国税庁が進める徴収行政のデジタル改革――キャッシュレス納付54%目標とAI活用が変える税務行政

税理士
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国税庁の徴収行政が、大きな転換期を迎えています。

従来の徴収行政は、納期限までに納付されなかった税金について、催告や財産調査、差押えなどを通じて徴収することが中心でした。

しかし、現在の国税庁が重視しているのは、滞納が発生してから対応するだけではなく、滞納そのものを未然に防止する仕組みづくりです。

その中心となるのが、キャッシュレス納付の普及と人工知能(AI)の活用です。

2026年11月2日付の「税のしるべ」に掲載された国税庁徴収部長・山下和博氏へのインタビューでは、国税庁が進める徴収行政のデジタル改革と、滞納事案への対応方針が明らかになりました。

税務行政の変化は、企業の経理部門や税理士だけでなく、個人事業主や一般の納税者にも大きく関係します。

キャッシュレス納付54%を目指す国税庁

国税庁は、2026年度末までに国税のキャッシュレス納付割合を54%とする目標を掲げています。

キャッシュレス納付には、ダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード納付、スマートフォンアプリ納付、振替納税などがあります。

ただし、利用できる税目や納付金額、手数料などの条件は納付方法によって異なります。

国税庁がキャッシュレス納付を推進する理由は、単に納税者の利便性を高めるためだけではありません。

納税者が金融機関や税務署に出向く必要がなくなれば、移動時間や事務負担を削減できます。

企業にとっても、納付書の作成、押印、金融機関への持参、納付済み書類の保管といった業務を見直す機会になります。

金融機関や税務署でも、現金や紙の書類を取り扱う負担が軽減されます。

つまり、キャッシュレス納付の推進は、納税者、企業、金融機関、行政機関のすべてに関係する社会全体のデジタル改革です。

納付忘れを防ぐ自動ダイレクト

今回のインタビューで注目したいのが、ダイレクト納付の「自動ダイレクト」機能です。

自動ダイレクトは、対象となる申告手続について、e-Taxによる申告書等の送信時に所定の条件を満たして利用することで、原則として法定納期限に登録口座から自動的に納付できる仕組みです。

