同族会社のガバナンス改革 社長一人に依存しない経営体制のつくり方

経営

中小企業では、創業者や代表取締役が経営上の重要な判断を一人で行っていることが少なくありません。

創業者が強いリーダーシップを発揮することで、迅速な意思決定が可能になり、会社が成長してきた例もあります。

しかし、会社の規模が大きくなり、株主や役員が増えてくると、社長一人に権限が集中する経営体制には限界が生じます。

特に同族会社では、家族関係と会社の意思決定が混同されやすく、経営者の独断が親族間の紛争につながることがあります。

2026年10月20日の日本経済新聞では、大阪府内の不動産会社で、父親が株主総会を開催せずに長男を取締役から解任したとして、株主総会決議の不存在が認められた事例が紹介されました。

父親は会社を長年経営してきましたが、株式の大部分は長男と妻が保有していました。

それにもかかわらず、父親は自らの判断で役員解任を進めようとしました。

この事例は、同族会社において、経営者の権限と株主の権利を明確に区別する必要性を示しています。

今回は、同族会社のガバナンス改革について、取締役会の役割、親族役員の責任、社外人材の活用、内部統制、事業承継との関係を中心に解説します。

同族会社にも企業統治が必要になる

企業統治は、一般にコーポレートガバナンスと呼ばれます。

会社の経営者が適切に意思決定を行い、その経営を監督するための仕組みです。

上場企業では、社外取締役の選任や取締役会の実効性向上などが重要な課題になっています。

しかし、企業統治が必要なのは上場企業だけではありません。

中小企業や同族会社でも、経営者の権限を適切に管理する仕組みが重要です。

例えば、代表取締役が会社の資金を自由に使い、取締役や株主に十分な説明を行っていない場合を考えてみます。

会社の業績が好調な間は問題が表面化しないかもしれません。

しかし、業績が悪化したり、親族間の関係が悪くなったりすると、過去の経営判断が問題になることがあります。

また、金融機関から融資を受ける際にも、会社の財務管理や意思決定体制が重要になります。

企業統治は、経営者の自由を奪うためのものではありません。

経営判断の透明性を高め、会社を長期的に存続させるための仕組みなのです。

創業者への権限集中が生む問題

創業者が経営する会社では、重要な意思決定が社長一人に集中することがあります。

例えば、設備投資、資金調達、役員人事、取引先の選定などを、社長が単独で判断している場合です。

創業当初は、こうした経営方法が合理的なこともあります。

社員数が少なく、事業規模も小さい段階では、意思決定の速さが競争力につながるからです。

しかし、会社が成長すると、判断すべき事項が増えます。

事業の専門性も高まり、社長一人ですべてを把握することが難しくなります。

さらに、社長の判断を確認する仕組みがなければ、誤った経営判断が修正されない可能性があります。

例えば、会社が保有する不動産の建て替えについて、社長が多額の借入れを伴う計画を進めようとする場合です。

その計画が会社の財務に大きな影響を与えるのであれば、投資採算や資金繰り、返済可能性などを十分に検討する必要があります。

ところが、社長の判断に反対することが難しい組織では、リスクが十分に検討されないことがあります。

こうした問題を防ぐには、重要な経営判断について複数の視点から検討する仕組みが必要です。

株主と取締役の役割を区別する

同族会社のガバナンスで重要なのは、株主と取締役の役割を明確にすることです。

株主は会社の所有者として、株主総会で議決権を行使します。

取締役は、会社から経営を委ねられ、法令や定款に従って職務を遂行します。

代表取締役は、会社を代表し、業務執行を担う立場です。

ただし、会社の機関設計によって、取締役や代表取締役の権限は異なります。

例えば、父親が代表取締役、長男が取締役、母親が株主という会社を考えてみます。

父親が会社を代表して日常の経営判断を行っていても、取締役の選任や解任については、原則として株主総会の決議が必要です。

また、母親が取締役でなくても、株主として議決権を保有していれば、株主総会を通じて会社の意思決定に参加できます。

このように、会社法では、会社の所有と経営を区別しています。

同族会社では、家族の中で誰が年長者なのか、誰が創業者なのかといった事情が重視されがちです。

しかし、会社の意思決定は、家族内の立場ではなく、法律上の権限に基づいて行う必要があります。

取締役会を設置する意味

株式会社には、取締役会を設置している会社と、設置していない会社があります。

取締役会設置会社では、取締役会が重要な業務執行の決定や取締役の職務執行の監督などを行います。

会社法362条は、取締役会の権限について定めています。

取締役会には、代表取締役を選定し、解職する権限もあります。

