2026年分の確定申告から、給与所得者の申告手続がさらに便利になることが期待されています。
2026年10月26日付の「税のしるべ」に掲載された高橋俊一国税庁課税部長へのインタビューでは、2027年1月以降、eLTAXを通じて市区町村にオンライン提出される給与支払報告書の情報が、マイナポータル連携の対象となることが説明されました。
これにより、給与情報の自動入力を利用できる人が大幅に増加すると見込まれています。
これまで確定申告では、勤務先から交付された源泉徴収票を確認し、給与収入や源泉徴収税額などを申告書に入力する必要がありました。
マイナポータル連携の対象が拡大すれば、必要な条件を満たす給与所得者は、給与情報を自動的に取得し、確定申告書に反映できるようになります。
ただし、すべての給与所得者が無条件で利用できるわけではありません。
勤務先による給与支払報告書の提出方法や、本人のマイナポータル連携の設定などが関係します。
確定申告のデジタル化がどのように進み、納税者や企業にどのような影響を及ぼすのかを理解することが重要です。
給与所得者の確定申告が変わる背景
給与所得者の多くは、勤務先で年末調整を受けることで、所得税の精算が完了します。
そのため、通常は確定申告を行う必要がありません。
しかし、医療費控除や寄附金控除などを受ける場合、給与以外の所得がある場合などには、確定申告が必要になることがあります。
また、住宅ローン控除を初めて受ける場合にも、原則として確定申告が必要です。
こうした給与所得者が確定申告を行う際には、源泉徴収票に記載された給与収入や所得控除、源泉徴収税額などを申告書に反映する必要があります。
従来は、源泉徴収票を見ながら入力する方法が一般的でした。
しかし、手入力には一定の時間がかかり、数字の入力間違いや記載漏れが生じる可能性もあります。
そこで国税庁は、マイナポータル連携によって、申告に必要な情報を自動入力する仕組みを拡充してきました。
今回の給与情報の連携拡大も、その一環です。
マイナポータル連携とは何か
マイナポータル連携とは、確定申告に必要な情報をマイナポータル経由で取得し、確定申告書等作成コーナーなどに自動入力する仕組みです。
マイナポータルは、政府が運営するオンラインサービスです。
マイナンバーカードを利用することで、行政手続や各種情報の確認などを行うことができます。
確定申告では、マイナポータル連携によって取得した情報を申告書に反映できます。
例えば、医療費通知情報、一定の生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、寄附金控除に関する証明書などが連携の対象となっています。
ただし、実際に利用できる情報は、発行機関の対応状況や本人の利用条件などによって異なります。
マイナポータル連携の利点は、申告に必要な情報を一つずつ入力する負担を減らせることです。
また、手入力による誤りを防止する効果も期待されます。
一方、自動入力された情報についても、申告内容が正しいかどうかを本人が確認する必要があります。
2027年1月から給与支払報告書の情報が連携対象に
今回の制度変更で特に注目されるのが、給与支払報告書の情報を利用したマイナポータル連携です。
給与支払報告書とは、企業などの給与支払者が、従業員の給与情報を市区町村に報告するための書類です。
通常、給与支払者は、前年中に支払った給与について、翌年1月31日までに給与支払報告書を提出します。ただし、提出期限が休日に当たる場合などには、期限が変わることがあります。
給与支払報告書は、住民税の課税資料として利用されます。
2027年1月以降、eLTAXによってオンライン提出される給与支払報告書の情報も、マイナポータル連携の対象となります。
これにより、従来の給与情報連携を利用できなかった給与所得者についても、利用できる機会が広がると見込まれています。
高橋課税部長は、給与情報のマイナポータル連携を利用できる人が大幅に増加する見通しを示しています。
給与所得者にとっては、確定申告の手間を減らす重要な取組です。
源泉徴収票と給与支払報告書の違い
給与情報の連携を理解するためには、源泉徴収票と給与支払報告書の違いを知っておくことが重要です。
源泉徴収票は、給与支払者が従業員に交付する書類です。
給与収入、給与所得控除後の金額、所得控除の額の合計額、源泉徴収税額などが記載されています。
従業員は、確定申告を行う際に、この源泉徴収票の情報を利用します。
一方、給与支払報告書は、給与支払者が市区町村に提出する書類です。
主に個人住民税の課税資料として利用されます。
両者には共通する情報が多く含まれていますが、提出先や利用目的が異なります。
今回の連携拡大では、地方税の手続で提出される給与支払報告書の情報を、所得税の確定申告にも活用することになります。
国税と地方税の情報連携が、納税者の利便性向上につながる点が重要です。
eLTAXによる電子提出が重要になる理由
eLTAXは、地方税に関する申告や届出、納税などをインターネットで行うためのシステムです。
企業は、eLTAXを利用して給与支払報告書を市区町村に電子提出することができます。
今回のマイナポータル連携の拡大では、この電子提出された情報が重要な役割を果たします。
紙で提出された給与支払報告書については、今回説明された電子提出情報の連携対象とは異なります。
そのため、企業が給与支払報告書をどのような方法で提出しているかは、従業員の利便性にも関係します。
国税庁は、企業に対してeLTAXの利用を勧奨する方針を示しています。
これまで給与支払報告書の電子提出を行っていなかった企業にとっても、提出方法を見直す契機になります。
ただし、電子提出義務の有無は法令上の基準によって判断されます。
すべての事業者に一律の電子提出義務があるわけではないため、自社の状況を確認する必要があります。