従来は、電子申告を行った後、別途納付手続を行う必要がありました。

申告は期限内に完了していても、納付手続を忘れてしまうことがありました。

自動ダイレクトを利用すれば、申告と納付を一連の手続として管理しやすくなります。

ただし、すべての税目や申告に利用できるわけではなく、利用条件や納付額の上限があります。また、口座残高が不足していれば納付できません。

企業の経理部門では、申告書の提出状況だけでなく、納付予定日、引落口座、必要資金、引落結果まで確認する管理体制が重要になります。

キャッシュレス化は、単なる支払方法の変更ではなく、税務管理の内部統制を見直す機会でもあります。

予納ダイレクトによる納税資金の計画的準備

もう一つ注目されるのが「予納ダイレクト」です。

予納ダイレクトは、将来納付する国税について、あらかじめ納付日や納付金額を設定し、登録口座から予納する仕組みです。

例えば、個人事業主が年間120万円程度の所得税負担を見込んでいる場合、毎月10万円ずつ納税資金を準備する方法が考えられます。

実際の予納では、対象税目や利用条件を確認する必要がありますが、納税資金を計画的に確保するという考え方は重要です。

事業が好調な時期には利益が増加していても、納税時期に十分な現預金が残っているとは限りません。

売掛金の回収遅延、設備投資、借入金返済などによって、資金繰りが悪化する場合もあります。

特に消費税は、事業者が日常的な資金繰りの中で納税資金を十分に区分管理できていないことがあります。

納税資金を事業運転資金と明確に区分し、定期的に確保することが、滞納防止の基本になります。

国税滞納残高は9,847億円に増加

国税庁の説明によると、2025年度の滞納整理中の国税は、全税目合計で9,847億円となりました。

前年度より133億円、1.4%増加しています。

背景には、徴収決定済額が過去最高となり、新規発生滞納額が整理済額を上回ったことがあります。

ここで重要なのは、滞納残高の増加を単純に納税意識の低下と結びつけないことです。

税収規模が拡大すれば、一定の割合で納付が遅れた場合でも、滞納金額は増加する可能性があります。

また、滞納には、納付忘れ、資金繰り悪化、事業不振、経営管理上の問題、意図的な納税回避など、さまざまな原因があります。

したがって、滞納対策では、発生原因に応じた対応が必要になります。

国税庁がキャッシュレス納付や納期限前後の納付指導を重視する背景には、こうした事情があります。

AIが変える滞納整理の方法

今回のインタビューで特に注目されるのが、AIを活用した徴収事務の高度化です。

国税庁は、滞納者の過去の接触履歴、申告書データ、業種などの情報を分析し、接触できる可能性が高い方法を予測するモデルを構築しています。

具体的には、電話、訪問、文書のうち、どの方法が有効と考えられるかを予測します。

さらに、電話催告について、応答する可能性が高い曜日や時間帯を予測するモデルも活用しています。

これまで担当職員の経験や判断に依存する部分が大きかった業務について、データ分析による支援が進んでいることになります。

例えば、日中に電話がつながりにくい納税者について、過去の接触履歴などから応答可能性の高い時間帯を推測できれば、催告業務の効率化につながります。

ただし、AIの予測は確率的なものであり、必ずしも正しいとは限りません。

納税者の生活状況や事業実態を十分に考慮し、最終的には職員が適切に判断することが求められます。

生成AIによる滞納事案の要約

国税庁は、生成AIを活用して滞納者ごとの整理事績を要約する取組も進めています。

滞納整理では、過去の催告履歴、納税相談の内容、財産調査の結果、分納に関する経緯など、多くの情報を確認する必要があります。

担当者が変更になった場合には、過去の記録を読み込み、事案の経緯を把握するために相当の時間を要することがあります。

生成AIによって重要事項を整理できれば、引継業務の効率化や、優先的に対応すべき事案の選定に役立ちます。

一方で、生成AIには重要事項の見落としや誤った要約を行う可能性があります。

税務行政で利用する場合には、情報の正確性、個人情報の保護、判断過程の検証可能性が欠かせません。

AIは職員の判断を支援する道具であり、納税者の権利や義務に関わる判断まで無条件に任せるべきではありません。

大口・悪質滞納への厳正な対応

国税庁は、滞納の未然防止を進める一方、大口・悪質な滞納事案には厳正に対応する方針を示しています。

財産の捜索、差押え、公売などの滞納処分を適切に実施し、財産を隠蔽して滞納処分を免れようとする悪質な事案については、滞納処分免脱罪による告発も視野に入れています。

また、必要に応じて詐害行為取消訴訟や差押債権取立訴訟などの法的手段も活用します。

ここで重視されているのは、期限内に納税している人との公平性です。

納税資金が不足している事業者と、十分な資産がありながら意図的に納税を回避する者では、対応を区別する必要があります。

資金繰りが悪化した場合には、早期に税務署へ相談し、法令上の要件を満たす場合には納税の猶予などの制度を検討することが重要です。

国外財産を利用した徴収回避への対応

国際的な徴収回避への対応も強化されています。

国税庁は、国外送金等調書やCRS(共通報告基準)による金融口座情報などを活用し、国外財産の把握を進めています。

CRSは、各国・地域の税務当局が非居住者の金融口座情報を交換するための国際的な仕組みです。

海外に金融資産を移したとしても、それだけで日本の税務当局による把握を免れられるわけではありません。

さらに、租税条約等に基づく徴収共助を利用し、外国の税務当局に徴収への協力を求めることもあります。

もっとも、徴収共助の利用には相手国との条約関係や対象税目などの条件があります。

海外資産の保有そのものは違法ではありませんが、適切な申告と納税が必要です。

企業経理部門に求められる納税管理の高度化

今回の国税庁の方針は、企業経理部門にも重要な示唆を与えています。

今後は、電子申告の実施率だけでなく、納付業務を含めた一連の税務手続を効率化することが求められます。

具体的には、納税予定表の整備、資金繰り計画との連動、納付手段の標準化、納付結果の確認、証跡の電子保存などが重要になります。

法人税、消費税、源泉所得税などは、それぞれ納付時期や管理方法が異なります。

担当者個人の経験や記憶に依存する管理では、異動や退職の際に納付漏れが発生する危険があります。

納税管理を業務フローとして標準化し、複数人で確認できる体制を整えることが必要です。

特に、電子申告とキャッシュレス納付を組み合わせることで、申告から納付までの処理状況を一元的に管理しやすくなります。

ただし、システム化によって確認作業そのものを省略するのではなく、適切な承認や照合を組み込むことが重要です。

税理士に求められる役割の変化

税理士にとっても、今回の徴収行政の変化は重要です。

従来の税務支援では、申告書の作成や税額計算が中心となることが少なくありませんでした。

しかし、納税者が実際に期限内納付を実行できるよう支援することも、税理士の重要な役割です。

特に中小企業や個人事業主では、税額が確定してから納税資金を準備するのでは遅い場合があります。

決算予測、納税見込額の試算、資金繰り計画、納付方法の選択を一体的に考える必要があります。

また、資金繰りの悪化が予想される場合には、早い段階で対応策を検討することが重要です。

税理士には、税金を計算する専門家としての役割に加え、納税資金の準備や税務リスクの予防を支援する役割が一層期待されます。

結論

国税庁が進める徴収行政のデジタル改革は、税金を効率的に徴収するためだけの取組ではありません。

キャッシュレス納付によって納税者の負担を軽減し、納付忘れを防止することが第一の目的です。

さらに、AIによるデータ分析や生成AIの活用によって、徴収業務の効率化と高度化を進めています。

一方で、大口・悪質な滞納や国外財産を利用した徴収回避には、従来以上に的確な対応が求められています。

重要なのは、納税者の利便性向上と公平な徴収行政を両立させることです。

企業や個人事業主にとっても、税務申告と納付を別々の業務として考えるのではなく、資金繰り管理まで含めた一連の仕組みとして整備することが必要です。

これからの税務行政では、滞納が発生してから対応すること以上に、滞納を発生させない仕組みを構築することが重要になります。

キャッシュレス納付とAIの普及は、行政だけでなく、企業経理や税理士業務の在り方も変えていくことになるでしょう。

参考

税のしるべ 2026年11月2日「令和8年国税庁の幹部に聞く/徴収部長・山下 和博」

国税庁「税務行政の将来像」

国税庁「キャッシュレス納付のご案内」

国税庁「令和7年度租税滞納状況」

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