また、重要な財産の処分や譲受け、多額の借財などについては、取締役会が決定しなければならない場合があります。

例えば、会社が数億円規模の設備投資を行う場合です。

取締役会で投資計画を審議すれば、財務面、事業面、法務面など、複数の観点から検討することができます。

ただし、取締役会を設置すれば、自動的に企業統治が改善するわけではありません。

取締役全員が社長の意向に従うだけでは、十分な監督機能を期待できないからです。

また、取締役会を設置するには、会社法上の機関設計に応じた役員構成などが必要になります。

小規模な会社では、取締役会を設置せず、取締役間の定期的な会議や決裁規程の整備によって、経営管理を改善する方法も考えられます。

重要なのは、会社の規模に合った仕組みを整えることです。

親族役員にも取締役としての責任がある

同族会社では、配偶者や子供、兄弟姉妹などが取締役に就任していることがあります。

しかし、親族であることを理由に、取締役としての責任が軽くなるわけではありません。

会社法330条は、株式会社と役員との関係について、委任に関する規定に従うと定めています。

また、会社法355条は、取締役に忠実義務を課しています。

取締役は、法令や定款、株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行う必要があります。

例えば、父親が代表取締役、長男が取締役を務める会社で、父親が会社に不利益となる取引を進めようとしている場合です。

長男は、父親の子供だからという理由だけで、その判断に従えばよいわけではありません。

取締役として、会社の利益や法令上の問題を検討する必要があります。

また、取締役が任務を怠ったことによって会社に損害が生じた場合には、会社法423条に基づく損害賠償責任が問題になることがあります。

親族役員であっても、会社法上の責任を負うことを理解する必要があります。

社外人材の活用で経営判断を客観化する

同族会社では、経営陣が親族だけで構成されていることがあります。

この場合、家族内の力関係が経営判断に影響する可能性があります。

例えば、創業者である父親の意見に、他の親族役員が反対しにくい場合です。

こうした状況を改善する方法として、社外人材の活用が考えられます。

例えば、金融機関出身者、経理財務の専門家、企業経営経験者などに、経営上の助言を求める方法です。

会社の規模や機関設計によっては、社外取締役の選任を検討することもできます。

ただし、すべての中小企業に社外取締役の設置が義務付けられているわけではありません。

また、外部の専門家を顧問として活用する方法もあります。

重要なのは、社長の意見とは異なる視点から、経営判断を検討できる体制を整えることです。

例えば、大規模な不動産投資を検討する際に、外部の不動産専門家や税理士、弁護士などの意見を確認することが考えられます。

複数の専門家の意見を取り入れることで、投資リスクや法務上の問題を早期に把握しやすくなります。

ただし、外部専門家に相談したからといって、経営者や取締役の責任がなくなるわけではありません。

最終的な経営判断は、会社の適切な機関が行う必要があります。

内部統制は中小企業にも必要になる

内部統制とは、会社の業務が適切に行われるようにするための仕組みです。

一般に、業務の有効性や効率性、財務報告の信頼性、法令遵守、資産の保全などを目的とします。

大企業では、内部統制システムの整備について会社法上の規定があります。

一方、中小企業でも、会社の規模に応じた内部統制を整えることが重要です。

例えば、会社の預金口座から多額の資金を支出する場合に、社長一人の判断だけで実行できる体制を考えてみます。

この場合、支出の必要性や金額の妥当性を確認する仕組みがなければ、不適切な支出を防ぐことが難しくなります。

そこで、一定額以上の支出については、複数人の承認を必要とする方法が考えられます。

また、経理担当者と支払承認者を分けることも有効です。

さらに、定期的に資金繰り表や試算表を作成し、経営陣が財務状況を確認する仕組みも重要です。

中小企業の内部統制では、複雑な規程を大量に作成する必要はありません。

会社の規模や事業内容に応じて、実効性のある管理体制を整えることが重要です。

株主総会の適正運営が経営権を守る

同族会社のガバナンス改革では、株主総会の適正運営も欠かせません。

株主総会は、会社法に基づく重要な意思決定機関です。

取締役の選任や解任、定款変更などについて、必要な決議を行います。

しかし、同族会社では、株主が親族だけであることを理由に、株主総会の手続きを省略してしまう場合があります。

例えば、父親が代表取締役で、妻と長男が株主である会社を考えてみます。

