高市早苗政権が掲げる官民370兆円超の成長投資構想は、日本経済と株式市場の将来を大きく変える可能性があります。
人工知能、半導体、防衛、宇宙、造船、コンテンツ、国土強靱化など17の戦略分野に重点投資を行い、2040年度までに日本の成長力を高めるという構想です。
しかし、株式市場では、すでに国策関連銘柄の間で大きな格差が生まれています。
2025年9月末から2026年10月にかけて、日経平均株価は32%上昇しました。
一方、国策関連とされる約230銘柄のうち、日経平均の上昇率を上回ったのは57銘柄にとどまりました。
キオクシアホールディングスの株価が約8.4倍、イビデンが約4.2倍、アドバンテストが約2.4倍となる一方、三菱重工業やIHIなどは市場平均を下回りました。
政府が成長分野として指定しただけでは、企業の株価は上昇しないことが明らかになっています。
では、高市政権の成長戦略は、日本株全体の長期的な上昇につながるのでしょうか。
今回は、アベノミクスとの比較を通じて、2030年から2040年にかけての日本経済と株式市場の展望を考えます。
アベノミクスが日本株にもたらした変化
高市政権の経済政策を考えるうえで、比較対象となるのが安倍晋三政権のアベノミクスです。
2012年末に発足した第2次安倍政権は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という3本の矢を掲げました。
特に株式市場に大きな影響を与えたのが、日本銀行による大規模な金融緩和です。
金融緩和によって円安が進み、輸出企業の収益改善期待が高まりました。
また、低金利環境は企業の資金調達を支え、株式などのリスク資産への投資を促す要因となりました。
さらに、企業統治改革や資本効率を重視する経営への転換も進みました。
企業に対してROEの改善や株主還元の充実を求める動きが広がり、日本株に対する海外投資家の関心も高まりました。
ただし、アベノミクスの成果を株価上昇だけで評価することは適切ではありません。
実質賃金や生産性、潜在成長率などの課題が残ったことも重要です。
株価が上昇することと、国民全体の生活水準が向上することは必ずしも同じではありません。
高市政権とアベノミクスの共通点
高市政権の経済政策とアベノミクスには、いくつかの共通点があります。
第一に、経済成長を重視していることです。
両者とも、日本経済の停滞を克服するために、政府が積極的な役割を果たす必要があるという考え方を持っています。
第二に、財政政策を成長の手段として活用することです。
政府支出や政策支援によって、民間企業の投資を促進するという方向性には共通する部分があります。
第三に、企業の競争力強化を重視していることです。
アベノミクスでは、企業統治改革や規制改革などを通じて、企業の収益力向上が目指されました。
高市政権では、17の戦略分野に重点投資を行い、技術革新や産業基盤の強化を進めようとしています。
ただし、政策の重点には違いがあります。
アベノミクスでは、金融政策による経済環境の変化が大きな役割を果たしました。
一方、高市政権の成長戦略では、特定の産業分野への投資を通じて、供給力や技術力を高めることが重視されています。
この違いは、今後の日本株を考えるうえで重要です。
最大の違いは金利のある世界への転換
高市政権が直面する経済環境は、アベノミクスが始まった当時とは大きく異なります。
特に重要なのが、金利環境の変化です。
アベノミクスの初期には、日本銀行による大規模な金融緩和が進み、長期金利は低い水準で推移しました。
しかし、2026年には金融政策の正常化が進み、政策金利や長期金利が上昇しています。
2026年9月18日には、日本銀行が政策金利を1.25%に引き上げました。
また、10年物国債利回りが3%を超える局面もありました。
このような金利環境では、政府の財政支出や企業の設備投資に伴う資金調達コストが重要になります。
企業が成長投資を実施しても、借入金利の上昇によって利益が圧迫される可能性があります。
また、株式市場では、将来の利益に対する現在価値が金利の影響を受けます。
特に高い成長期待を織り込んだ企業では、金利上昇によって株価評価が変化する可能性があります。
高市政権の成長戦略が成功するためには、金利上昇を上回る生産性向上や利益成長を実現することが重要になります。
370兆円投資構想は日本経済の成長率を高められるのか
高市政権の成長戦略では、2040年度までに官民で370兆円超を投資する構想が示されています。
この投資が日本経済の成長につながるかどうかは、投資額そのものではなく、投資によって生み出される付加価値によって決まります。
例えば、半導体工場の建設によって国内生産能力が拡大しても、製品の競争力が弱ければ、十分な利益を獲得できない可能性があります。
