地方の税収が増えても財源が増えない理由――地方交付税と成長インセンティブの問題

税理士
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地方自治体が企業誘致や産業振興に成功し、税収を増やしても、自由に使える財源が同じ割合で増えるとは限りません。

その背景には、地方交付税制度による財政調整の仕組みがあります。

地方交付税は、自治体間の財政力格差を調整し、全国で一定水準の行政サービスを確保するための重要な制度です。

一方、自治体の税収が増えると普通交付税が減少する場合があり、地域経済の成長成果が自治体の財政に十分反映されないという問題が指摘されています。

東京都の小池百合子知事は、東京都を除く道府県の税収が過去15年間で44%増加した一方、地方交付税などを含む一般財源の伸び率は8%にとどまったと説明しています。

この数字は、地方自治体の税収増加と財政余力の拡大が必ずしも一致しないことを示すものです。

2027年度税制改正に向けて、税収の偏在是正だけでなく、自治体の成長努力をどのように評価するかが重要な論点となっています。

地方税収の増加と一般財源の増加は異なる

地方自治体の財政を考える際には、地方税収と一般財源を区別する必要があります。

地方税収とは、住民税、事業税、固定資産税など、地方自治体が課税する税金による収入です。

一方、一般財源とは、使い道が特定の事業に限定されず、自治体が地域の実情に応じて活用できる財源です。

地方税のほか、地方交付税、地方譲与税などが含まれます。

例えば、ある自治体の地方税収が500億円から600億円に増加したとします。

地方税収は100億円増加していますが、同時に普通交付税が減少すれば、一般財源全体の増加額は100億円より小さくなります。

自治体の財政余力を判断するには、地方税収だけでなく、地方交付税などを含む一般財源全体の動きを確認する必要があります。

さらに、一般財源が増加していても、人件費や物価の上昇によって実質的な購買力が低下する場合があります。

名目上の財源増加と、行政サービスを拡充するための実質的な財政余力は、必ずしも一致しません。

普通交付税が税収増加を調整する仕組み

普通交付税は、原則として基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いて算定されます。

基準財政需要額は、標準的な行政サービスを提供するために必要とされる財政需要です。

基準財政収入額は、標準的な地方税収などを一定の方法によって算定した金額です。

一般的な地方税については、標準的な税収の75%を基準財政収入額に算入し、残りの25%を留保財源とする仕組みがあります。

例えば、ある自治体の標準的な地方税収が100億円増加したとします。

増収分の75%が基準財政収入額に算入される場合、基準財政収入額は75億円増加します。

基準財政需要額などの条件が変わらなければ、普通交付税は原則として75億円減少します。

その結果、地方税収は100億円増加しても、普通交付税の減少を差し引いた一般財源の増加は25億円となります。

これは制度の仕組みを理解するための単純化した計算例です。

実際には、税目による算入方法の違いや財政需要の変化などがあるため、すべての自治体で同じ結果になるわけではありません。

重要なのは、地方税収の増加が、そのまま同額の一般財源増加につながる仕組みではないことです。

留保財源25%が設けられている理由

地方交付税制度には、自治体の税収増加に対する意欲を維持するため、留保財源という仕組みが設けられています。

一般的な地方税収の25%を基準財政収入額に算入しないことで、自治体が独自の政策に活用できる財源を確保する考え方です。

仮に地方税収の増加額がすべて基準財政収入額に算入されれば、普通交付税の交付団体では、税収増加による財政的な効果が大幅に相殺される可能性があります。

留保財源は、こうした問題を緩和する役割を果たしています。

ただし、留保財源の割合を引き上げれば、自治体間の財政力格差が拡大する可能性があります。

企業誘致や産業振興によって税収を増やしやすい自治体ほど、追加的な財源を確保できるためです。

一方、人口減少や産業基盤の弱体化によって税収増加が難しい自治体では、財源の確保が一層困難になる可能性があります。

留保財源の割合は、自治体の成長努力を評価する機能と、財政力格差を調整する機能のバランスを考えて設定する必要があります。

税収44%増でも一般財源は8%増にとどまる背景

東京都の小池百合子知事は、地方財政制度の課題を示す数字として、東京都を除く道府県の税収と一般財源の伸び率を挙げています。

過去15年間で、東京都を除く道府県の税収は44%増加しました。

一方、地方交付税などを含む一般財源の伸び率は8%にとどまっています。

この数字からは、地方税収が増加しても、自治体が自由に使える財源全体の伸びは限定的だったことが分かります。

ただし、この差額をすべて地方交付税制度による相殺の結果と捉えることは適切ではありません。

一般財源の動向には、地方交付税総額の変化、国の地方財政対策、地方譲与税の増減、制度改正など、さまざまな要因が影響します。

また、地方税収が増加する局面では、国税収入や景気動向も変化しているため、地方財政全体の構造を確認する必要があります。

さらに、一般財源が8%増加していても、その間に人件費や建設費、物価が上昇していれば、実質的な財政余力はさらに小さくなります。

税収の増加率だけで自治体の財政状況を評価することには限界があります。

企業誘致の成果は自治体にどれだけ残るのか

地方自治体は、企業誘致を地域経済の活性化策として重視しています。

企業が新たに立地すれば、雇用が生まれ、地域の所得や消費が増加する可能性があります。

また、法人関係税、固定資産税、個人住民税などの税収増加も期待できます。

しかし、企業誘致には自治体側の財政負担が伴う場合があります。

例えば、工業団地の整備、道路や上下水道の整備、企業立地補助金、人材育成支援などです。