父親が長男を取締役から解任したいと考えた場合でも、原則として株主総会決議が必要です。

また、会社法319条のみなし決議を利用する場合には、議決権を行使できる株主全員の書面または電磁的記録による同意など、一定の要件を満たす必要があります。

株主総会を開催していないにもかかわらず、開催したことにして議事録を作成することは認められません。

大阪府内の不動産会社の事例では、こうした手続き上の問題が裁判に発展しました。

同族会社こそ、株主総会の招集、決議、議事録作成、保存を適切に行う必要があります。

事業承継とガバナンス改革は一体で考える

同族会社のガバナンス改革は、事業承継とも密接に関係しています。

創業者が経営している間は、社長の経験や判断力によって会社が成り立っていることがあります。

しかし、後継者に経営を引き継ぐ際には、その仕組みをそのまま維持できるとは限りません。

例えば、創業者が主要取引先との交渉、資金調達、採用、人事評価などをすべて担当している場合です。

後継者が突然これらの業務を引き継ぐことになれば、経営上の負担が大きくなります。

そのため、事業承継を進める段階で、業務分担や意思決定の仕組みを見直すことが重要です。

例えば、重要な投資案件については経営会議で検討する仕組みを設けます。

また、資金繰りや業績について、定期的に報告する体制を整えます。

さらに、後継者以外の役員や幹部社員にも、一定の権限と責任を与えることが考えられます。

このような体制を整えることで、創業者が退任した後も、会社が安定的に経営を続けやすくなります。

事業承継は、単に代表取締役や株式を移転することではありません。

会社の経営体制そのものを次世代に引き継ぐことでもあるのです。

同族会社が取り組みたい具体的な改革

同族会社がガバナンス改革を進める場合には、まず現在の経営体制を確認する必要があります。

第一に、株主構成と議決権割合を整理します。

誰が会社の重要事項を決定できるのかを明確にすることが重要です。

第二に、取締役や代表取締役の権限を確認します。

会社の機関設計や定款に基づいて、どの事項を誰が決定するのかを整理します。

第三に、重要な経営判断について、複数の視点から検討する仕組みを設けます。

例えば、大規模投資や多額の借入れについて、事前に財務面や法務面の検討を行う方法です。

第四に、株主総会や取締役会などの議事録を適切に作成し、保存します。

第五に、経理や資金管理について、一定の内部統制を整えます。

第六に、事業承継計画と連動させて、創業者から後継者への権限移譲を進めます。

これらの改革は、すべてを一度に実施する必要はありません。

会社の規模や経営課題に応じて、優先順位を決めて取り組むことが重要です。

結論

同族会社では、創業者や代表取締役の強いリーダーシップが、会社の成長を支えてきたことがあります。

しかし、社長一人に権限が集中する経営体制は、会社の規模が大きくなったり、事業承継が進んだりすると、さまざまな問題を生む可能性があります。

特に親族間で経営方針が対立した場合には、株式の所有関係や役員の地位を巡る紛争に発展することがあります。

大阪府内の不動産会社を巡る裁判例は、創業者であっても、株主総会の手続きを無視して会社の重要事項を決定することはできないという教訓を示しています。

同族会社のガバナンス改革では、株主と取締役の役割を区別し、適切な意思決定体制を整えることが重要です。

また、親族役員にも会社法上の責任があることを理解し、必要に応じて社外人材や専門家の意見を取り入れることが望まれます。

さらに、経理や資金管理などの内部統制を整備し、会社の財務状況や経営判断の透明性を高める必要があります。

こうした改革は、事業承継を円滑に進めるうえでも重要です。

創業者の経験や判断力だけに依存した経営から、組織として意思決定できる経営へ移行することが、会社の持続的な成長につながります。

中小企業の経営者には、会社の規模に応じたガバナンス体制を整え、次世代に安定した経営基盤を引き継ぐことが求められます。

同族会社の強みである迅速な意思決定を維持しながら、法律に基づく適切な管理体制を整えることが重要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月20日 役員務める長男、知らぬ間に解任 「一人で経営」父が株主総会開かず

会社法第295条 株主総会の権限

会社法第318条 議事録

会社法第319条 株主総会の決議の省略

会社法第330条 株式会社と役員等との関係

会社法第355条 忠実義務

会社法第362条 取締役会の権限等

会社法第423条 役員等の株式会社に対する損害賠償責任

中小企業庁 事業承継ガイドライン

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