高市早苗政権が掲げる官民370兆円超の成長投資構想によって、国策関連銘柄への関心が高まっています。
人工知能、半導体、防衛、宇宙、造船、コンテンツ、国土強靱化など、17の戦略分野には日本経済の将来を担う企業が数多く存在します。
しかし、国策関連銘柄に投資すれば必ず利益が得られるわけではありません。
2025年9月末から2026年10月にかけて、日経平均株価は32%上昇しました。
一方、国策関連とされる約230銘柄のうち、日経平均の上昇率を上回ったのは57銘柄にとどまりました。
勝率は約2割です。
キオクシアホールディングスの株価が約8.4倍、イビデンが約4.2倍となる一方、三菱重工業やIHI、三井E&S、東宝などは市場平均を下回りました。
この結果は、政府の政策方針と株式投資の成果が必ずしも一致しないことを示しています。
では、個人投資家は国策関連銘柄をどのような基準で評価すればよいのでしょうか。
今回は、PER、ROE、受注残高、営業キャッシュフロー、政策依存度という5つの視点から、企業価値を見極める方法を考えます。
国策関連銘柄という分類だけでは不十分
国策関連銘柄とは、政府が重点的に支援する政策分野と関係の深い企業を指すことが一般的です。
例えば、防衛関連では三菱重工業やIHI、半導体関連ではキオクシアやアドバンテストなどが挙げられます。
しかし、同じ政策分野に属する企業であっても、事業内容や収益構造は異なります。
防衛関連企業の中には、政府向けの装備品調達が重要な収益源となる企業があります。
一方、半導体関連企業では、世界的な民間需要が業績を大きく左右します。
また、造船関連企業でも、完成船舶を建造する企業と、船舶用エンジンや港湾設備を供給する企業では、収益構造が異なります。
そのため、政府が特定産業への支援を拡大しても、関連企業すべての利益が同じように増加するわけではありません。
国策関連という分類は、投資対象を探すための出発点にはなります。
しかし、最終的な投資判断では、企業ごとの財務内容や競争力を確認する必要があります。
PERは株価の期待水準を測る指標
国策関連銘柄への投資で最初に確認したいのが、PERです。
PERは株価収益率と呼ばれ、株価を1株当たり利益で割って求めます。
例えば、株価が3,000円で1株当たり予想利益が100円の場合、予想PERは30倍です。
PERは、企業の利益に対して株価が何倍の水準で評価されているかを示します。
一般に、将来の利益成長率が高いと期待される企業ほど、PERが高くなる傾向があります。
ただし、PERが高いから必ず割高、低いから必ず割安というわけではありません。
重要なのは、将来の利益成長率と比較することです。
例えば、予想PERが40倍でも、利益が長期間にわたり高い成長率で増加する企業であれば、その評価が正当化される可能性があります。
一方、予想PERが15倍でも、利益が減少する企業であれば、割安とは限りません。
国策関連銘柄では、政策期待によってPERが上昇する場合があります。
そのため、政策発表後に株価が大きく上昇した企業では、期待が過度に織り込まれていないかを確認する必要があります。
三菱重工業のPER低下から学べること
三菱重工業の予想PERは、2026年1月の71倍台から2026年10月には33倍台まで低下しました。
この変化は、国策関連銘柄の株価評価を考えるうえで参考になります。
PERが低下する理由には、大きく分けて2つあります。
一つは、株価が下落することです。
もう一つは、1株当たり予想利益が増加することです。
例えば、株価が7,100円で予想利益が100円の場合、PERは71倍です。
その後、株価が6,600円となり、予想利益が200円に増加すれば、PERは33倍になります。
この場合、株価の下落率は約7%ですが、PERは半分以下になります。
つまり、PERの低下を株価の大幅下落と同じ意味で捉えることはできません。
また、PER33倍が割安かどうかは、将来の利益成長率によって異なります。
防衛関連事業の受注が拡大し、利益率が改善するのであれば、株価が再評価される可能性があります。
一方、利益成長が市場の期待に届かなければ、PERがさらに低下することも考えられます。
重要なのは、PERの変化だけでなく、その背景にある利益予想の変化を確認することです。
ROEは株主資本を活用する力を示す
次に確認したいのが、ROEです。
ROEは自己資本利益率と呼ばれ、当期純利益を自己資本で割って求めます。
例えば、自己資本が1,000億円で当期純利益が100億円の場合、ROEは10%です。
ROEは、企業が株主から預かった資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示します。
国策関連企業では、政府支援によって設備投資が拡大する可能性があります。