一方、AIの活用によって企業の業務効率が改善し、少ない人員で高い付加価値を生み出せるようになれば、生産性向上につながります。
日本では人口減少が進んでいるため、労働投入量の増加だけで経済成長を実現することは難しくなっています。
そのため、労働生産性の向上が重要になります。
AI、ロボット、デジタル技術などを活用して、企業が付加価値を高められるかが問われます。
また、研究開発や人材育成によって新しい技術や産業を生み出すことも重要です。
370兆円投資構想の成果は、投資総額ではなく、生産性や実質所得の改善によって評価する必要があります。
2030年までに注目したい3つの変化
2030年までの日本経済を考えるうえで、注目したい変化が3つあります。
第一に、AIの社会実装です。
AIは、金融、製造、物流、医療、行政など幅広い分野で活用される可能性があります。
企業がAIを導入することで、業務効率の改善や新しいサービスの創出が期待できます。
ただし、AIを導入しただけで生産性が向上するわけではありません。
業務プロセスの見直しや人材育成と組み合わせる必要があります。
第二に、半導体産業の競争力強化です。
世界的なAI需要の拡大を背景に、半導体関連企業には成長機会があります。
一方、設備投資競争や技術革新によって、企業間の格差が拡大する可能性もあります。
第三に、防衛や国土強靱化などの社会基盤投資です。
安全保障環境の変化や社会インフラの老朽化に対応するため、継続的な投資が必要になります。
これらの分野では、政策支援が企業の受注や設備投資につながる可能性があります。
ただし、企業の利益成長には時間がかかる場合があります。
2030年までの期間は、成長戦略の成果が具体的な企業業績に反映され始めるかを確認する重要な時期になると考えられます。
2040年に向けて日本経済が直面する課題
2040年に向けた日本経済では、人口減少と高齢化が引き続き重要な課題になります。
労働力人口が減少すれば、企業は人材確保や生産性向上への対応を迫られます。
また、高齢化に伴って医療や介護などの社会保障需要が増加する可能性があります。
こうした環境では、経済成長と財政の持続可能性を両立させることが重要です。
政府が成長投資を拡大しても、財政負担が過度に増加すれば、将来の政策運営に制約が生じる可能性があります。
一方、生産性向上によって企業収益や賃金が増加すれば、税収基盤の強化につながる可能性があります。
2040年に向けて重要なのは、人口減少の影響を生産性向上によってどこまで補えるかという点です。
AIやロボット技術の活用によって、少ない労働力でも高い付加価値を生み出せる経済構造を構築する必要があります。
また、企業の国際競争力を高め、海外市場から収益を獲得することも重要になります。
日本株の長期上昇を支える企業統治改革
日本株の長期的な上昇を考えるうえでは、政府の成長戦略だけでなく、企業統治改革も重要です。
東京証券取引所は、上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営を求めています。
企業が資本効率を高め、収益力を改善することは、株主価値の向上につながる可能性があります。
例えば、収益性の低い事業を見直し、成長分野に経営資源を集中することで、企業全体の利益率が改善する場合があります。
また、余剰資金を適切に活用し、成長投資や株主還元を進めることも重要です。
高市政権の成長戦略が企業の設備投資を後押ししても、企業自身が資本効率を重視しなければ、株主価値の向上につながらない可能性があります。
つまり、政府の産業政策と企業統治改革が相互に補完し合うことが重要です。
国策による投資拡大と、企業自身の経営改革が両立して初めて、持続的な利益成長が期待できます。
日経平均株価の上昇だけでは日本経済を評価できない
日本株の長期上昇を考える際には、日経平均株価の特徴にも注意する必要があります。
日経平均株価は、225銘柄を対象とする株価平均型の指数です。
そのため、一部の値がさ株の上昇が指数全体に大きく影響する場合があります。
例えば、AIや半導体関連の一部銘柄が大幅に上昇すれば、他の多くの企業の株価が伸び悩んでいても、日経平均株価が上昇する可能性があります。
今回の高市トレードでも、国策関連とされる約230銘柄のうち、市場平均を上回ったのは57銘柄でした。
この結果は、株価指数の上昇と個別企業の株価動向が必ずしも一致しないことを示しています。
日本株全体の動向を評価する際には、日経平均株価だけでなく、TOPIXなどの指数も確認する必要があります。
さらに、企業の利益成長率、ROE、営業キャッシュフローなどを分析することが重要です。
株価指数が上昇しているという理由だけで、日本企業全体の収益力が改善していると判断することは適切ではありません。
日本株の長期上昇を左右する3つの条件
