国税局調査課の所管法人はどう変わる――資本金1億円基準と税務リスクの関係

税理士
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国税庁が、大規模法人に対する税務調査のあり方を改めて検討しています。

2026年10月6日と7日に開催された全国国税局調査査察部長会議では、「調査課所管法人に係る現状と課題」が議題となりました。

国税局の調査課は、資本金1億円以上の法人や外国法人などを所管し、複雑困難な税務調査や、他の企業への波及効果が大きい事案に対応しています。

しかし、企業活動の国際化やデジタル化が進む中で、資本金の規模だけでは税務上のリスクや取引の複雑性を十分に判断できない場合があります。

今回の会議では、調査課の使命や役割を踏まえ、今後どのような法人を所管することが適切なのかについて意見交換が行われました。

企業にとって重要なのは、資本金1億円という基準だけで税務調査のあり方を判断しないことです。

企業規模にかかわらず、取引内容や事業構造によって高度な税務判断が必要になる場合があります。

国税局調査課と税務署の役割分担

法人に対する税務調査は、国税局の調査課や税務署などが、それぞれの所掌に応じて実施しています。

一般的に、国税局の調査課は大規模法人や外国法人などを担当し、税務署は中小法人を含む幅広い納税者を担当しています。

国税局の調査課が扱う事案では、企業グループ全体の取引、国際課税、組織再編、特殊な金融取引など、高度な専門知識が必要になる場合があります。

一方、税務署の法人課税部門では、売上や経費の計上、役員給与、消費税など、企業の日常的な取引に関する税務上の問題を幅広く確認します。

ただし、国税局と税務署の役割分担は、単純に資本金だけで決まるものではありません。

法人の種類や事業内容、所管に関する個別の取扱いなどによって異なる場合があります。

今回の会議では、こうした現行の所管のあり方を踏まえ、調査課が今後どのような法人を担当することが適切なのかが議論されました。

資本金1億円という基準の意味

資本金1億円は、日本の税制や企業実務において重要な意味を持つ金額です。

法人税法では、資本金の額などによって中小法人に該当するかどうかが判断され、適用される税制が異なる場合があります。

例えば、一定の中小法人には、所得金額のうち年800万円以下の部分について軽減税率が適用される制度があります。

また、交際費等の損金算入や貸倒引当金などについても、資本金や法人の属性によって取扱いが異なります。

ただし、法人税法上の中小法人の判定と、国税局調査課の所管法人の判定は、目的が異なります。

そのため、税制上の資本金基準と調査担当部署の所管基準を同一のものとして理解することは適切ではありません。

特に、資本金が1億円以下であっても、大法人による完全支配関係などによって、中小法人向けの特例が適用されない場合があります。

企業としては、資本金だけで税務上の取扱いを判断せず、個別の制度ごとに適用要件を確認する必要があります。

資本金と税務リスクが一致しない理由

企業の税務リスクは、資本金の規模だけで決まるものではありません。

例えば、資本金が比較的小さい企業でも、海外子会社を多数保有している場合があります。

また、インターネットを通じて海外の顧客へサービスを提供する企業では、国際課税や消費税の判断が複雑になる場合があります。

さらに、企業買収や組織再編を繰り返す企業では、資本金の規模にかかわらず、高度な税務判断が必要になることがあります。

一方、資本金が大きくても、事業内容や取引構造が比較的単純な企業もあります。

こうした違いを踏まえると、資本金は企業規模を把握する一つの指標ではあるものの、税務リスクの大きさを直接示すものではありません。

今回の会議では、調査課が担当する法人のあり方について、こうした企業活動の変化も踏まえた検討が行われたと考えられます。

ただし、具体的な所管基準の変更や新たな判定方法が決定されたわけではありません。

今後の国税庁の方針を確認する必要があります。

大規模法人の調査で求められる専門性

大規模法人の税務調査では、個々の取引だけでなく、企業グループ全体の事業構造を把握することが重要になります。

例えば、国内の親会社が海外子会社へ製品を販売し、別の関連会社が研究開発や知的財産の管理を担当している場合があります。

このような取引では、各法人がどのような機能を果たし、どのようなリスクを負担しているかを確認する必要があります。

また、企業買収に伴う株式取得、合併、会社分割などでは、組織再編税制の適用要件が重要になります。

さらに、金融商品やデリバティブ取引などについては、会計処理と税務処理の違いを検討する必要があります。

こうした事案では、法人税法だけでなく、国際課税、企業会計、会社法などに関する専門知識が求められます。

国税局調査課が複雑困難な事案を担当する背景には、このような専門性の必要性があります。

調査課の所管見直しとリスク・ベース・アプローチ

今回の会議では、リスク・ベース・アプローチに基づく調査事務運営も重要なテーマとなりました。

リスク・ベース・アプローチとは、税務上の問題が発生する可能性や影響の大きさを踏まえ、調査資源を重点的に配分する考え方です。

調査課が担当する法人のあり方を検討する際にも、企業規模だけでなく、取引の複雑性や税務リスクを考慮することには合理性があります。

例えば、資本金が比較的小さくても、複雑な国際取引を行う企業では、専門性の高い調査が必要になる場合があります。

