東京都心と大阪市中心部で、中古マンション価格の上昇に変化が生じています。これまで新築マンションの供給価格上昇や投資資金の流入を背景に高騰を続けてきましたが、2026年9月には東京と大阪の中心部で希望売り出し価格がそろって下落しました。
特に注目されるのは、価格下落だけでなく、売り物件の増加や値下げ物件の割合の上昇が同時に進んでいることです。
背景には、住宅ローン金利の上昇、投資目的の購入需要の減少、短期転売規制を巡る政策議論などがあります。
不動産市場は、売り手が強気の価格を設定できた局面から、買い手が価格や物件の条件を慎重に見極める局面へ移行し始めている可能性があります。
今回は、東京と大阪の中古マンション市場の変化を整理し、住宅購入者、不動産所有者、投資家への影響と今後の見通しを考えます。
東京都心の中古マンション価格は5カ月連続で下落
不動産調査会社の東京カンテイが発表した2026年9月の中古マンション価格によると、東京都心6区の平均希望売り出し価格は、70平方メートル換算で1億7,786万円となりました。
前月比1.6%の下落で、5カ月連続の値下がりです。
東京都心6区とは、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区を指します。
これらの地域は国内でも不動産価格が高く、富裕層や投資家の購入需要が集中してきました。
しかし、平均価格は1億8,000万円台から1億7,000万円台へ下がり、前年同月比の上昇率も1.3%まで縮小しています。
重要なのは、単月の価格下落ではなく、上昇率の鈍化と連続下落が同時に起きていることです。
これまでのように、購入すれば将来さらに値上がりするという期待が弱まりつつあります。
大阪市中心部でも3カ月連続の価格下落
大阪市中心部でも同様の動きが見られます。
大阪市中心6区の2026年9月の中古マンション平均希望売り出し価格は、70平方メートル換算で9,327万円となりました。
前月比1.5%の下落で、3カ月連続の値下がりです。
対象となるのは、福島区、西区、天王寺区、浪速区、北区、中央区です。
大阪市中心6区の価格は、2024年1月の5,335万円から2026年6月には9,503万円まで上昇しました。
約2年半で78%程度上昇した計算です。
梅田や中之島の再開発、新築タワーマンションの供給、投資需要の拡大などが価格上昇を支えてきました。
しかし、価格が高くなりすぎたことで、購入できる層が限られるようになっています。
東京に続いて大阪でも価格上昇が一服したことは、不動産市場全体の転換を考えるうえで重要です。
売り物件の増加が示す需給関係の変化
今回の調査で特に注目したいのは、売り物件の増加です。
東京都心6区では、流通戸数が前月比9.1%増の5,915戸となりました。
前年同月比では55.7%の増加です。
大阪市中心6区でも、流通戸数は前月比6.2%増の2,340戸となり、確認できる統計期間で最多となりました。
不動産価格は、基本的に売り手と買い手の需給関係によって決まります。
購入希望者が多く、売り物件が少なければ、価格は上昇しやすくなります。
反対に、購入希望者が減少し、売り物件が増加すれば、売り手は価格を引き下げなければ売却できなくなる可能性があります。
今回の東京と大阪の動きは、こうした需給関係の変化を示唆しています。
ただし、流通戸数の増加には、売却に時間がかかる物件の蓄積だけでなく、高値のうちに売却したい所有者による新規売り出しも含まれます。
そのため、流通戸数の増加だけで市場全体の急落を判断することはできません。
値下げ物件の増加が市場の転換を示す
売り物件の増加とともに、値下げする物件も増えています。
東京都心6区では、直近3カ月以内に値下げした物件の割合が54.2%に達しました。
平均値下げ率は6.8%です。
仮に1億8,000万円の物件を6.8%値下げすると、値下げ額は1,224万円になります。
大阪市中心6区でも、直近3カ月以内に値下げした物件の割合は43.9%となりました。
前年同月から15.2ポイント上昇し、確認できる統計期間で最高の水準です。