高市政権の成長戦略が日本株の長期上昇につながるためには、3つの条件が重要になります。
第一に、企業の利益成長です。
政府の政策支援によって設備投資が拡大しても、企業の利益が増加しなければ、持続的な株価上昇は期待しにくくなります。
第二に、資本効率の改善です。
企業が多額の資金を投資しても、十分な利益を生み出せなければ、ROEなどの指標が改善しない可能性があります。
第三に、財政と金融政策の安定です。
長期金利の急激な上昇や財政不安が強まれば、企業の資金調達や株式市場に影響する可能性があります。
一方、経済成長と物価の安定が両立すれば、企業は中長期的な投資計画を立てやすくなります。
これらの条件が整うことで、政府の成長戦略が企業価値の向上につながる可能性があります。
2030年から2040年の日本株をどう考えるか
2030年から2040年にかけての日本株を考える際には、複数のシナリオを想定することが重要です。
成長戦略が成功する場合には、AIや半導体などの分野で企業の競争力が高まり、生産性や利益率が改善する可能性があります。
また、防衛、宇宙、国土強靱化などの分野でも、継続的な投資によって新しい収益機会が生まれることが考えられます。
一方、投資効果が十分に現れない場合には、政府支出や企業の設備投資が増加しても、利益成長が限定的になる可能性があります。
さらに、金利上昇や財政負担の増加によって、経済成長が抑制される場合も考えられます。
したがって、2030年や2040年の日経平均株価を、現時点で確実に予測することはできません。
重要なのは、株価の目標水準を決めることではなく、企業の利益成長や資本効率の変化を継続的に確認することです。
長期投資では、特定の政策や政治指導者への期待だけに依存しない姿勢が求められます。
個人投資家に求められる長期投資の考え方
高市政権の成長戦略を踏まえて日本株に投資する場合、重要なのは政策期待と企業価値を区別することです。
政府が重点投資を掲げる分野には、長期的な成長機会が存在する可能性があります。
しかし、すべての関連企業が高い利益成長を実現するわけではありません。
また、成長性の高い企業であっても、株価が将来の利益を過大に織り込んでいれば、投資成果が期待を下回る可能性があります。
そのため、PER、ROE、営業利益率、キャッシュフローなどを確認する必要があります。
さらに、特定の政策分野に資金を集中させず、異なる業種や地域への分散投資を検討することも重要です。
長期投資では、短期的な株価変動だけでなく、企業の競争力や収益構造の変化を継続的に確認する姿勢が求められます。
政府の政策は企業の成長を後押しする要因となりますが、最終的な企業価値を決めるのは、企業自身が生み出す利益とキャッシュフローです。
結論
高市政権の官民370兆円超の成長投資構想は、日本経済の成長力を高める重要な政策となる可能性があります。
しかし、その成果が日本株全体の長期的な上昇につながるかどうかは、今後の政策運営と企業の実績によって決まります。
アベノミクスでは、大規模な金融緩和や企業統治改革などが日本株の評価に大きな影響を与えました。
一方、高市政権は金利のある世界で、特定の戦略分野への投資を通じて成長力を高めようとしています。
この違いは重要です。
金利上昇による財政負担や企業の資金調達コストを考慮しながら、生産性向上と利益成長を実現する必要があります。
また、370兆円という投資総額の大きさだけで、政策の成功を判断することはできません。
重要なのは、投資によって新しい技術や産業が育ち、企業の国際競争力が高まり、持続的な利益成長が実現することです。
2030年に向けては、AIの社会実装や半導体産業の競争力強化などが重要な焦点になります。
2040年に向けては、人口減少と高齢化が進むなかで、生産性を高め、経済成長と財政の持続可能性を両立させることが求められます。
株式市場では、今後も国策関連銘柄の間で選別が続く可能性があります。
政府が支援する企業という理由だけでなく、独自の競争力によって利益とキャッシュフローを生み出せる企業が評価されると考えられます。
高市政権の成長戦略が日本株の長期上昇につながるためには、政策への期待を企業の実績に転換することが必要です。
そして、企業の利益成長が賃金や雇用、税収の増加につながれば、日本経済全体の持続的な成長にも寄与する可能性があります。
370兆円投資構想の本当の成果が問われるのは、株価が上昇したときではありません。
日本企業の生産性と収益力が高まり、国民生活の豊かさが持続的に向上したときです。
その実現こそが、高市政権の成長戦略に求められる最も重要な成果ではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月20日 高市トレード勝率2割 どう使う370兆円、三菱重やIHIに再評価余地