相続税の税務調査はなぜ増えているのか 「お尋ね」から始まる相続税リスクの実態(実務対応編)

税理士
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相続税は、一部の富裕層だけの問題ではなくなりつつあります。

近年は不動産価格や株価の上昇により、これまで相続税とは無縁だった家庭でも課税対象となるケースが増えています。特に首都圏では自宅不動産の評価額上昇が大きく、「自宅と預貯金しかない」と考えていた家庭が、相続税申告を必要とする事例も珍しくありません。

2024年には、相続税の課税割合が全国で初めて10%を超えました。東京都では約20%に達しており、5人に1人が相続税の対象となる時代に入っています。

その一方で、相続税の申告漏れや税務調査も増加しています。税務署から届く「相続についてのお尋ね」に不安を感じる人も少なくありません。

今回は、相続税の税務調査がなぜ増えているのか、「お尋ね」とは何か、税務署は何を見ているのか、そして生前準備の重要性について整理します。


相続税はなぜ身近な税金になったのか

相続税が増えた最大の理由は、2015年の基礎控除縮小です。

現在の基礎控除額は、

3000万円+600万円×法定相続人の数

で計算されます。

例えば、

  • 配偶者+子2人 → 法定相続人3人
  • 基礎控除額 → 4800万円

となります。

以前より基礎控除が大幅に引き下げられたため、都市部では自宅不動産だけで基礎控除を超えるケースも増えました。

さらに近年は、

  • マンション価格の上昇
  • 株価上昇
  • 円安による資産価格上昇
  • 高齢化による相続件数増加

などが重なり、相続税対象者は増加傾向にあります。

「相続税は資産家だけの問題」という時代は、すでに終わりつつあります。


「相続についてのお尋ね」とは何か

被相続人が亡くなると、税務署は自治体から死亡情報を受け取ります。

そのうえで、

  • 不動産情報
  • 預貯金情報
  • 有価証券情報
  • 過去の所得情報
  • 高額資産購入履歴
  • 過去の確定申告情報

などをもとに、被相続人の財産規模を推計します。

その結果、相続税の対象になりそうだと判断されると、税務署から「相続についてのお尋ね」が送付されることがあります。

これは税務調査ではありません。

あくまで、

  • 相続税申告が必要ではないか
  • 財産把握に漏れがないか
  • 申告不要かどうか

を確認するための照会文書です。

そのため、「お尋ね」が届いたからといって、直ちに問題があるわけではありません。

実際には、

  • 基礎控除以下で申告不要
  • 特例適用で納税ゼロ
  • 財産規模確認のみ

というケースも多く存在します。


税務署はどこまで把握しているのか

相続税調査で重要なのは、「税務署はかなり多くの情報を持っている」という点です。

現在の税務署は、

  • 金融機関情報
  • 証券会社情報
  • 不動産登記
  • 保険金支払情報
  • 海外送金情報
  • マイナンバー連携情報

などを横断的に把握しています。

特に近年はデジタル化によって情報連携が進み、「隠せば分からない」という時代ではなくなっています。

税務署は生前所得から「本来どの程度の資産を保有していたか」を推計しています。

例えば、

  • 高所得者なのに預金残高が少ない
  • 不動産売却資金の行方が不明
  • 多額の現金引き出しがある
  • 家族名義口座への資金移動が多い

などは調査対象となりやすくなります。


実地調査と「簡易な接触」の違い

相続税調査には大きく2種類あります。

簡易な接触

電話や文書による確認です。

例えば、

  • 計算ミス
  • 添付漏れ
  • 財産評価の誤り
  • 軽微な申告漏れ

などが対象になります。

税務署からの指摘を受け、自主的に修正申告を促されるケースが一般的です。


実地調査

税務署職員が自宅等を訪問する本格的調査です。

対象となりやすいのは、

  • 遺産総額が大きい
  • 申告内容に不自然さがある
  • 名義預金が疑われる
  • 海外資産がある
  • 過去の所得との整合性が弱い

などのケースです。

実地調査では、

  • 預金通帳
  • 家族間資金移動
  • メモ類
  • 貸金庫
  • 生前贈与
  • タンス預金

なども確認されます。

実際、相続税の実地調査では高い割合で申告漏れが見つかっています。


相続税調査で問題になりやすい論点

名義預金

最も典型的な論点です。

子や孫名義の口座でも、

  • 通帳管理者
  • 印鑑管理
  • 資金移動実態

などから、実質的に被相続人の財産と判断されることがあります。


タンス預金

現金は把握されにくいと思われがちですが、

  • 生前所得
  • 預金引き出し履歴
  • 家族証言

などから推計されることがあります。

相続発生直後の多額入金も確認対象になります。


生前贈与

暦年贈与でも、

  • 贈与契約が曖昧
  • 通帳管理が親
  • 実際に使っていない

場合には、贈与否認される可能性があります。


ペナルティーはどこまで重いのか

申告漏れがあると、本税に加えて加算税や延滞税が課されます。

代表的なのは、

  • 過少申告加算税
  • 無申告加算税
  • 重加算税

です。

特に重加算税は、

  • 財産隠し
  • 名義仮装
  • 意図的除外

など悪質性が高い場合に課されます。

税率も重く、精神的負担も非常に大きくなります。

相続税は一生に何度も経験するものではないため、「知らなかった」が起きやすい税目です。

しかし、知らなかっただけでもペナルティーが発生する点には注意が必要です。


相続税対策で本当に重要なこと

相続税対策というと、

  • 節税商品
  • タワマン節税
  • 生前贈与
  • 法人化

などが注目されがちです。

しかし、実際に最も重要なのは「財産把握」です。

具体的には、

  • 財産目録作成
  • 通帳整理
  • 不動産一覧整理
  • 保険契約確認
  • 証券口座一覧化
  • 家族共有

などの基本作業が極めて重要になります。

遺族が財産を把握できないことが、申告漏れや調査リスクにつながるからです。


AI時代の相続税調査はさらに高度化する

今後は税務行政のデジタル化によって、相続税調査はさらに高度化していく可能性があります。

金融情報・不動産情報・マイナンバー情報などが連携されれば、

  • 資産移動分析
  • 異常検知
  • 名義判定
  • 生前贈与分析

などもAIで効率化されていくでしょう。

つまり、「税務調査に備える時代」から、「平時から説明可能な財産管理を行う時代」へ変わりつつあります。

相続税対策とは、単なる節税ではなく、

「家族が困らない状態を作ること」

へと意味が変わり始めています。


結論

相続税は、もはや一部の富裕層だけの問題ではありません。

不動産価格上昇と高齢化により、一般家庭でも相続税申告や税務調査と向き合う時代になっています。

税務署は長年にわたり資産情報を蓄積しており、デジタル化によって把握能力も高まっています。

そのなかで重要なのは、

  • 財産を正確に把握すること
  • 家族で共有すること
  • 特例制度を理解すること
  • 生前から整理しておくこと

です。

相続税対策の本質は、「税金を減らすこと」だけではありません。

家族が混乱せず、安心して相続手続きを進められる状態を作ることこそ、これからの相続対策の中心になっていくのではないでしょうか。


参考

・日本経済新聞 2026年5月13日夕刊
「マネー相談 黄金堂パーラー〉相続税の税務調査(上)『お尋ね』 申告漏れはペナルティー」

・日本経済新聞 2026年5月13日夕刊
「生前の準備が重要に 税理士 河添博さん」

・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」

・国税庁「相続税の調査等の状況」

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