個人向け国債は老後資金の運用先になるのか――変動10年・固定5年・固定3年の選び方

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日本の金利環境が大きく変化するなか、個人向け国債への関心が高まっています。

長期間続いた超低金利時代には、預貯金や国債だけで十分な運用収益を確保することは困難でした。

しかし、日本銀行が金融政策の正常化を進め、国債利回りが上昇したことで、円建ての安全性を重視した資産運用にも選択肢が広がっています。

2026年9月25日に3.115%まで上昇した日本の長期金利は、10月23日には一時2.755%まで低下しました。

金利は上昇するだけでなく、短期間で大きく低下することもあります。

このような環境では、金利上昇に対応できる商品と、一定の金利を固定できる商品の違いを理解することが重要です。

個人向け国債には、変動10年、固定5年、固定3年の3種類があります。

いずれも日本政府が発行する円建ての債券ですが、適用利率や満期までの期間が異なります。

老後資金の運用では、利回りの高さだけでなく、元本の安全性、換金のしやすさ、資金を使用する時期などを総合的に考える必要があります。

今回は、個人向け国債の基本的な仕組みと3種類の違いを整理し、人生100年時代の老後資金運用への活用方法を考えます。

個人向け国債の基本的な仕組み

個人向け国債は、個人投資家を対象として日本政府が発行する国債です。

銀行や証券会社などの取扱金融機関を通じて購入できます。

購入単位は1万円からで、1万円単位で購入できます。

そのため、まとまった資金がなくても利用しやすい金融商品です。

個人向け国債には、変動10年、固定5年、固定3年の3種類があります。

いずれも半年ごとに利息が支払われます。

また、最低金利として年0.05%が保証されています。

ただし、この最低金利は税引前の利率です。

受け取る利息には、原則として20.315%の税金がかかります。

個人向け国債は、日本政府が元本と利息の支払いを行う仕組みです。

ただし、国の信用力に依存する金融商品であることや、インフレによって資金の実質的な購買力が低下する可能性があることは理解しておく必要があります。

変動10年の特徴

変動10年は、満期までの期間が10年で、適用利率が半年ごとに見直される個人向け国債です。

適用利率は、基準金利に一定の係数を掛けて決定されます。

現在の制度では、基準金利に0.66を掛けた利率が適用されます。

ただし、最低金利の年0.05%を下回ることはありません。

例えば、基準金利が年3.0%であれば、適用利率は年1.98%となります。

基準金利が年2.0%へ低下すれば、適用利率は年1.32%となります。

この数値は仕組みを説明するための例です。

実際の適用利率は、各募集回の発行条件によって異なります。

変動10年の特徴は、市場金利の変化が将来の受取利息に反映されることです。

金利が上昇すれば、次回以降の適用利率が上昇する可能性があります。

一方、金利が低下すれば、受取利息も減少する可能性があります。

今後の金利上昇に備えたい人にとって、選択肢となる商品です。

固定5年の特徴

固定5年は、満期までの期間が5年で、発行時に決まった利率が原則として満期まで適用される個人向け国債です。

適用利率は、基準金利から一定の利率を差し引いて決定されます。

現在の制度では、基準金利から0.05ポイントを差し引いた利率が適用されます。

ただし、最低金利は年0.05%です。

例えば、基準金利が年2.0%であれば、適用利率は年1.95%となります。