これまで売り手は、周辺物件の価格上昇を参考に、強気の希望価格を設定できました。
しかし、購入希望者が減少すれば、売却期間が長期化します。
その結果、売却を急ぐ所有者から価格を引き下げる動きが広がります。
もっとも、これらは希望売り出し価格の変更に関する統計です。
実際の成約価格や市場全体の資産価値が同じ割合で下落したことを意味するわけではありません。
住宅ローン金利の上昇が購入可能額を押し下げる
中古マンション市場の変化を考えるうえで、住宅ローン金利の上昇は避けて通れません。
住宅購入では、物件価格だけでなく、借入金利が毎月の返済額を左右します。
例えば、8,000万円を35年間の元利均等返済で借り入れる場合を考えます。
ボーナス返済なし、金利が返済期間中変わらないと仮定すると、金利1.0%では毎月の返済額は約22.6万円です。
金利2.0%では約26.5万円になります。
金利が1ポイント上昇するだけで、毎月約3.9万円、年間約47万円の負担増加です。
35年間では、返済総額に約1,600万円の差が生じます。
実際の変動金利型住宅ローンでは、返済額の見直し方法や金利変動の時期などによって影響が異なります。
それでも、金利上昇が住宅購入者の資金計画に与える影響は大きいといえます。
住宅価格が高騰した状況では、わずかな金利上昇でも購入可能額が減少します。
結果として、従来の価格では購入できない世帯が増え、不動産価格の上昇を抑える方向に働きます。
投資目的の購入需要が減少する理由
これまで東京都心や大阪市中心部のタワーマンションでは、居住目的だけでなく、値上がり益を期待する投資目的の購入も活発でした。
投資家にとって重要なのは、購入価格と将来の売却価格との差額です。
例えば、1億円で購入したマンションが数年後に1億3,000万円になれば、売却費用や税金などを考慮する前の値上がり益は3,000万円です。
しかし、価格上昇が止まり、売却価格が購入価格を下回れば、損失が発生する可能性があります。
さらに、借入金利が上昇すれば、投資期間中の資金調達コストも増加します。
つまり、価格上昇期待の低下と金利負担の増加が同時に起きることで、投資採算は悪化します。
大阪では、金融機関が短期売買を目的とした融資審査を厳格化したことによる影響も指摘されています。
投資目的の購入が減少すると、これまで投資需要に支えられてきた高額物件ほど価格調整の影響を受けやすくなります。
短期転売規制の議論が不動産市場に与える影響
不動産市場では、政府や与党による短期転売規制の議論も注目されています。
2026年10月21日、自民党は大都市圏のマンション価格高騰を抑制する政策の検討を始めました。
短期転売への規制強化や税制面での対応が議論の対象となっています。
ここで重要なのは、現行制度と今後の政策案を区別することです。
現行の個人の土地建物の譲渡所得課税では、譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合、原則として短期譲渡所得に該当します。
短期譲渡所得の税率は、所得税、復興特別所得税、住民税を合わせて39.63%です。
一方、所有期間が5年を超える長期譲渡所得では、原則20.315%となります。
ただし、居住用財産の特例などによって実際の税負担が変わる場合があります。
今後、短期転売に対する規制や課税が強化されれば、投資家の売買行動に影響する可能性があります。
一方で、2026年10月時点では、追加的な短期転売課税の具体的な制度内容が確定したわけではありません。
政策の方向性だけで将来の税率や適用時期を断定することは避ける必要があります。
新築マンション市場にも影響が広がる可能性
中古マンション価格の調整は、新築マンション市場にも影響する可能性があります。
大阪市内の2026年4月から9月までの新築分譲マンション平均価格は9,026万円でした。
前年同期比13.8%の上昇です。
一方、初月契約率は69.4%となり、一般に好不調の目安とされる70%を下回りました。
価格は上昇しているものの、販売状況には慎重さが見られます。
新築マンションは、建設資材価格や人件費の上昇、用地取得費などの影響を受けます。
