資源価格の乱高下で勝つ企業と負ける企業 原材料高騰が企業収益に与える影響

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世界の資源市場で、価格変動が企業経営に与える影響が大きくなっています。

銅、コバルト、ニッケル、リチウムなどの重要鉱物は、自動車、電池、電子機器、電力設備、建設資材など、幅広い産業で使用されています。

近年は、電気自動車や人工知能の普及、再生可能エネルギーへの投資拡大などによって、重要鉱物の需要構造が変化しています。

一方、資源国による輸出規制や国内加工の義務付けが広がり、供給面の不確実性も高まっています。

例えば、コンゴ民主共和国によるコバルトの輸出規制を受け、コバルト価格は2025年2月の1トン当たり2万1,550ドルから、同年3月中旬には3万6,170ドルへと約68%上昇しました。

銅価格も2026年9月上旬に1トン当たり1万4,875ドルと過去最高値を記録しました。

一方、インドネシアではニッケルの生産能力が急拡大した結果、供給過剰が発生し、価格の下落要因となっています。

こうした資源価格の変動は、企業によって利益への影響が大きく異なります。

資源価格の上昇が利益増加につながる企業もあれば、原材料費の増加によって利益が圧迫される企業もあります。

また、資源価格が下落した場合にも、必ずしもすべての製造業が恩恵を受けるわけではありません。

今回は、資源価格の変動が企業収益に与える影響、業種ごとの違い、価格転嫁力、在庫評価、為替変動、企業分析で確認すべきポイントについて解説します。

資源価格の上昇は企業によって影響が異なる

資源価格が上昇すると、一般的には資源を生産する企業の収益が改善し、資源を購入する企業のコストが増加します。

しかし、実際の企業収益はそれほど単純ではありません。

例えば、銅鉱山を保有する企業は、銅価格が上昇すれば販売収入が増える可能性があります。

一方、銅を原材料として使用する電線メーカーや電力設備メーカーでは、仕入価格が上昇します。

ただし、原材料費の上昇分を販売価格に転嫁できれば、利益への影響を抑えることができます。

逆に、価格転嫁が難しい企業では、売上高が増加しても利益率が低下する可能性があります。

さらに、企業が保有する在庫や長期購入契約の内容によっても影響は異なります。

つまり、資源価格の上昇だけで企業業績を判断することはできません。

重要なのは、その企業が資源を販売する立場なのか、購入する立場なのか、そして価格変動をどの程度吸収できるのかという点です。

鉱山会社は資源価格の上昇で利益が増えやすい

資源価格の上昇によって直接的な恩恵を受けやすいのが鉱山会社です。

鉱山会社の収益は、一般に資源の販売価格と生産数量、生産コストによって左右されます。

例えば、ある銅鉱山の生産コストが1トン当たり8,000ドルで、販売価格が1万ドルだったと仮定します。

この場合、単純計算では1トン当たり2,000ドルの差額があります。

販売価格が1万2,000ドルに上昇すれば、差額は4,000ドルになります。

販売価格は20%の上昇ですが、単純化した差額は2倍になります。

これは説明のための仮定であり、実際の利益には減価償却費、税金、金融費用なども関係します。

それでも、資源価格の変動が鉱山会社の利益に大きく影響することが分かります。

ただし、鉱山会社にもリスクがあります。

生産設備の故障、鉱石の品位低下、労働争議、現地政府の規制変更などによって、生産量が減少する可能性があるためです。

資源価格が上昇しても、販売数量が減少すれば、利益が期待ほど増えない場合があります。

総合商社の資源利益は価格だけでは決まらない

日本の総合商社は、海外の鉱山やエネルギー事業に投資しています。

三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅などは、それぞれ異なる資源事業を保有しています。

資源価格が上昇すれば、鉱山権益から得られる利益や配当が増加する可能性があります。

しかし、総合商社の利益は資源価格だけで決まるわけではありません。

まず、資源事業の構成が企業によって異なります。

銅、鉄鉱石、石炭、天然ガスなど、どの資源に投資しているかによって、価格変動の影響は変わります。

また、資源事業以外の収益も重要です。

総合商社は、食品、機械、電力、物流、金融、生活関連など幅広い事業を展開しています。

そのため、資源価格の上昇による利益増加が、他の事業の収益悪化によって相殺される可能性もあります。

さらに、資源価格の下落局面では、鉱山権益の減損損失が発生する場合があります。

総合商社を分析する際には、資源価格への感応度だけでなく、事業構成や資本配分、財務基盤を確認することが重要です。

電線メーカーや素材メーカーは価格転嫁力が重要

銅価格の上昇によって影響を受けやすいのが、電線メーカーや非鉄金属加工メーカーです。