一方、取引内容が比較的単純な企業では、通常の調査体制で対応できる場合も考えられます。

ただし、これは所管のあり方を検討する際の考え方であり、資本金基準が廃止されることや、税務リスクだけで所管法人が決定されることを意味するものではありません。

現時点では、会議で意見交換が行われた段階であることを踏まえる必要があります。

国際化とデジタル化が所管のあり方に与える影響

企業活動の国際化とデジタル化は、税務調査の対象となる取引の性質を変えています。

従来は、海外取引や複雑な金融取引は大企業に多いと考えられていました。

しかし、現在では中小企業でも海外の取引先と直接契約し、デジタルサービスを提供することが可能です。

また、海外のクラウドサービスや電子商取引を利用する企業も増えています。

こうした取引では、国内取引とは異なる税務上の判断が必要になる場合があります。

例えば、国外事業者から提供を受ける電子サービスについては、消費税の課税関係を確認する必要があります。

また、海外子会社との取引では、移転価格税制や外国子会社合算税制などが問題になる場合があります。

企業規模が小さいことだけを理由に、税務上の判断が単純になるわけではありません。

国税当局にとっても、企業活動の実態に応じた専門性の確保が課題となっています。

調査ノウハウの組織内共有との関係

今回の会議では、調査課が蓄積したノウハウを組織全体へ還元する取組も議論されました。

大規模法人の税務調査で得られた知見を他部署へ共有することは、国税局と税務署の役割分担を補完する意味があります。

例えば、調査課が複雑な取引について税務上の問題点を把握した場合、その知見を税務署へ共有することで、類似する取引に対応しやすくなると考えられます。

このような仕組みが機能すれば、必ずしもすべての複雑な事案を調査課が直接担当する必要はありません。

専門的な知識を組織内で共有することによって、各部署の調査能力を高めることが期待されます。

ただし、具体的な情報共有方法や調査体制の変更については、今後の運用を確認する必要があります。

企業側としては、担当する国税当局の部署だけでなく、税務調査全体の高度化という観点から備えることが重要です。

資本金を減らせば税務調査が軽くなるのか

企業の中には、税制上の取扱いなどを考慮して資本金の減少を検討する場合があります。

しかし、資本金を減らせば税務調査が軽くなると考えることは適切ではありません。

まず、資本金の減少によって、必ずしもすべての中小法人向け税制が適用されるわけではありません。

法人の支配関係や事業年度、個別制度の適用要件などを確認する必要があります。

また、税務調査の必要性は、資本金だけでなく、申告内容や取引実態などによって判断されます。

さらに、減資には会社法上の手続や財務上の影響もあります。

資本金の変更を検討する場合には、税制上の効果だけでなく、取引先からの信用、金融機関との関係、許認可要件なども含めて判断する必要があります。

税務調査の負担を軽減する目的だけで資本金を変更することは、慎重に考えるべきです。

企業が今から確認すべき税務管理体制

今回の会議で議論された所管法人のあり方は、今後の税務行政の方向性を考えるうえで重要です。

企業としては、所管基準の変更を予測することよりも、自社の税務リスクを把握することが優先されます。

第一に、取引内容の複雑性を確認することです。

海外取引、組織再編、特殊な金融取引などについて、適切な税務判断が行われているかを点検する必要があります。

第二に、税務判断の根拠を保存することです。

契約書、取引記録、社内決裁資料、専門家への相談記録などを整理し、必要に応じて説明できる状態にしておくことが重要です。

第三に、税務リスクを継続的に見直すことです。

事業規模の拡大、新規事業への参入、海外取引の開始などによって、従来とは異なる税務上の問題が生じる場合があります。

第四に、経理部門と他部署との情報共有を進めることです。

税務上重要な取引について、実行前に必要な情報が経理・税務部門へ伝わる仕組みが求められます。

結論

2026年10月の全国国税局調査査察部長会議では、国税局調査課が所管する法人のあり方について意見交換が行われました。

調査課は、資本金1億円以上の法人や外国法人などを所管し、複雑困難な税務調査や波及効果の大きい事案に対応しています。

しかし、企業活動の国際化やデジタル化が進む中で、資本金の規模だけでは税務リスクや取引の複雑性を十分に把握できない場合があります。

今回の議論は、調査課の専門性をどのような法人や事案に活用することが適切なのかを検討するものと位置付けられます。

ただし、具体的な所管基準の変更が決定されたわけではありません。

企業にとって重要なのは、資本金の規模だけで税務調査への備えを判断しないことです。

自社の事業内容や取引構造を踏まえて税務リスクを把握し、適正な申告・納税を継続できる管理体制を整える必要があります。

税務調査がリスク重視へと進む中で、企業規模にかかわらず、取引の実態と税務判断の根拠を説明できることが重要になります。

参考

税のしるべ 2026年10月26日「令和8年10月・調察部長会議、調査ノウハウを組織全体に還元、特別国税査察官の効果的運用で意見交換」

国税庁「税務行政の将来像」

国税庁「法人税の税率」

国税庁「移転価格税制の概要」

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