高齢化が進む日本で、介護保険制度の重要な手続きである要介護認定の見直しが検討されています。
厚生労働省は、要介護認定の更新手続きを迅速化するため、審査を簡素化できる対象者の範囲を広げる方針です。
現在は、前回の認定有効期間が12カ月以上であることなどが簡素化の条件となっていますが、これを6カ月以上に短縮する案が浮上しています。
見直しが実現すれば、初回認定の有効期間が6カ月だった高齢者についても、最初の更新から簡素化の対象となる可能性があります。
背景には、要介護認定の審査が長期化している問題があります。
2024年度に申請された要介護認定のうち、法定期間である30日以内に認定された割合は22.8%にとどまりました。
介護が必要な高齢者や家族にとって、認定の遅れは生活に直結する問題です。
今回は、要介護認定の仕組みと今回の見直しの内容、制度改革が高齢者や家族に与える影響について解説します。
要介護認定は介護保険サービスを利用するための重要な手続き
介護保険制度は、2000年4月に始まりました。
高齢者の介護を家族だけで抱え込むのではなく、社会全体で支えることを目的としています。
原則として65歳以上の高齢者は、介護が必要な状態になった場合、市町村による要介護認定または要支援認定を受けることで、介護保険サービスを利用できます。
40歳以上65歳未満の人についても、特定疾病が原因で介護が必要になった場合には、介護保険の対象となります。
要介護認定は、要支援1から要支援2、要介護1から要介護5までの7段階に区分されています。
要介護度が高くなるほど、一般的には必要な介護の程度が大きくなります。
また、要介護度によって、在宅サービスを利用する場合の区分支給限度基準額などが異なります。
そのため、要介護認定は単なる行政上の手続きではありません。
高齢者がどのような介護サービスを、どの程度利用できるのかを左右する重要な判断となります。
要介護認定はどのように決まるのか
要介護認定では、まず市町村の認定調査員が本人の心身状態や日常生活の状況を調べます。
調査項目には、身体機能、生活機能、認知機能、精神や行動の障害、社会生活への適応などがあります。
調査結果をコンピューターで分析し、介護に必要とされる時間などを推計して、1次判定を行います。
その後、医療や保健、福祉の専門家で構成する介護認定審査会が2次判定を行います。
2次判定では、1次判定の結果に加えて、認定調査の特記事項や主治医意見書などを参考にします。
こうした手続きを経て、市町村が最終的な要介護度を認定します。
この仕組みは、全国で一定の公平性を確保するために設けられています。
一方で、認定調査、主治医意見書の作成、審査会の開催など、多くの関係者が参加するため、一定の時間が必要になります。
高齢者人口の増加によって申請件数が増えるなか、審査の迅速化が大きな課題となっています。
30日以内に認定された割合は22.8%にとどまる
介護保険法では、要介護認定の申請から原則30日以内に認定結果を通知することが定められています。
しかし、2024年度の実績では、30日以内に認定された申請は全体の22.8%でした。
裏を返せば、77.2%の申請が30日を超えていたことになります。
例えば、高齢の親が転倒して骨折し、退院後に自宅で介護サービスを利用する必要が生じた場合を考えてみます。
家族は退院に合わせて訪問介護や通所介護などを準備する必要があります。
ところが、要介護認定の結果がなかなか出なければ、どの程度のサービスを利用できるのか判断しにくくなります。
認定結果が出る前でも、暫定ケアプランによって介護サービスを利用できる場合があります。
ただし、最終的な認定結果によっては、想定していた介護保険給付を受けられず、自己負担が増える可能性もあります。
認定手続きの長期化は、本人や家族の不安につながるだけでなく、介護サービスの利用計画にも影響を及ぼします。
審査簡素化の対象を12カ月以上から6カ月以上へ
今回の見直しで最も注目されるのは、介護認定審査会における審査の簡素化です。
現行制度では、一定の条件を満たす更新申請について、審査会の判定手続きを簡素化できます。
主な条件には、65歳以上の第1号被保険者であること、更新申請であること、1次判定の要介護度が前回認定と一致していることなどがあります。
さらに、前回の認定有効期間が12カ月以上であることも条件の一つです。
厚生労働省は、この有効期間に関する条件を6カ月以上に短縮することを検討しています。
例えば、初めて要介護2と認定された高齢者の有効期間が6カ月だったとします。
6カ月後の更新申請でも、1次判定が要介護2となり、心身状態が安定しているなど他の条件を満たせば、簡素化の対象となる可能性があります。
従来は有効期間が12カ月未満という理由で対象外だった人にも、簡素な審査を利用できる道が開かれます。
ただし、今回の見直しは、認定そのものを自動更新する制度ではありません。
認定調査や必要な確認を省略するという意味でもありません。
あくまで、一定の条件を満たす場合に審査会の判定手続きを簡素化する仕組みです。
現行制度でも簡素化できる人は少なくない
今回の制度改革を考えるうえで、見逃せない数字があります。
2024年度に申請した高齢者のうち、32.7%は現行制度でも審査を簡素化できる条件を満たしていました。