企業誘致によって税収が増えても、普通交付税が減少する場合には、自治体の一般財源の純増額は税収増加額より小さくなります。

そのため、企業誘致の経済効果を評価する際には、税収増加額だけでなく、交付税への影響や関連する財政支出も考慮する必要があります。

一方、企業誘致の成果は税収だけではありません。

雇用機会の増加、若年層の定着、地域企業との取引拡大、技術移転など、長期的な経済効果も重要です。

自治体の成長戦略は、短期的な税収増加だけでなく、地域全体の持続可能性を高める視点で評価する必要があります。

不交付団体と交付団体で異なる増収効果

地方税収の増加による財政的な効果は、普通交付税の交付団体と不交付団体で異なります。

普通交付税の交付団体では、税収が増加すると基準財政収入額が増加し、普通交付税が減少する場合があります。

一方、不交付団体では、もともと普通交付税が交付されていないため、税収増加による普通交付税の減少は生じません。

そのため、同じ金額の地方税収が増加しても、一般財源に与える影響は異なります。

例えば、普通交付税の交付団体で標準的な地方税収が100億円増加し、その75%が基準財政収入額に算入される場合、普通交付税が75億円減少する可能性があります。

一方、不交付団体では、同じ100億円の税収増加が普通交付税の減少によって相殺されることはありません。

ただし、税収増加に伴う行政需要や財政支出が増える場合もあるため、増収額のすべてが自由な政策経費になるわけではありません。

この違いは、自治体間の財政力格差を考えるうえで重要です。

地方交付税制度と自治体の成長インセンティブ

経済政策では、努力や投資によって得られる成果が、その主体にどの程度還元されるかが重要になります。

企業であれば、設備投資や研究開発によって利益が増加することが、次の投資を促す要因となります。

地方自治体でも、地域産業の育成や企業誘致によって税収が増加し、その成果を新たな政策に活用できれば、成長に向けた取り組みを継続しやすくなります。

しかし、地方交付税による財政調整が強く働く場合、税収増加による財政的な効果が限定されることがあります。

この点が、地方交付税制度と成長インセンティブの問題です。

ただし、自治体の政策目的は税収の最大化だけではありません。

住民福祉の向上、生活環境の改善、教育水準の充実、防災対策なども重要です。

税収を増やしやすい自治体だけが有利になる制度では、地域間格差が拡大する可能性があります。

成長努力を評価する制度改革では、財政力の弱い自治体への配慮も欠かせません。

地方交付税の改革で考えられる方向性

今後の地方交付税制度では、財政調整機能を維持しながら、自治体の成長努力をより評価する仕組みが考えられます。

一つは、税収増加分のうち自治体に残る割合を見直すことです。

留保財源の仕組みを調整することで、企業誘致や産業振興による増収成果を地域に還元しやすくする考え方です。

ただし、留保財源を拡大すれば、税収を増やしやすい自治体とそうでない自治体の格差が広がる可能性があります。

そのため、財政力の弱い自治体への財源保障と組み合わせる必要があります。

もう一つは、地域の成長投資を支援する財政措置を充実させることです。

例えば、産業基盤の整備、人材育成、デジタル化、地域企業の生産性向上などへの投資を後押しする仕組みです。

また、税収増加だけでなく、人口定着、雇用創出、行政サービスの効率化などを評価する視点も重要です。

地域の事情に応じた成果を評価することで、人口減少地域でも成長に向けた取り組みを進めやすくなります。

家計と中小企業にとっての意味

地方自治体の財政制度は、家計や中小企業にも影響します。

自治体の財政余力が拡大すれば、子育て支援、教育、医療・福祉、公共交通、地域インフラなどの政策を充実させやすくなります。

中小企業にとっては、企業立地支援、人材育成、設備投資支援、創業支援などの施策が重要です。

一方、自治体の財政余力が不足すれば、補助制度の縮小や公共施設の統廃合などが必要になる場合があります。

ただし、財源が増加したからといって、必ずしも行政サービスが充実するとは限りません。

財源の使い方は自治体の政策判断によって異なるためです。

住民や企業経営者は、自治体の税収だけでなく、一般財源の動向、財政支出の内容、将来の行政需要などを確認することが重要です。

地域経済の成長が、住民生活や企業活動の改善につながっているかという視点が求められます。

結論

地方自治体の税収が増加しても、一般財源が同じ割合で増えるとは限りません。

その背景には、地方交付税制度による財政調整の仕組みがあります。

普通交付税の交付団体では、標準的な地方税収が増加すると基準財政収入額が増加し、普通交付税が減少する場合があります。

この仕組みは自治体間の財政力格差を調整するために必要ですが、地域経済の成長成果を自治体にどの程度残すべきかという課題もあります。

一方、地方交付税の財政調整機能を弱めすぎれば、税収の少ない自治体では必要な行政サービスを維持することが難しくなる可能性があります。

今後の制度改革では、全国で一定水準の行政サービスを保障しながら、自治体の自主的な成長努力を評価する仕組みが必要です。

また、税収増加だけでなく、地域の雇用創出、人口定着、行政サービスの効率化なども重要な成果として捉える必要があります。

地方交付税制度に求められるのは、財政力格差を調整する公平性と、自治体の成長努力を後押しする仕組みの両立です。

2027年度税制改正に向けて、単なる税収の再配分にとどまらず、地方自治体が地域の強みを生かして持続的に成長できる制度への見直しが期待されます。

参考

日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊「東京都と地方、共栄の税改革を 小池百合子都知事『地域の強み生かす』」

総務省「地方交付税制度の概要」

総務省「令和8年度普通交付税の算定結果」

総務省「地方財政の状況」

地方交付税法

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