給与情報が自動入力されることの利点
給与情報の自動入力には、いくつかの利点があります。
第一に、申告書作成の時間を短縮できることです。
給与収入や源泉徴収税額などを手入力する必要が減れば、申告書作成の負担が軽くなります。
第二に、入力間違いを防止できることです。
源泉徴収票に記載された数字を転記する際には、桁数の間違いや入力漏れが生じることがあります。
自動入力によって、こうした誤りを減らすことが期待されます。
第三に、自宅からのe-Tax利用を促進できることです。
給与情報に加えて、医療費や保険料控除などの情報も連携できれば、申告書の作成がさらに便利になります。
ただし、自動入力された内容が必ず完全であるとは限りません。
複数の勤務先から給与を受け取っている場合や、連携対象外の情報がある場合などには、追加の確認や入力が必要になることがあります。
最終的な申告内容の確認は、納税者本人が行う必要があります。
マイナポータル連携を利用するための準備
マイナポータル連携を利用するためには、事前の準備が必要です。
基本となるのは、マイナンバーカードと有効な電子証明書です。
また、対応するスマートフォンやパソコンなど、利用環境を整える必要があります。
マイナポータル連携では、利用する情報の種類によって、事前の設定や連携手続が必要になる場合があります。
そのため、確定申告の直前ではなく、余裕を持って準備することが望まれます。
特に注意したいのが、電子証明書の有効期限です。
マイナンバーカード本体が有効であっても、電子証明書の期限が切れている場合には、e-Taxの利用に支障が生じることがあります。
また、給与情報が連携されるかどうかについては、勤務先の提出状況なども関係します。
確定申告を行う前に、国税庁が案内する最新の利用条件を確認することが重要です。
企業の人事給与部門に求められる対応
給与情報のマイナポータル連携の拡大は、企業の人事給与部門にも影響します。
これまで給与支払報告書は、主に住民税の課税資料として提出されてきました。
しかし、今後は従業員の所得税の確定申告にも関係する情報として、その重要性が高まります。
企業では、給与支払報告書の正確な作成と適切な提出が求められます。
また、給与計算システムや年末調整システムがeLTAXによる電子提出に対応しているかを確認することも重要です。
従業員から給与情報の連携について問い合わせを受ける可能性もあるため、制度の概要を把握しておくことが望まれます。
ただし、企業が従業員の確定申告を代行する必要があるわけではありません。
企業としては、正確な給与情報を適切に提出し、必要な周知を行うことが基本になります。
年末調整と確定申告の関係は変わらない
給与情報のマイナポータル連携が拡大しても、年末調整と確定申告の基本的な関係が変わるわけではありません。
給与所得者の多くは、勤務先で年末調整を受けることによって所得税の精算が完了します。
確定申告が必要になるのは、一定の要件に該当する場合です。
例えば、給与収入が2,000万円を超える場合や、一定の副業所得がある場合などには、確定申告が必要になることがあります。
また、医療費控除や寄附金控除などによって所得税の還付を受けるために、確定申告を行うこともあります。
マイナポータル連携は、こうした確定申告の手続を便利にする仕組みです。
確定申告の義務そのものを変更する制度ではありません。
また、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要になることがあります。
それぞれの制度を区別して理解することが重要です。
税理士に求められる確定申告支援の変化
マイナポータル連携の拡大は、税理士の確定申告業務にも影響すると考えられます。
給与情報や控除証明書などの自動入力が進めば、申告書への転記作業は効率化されます。
一方、申告内容が適正かどうかを確認する役割は引き続き重要です。
例えば、複数の所得がある場合や、所得控除の適用要件を確認する必要がある場合には、専門的な判断が求められます。
また、マイナポータル連携で取得できない情報については、別途確認が必要になります。
税理士には、デジタル技術を活用して申告業務を効率化するとともに、納税者の状況に応じた適切な助言を行うことが期待されます。
申告書を作成する作業だけでなく、制度の適用判断や申告内容の検証が、今後さらに重要になると考えられます。
結論
2026年分の確定申告では、給与情報のマイナポータル連携が大きく拡充される見込みです。
2027年1月以降、eLTAXを通じて市区町村にオンライン提出される給与支払報告書の情報が連携対象となることで、給与情報の自動入力を利用できる人が増加すると期待されています。
これにより、給与所得者の確定申告では、入力作業の負担軽減や入力間違いの防止が期待されます。
一方、利用するためには、マイナンバーカードや電子証明書の有効性、マイナポータル連携の設定、勤務先の提出状況などを確認する必要があります。
また、企業にとっては、給与支払報告書の正確な作成とeLTAXによる電子提出の重要性が高まります。
税務行政のデジタル化は、納税者の申告手続だけでなく、企業の給与事務にも変化をもたらしています。
今後は、国税と地方税の情報連携が進むことで、申告手続のさらなる効率化が期待されます。
ただし、自動入力が進んでも、申告内容を確認する責任がなくなるわけではありません。
デジタル技術の利便性を活用しながら、正確な申告を行うことが重要です。
参考
税のしるべ 2026年10月26日「令和8年国税庁の幹部に聞く/課税部長・高橋 俊一」
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」(2023年6月)
国税庁「マイナポータル連携特設ページ」
地方税共同機構「eLTAX(地方税ポータルシステム)」