しかし、実際に簡素化されたのは全体の17.9%でした。
簡素化の対象となり得る申請のうち、実際に簡素化された割合は約55%にとどまります。
つまり、制度上は簡素化できるにもかかわらず、通常の審査が行われているケースが相当数あるということです。
この背景には、自治体ごとの運用方針や審査体制の違いなどが考えられます。
厚生労働省は、簡素化の条件を満たす申請のうち、実際に簡素化した割合を自治体ごとに公表することも検討しています。
自治体間の違いを明らかにすることで、制度の積極的な活用を促す狙いがあります。
ただし、簡素化率だけで自治体の優劣を判断することは適切ではありません。
高齢者の心身状態を正確に把握し、公平な認定を行うことが大前提だからです。
審査が早くなることで家族の負担も軽減
要介護認定の迅速化は、高齢者本人だけでなく、家族にとっても大きな意味があります。
特に働きながら親の介護を担う人にとって、介護サービスの利用計画を早期に確定できることは重要です。
例えば、要介護認定の更新結果が早く分かれば、担当ケアマネジャーと相談しながら、必要な訪問介護や通所介護の利用計画を立てやすくなります。
また、認定結果を待つ間の不安を軽減できる可能性もあります。
ただし、審査の簡素化によって、すべての申請が短期間で処理されるわけではありません。
認定調査や主治医意見書の作成など、審査会以外の工程に時間がかかる場合もあります。
したがって、認定手続き全体の迅速化には、審査会の簡素化だけでなく、各工程の効率化も必要になります。
審査簡素化と認定の公平性をどう両立するか
制度改革で重要なのは、手続きを早くすることと、適切な認定を行うことの両立です。
例えば、認知症の高齢者では、身体機能が比較的保たれていても、日常生活で継続的な見守りが必要になる場合があります。
1次判定の結果が前回と同じであっても、実際の介護負担が変化している可能性はあります。
そのため、心身状態の変化を見落とさない仕組みが必要です。
また、本人や家族が認定結果に疑問を感じた場合には、相談や不服申立てなどの制度を適切に利用できることも重要になります。
審査の簡素化は、行政の負担を軽くするためだけのものではありません。
必要な人に必要な介護サービスを迅速かつ公平に届けるための手段であるべきです。
自治体の業務効率化が介護保険制度の持続可能性を支える
要介護認定の迅速化には、自治体の事務負担を軽減するという側面もあります。
高齢化が進むなか、認定申請の増加に対応するためには、限られた人員を効率的に活用する必要があります。
審査会の簡素化によって事務負担が減れば、状態が大きく変化した高齢者や、判断が難しい申請に、より多くの時間を充てられる可能性があります。
さらに、認定調査や主治医意見書のデジタル化、審査会のオンライン化などを組み合わせることで、手続き全体の効率化が期待できます。
将来的には、AIを活用した認定事務の支援も検討課題となります。
ただし、AIによる判定支援を導入する場合にも、判断の根拠を説明できることや、個人情報を適切に保護することが欠かせません。
行政の効率化と利用者の権利保護を両立させることが重要です。
今後の制度改正で注目したいポイント
厚生労働省は、2026年10月26日の社会保障審議会介護保険部会で、要介護認定の見直し案を示す予定です。
今後の議論では、簡素化対象の拡大に加え、実際にどの程度の審査期間短縮につながるのかが注目されます。
また、自治体ごとの簡素化実施率や審査期間を公表する場合、その結果をどのように制度改善へ結び付けるかも重要になります。
さらに、がんなどで急激に状態が悪化する人への迅速な認定や、認知症の介護負担を適切に反映する判定方法についても検討が進められます。
これらの課題は、いずれも介護保険制度の利用者にとって重要な問題です。
今回の見直しが単なる事務手続きの変更にとどまらず、介護サービスの利用環境全体を改善する契機となることが期待されます。
結論
要介護認定の更新手続きを迅速化するため、厚生労働省は審査簡素化の対象を拡大する方向で検討しています。
前回の認定有効期間が12カ月以上という条件を6カ月以上に短縮することで、初回更新から簡素な審査を利用できる高齢者が増える可能性があります。
2024年度には、30日以内に認定された申請が22.8%にとどまっており、認定手続きの迅速化は重要な課題です。
一方で、審査の簡素化によって高齢者の状態変化を見落とすことがあってはなりません。
行政の効率化と認定の公平性を両立させることが、今回の制度改革の成否を左右します。
人生100年時代において、介護保険制度は高齢者本人だけでなく、その家族の生活を支える重要な社会基盤です。
必要なときに必要な介護サービスを安心して利用できる制度を実現するため、今後の議論を注視していく必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年10月23日 朝刊 要介護認定の更新を迅速に 簡素な審査の対象者を拡大へ、厚労省検討
厚生労働省 2026年10月26日開催予定 第137回社会保障審議会介護保険部会 開催案内
厚生労働省 要介護認定の見直しに関する資料
内閣府 2025年4月28日 要介護認定事務の改善