厚生年金の週20時間の壁は本当に必要なのか 適用拡大編

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パートやアルバイトとして働く人にとって、「年収の壁」と並んで意識されているのが「週20時間の壁」です。

現在の厚生年金と健康保険では、一定の条件を満たした短時間労働者も加入対象となっていますが、その中心となる基準が「週20時間以上働くこと」です。

一方で、働き方の多様化が進み、副業や兼業、スポットワークが広がる中で、この基準は現代に合わなくなっているという指摘もあります。

果たして週20時間という基準は本当に必要なのでしょうか。今回は厚生年金の適用拡大を巡る議論について考えてみます。

週20時間基準はどのように生まれたのか

厚生年金は本来、正社員などフルタイム労働者を対象とする制度としてスタートしました。

しかし、パートタイム労働者の増加を受けて、社会保険の適用範囲を広げる必要性が高まりました。

そこで参考にされたのが雇用保険制度です。

雇用保険では週20時間以上勤務する労働者を対象としていたため、厚生年金や健康保険でも同じ基準を採用することで制度を分かりやすくしました。

つまり週20時間という数字に特別な意味があるというよりも、制度運営上の目安として設定された側面が強いのです。

働き方は大きく変わった

週20時間基準が導入された当時と現在では、労働環境が大きく異なります。

近年は副業や兼業が広がり、一つの会社だけで働く人ばかりではありません。

例えば、

・A社で週15時間勤務
・B社で週15時間勤務

という働き方も珍しくありません。

合計では週30時間働いていても、それぞれの事業所では20時間未満であるため厚生年金には加入できません。

実際には被用者として働いているにもかかわらず、制度上は国民年金のままというケースが発生しています。

このような状況を見ると、現在の制度が実態に追いついていないことが分かります。

適用拡大のメリット

週20時間要件を緩和した場合、働く人には大きなメリットがあります。

まず将来受け取る年金額が増えます。

厚生年金は保険料を支払った期間や給与額に応じて年金額が上乗せされます。

さらに健康保険の保障も充実します。

傷病手当金や出産手当金など、国民健康保険にはない制度を利用できるためです。

特に人生100年時代においては、長く働きながら老後資金を形成していく重要性が高まっています。

その意味では、社会保険の適用拡大は老後保障の強化につながる政策といえます。

企業側が慎重になる理由

一方で企業側には大きな負担があります。

厚生年金保険料は労使折半です。

従業員が加入すれば企業も同額の保険料を負担しなければなりません。

特にパート従業員が多い業種では影響が大きくなります。

小売業や飲食業、介護業界などでは、人件費の増加が経営を圧迫する可能性があります。

そのため企業の中には、

「保険料負担を避けるため勤務時間を20時間未満に抑える」

という行動を取るケースもあります。

制度が働き方そのものを歪めているとの指摘があるのもこのためです。

人手不足が企業の意識を変え始めた

しかし近年は状況が変化しています。

少子高齢化による人手不足が深刻化し、多くの企業が人材確保に苦労しています。

以前は社会保険負担を避けるため短時間勤務を希望する企業もありましたが、現在は

「保険料を負担してでも働いてほしい」

と考える企業が増えています。

人材不足によって受注を断ったり、営業時間を短縮したりする企業も少なくありません。

人手確保が最優先課題となる中で、社会保険適用拡大への抵抗感は徐々に薄れつつあります。

国民年金との公平性という課題

適用拡大には慎重論もあります。

最大の論点は国民年金との公平性です。

自営業者やフリーランスは国民年金保険料を全額自己負担しています。

一方で短時間労働者が厚生年金に加入すると、保険料の半分は企業が負担します。

しかも将来は基礎年金に加えて厚生年金も受け取ることができます。

そのため、

「同じような保険料負担ではないのに受給額に差が生じる」

という不公平感を指摘する声もあります。

適用拡大を進める場合には、国民年金制度との関係も含めて議論する必要があります。

本当に必要なのは時間基準なのか

今後の議論では、「週何時間働いたか」ではなく、「どれだけ収入を得たか」や「どれだけ労働市場に参加しているか」を基準にする考え方も出てくるかもしれません。

実際にデジタル化が進めば、複数の勤務先の収入や労働時間を合算して管理することも技術的には可能になります。

働き方が多様化する時代において、一つの会社だけを前提とした制度設計は限界を迎えつつあります。

週20時間という基準も将来的には見直しの対象となる可能性があるでしょう。

結論

厚生年金の週20時間の壁は、制度導入当時には合理的な基準でした。

しかし、副業や兼業が広がり、働き方が多様化した現在では、必ずしも実態に合った基準とは言えなくなっています。

適用拡大は老後保障の充実や社会保障の安定につながる一方で、企業負担や国民年金との公平性という課題も抱えています。

重要なのは、単純に20時間を10時間にすることではありません。

人生100年時代にふさわしい社会保障制度とは何かを考え、働き方の変化に合わせて制度全体を再設計していくことが求められているのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年6月5日朝刊
「厚生年金に『週20時間の壁』 加入要件見直し進まず 社保負担増に企業身構え」

厚生労働省 社会保障審議会年金部会資料

厚生労働省 被用者保険の適用拡大に関する資料

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