しかし、設備投資が増加しても、利益が十分に増えなければ資本効率は改善しません。
例えば、企業が大型工場を建設して生産能力を拡大しても、稼働率が低ければ十分な利益を獲得できない場合があります。
その結果、資産や自己資本が増加する一方、利益成長が追いつかず、ROEが低下する可能性があります。
ただし、ROEが高い企業が必ず優良企業というわけではありません。
借入金を増やして自己資本を相対的に小さくすることで、ROEが高くなる場合もあります。
そのため、ROEを評価する際には、自己資本比率や有利子負債の状況も確認する必要があります。
受注残高は将来の売上高を考える材料
防衛、造船、建設、インフラ関連企業では、受注残高が重要な指標になります。
受注残高とは、すでに受注しているものの、まだ売上高として計上されていない契約の残高です。
例えば、企業が大型設備を受注しても、契約時点で全額が売上高になるわけではありません。
契約条件や会計基準に従い、製造や工事の進捗などに応じて売上高が計上されます。
したがって、受注残高の増加は、将来の売上高を見通すための材料になります。
ただし、受注残高が大きいからといって、将来の利益が必ず大きくなるわけではありません。
重要なのは、受注案件の採算性です。
例えば、1兆円の受注残高があっても、利益率が低ければ十分な利益を生み出せない場合があります。
また、資材価格や人件費が上昇すれば、契約条件によっては利益率が低下する可能性があります。
投資家は、受注残高の増加と営業利益率の改善が同時に進んでいるかを確認する必要があります。
さらに、受注残高がどの程度の期間で売上高に転換されるかも重要です。
営業キャッシュフローは利益の質を示す
国策関連銘柄への投資では、営業キャッシュフローの確認も欠かせません。
営業キャッシュフローは、企業が本業の営業活動によって獲得した資金の流れを示します。
会計上の利益が増加していても、実際の現金収入が十分に増えていない場合があります。
例えば、売上高が増加しても、売掛金の回収が遅れれば、手元資金が不足する可能性があります。
また、製造業では、原材料や部品の在庫が増加すると、資金負担が大きくなる場合があります。
特に半導体や防衛関連企業では、大規模な設備投資や研究開発が必要になります。
そのため、営業キャッシュフローと設備投資額の関係が重要です。
営業キャッシュフローから設備投資などを差し引いたフリーキャッシュフローは、企業の資金創出力を考える際の参考になります。
ただし、成長投資を積極的に実施している企業では、一時的にフリーキャッシュフローが減少することもあります。
重要なのは、単年度の数字だけでなく、複数年度の推移を確認することです。
政策依存度が高い企業には特有のリスクがある
国策関連銘柄への投資では、政府の政策にどの程度依存しているかを確認する必要があります。
例えば、売上高の大部分を政府向けの事業が占める企業では、予算配分や調達方針の変更が業績に影響する可能性があります。
一方、世界市場で競争力を持つ企業では、国内政策に加えて海外需要が成長を支える場合があります。
キオクシアやアドバンテストなどの半導体関連企業は、世界的なAI投資や半導体需要の影響を受けます。
このような企業では、日本政府の支援策だけでなく、海外企業の設備投資動向や世界経済の変化が重要になります。
政策依存度が高いこと自体が、必ずしも悪いわけではありません。
防衛や公共インフラなど、政府が主要な需要主体となる産業も存在するためです。
重要なのは、政策変更が企業収益に与える影響を理解することです。
また、補助金や税制優遇が終了した後も、企業が自律的に利益を生み出せるかを確認する必要があります。
成長率が高くても投資成果が悪化する理由
株式投資では、企業の成長率と投資家の収益率が一致しない場合があります。
例えば、企業の利益が5年間で2倍になったとしても、株価が必ず2倍になるわけではありません。
投資開始時点で高い成長期待が株価に織り込まれていれば、利益が増加してもPERが低下する可能性があります。
仮に、投資時点の1株当たり利益が100円、PERが40倍であれば、株価は4,000円です。
5年後に利益が200円へ増加しても、PERが15倍に低下すれば、株価は3,000円になります。
利益は2倍になったにもかかわらず、株価は25%下落する計算です。
これは、成長企業への投資で注意すべき重要な点です。
企業の成長性が高いことと、投資時点の株価が魅力的であることは別問題です。
国策関連銘柄では、政策への期待が先行して株価が上昇する場合があります。
そのため、将来の利益成長が株価にどの程度織り込まれているかを確認することが重要になります。
企業の競争優位性を見極める
