税務部門にも生成AIの時代――国際最低税率への対応を効率化する方法

税理士
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多国籍企業に最低15%の法人税負担を求める「グローバル・ミニマム課税」の導入によって、日本企業の税務部門では業務の効率化が重要な経営課題となっています。

2026年9月末には、3月決算企業の一部で初めての申告期限が到来しました。

日本経済新聞によれば、複数の国で事業を展開する大企業では、申告書や関連資料がA4用紙で1万数千ページを超える事例もあるとされています。

こうした膨大な事務作業を、従来と同じ人員と業務方法で継続することには限界があります。

そこで注目されるのが、生成AIを活用した税務業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

生成AIは、資料の整理、情報の照合、税制改正の分析、申告書作成の補助など、さまざまな業務で活用できる可能性があります。

一方、税務業務には高い正確性が求められるため、生成AIの回答をそのまま利用することにはリスクがあります。

今回は、国際最低税率への対応を中心に、生成AIが税務部門の業務をどのように変えるのか、その可能性と課題を考えます。

税務部門でデジタル化が進みにくかった理由

企業の経理部門では、会計システムやERPの導入によって、仕訳入力、債権債務管理、決算処理などのデジタル化が進められてきました。

一方、税務業務では、表計算ソフトや個別の申告システムを利用した手作業が残っている企業もあります。

その理由の1つは、税制が複雑であり、企業ごとに必要な判断が異なることです。

法人税申告では、会計上の利益を出発点として、税法に基づくさまざまな調整を行います。

さらに、海外子会社を保有する企業では、外国税額控除、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制などへの対応が必要です。

