の策定、専門家との連携などです。

金融機関が企業の経営課題に関与し、企業価値の向上を支援するという考え方です。

対談では、同金庫の取引先企業約1万5,000社のうち68.08%が黒字経営を実現していることや、延滞率が0.0092%であることも紹介されています。

これらは同金庫が説明する実績であり、すべての金融機関に当てはまるものではありません。

ただし、企業の業績改善が金融機関自身の信用リスク低減にもつながるという考え方には合理性があります。

企業が成長すれば返済能力が高まり、金融機関の貸倒れリスクも低下します。

つまり、企業支援は金融機関にとって単なる社会貢献活動ではなく、長期的な収益基盤を維持するための経営戦略でもあるのです。

赤字決算でも融資を受けられる可能性

中小企業の経営者にとって、赤字決算は金融機関との関係で大きな不安材料です。

しかし、赤字であることと、融資を受けられないことは同じではありません。

重要なのは、赤字の原因と今後の改善可能性です。

例えば、設備投資による減価償却費の増加、一時的な取引先の喪失、新規事業への先行投資などによって赤字が発生する場合があります。

こうした赤字と、主力事業の競争力が失われ、慢性的な営業赤字が続いている場合とでは、金融機関の評価も異なります。

経営者は、赤字になった事実だけを説明するのではなく、なぜ赤字になったのか、どのような改善策を実行するのか、その結果としていつ資金繰りが改善するのかを具体的に示す必要があります。

