役員報酬の決め方と注意点――税金・資金繰り・銀行融資を踏まえた中小企業の経営判断

経営

中小企業の経営者にとって、役員報酬をいくらに設定するかは、会社経営と個人の生活設計の双方に関わる重要な問題です。

役員報酬を高くすれば、経営者個人の収入は増えますが、会社の資金繰りや利益に影響します。反対に、役員報酬を低くすれば、会社に利益を残しやすくなる一方、法人税の負担が増える可能性があります。

さらに、役員報酬は従業員の給与とは異なり、法人税法上、損金算入について厳格なルールが設けられています。

2026年11月号の『企業実務』では、役員報酬の決め方と注意点について、税務上の取扱いだけでなく、銀行融資や経営改善の観点からも解説されています。

今回は、中小企業の経営者や経理担当者が押さえておきたい役員報酬の基本的な考え方と、実務上の注意点を整理します。

役員報酬には法人税法上の制約がある

従業員に支払う給与は、原則として会社の損金に算入されます。

しかし、役員報酬については、会社が自由に金額を決定して支給すれば、その全額が損金として認められるわけではありません。

これは、役員報酬を利用して法人の利益を恣意的に調整することを防止するためです。

例えば、決算が近づいて予想以上の利益が発生した場合に、経営者の役員報酬を増額すれば、会社の利益を減らすことができます。

反対に、赤字が予想される場合に役員報酬を減額すれば、会計上の利益を改善することができます。

こうした利益調整を制限するため、法人税法では、役員給与の損金算入について一定の要件を設けています。

代表的なものは、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3つです。

定期同額給与は中小企業の基本となる

中小企業で最も一般的なのが、定期同額給与です。

定期同額給与とは、原則として1か月以下の一定期間ごとに同額を支給する役員給与です。

通常改定の場合、事業年度開始の日から3か月以内に役員報酬を改定し、その後は原則として同額を継続して支給します。

例えば、3月決算の会社であれば、4月から始まる事業年度について、6月末までに通常改定を行うことが基本となります。

実務では、定時株主総会などで役員報酬の改定を決議し、改定後の金額を支給する方法が一般的です。

ここで注意したいのは、3か月以内であれば何度でも自由に変更できるという意味ではないことです。

通常改定として認められるためには、改定時期や支給方法などの要件を満たす必要があります。

また、役員報酬の決定に当たっては、株主総会決議など会社法上の手続にも注意が必要です。

事前確定届出給与と業績連動給与

役員に賞与を支給する場合には、事前確定届出給与の制度が重要になります。

事前確定届出給与とは、所定の時期に確定額を支給することについて、原則として事前に税務署へ届出を行う制度です。

届出の期限や記載内容、実際の支給時期・支給額などについて、厳格な要件があります。

例えば、届出額と異なる金額を支給した場合には、損金算入が認められないことがあります。

そのため、役員賞与を支給する場合には、事前の計画と確実な実行が欠かせません。

一方、業績連動給与は、利益や株価などの業績指標に応じて支給額が決まる役員給与です。

ただし、損金算入には厳格な要件があり、一般的な同族会社では利用が制限されています。

中小企業では、定期同額給与を基本として、必要に応じて事前確定届出給与を検討することが現実的です。

期中の役員報酬増額には税務リスクがある

役員報酬の実務で特に注意したいのが、事業年度の途中での増額です。

例えば、代表取締役の月額報酬が60万円だったとします。

事業年度の途中で予想以上の利益が見込まれたため、月額120万円に増額したとします。

増額後の支給期間が5か月であれば、増額分は次のようになります。

60万円×5か月=300万円

この増額が定期同額給与の通常改定などの要件を満たさない場合、増額部分の300万円が損金不算入となる可能性があります。

仮に法人税と地方税を合わせた実効的な税負担率を35%とすると、単純計算では105万円の追加的な税負担につながります。

しかも、経営者個人には増額した役員報酬に対する所得税や住民税の負担も発生します。

会社では損金にならない一方、個人では課税対象になるという不利な状況が生じる可能性があるのです。

ただし、事業年度の途中でも、役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更など、臨時改定事由に該当する場合には、改定が認められることがあります。

単に利益が増えたという理由だけで、自由に増額できるわけではありません。

役員報酬の減額も自由ではない

役員報酬を減額する場合にも注意が必要です。

業績が悪化したため、経営者が役員報酬を引き下げたいと考えることは珍しくありません。

しかし、単に利益が予想より少ない、赤字になりそうだという理由だけでは、税務上の業績悪化改定事由に該当しない可能性があります。

国税庁の考え方では、例えば、次のような事情が重要になります。

  • 株主との関係上、経営責任を明確にするために減額が必要となった場合
  • 金融機関との借入金返済条件の変更協議において、役員報酬の減額が求められた場合
  • 取引先などとの信用関係を維持するため、経営改善計画に役員報酬の減額を盛り込んだ場合