そのため、中古マンション価格が下落したからといって、新築マンション価格が直ちに下落するとは限りません。
しかし、購入希望者が中古物件との価格差を重視するようになれば、新築物件の販売価格や供給計画にも影響する可能性があります。
今後は、価格を維持できる立地や物件と、販売促進のために価格調整が必要になる物件との差が広がることも考えられます。
郊外マンションへの需要移動が進む可能性
東京都心で中古マンション価格が下落する一方、周辺都市では価格上昇が続いています。
2026年9月の平均希望売り出し価格は、横浜市が4,836万円で前月比1.8%上昇しました。
さいたま市は4,559万円で0.5%上昇、千葉市は3,013万円で2.4%上昇しています。
東京都心の高額物件から、比較的購入しやすい郊外物件へ需要が移っている可能性があります。
住宅購入者にとって、都心へのアクセスだけでなく、住宅ローン返済額、生活費、教育費、将来の資産価値などを総合的に考える必要性が高まっています。
特に金利上昇局面では、住宅購入時の借入額を抑えることが家計の安定につながります。
ただし、郊外であれば必ず価格が上昇するわけではありません。
人口動態、交通利便性、駅からの距離、周辺の住宅供給などによって、価格の動向は異なります。
今後は都心と郊外という区分だけでなく、個別の立地条件による価格差が一段と重要になると考えられます。
住宅購入者と所有者が今後確認すべきこと
中古マンション市場が転換期に入る可能性があるなか、住宅購入者と所有者では対応が異なります。
住宅購入を検討している人は、希望売り出し価格だけでなく、実際の成約価格を確認することが重要です。
売り物件が増えている地域では、複数の物件を比較し、価格交渉できる余地が広がる可能性があります。
ただし、購入価格だけで判断することは適切ではありません。
管理費、修繕積立金、固定資産税、住宅ローン金利などを含めた総負担を把握する必要があります。
特に築年数が経過したマンションでは、将来の大規模修繕費用や修繕積立金の不足に注意が必要です。
一方、売却を検討している所有者は、過去の高値成約事例だけを参考にするのではなく、現在の競合物件数や成約までの期間を確認することが大切です。
投資家については、将来の値上がり益だけに依存せず、賃料収入、借入金利、空室リスク、税負担などを総合的に検討する必要があります。
結論
東京と大阪の中古マンション市場では、価格上昇を支えてきた環境が変化し始めています。
東京都心6区では5カ月連続、大阪市中心6区では3カ月連続で平均希望売り出し価格が下落しました。
さらに、売り物件の増加や値下げ物件の割合の上昇が確認されています。
こうした動きの背景には、住宅ローン金利の上昇、価格高騰による購入可能層の縮小、投資需要の減退、短期転売規制を巡る政策議論があります。
ただし、今回の統計は希望売り出し価格を中心とするものであり、不動産市場全体が本格的な下落局面に入ったと断定するには、成約価格や取引件数などの継続的な確認が必要です。
今後の不動産市場では、すべての物件が一律に値上がりするのではなく、立地、建物の管理状態、価格水準、購入者の資金調達能力などによって評価が分かれる可能性があります。
住宅を購入する人にとっては、価格上昇への焦りから購入を急ぐのではなく、返済能力と物件の価値を慎重に見極めることが重要になります。
不動産所有者や投資家にとっても、過去の価格上昇を前提とした判断を見直す時期に差しかかっているのかもしれません。
これからのマンション市場では、値上がり期待よりも、実際の居住価値、収益性、資産としての持続可能性が重視される方向に進むと考えられます。
参考
日本経済新聞 2026年10月23日 朝刊「大阪中心部の中古マンション価格が上昇一服 東京都心に続き買い鈍る」
日本経済新聞 2026年10月23日 朝刊「東京都心の中古マンション価格、1億7000万円台に下落 調整色強まる」
東京カンテイ 2026年10月22日発表 中古マンション価格に関する調査
不動産経済研究所 2026年4月から9月の新築分譲マンション市場動向