その際には、損益計画だけでなく、資金繰り表や返済計画を整備することが重要です。

金融機関が知りたいのは、将来の利益見通しだけではありません。

貸し出した資金が何に使われ、どのような資金によって返済されるのかという点です。

経営改善の実現可能性を数字と行動計画の両面から説明できる企業ほど、金融機関との建設的な協議につながりやすくなります。

損益計算書から貸借対照表へ視点を広げる

対談では、従来のPL重視からBS重視への転換が強調されています。

PLとは損益計算書、BSとは貸借対照表のことです。

損益計算書は一定期間の売上高や利益を示します。一方、貸借対照表は企業が保有する資産、負債、純資産の状況を示します。

もちろん、金融機関の融資審査では、現在も収益力や返済能力が重要です。

したがって、PLが不要になるという意味ではありません。

むしろ、PLだけでなくBSやキャッシュフローを組み合わせ、企業の財務体質を総合的に評価する必要があるということです。

例えば、毎期利益を計上していても、売掛金や棚卸資産が増加し、借入金への依存度が高まっている企業では、資金繰りが悪化する可能性があります。

反対に、一時的な赤字でも、十分な手元資金と自己資本を確保している企業は、経営改善に取り組む時間的余裕を持つことができます。

経営者が確認すべきなのは、利益の金額だけではありません。

自己資本比率、借入金残高、現預金残高、債務償還能力、運転資金の増減などを継続的に把握することが重要です。

特に、金利上昇局面では借入金の返済負担だけでなく、支払利息の増加が利益と資金繰りに及ぼす影響も確認する必要があります。

複数の金融機関から借りることは本当に安全か

中小企業の資金調達では、複数の金融機関と取引し、借入先を分散する方法が一般的に用いられています。

一つの金融機関に依存しないことで、融資姿勢の変化に備えられるという考え方です。

しかし、対談では、この分散調達について異なる視点が示されています。

業績が悪化した際、ある金融機関が融資を停止すると、ほかの金融機関も慎重になり、資金供給が一斉に縮小する可能性があるという指摘です。

そのため、形式的に取引金融機関の数を増やすことよりも、経営危機の際に本気で支援するメインバンクを確保することが重要だとしています。

もっとも、すべての中小企業が借入先を一つに集約すべきというわけではありません。

金融機関の融資方針、信用保証協会の利用状況、借入条件、資金需要の規模などによって、適切な取引金融機関の構成は異なります。

重要なのは、借入先の数ではなく、それぞれの金融機関との関係性です。

平常時から経営状況を説明し、資金繰りが悪化した場合にも協議できる関係を構築しておくことが必要です。

金融機関も企業が選ぶ時代

金融機関が企業を審査するのと同様に、企業も金融機関を評価する必要があります。

融資金利が低いことは重要ですが、それだけで取引金融機関を決めることには限界があります。

企業の事業内容を理解しているか、経営課題について相談できるか、業績悪化時にも改善策を一緒に検討してくれるかといった点も重要です。

対談では、金融機関のディスクロージャー誌や中期経営計画を確認することが勧められています。

これらの資料からは、金融機関がどのような経営方針を持ち、地域企業への融資や支援にどの程度力を入れているかを把握できます。

特に参考になる指標が、預貸率と預証率です。

預貸率は、預金残高に対する貸出金残高の割合です。

預証率は、預金残高に対する有価証券残高の割合です。

これらを確認することで、金融機関が集めた預金をどのように運用しているかを理解する手掛かりになります。

ただし、数値の高低だけで金融機関の優劣が決まるわけではありません。

金融機関の規模、地域特性、資金需要、リスク管理方針などを踏まえた総合的な判断が必要です。

金融機関との信頼関係は情報開示から始まる

融資交渉において、経営者が避けるべきなのは、不都合な情報を隠すことです。

売上減少、主要取引先の喪失、資金繰りの悪化などは、金融機関に説明しにくい内容です。

しかし、問題が深刻化してから初めて説明する場合、金融機関は経営者の情報管理能力や説明姿勢に疑問を持つ可能性があります。

対談でも、金融機関が企業を本気で支援するためには、経営者が経営状況を包み隠さず説明することの重要性が指摘されています。

経営者は、決算書を提出するだけでなく、月次試算表、資金繰り表、事業計画、経営改善の進捗状況などを定期的に共有することが望まれます。

特に重要なのは、計画と実績の差異を説明することです。

計画どおりに進まなかった場合でも、その原因を分析し、次の改善策を示すことができれば、金融機関との対話を継続しやすくなります。

融資審査は単なる数字の評価ではありません。

経営者の説明能力、情報開示の姿勢、計画の実行力なども、事業の将来性を判断する材料になります。

企業価値担保権が示す新しい融資の方向性

金融機関の融資判断を考えるうえで、企業価値担保権も注目すべき制度です。

従来の融資では、不動産担保や経営者保証などが重要な役割を果たしてきました。

しかし、優れた技術、顧客基盤、ブランド、人的資本などを持ちながら、不動産などの担保資産が十分ではない企業もあります。

企業価値担保権は、こうした企業の事業全体の価値に着目する融資を促進するための仕組みです。

金融機関には、担保資産の価値だけでなく、事業の継続可能性や将来の収益力を評価する能力が求められます。

一方、企業側にも、自社の強みや競争優位性を説明する能力が必要になります。

例えば、独自技術の優位性、顧客との継続的な取引関係、従業員の専門能力、将来の事業計画などです。

財務諸表に直接表れにくい企業価値を、金融機関が理解できる形で説明することが重要になります。

ただし、企業価値担保権を設定すれば融資を受けられるというものではありません。制度の利用には金融機関による事業性評価や所定の手続が必要です。

税理士・FPに求められる資金調達支援

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な経営相談相手の一人です。

しかし、税務申告書や決算書を作成するだけでは、資金調達に関する経営課題を十分に解決できない場合があります。

これからの税理士には、過去の数字を整理する役割に加えて、将来の財務戦略を支援する視点が求められます。

具体的には、資金繰り予測、設備投資計画、借入金返済計画、自己資本の充実、金融機関への説明資料の整備などです。

また、FPの視点も重要です。

特に小規模法人やオーナー企業では、会社の財務と経営者個人の資産形成が密接に関係しています。

役員報酬、退職金、事業承継、相続対策、個人保証などは、会社と経営者個人の双方に影響します。

例えば、会社の利益を確保するために役員報酬を減額する場合、経営者個人の生活資金や老後資金にも影響します。

設備投資や借入金の増加についても、会社の成長可能性だけでなく、経営者のライフプランとの整合性を確認する必要があります。

税務、財務、資金調達、個人資産を切り離さず、総合的に考えることが、これからの中小企業支援では重要になります。

結論

企業融資を取り巻く環境は、人口減少、低成長、金利上昇、事業承継問題などによって変化しています。

従来のように、決算書の数字や担保だけを重視する金融機関の姿勢では、地域企業の成長や再生を十分に支えられない可能性があります。

一方、中小企業の側も、融資を受けることだけを目的とするのではなく、金融機関と長期的な信頼関係を構築する姿勢が必要です。

そのためには、PLだけでなくBSやキャッシュフローを把握し、経営課題を正確に説明し、将来の改善計画を具体的に示すことが重要です。

また、金利や借入条件だけでなく、事業への理解や経営支援の姿勢も踏まえて金融機関を選ぶ必要があります。

金融機関は企業を選び、企業も金融機関を選ぶ時代です。

そして、両者の関係は、単なる貸し手と借り手から、事業の持続可能性を共に考える関係へと発展することが期待されます。

税理士・FPとしても、決算書の作成や税務申告にとどまらず、経営者が金融機関と適切に対話できるよう、財務戦略と長期的な経営設計を支援することが重要です。

資金調達の本質は、お金を借りることではなく、企業が将来にわたって事業を継続し、価値を生み出すための財務基盤を整えることにあります。

参考

『企業実務』2026年11月号「企業融資の本音と建前――金融機関を知り、資金調達を知る――」

西武信用金庫理事長 髙橋一朗氏・株式会社Arriba代表 谷本一将氏 対談

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