自動車教習所の利用者が減っています。
少子化によって免許を取得する若者が減少し、経営が難しくなった教習所の閉校も相次いでいます。
民間企業である以上、利用者が減り、採算が取れなくなれば事業から撤退することは自然な経営判断です。
しかし、自動車教習所を一般的な民間サービスとまったく同じように考えてよいのでしょうか。
教習所は免許取得のためだけの施設ではありません。
高齢者への安全教育。
外国人ドライバーへの教育。
職業ドライバーの育成。
地域全体の交通安全。
さまざまな役割を担っています。
人口減少によって教習所の経営が厳しくなるほど、民間企業としての採算性と社会インフラとしての必要性の間にある問題が大きくなります。
自動車教習所は基本的には民間事業である
自動車教習所の多くは民間によって運営されています。
利用者が料金を支払い、その収入によって指導員の人件費や教習車の維持費などを賄います。
そのため利用者が減れば、経営は厳しくなります。
教習車を減らす。
人員を減らす。
設備投資を抑える。
それでも採算を確保できなければ、閉校という判断もあり得ます。
民間企業である以上、赤字を無期限に抱えながら営業を続けることはできません。
免許取得者が減れば市場そのものが縮小する
教習所経営が難しくなる最大の構造要因は、主要顧客である若者の減少です。
警察庁の統計では、24歳以下の運転免許保有者は2021年末から2025年末までに約36万7,000人減少しました。
減少率は6.7%です。
19歳以下の普通免許保有者も同じ期間に約8万8,000人減り、12.3%減少しました。
さらに18歳人口そのものも減少していきます。
2025年には約110万人だった18歳人口が、2030年には約106万人、2035年には約98万人になるとの推計があります。
若者向けの免許取得だけに依存する教習所経営は、次第に難しくなっていきます。
2050年には約3校に1校が消える可能性がある
参考記事では、指定自動車教習所の普通免許卒業者が2025年の約103万人から、2050年には約68万人まで減少するとの試算が紹介されています。
教習所も2025年末の1,277校から2050年には約840校まで減ると予測されています。
約437校の減少です。
現在の教習所のおよそ3校に1校がなくなる計算になります。
市場規模が縮小する以上、一定の再編は避けにくいでしょう。
問題は、どの教習所がなくなっても社会への影響が同じなのかということです。
教習所がなくなると免許を取る機会も減る
教習所が閉校すると、その地域の人は別の教習所へ通わなければなりません。
都市部なら、少し離れた場所に別の教習所があるかもしれません。
しかし地方では事情が異なります。
最寄りの教習所まで長距離を移動しなければならなくなる場合があります。
免許を持っていない人が免許を取るために遠くの教習所へ通うという矛盾も生じます。
公共交通が少ない地域ほど、この問題は深刻です。
教習所がなくなることは、単に1つの企業が撤退することではありません。
地域住民が免許を取得する機会そのものが失われる可能性があります。
地方では免許が生活に直結する
地方では自動車が生活インフラになっている地域があります。
通勤する。
学校へ通う。
買い物へ行く。
病院へ行く。
こうした日常生活に自動車が必要な地域です。
そのような地域で教習所がなくなれば、若者が免許を取得するための負担が大きくなります。
都市部では免許を取らなくても生活できる人が多い一方、地方では免許を取得できる環境そのものが地域生活を支えている場合があります。
この違いを考える必要があります。
高齢者講習の拠点でもある
教習所の役割は若者への免許教育だけではありません。
高齢者への交通安全教育も重要です。
70歳以上の人が運転免許を更新する際には高齢者講習が必要になります。
高齢化が進めば、その需要は増えていきます。
参考記事で紹介されたSBSドライビングスクール姉崎では、高齢者講習を地域の重要な事業として位置付け、月400人以上の高齢者を受け入れています。
若者が減る一方、高齢者への再教育という社会的な役割は大きくなっています。
教習所が減ると高齢者講習まで受けにくくなる
高齢者講習を必要とする人にとって、教習所までの距離は重要です。
高齢になれば長距離の移動そのものが負担になる場合があります。
近くの教習所が閉校すれば、遠方まで講習を受けに行かなければならなくなります。
高齢ドライバーの安全対策を強化しようとしても、その教育を提供する場所が減ってしまえば十分な対応ができません。
教習所の閉校問題は、高齢者の交通安全政策ともつながっています。