購入後に市場金利が低下しても、契約時に決まった利率は変わりません。

そのため、将来の受取利息を見通しやすいという特徴があります。

一方、購入後に市場金利が大きく上昇した場合でも、適用利率は変わりません。

新たに発行される国債の利率が高くなっても、既に保有している固定5年の利率は原則として据え置かれます。

固定5年は、5年程度使用する予定のない資金について、一定の利息を確保したい場合に検討できる商品です。

固定3年の特徴

固定3年は、満期までの期間が3年で、発行時に決まった利率が原則として満期まで適用される個人向け国債です。

適用利率は、基準金利から一定の利率を差し引いて決定されます。

現在の制度では、基準金利から0.03ポイントを差し引いた利率が適用されます。

ただし、最低金利は年0.05%です。

例えば、基準金利が年1.5%であれば、適用利率は年1.47%となります。

固定3年は、変動10年や固定5年と比べて満期までの期間が短いことが特徴です。

3年後に資金を使用する予定がある場合などには、満期までの期間が資金計画に合いやすくなります。

一方、固定3年も固定5年と同様に、購入後の金利上昇によって受取利息が増えることはありません。

そのため、今後の金利上昇を強く予想する場合には、変動10年などとの比較が必要です。

3種類の個人向け国債の比較

個人向け国債の特徴を整理すると、次のようになります。

項目変動10年固定5年固定3年
満期10年5年3年
金利タイプ変動金利固定金利固定金利
利率の見直し半年ごとなしなし
利息の支払い半年ごと半年ごと半年ごと
購入単位1万円1万円1万円
最低金利年0.05%年0.05%年0.05%
中途換金原則1年経過後原則1年経過後原則1年経過後

変動10年は、今後の金利上昇に対応しやすい特徴があります。

固定5年は、5年間の受取利息を確定できることが特徴です。

固定3年は、比較的短い期間で満期を迎えるため、資金の使用時期が近い場合に検討しやすい商品です。

ただし、どの商品が最も有利になるかは、購入時の適用利率と、その後の金利動向によって異なります。

個人向け国債の中途換金制度

個人向け国債は、原則として発行から1年が経過すれば中途換金できます。

中途換金する場合、額面金額に経過利子相当額を加えた金額から、中途換金調整額が差し引かれます。

中途換金調整額は、原則として直前2回分の各利子相当額に0.79685を掛けた金額です。

これは、税引後の直前2回分の利息に相当する金額を差し引く仕組みです。

例えば、100万円の個人向け国債を保有し、直前2回の税引前利息の合計が2万円だった場合、中途換金調整額は約1万5,937円となります。

ただし、実際の金額は利率や経過利子などによって異なります。

また、発行から1年以内でも、保有者が亡くなった場合や災害救助法の適用対象となる大規模災害に遭った場合などには、特例的に中途換金できる制度があります。

中途換金制度があることは、老後資金の運用において重要な特徴です。

ただし、購入後すぐに自由に換金できる普通預金とは異なります。

生活費や緊急支出に備える資金については、預貯金などで確保しておく必要があります。

個人向け国債と定期預金の違い

個人向け国債と定期預金は、どちらも円建てで比較的安全性を重視した資金運用に利用されます。

ただし、仕組みは異なります。

定期預金は、銀行などの金融機関に資金を預ける商品です。

預金保険制度の対象となる一般預金等については、1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息などが保護されます。