これらの業務には、単純な計算だけでなく、法令の解釈や事実関係の確認が求められます。

また、税制改正が頻繁に行われるため、システムを継続的に更新する必要があります。

こうした事情から、税務業務では担当者の知識や経験に依存する部分が残りやすくなっています。

グローバル・ミニマム課税の導入は、この状況を見直す契機になると考えられます。

生成AIが得意とする税務業務の領域

生成AIは、大量の文章や資料を整理し、必要な情報を抽出する業務に活用できます。

例えば、海外子会社から提出された税務資料について、必要な項目を抽出し、一定の報告様式に整理することが考えられます。

また、各国の税制改正資料を読み込み、変更点を要約する作業にも利用できます。

税務担当者が確認すべき事項を一覧化したり、申告資料の不足項目を抽出したりすることも可能です。

さらに、過去の税務判断や社内規程を検索し、関連する情報を提示する仕組みも考えられます。

ただし、生成AIは税務上の判断を常に正確に行えるわけではありません。

存在しない法令や通達を示したり、適用年度の異なる制度を混同したりする可能性があります。

そのため、生成AIは税務担当者の判断を代替するものではなく、情報整理や確認作業を支援する道具として位置付けることが重要です。

海外子会社からの情報収集への活用

グローバル・ミニマム課税では、海外子会社から大量の財務情報や税務情報を収集する必要があります。

例えば、海外に100社の子会社を保有する企業では、それぞれの会社から必要な資料を提出してもらうことになります。

しかし、提出される資料の形式や使用言語が異なる場合、親会社での確認作業に多くの時間が必要です。

生成AIを活用すれば、資料の内容を分類し、必要な情報を抽出する作業を支援できる可能性があります。

また、提出資料に不足項目がある場合、確認すべき事項を整理することも考えられます。

例えば、法人税費用の内訳が不足している場合には、追加確認が必要な項目を提示する仕組みです。

ただし、抽出した数値が正しいかどうかは、原資料との照合が必要です。

特に、税額や所得に関する情報は申告結果に直接影響するため、生成AIによる抽出結果を無条件に採用することは適切ではありません。

生成AIによる情報整理と、従来型のシステムによる数値検証を組み合わせることが重要になります。

国際最低税率の計算業務への活用

グローバル・ミニマム課税では、制度上の対象所得や対象税額を計算し、国・地域ごとの実効税率を算定します。

この計算には、会計上の利益からの調整、繰延税金の取扱い、税額控除の確認など、専門的な処理が必要です。

生成AIは、計算に必要な資料の整理や、適用すべきルールの確認を支援できます。

例えば、税務担当者が特定の調整項目について確認したい場合、関連する法令や社内資料を検索し、検討すべき論点を整理することが考えられます。

一方、最終的な税額計算については、計算過程を再現できる仕組みが必要です。

生成AIは、同じ質問に対して異なる回答を示す場合があります。

そのため、税額計算の中心部分は、検証可能な計算ロジックを備えたシステムで処理することが望まれます。

生成AIは、その前後の情報整理や確認作業を補助する役割を担うことが現実的です。

税制改正情報の収集と分析

国際税務では、各国の税制改正に継続的に対応する必要があります。

グローバル・ミニマム課税についても、OECDによるガイダンスや各国の国内法制の変更が企業実務に影響します。

海外子会社が多数存在する企業では、各国の制度変更を把握するだけでも大きな負担になります。

生成AIを活用すれば、税制改正資料の要約や、前年度からの変更点の整理を効率化できる可能性があります。

また、特定の国に関する改正情報を抽出し、担当者へ確認を促す仕組みも考えられます。

ただし、税制改正には成立前の法案や検討段階の提案も含まれます。

生成AIがこれらを区別せずに説明すると、誤った実務判断につながる可能性があります。

そのため、施行済みの制度、成立済みで施行前の制度、検討段階の提案を明確に区分することが重要です。

さらに、情報の出典や更新日を確認できる仕組みが必要になります。

申告書作成と資料照合の効率化

グローバル・ミニマム課税では、税額計算だけでなく、申告書や関連資料の作成にも多くの時間が必要です。

生成AIは、申告書に添付する説明資料の作成補助や、計算結果に関する文章の整理などに活用できる可能性があります。

また、複数の資料に記載された会社名、所在地、会計年度などの情報について、不一致を抽出することも考えられます。

例えば、海外子会社の名称が連結決算資料と税務資料で異なっている場合、確認対象として提示する仕組みです。

こうした作業は、従来、人間が目視で確認していた部分です。

生成AIによって確認対象を絞り込むことができれば、担当者は重要な判断に時間を集中できます。

ただし、申告書の提出前には、税務担当者や責任者による最終確認が必要です。

税務申告の正確性に対する企業の責任が、生成AIの利用によって軽減されるわけではありません。

生成AIによる業務効率化の経済効果

生成AIの導入効果を考える際には、作業時間の削減を具体的に把握することが重要です。

例えば、海外子会社からの資料確認に年間5,000時間を費やしている企業を想定します。

生成AIや自動照合システムの導入によって、作業時間を30%削減できたと仮定します。

この場合、年間1,500時間の削減になります。

時間当たりの社内コストを8,000円とすると、年間1,200万円相当の業務効率化です。

ただし、これは説明のための仮定計算であり、実際の削減効果を示すものではありません。

また、削減した作業時間がそのまま人件費の減少につながるとは限りません。

担当者を別の業務へ配置することで、経営支援機能を高める効果も考えられます。

重要なのは、単純な時間削減だけでなく、申告の正確性や業務品質の向上も含めて評価することです。

税務情報の機密性とセキュリティー

生成AIを税務業務に利用する場合、情報管理は極めて重要です。

税務資料には、海外子会社の利益、税額、取引内容、組織構造など、企業の機密情報が含まれます。

これらの情報を適切な管理措置のない外部サービスに入力すると、情報漏えいなどのリスクが生じる可能性があります。

そのため、企業は生成AIの利用環境やデータの取扱いを確認する必要があります。

例えば、入力情報がモデルの学習に利用されるか、保存期間はどの程度か、アクセス権限をどのように管理するかといった点です。

また、利用者ごとに閲覧できる情報を制限し、操作履歴を記録することも重要です。

生成AIの導入では、利便性だけでなく、企業の情報セキュリティー方針との整合性を確保する必要があります。

税務担当者に求められる能力の変化

生成AIの普及によって、税務担当者に求められる能力も変化すると考えられます。

従来は、税法の知識や申告書作成能力が中心でした。

今後は、これらに加えて、データを適切に管理し、AIが提示した情報を検証する能力が重要になります。

例えば、生成AIが示した税務上の説明について、根拠となる法令や通達を確認できることが必要です。

また、AIが抽出した数値について、会計資料との整合性を判断する能力も求められます。

さらに、経理部門やIT部門と協力し、税務業務をシステム化するための知識も重要になります。

生成AIによって税務専門家が不要になるわけではありません。

むしろ、定型的な作業が効率化されることで、専門家にはより高度な判断や経営支援が求められるようになると考えられます。

税務DXを経営改革につなげる視点

税務DXの目的は、単に申告書を早く作成することではありません。

情報収集、税額計算、申告、資料保存までの業務を一体的に管理し、正確性と効率性を高めることにあります。

また、税務情報を経営判断に活用することも重要です。

例えば、国・地域別の税負担を継続的に把握できれば、海外投資や事業再編の検討に役立つ可能性があります。

さらに、税務担当者が定型作業から解放されれば、経営企画や財務部門との連携を強化する余地が生まれます。

ただし、生成AIを導入するだけで税務DXが実現するわけではありません。

業務手順の標準化、データの整備、内部統制の構築などが前提になります。

そのうえで生成AIを適切に組み合わせることが、持続的な業務改革につながります。

結論

グローバル・ミニマム課税の導入によって、企業の税務部門では膨大な情報収集や計算、申告作業が必要になっています。

こうした負担に対応するためには、従来の人手中心の業務方法を見直し、デジタル技術を活用することが重要です。

生成AIは、海外子会社からの資料整理、税制改正情報の分析、申告資料の照合などで活用できる可能性があります。

一方、税額計算の正確性、法令解釈の妥当性、機密情報の保護については、慎重な管理が必要です。

そのため、生成AIと検証可能な税務計算システムを組み合わせ、専門家が最終的な判断を行う体制が求められます。

また、税務DXを進める際には、単なる作業時間の削減だけでなく、税務情報の信頼性向上や経営判断への活用も重視する必要があります。

生成AIの役割は、税務専門家に代わって責任を負うことではなく、専門家がより重要な判断に集中できる環境を整えることです。

国際最低税率への対応を契機として、税務部門を申告業務中心の組織から、企業経営を支援する組織へ発展させることが、日本企業の競争力向上につながると考えます。

参考

日本経済新聞 2026年11月2日 朝刊

「国際最低税率、申告書1万ページ超 識者『日本企業の競争力を阻害』」

OECD「Global Anti-Base Erosion Model Rules(Pillar Two)」

OECD「GloBE Information Return」

国税庁「グローバル・ミニマム課税への対応に関する情報」

財務省「令和5年度税制改正の解説」

財務省「令和7年度税制改正の解説」

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