外国人ドライバーの教育拠点にもなる
今後は外国人ドライバーへの教育という役割も重要になる可能性があります。
物流などの人手不足を背景に、日本で自動車を運転する外国人が増えれば、日本の交通ルールや道路環境について学ぶ場所が必要です。
左側通行。
道路標識。
狭い生活道路。
歩行者や自転車との関係。
外国で運転経験がある人でも、日本の道路環境について学ぶ必要があります。
教習所は外国人材を安全に受け入れるための教育インフラにもなり得ます。
職業ドライバーを育てる場所にもなる
物流業界ではドライバー不足が課題になっています。
その人材を育成するためにも運転教育が必要です。
教習所が企業と連携すれば、免許取得だけでなく採用後の安全運転研修や技能確認を行うこともできます。
人口減少によって職業ドライバーが不足する一方で、そのドライバーを育てる教習所まで減ってしまえば、人材不足をさらに深刻にする可能性があります。
教習所は労働力を育成するインフラという側面も持っています。
交通安全は地域全体の利益になる
教習所で安全運転を学ぶ利益を受けるのは、教習生本人だけではありません。
安全なドライバーが増えれば、道路を利用する他の人にも利益があります。
歩行者。
自転車利用者。
他の自動車の運転者。
地域住民全体です。
交通事故が減れば、社会全体の損失も減ります。
つまり交通安全教育には、料金を支払った利用者だけではなく社会全体に広がる効果があります。
この点でも、一般的な民間サービスとは異なる性格があります。
採算性と必要性が一致するとは限らない
市場では、需要が多い地域ほど事業を維持しやすくなります。
しかし社会インフラは、必要性が高い地域ほど採算性が低い場合があります。
人口の少ない地方では教習生が少ない。
そのため教習所の経営は難しい。
しかし公共交通が少ないため、住民にとって運転免許の必要性は高い。
ここに大きな矛盾があります。
民間企業として最も撤退しやすい地域が、社会的には教習所を最も必要としている地域になる可能性があります。
すべての教習所を残せばよいわけではない
社会インフラとして重要だからといって、現在あるすべての教習所をそのまま維持する必要があるとは限りません。
人口が減れば、施設の再編は必要になります。
近隣の教習所を統合する。
送迎範囲を広げる。
合宿免許を活用する。
複数地域で高齢者講習を共同運営する。
M&Aによって経営基盤を強化する。
デジタル技術で事務を効率化する。
限られた資源を使って必要な機能を残す方法を考えることが重要です。
民間だけで維持できない地域をどうするか
それでも民間経営だけでは教習所を維持できない地域が出てくる可能性があります。
そのとき問われるのが、公的支援をどこまで行うのかという問題です。
教習所が地域の交通安全や高齢者講習などに不可欠であれば、公共的な機能に対して支援するという考え方もあります。
ただし、単に赤字企業を救済することとは分けて考える必要があります。
どの機能を地域に残す必要があるのか。
他の教習所で代替できるのか。
支援することでどのような公共的利益が得られるのか。
こうした点を整理したうえで判断する必要があります。
教習所の価値を利用者数だけで測れなくなる
これまで教習所の価値は、何人の免許取得者を受け入れるかという視点で考えられがちでした。
しかし人口減少社会では、それだけでは十分ではありません。
高齢者への再教育を何人に提供しているのか。
外国人ドライバーの安全教育を担っているのか。
職業ドライバーを育成しているのか。
地域に他の交通安全教育施設があるのか。
こうした役割も含めて教習所の価値を考える必要があります。
結論
自動車教習所は民間企業です。
利用者から料金を受け取り、その収入によって事業を運営している以上、採算性を無視することはできません。
一方で、その役割は一般的な民間サービスだけでは説明できなくなっています。
若者への免許教育。
高齢者への再教育。
外国人ドライバーへの教育。
職業ドライバーの育成。
地域全体の交通安全。
教習所はさまざまな公共的機能を担っています。
特に地方では、採算性が低い地域ほど自動車への依存度が高く、教習所の社会的必要性が高いという矛盾があります。
人口減少によって教習所の再編が進むこと自体は避けにくいでしょう。
重要なのは、何校残すかだけではありません。
地域にどの機能を残す必要があるのかを考えることです。
これからの自動車教習所政策では、民間企業としての経営効率と社会インフラとしての役割を同時に考える視点が必要になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」