重要なのは、経営状況の悪化に伴って、役員報酬を減額せざるを得ない客観的な事情があるかどうかです。

例えば、銀行への借入金返済が困難となり、返済条件の変更を申し入れる際に、経営者自身も経営責任を負うため役員報酬を減額するケースが考えられます。

一方、一時的に資金繰りが厳しい、当初の利益目標を達成できそうにないといった事情だけでは、十分とは限りません。

減額を検討する場合には、業績悪化の状況、経営改善計画、金融機関との協議内容などを記録し、判断の根拠を明確にしておくことが大切です。

役員報酬は期首の利益計画から決定する

役員報酬を適切に設定するためには、事業年度の開始時点で利益計画を作成することが重要です。

具体的には、売上高、売上原価、人件費、その他の経費、設備投資などを見積もり、年間の利益を予測します。

さらに、借入金返済額や納税資金、運転資金なども考慮する必要があります。

例えば、役員報酬を増額して会社の利益を減らせば、法人税の負担は軽くなる可能性があります。

しかし、会社に残る資金が減少すれば、設備投資や借入金返済に必要な資金が不足することも考えられます。

反対に、役員報酬を過度に抑えれば、会社に利益を残せても、経営者個人の生活資金が不足する可能性があります。

役員報酬は、法人税だけでなく、個人の所得税・住民税、社会保険料、会社の資金繰りを総合的に考えて決定する必要があります。

税金を減らすことだけを目的にすると、会社と経営者の双方にとって望ましくない結果になることがあります。

銀行融資では役員報酬と利益の関係が重要になる

役員報酬の金額は、金融機関による企業評価にも影響します。

中小企業では、会社と経営者個人の経済的な関係が密接です。

そのため、会社の利益を抑えて経営者が多額の役員報酬を受け取ることもあります。

しかし、金融機関は融資審査において、会社の決算書を重視します。

役員報酬が過大であるために会社が赤字になっていたり、利益が少額にとどまっていたりすると、財務内容の評価に影響する可能性があります。

また、利益が十分に蓄積されなければ、自己資本の充実も進みません。

自己資本が薄い会社は、業績悪化や資金繰りの変動に対する耐久力が弱くなります。

経営者個人の収入を確保することも重要ですが、会社の財務基盤を強化することとのバランスが欠かせません。

特に、今後の設備投資や事業拡大に向けて銀行融資を予定している会社では、役員報酬の設定が中長期的な資金調達にも関係します。

役員貸付金と役員借入金の動きにも注意する

役員報酬を減額した場合には、貸借対照表の役員貸付金や役員借入金の動きにも注意が必要です。

例えば、銀行との返済条件変更の協議において、経営者が年間1,000万円の役員報酬を減額したとします。

ところが、減額した1,000万円に相当する資金を、会社から経営者への貸付金として引き出していたらどうでしょうか。

あるいは、過去に経営者が会社へ貸し付けた役員借入金の返済として、同額を受け取っていた場合も考えられます。

これらの取引は、役員報酬の減額とは会計上・税務上の性質が異なります。

しかし、会社から経営者個人へ流出する資金が実質的に減っていなければ、金融機関から経営改善の実効性を疑われる可能性があります。

特に、返済条件を変更してもらっている会社では、金融機関との信頼関係が重要です。

役員報酬の減額だけでなく、会社から経営者への資金移動全体を確認する必要があります。

経理担当者は、損益計算書の役員報酬だけでなく、貸借対照表の役員貸付金や役員借入金の増減にも目を向けることが大切です。

税理士・FPの視点から考える適正な役員報酬

役員報酬の決定では、税務上の損金算入だけでなく、経営者個人のライフプランも重要になります。

例えば、役員報酬を高く設定すれば、個人の生活資金や資産形成に充てられる金額が増える可能性があります。

一方、所得税や住民税、社会保険料の負担も増加します。

また、役員報酬を抑えて会社に利益を蓄積する場合には、将来の設備投資、事業承継、役員退職金などとの関係も検討する必要があります。

特に、オーナー経営者の場合には、会社の財産と個人の財産を分けて考えながら、双方を総合的に管理する視点が求められます。

適正な役員報酬を考える際には、次の5つの視点が重要です。

  1. 会社の利益計画と資金繰りに無理がないこと
  2. 法人税と個人の所得税・住民税の負担を総合的に考えること
  3. 社会保険料や将来の年金への影響を確認すること
  4. 銀行融資や自己資本の充実を妨げないこと
  5. 経営者の生活設計や将来の退職金・事業承継を見据えること

役員報酬には、すべての会社に共通する最適な金額があるわけではありません。

会社の収益力、財務状況、経営者の年齢、家族構成、将来の事業計画などによって、適切な水準は異なります。

したがって、毎年の役員報酬改定は、単なる給与額の見直しではなく、会社と経営者の将来を考える重要な経営判断と位置づけるべきです。

結論

役員報酬は、経営者が自由に決められるように見えて、税務上は厳格なルールが設けられています。

特に、定期同額給与の通常改定は原則として事業年度開始から3か月以内に行う必要があり、期中の増額や減額には慎重な判断が求められます。

また、役員報酬の金額は、法人税だけでなく、経営者個人の税負担、社会保険料、会社の資金繰り、銀行融資にも影響します。

経営者にとって重要なのは、目先の節税だけを追求することではありません。

会社に必要な利益と資金を残しながら、経営者個人の生活や将来設計にも配慮することが大切です。

そのためには、事業年度の開始時点で利益計画と資金繰り計画を作成し、税理士や経理担当者と十分に検討したうえで、役員報酬を決定することが望まれます。

役員報酬の適正化とは、単なる税金対策ではなく、会社の持続的な成長と経営者の生活設計を両立させるための経営管理そのものです。

参考

企業実務 2026年11月号「財務諸表から読み解く『経営分析』講座 第18回 役員報酬の決め方と注意点について」瀬野正博

国税庁「役員に対する給与」

国税庁「役員給与に関するQ&A」

法人税法第34条(役員給与の損金不算入)

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