国策関連銘柄への長期投資では、企業の競争優位性が重要になります。
政府支援によって一時的に売上高が増加しても、競争力が弱ければ、支援終了後に成長が鈍化する可能性があります。
一方、独自の技術や顧客基盤を持つ企業では、政策支援を活用して競争力をさらに高められる場合があります。
例えば、半導体関連企業では、高度な製造技術や検査技術が競争優位性につながります。
防衛関連企業では、長年にわたる研究開発や製造経験が重要になります。
コンテンツ産業では、知的財産の保有状況や海外展開能力が収益力を左右します。
また、国土強靱化関連企業では、施工技術やインフラ管理技術、人材確保などが競争力につながります。
このように、競争優位性の内容は産業によって異なります。
投資家は、企業がどのような強みを持ち、その強みを長期間維持できるかを確認する必要があります。
国策銘柄を比較するための5つの判断基準
国策関連銘柄を比較する際には、次の5つの視点を組み合わせることが重要です。
第一に、PERです。
将来の利益成長に対して、現在の株価が過大評価されていないかを確認します。
第二に、ROEです。
企業が株主資本を効率的に活用して利益を生み出しているかを評価します。
第三に、受注残高です。
防衛や建設などの受注型事業では、将来の売上高を見通す材料になります。
第四に、営業キャッシュフローです。
会計上の利益が実際の資金創出につながっているかを確認します。
第五に、政策依存度です。
政府支援が縮小した場合にも、企業が競争力を維持できるかを考えます。
ただし、これらの指標にはそれぞれ限界があります。
PERは利益予想の変化に影響され、ROEは財務レバレッジによって高くなる場合があります。
受注残高は採算性を直接示すものではなく、営業キャッシュフローも運転資金の変動によって一時的に増減します。
そのため、一つの指標だけで投資判断を行うことは適切ではありません。
複数の指標を組み合わせ、企業の事業内容や市場環境を踏まえて評価することが重要です。
分散投資と長期的な視点も欠かせない
国策関連銘柄への投資では、特定の政策分野に資金を集中させるリスクにも注意が必要です。
例えば、半導体関連企業だけに投資した場合、世界的な半導体需要が減速すれば、複数の保有銘柄が同時に下落する可能性があります。
また、防衛関連企業だけに投資した場合、政府予算や調達方針の変更が保有銘柄全体に影響することがあります。
そのため、異なる業種や地域への分散投資を検討することが重要です。
さらに、国策関連銘柄の中には、政策効果が企業収益に反映されるまで長期間を要するものがあります。
短期的な株価変動だけでなく、企業の中長期的な利益成長を確認する姿勢が求められます。
ただし、長期保有すれば必ず利益が得られるわけではありません。
企業の競争力や財務内容が悪化した場合には、投資判断を見直す必要があります。
長期投資とは、株価の変動を無条件に我慢することではなく、企業価値の変化を継続的に確認することです。
結論
高市政権の官民370兆円超の成長投資構想は、日本企業に新たな成長機会をもたらす可能性があります。
しかし、国策関連銘柄という理由だけで投資すれば、必ず利益が得られるわけではありません。
2025年9月末から2026年10月にかけて、国策関連とされる約230銘柄のうち、日経平均株価の上昇率を上回ったのは57銘柄にとどまりました。
この結果は、政策への期待だけでなく、企業の収益力や株価評価が重要であることを示しています。
投資判断では、PERによって株価の期待水準を確認し、ROEによって資本効率を評価することが重要です。
また、受注残高から将来の売上高を見通し、営業キャッシュフローによって利益の質を確認する必要があります。
さらに、政府支援への依存度や企業の競争優位性を分析することも欠かせません。
特に重要なのは、企業の成長性と投資時点の株価を分けて考えることです。
優れた企業であっても、株価が将来の成長を過大に織り込んでいれば、投資成果が期待を下回る可能性があります。
一方、政策への期待が後退して株価が調整された企業でも、利益成長が持続するのであれば、再評価される可能性があります。
370兆円という巨額の成長投資構想が進むなかで、株式市場では今後も企業ごとの選別が続くと考えられます。
国策関連銘柄への投資で重要なのは、政府が支援する企業を探すことだけではありません。
政府の政策を活用しながら、自らの競争力によって持続的に利益とキャッシュフローを生み出せる企業を見極めることです。
政策への期待ではなく、企業価値を基準に投資判断を行うことが、長期的な資産形成につながるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月20日 高市トレード勝率2割 どう使う370兆円、三菱重やIHIに再評価余地