一方、個人向け国債は日本政府が発行する債券です。

預金保険制度の対象ではありませんが、国が元本と利息の支払いを行います。

また、定期預金では満期前に解約した場合、当初の約定金利より低い中途解約利率が適用されることがあります。

個人向け国債では、原則として発行から1年経過後に所定の調整額を差し引いて中途換金できます。

金利面では、金融機関や募集時期によって有利な商品が異なります。

そのため、個人向け国債と定期預金を比較する際には、税引後利回り、満期、中途換金条件などを確認する必要があります。

1,000万円を運用した場合の受取利息

個人向け国債で1,000万円を運用する場合を考えます。

仮に適用利率が年2.0%であれば、年間の税引前利息は20万円です。

税率20.315%を考慮すると、税引後の年間利息は概算で約15万9,000円となります。

適用利率が年1.5%の場合、税引前利息は年間15万円です。

税引後では概算で約12万円となります。

適用利率が年1.0%の場合、税引前利息は年間10万円です。

税引後では概算で約8万円となります。

ただし、変動10年では半年ごとに利率が見直されるため、年間の受取利息が一定とは限りません。

また、実際の利息計算では半年ごとの支払額や端数処理などが関係します。

この試算から分かるのは、金利が上昇すれば、円建ての安全性を重視した資産からも一定の利息収入を得やすくなるということです。

ただし、1,000万円を運用しても、利息だけで老後生活費の大部分を賄うことは難しい場合があります。

個人向け国債は、老後資金全体の一部として位置づけることが重要です。

インフレによる実質的な資産価値の低下

個人向け国債の安全性を考える際には、インフレにも注意が必要です。

例えば、個人向け国債の税引前利回りが年2.0%で、物価上昇率が年3.0%だったとします。

この場合、税金を考慮する前でも、資産の実質的な購買力は低下します。

税引後の利回りはさらに低くなるため、実質的な資産価値の減少幅は大きくなります。

個人向け国債は、円建ての元本を確保することを重視した商品です。

しかし、将来の物価上昇に対して購買力まで保証するものではありません。

人生100年時代には、老後生活が20年、30年と続く可能性があります。

その間に物価が上昇すれば、同じ金額の預貯金や国債でも購入できる商品やサービスが減少します。

老後資金では、名目上の元本の安全性と、実質的な購買力の維持を分けて考える必要があります。

老後資金を使用時期で分ける考え方

個人向け国債を活用する際には、資金を使用する時期によって分けて考える方法が有効です。

例えば、退職後の生活費を3つに区分します。

第1は、日常生活費や緊急支出に備える資金です。

この資金は、普通預金など換金性の高い金融商品で確保することが基本となります。

第2は、数年以内に使用する予定の資金です。

住宅修繕費、車の買替費用、旅行費用など、使用時期がある程度決まっている資金が該当します。

このような資金については、定期預金や固定3年、固定5年などが選択肢になります。

第3は、10年以上使用する予定のない資金です。

この資金については、変動10年の個人向け国債に加え、株式や投資信託などを組み合わせることも考えられます。

ただし、株式や投資信託には価格変動リスクがあります。

資金の使用時期とリスク許容度を踏まえて、適切な資産配分を検討する必要があります。

退職金の運用で注意したいこと

退職金は、老後生活を支える重要な資金です。

まとまった退職金を受け取ると、高い利回りの商品に投資したくなる場合があります。

しかし、退職金の運用では、利回りの高さよりも、生活資金を確保することが優先されます。

例えば、退職金2,000万円を受け取った場合、全額を1種類の金融商品に投資することが適切とは限りません。

当面の生活費、住宅修繕費、医療・介護費用などを考慮し、必要な資金を分けて管理することが重要です。

個人向け国債は、こうした資金のうち、一定期間使用する予定のない円建て資金の運用先として検討できます。

また、変動10年、固定5年、固定3年を組み合わせることで、満期や金利タイプを分散する方法もあります。

ただし、分散したからといって、すべてのリスクがなくなるわけではありません。

円建て資産に集中することによるインフレリスクなども考慮する必要があります。

結論

個人向け国債は、人生100年時代の老後資金運用において、有力な選択肢の一つです。

変動10年は、金利上昇に対応しやすい特徴があります。

固定5年は、5年間の受取利息を確定できることが特徴です。

固定3年は、比較的短い期間で満期を迎えるため、資金の使用時期が近い場合に検討しやすい商品です。

いずれも1万円から購入でき、原則として発行から1年経過後に中途換金できる仕組みがあります。

ただし、個人向け国債はインフレによる購買力の低下まで防げる商品ではありません。

また、変動10年では金利低下によって受取利息が減少する可能性があり、固定5年や固定3年では購入後の金利上昇による恩恵を受けられません。

重要なのは、どの商品が最も高い利回りになるかを予測することではありません。

老後資金を使用する時期や目的に合わせて、適切な金融商品を選ぶことです。

人生100年時代には、預貯金、個人向け国債、株式、投資信託などを組み合わせ、安全性、収益性、流動性のバランスを考える必要があります。

個人向け国債は、老後資金を大きく増やすための商品というよりも、円建ての資金を安定的に管理するための商品として活用することが重要です。

参考

日本経済新聞 2026/10/28 朝刊「『質への逃避』、日本の長期金利2.8%割れ ドイツ国債にも資金流入」

財務省「個人向け国債の商品概要」

財務省「個人向け国債の中途換金制度」

預金保険機構「預金保険制度の概要」

国税庁「利子所得の課税関係」

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