日本の家計は長い間、金融資産の半分以上を現金や預金で保有してきました。
ところが、その構造が変わり始めています。
家計金融資産に占める現預金の割合は2025年6月に18年ぶりに50パーセントを下回り、2026年6月末には45パーセントまで低下しました。
一方で、株式や投資信託の残高は大きく増えています。
これは、日本の家計が一斉に預金を取り崩して株式を買っているという単純な話ではありません。
株高や円安によって投資資産の評価額が膨らんでいることに加えて、新NISAなどを通じて実際に新しい資金も投資へ向かっています。
現預金比率50パーセント割れは、日本の家計のお金の置き場所が変わる節目として見ることができます。
現預金比率とは何か
現預金比率とは、家計が保有する金融資産のうち、現金や預金がどれくらいを占めているかを示す割合です。
例えば金融資産を1000万円持っていて、そのうち500万円が現預金なら現預金比率は50パーセントです。
残りの500万円が株式、投資信託、保険、年金、債券などになります。
2026年6月末の日本の家計金融資産は2519兆円でした。
このうち現預金は1131兆円で、全体の45パーセントを占めています。
依然として最大の金融資産ですが、過半数ではなくなっています。
50パーセントを下回る意味
50パーセントという数字そのものに、金融上の特別な基準があるわけではありません。
49パーセントになった瞬間に家計の性質が突然変わるわけでもありません。
重要なのは長期的な方向です。
これまで家計金融資産の過半を占める状態が長く続いていた現預金の割合が低下し、株式や投資信託などの比重が高まっています。
その意味で50パーセント割れは、日本の家計の資産構成が変化していることを分かりやすく示す節目と考えることができます。
預金が大量に減ったわけではない
ここで注意したいのが、現預金比率の低下と現預金残高の減少は同じではないことです。
2026年6月末の現預金残高は1131兆円で、前年同期比0.5パーセント増えています。
つまり、現預金そのものは増えています。
それにもかかわらず、全体に占める割合は45パーセントまで低下しました。
理由は、他の金融資産がそれ以上のペースで増えているからです。
家計金融資産全体は前年同期比11.0パーセント増え、株式と投資信託は44パーセント増加しました。
分母となる金融資産全体が大きく膨らめば、現預金残高が増えていても比率は下がります。
株高が資産構成を変える
株式や投資信託は時価で価値が変化します。
例えば500万円の預金と500万円の株式を持っている家計を考えます。
金融資産は合計1000万円で、現預金比率は50パーセントです。
その後、預金は500万円のまま、株式だけが750万円まで値上がりしたとします。
金融資産は1250万円になります。
現預金比率は40パーセントです。
預金を1円も投資へ移していないのに、現預金比率は50パーセントから40パーセントへ低下します。
現在の日本でも、株高がこうした構成比の変化を大きく押し進めています。
実際の資金移動も起きている
もっとも、今回の変化を株高だけで説明することもできません。
2026年4月から6月期には、株式と投資信託へ3.7兆円の純流入がありました。
投資信託だけでは3.9兆円です。
価格変動とは別に、家計から実際の資金が投資商品へ向かっています。
新NISAを利用して、預金口座などから毎月一定額を投資信託へ移す家計も増えています。
評価額の変化と実際の資金移動が同時に起きていることが、現在の特徴です。
貯蓄から投資とは預金をゼロにすることではない
貯蓄から投資という言葉は、預金をやめて株式を買うことのように聞こえることがあります。
しかし、家計管理では現預金にも重要な役割があります。
日常生活に必要なお金があります。
病気や失業、家電の故障など突然の支出に備えるお金も必要です。
数年以内に使うことが決まっている教育費や住宅購入資金などを、値動きの大きな金融商品だけで保有することにもリスクがあります。
したがって、資産運用が広がっても現預金が不要になるわけではありません。
お金を目的別に分ける考え方が重要になる
資産運用が広がるほど重要になるのが、お金を目的別に考えることです。
近いうちに使うお金は、流動性の高い現預金で保有する必要があります。
一方、10年や20年といった長期間使う予定のないお金については、株式や投資信託などを利用して運用する選択肢があります。
万一の死亡や病気など、自分の金融資産だけでは対応することが難しいリスクには保険を利用する方法があります。
つまり、すべてのお金を同じ金融商品へ置くのではなく、目的によって置き場所を分ける考え方です。
家計金融資産の値動きも大きくなる
株式や投資信託の割合が増えると、家計金融資産全体の特徴も変わります。
現預金は市場価格による変動がほとんどありません。
一方、株式や投資信託は価格が毎日変わります。
株高になれば家計金融資産が大きく増えますが、株価が下落すれば逆に大きく減る可能性があります。
家計金融資産全体に占めるリスク性資産の割合が高まれば、日本の家計金融資産総額も以前より市場価格の影響を受けやすくなります。
これは資産運用が広がることによって生じる重要な変化です。
家計によって適切な比率は違う
日本全体の現預金比率が45パーセントだからといって、個人の家計も45パーセントにする必要はありません。
必要な現預金額は家計によって大きく異なります。
収入が安定している会社員と、収入の変動が大きい自営業者では違います。
子どもの教育費を数年後に控えている家庭と、長期間使う予定のない資金を持つ家庭でも違います。
住宅ローンなどの負債の有無も関係します。
日本全体の統計は家計金融資産の大きな流れを見るためのものであり、個人の理想的な資産配分を示す数字ではありません。
結論
家計金融資産に占める現預金の割合は2025年6月に18年ぶりに50パーセントを下回り、2026年6月末には45パーセントまで低下しました。
これは、日本の家計が長く続けてきた現預金中心の資産構成が変わり始めていることを示しています。
ただし、預金そのものが急速に減っているわけではありません。
現預金残高は1131兆円あり、前年同期比でも0.5パーセント増えています。
その一方で、株高や円安によって株式や投資信託の評価額が大きく増え、新NISAなどを通じた実際の資金流入も続いています。
その結果として、現預金の相対的な割合が低下しています。
貯蓄から資産運用への変化とは、預金をなくしてすべてを投資することではありません。
生活に必要なお金は現預金で確保し、長期間使わないお金は運用し、大きなリスクには保険を利用する。
家計のお金を目的によって分けることが、資産構成が変わる時代にはこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 朝刊 家計、株式・投信へシフト