これらの企業は、銅などの金属を購入し、電線や加工製品を製造しています。

原材料価格が上昇すれば、製造原価も増加します。

ただし、販売価格が銅相場に連動する契約を採用している場合、原材料費の上昇分を販売価格に反映しやすくなります。

例えば、製品価格を銅の市場価格と加工費に分けて設定する仕組みがあります。

この場合、銅価格が上昇しても、加工部分の利益を比較的安定させられる可能性があります。

一方、販売価格が固定されている契約では、原材料費の上昇によって利益率が低下する場合があります。

重要なのは、売上高の増加と利益の増加を区別することです。

銅価格の上昇によって製品の販売単価が上がれば、売上高は増加します。

しかし、原材料費も同じように増加していれば、利益が大きく増えるとは限りません。

企業業績を評価する際には、売上高だけでなく、売上総利益や営業利益の動向を確認する必要があります。

自動車メーカーは電池材料の価格変動に左右される

自動車産業では、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、リチウムなど、多くの金属が使用されています。

特に電気自動車では、駆動用電池やモーター、電力ケーブルなどに重要鉱物が使用されます。

そのため、資源価格の上昇は製造コストを押し上げる要因となります。

例えば、コバルトやニッケルを使用する電池では、これらの金属価格が上昇すると、電池材料の調達コストが増加する可能性があります。

ただし、すべての電気自動車用電池が同じ材料を使用しているわけではありません。

リン酸鉄リチウム電池では、正極材料にニッケルやコバルトを使用しません。

そのため、電池の種類によって資源価格の影響は異なります。

また、自動車メーカーが原材料費の上昇を販売価格に転嫁できるかどうかも重要です。

市場競争が激しい場合、値上げによって販売台数が減少する可能性があります。

逆に、ブランド力や製品競争力が高い企業では、一定の価格転嫁が可能になる場合があります。

自動車メーカーの収益を分析する際には、資源価格だけでなく、販売台数、車種構成、電池技術、為替、価格競争などを総合的に確認する必要があります。

建設業では資材価格と工事契約の関係が重要

銅価格の上昇は、建設業にも影響します。

建築物には、電気配線、空調設備、給排水設備など、多くの銅製品が使用されています。

また、電力設備や通信設備の工事でも銅が使用されます。

資材価格が上昇すれば、建設工事の原価が増加します。

特に問題となるのが、工事契約を締結した後に資材価格が上昇する場合です。

例えば、工事代金が10億円で固定されている契約を考えます。

当初の工事原価が9億円であれば、単純計算で1億円の利益が見込まれます。

しかし、資材価格や人件費の上昇によって原価が9億5,000万円になれば、利益は5,000万円に減少します。

これは説明のための仮定ですが、原価の上昇が利益に大きく影響することを示しています。

契約条件によっては、資材価格の変動に応じて工事代金を変更できる場合もあります。

そのため、建設会社の収益を評価する際には、受注残高だけでなく、工事原価や契約条件、採算性を確認することが重要です。

在庫評価が企業利益を変動させる

資源価格の変動は、企業が保有する在庫の評価にも影響します。

製造業や素材メーカーでは、原材料や仕掛品、製品などの棚卸資産を保有しています。

資源価格が上昇すると、保有している原材料の取得原価と現在の市場価格に差が生じる場合があります。

ただし、会計上、資源価格が上昇したからといって、すべての在庫について評価益を計上できるわけではありません。

棚卸資産は、適用する会計基準や評価方法に従って処理されます。

一方、資源価格が下落した場合には、収益性の低下に伴う簿価切下げが必要になることがあります。

例えば、取得原価が100億円の在庫について、正味売却価額が80億円まで低下したと仮定します。

適用する会計基準や具体的な条件によっては、20億円の評価損を認識する必要があります。

このような評価損は、企業の利益を押し下げる要因となります。

資源価格が大きく変動する局面では、在庫数量や評価方法、評価損の発生状況を確認することが重要です。

為替変動が資源価格の影響を増幅する

日本企業が資源価格の変動を考える際には、為替相場も重要です。

銅やニッケルなどの国際商品価格は、米ドル建てで表示されることが一般的です。

そのため、ドル建て価格が変わらなくても、円安が進めば円換算の調達価格は上昇します。

例えば、ある資源の価格が1トン当たり1万ドルだったと仮定します。

為替相場が1ドル140円の場合、円換算価格は140万円です。

一方、1ドル160円まで円安が進めば、同じ1万ドルでも160万円になります。

ドル建て価格が変わらなくても、円換算では約14.3%の上昇となります。

さらに、ドル建て資源価格も上昇すれば、円換算の調達コストは一段と増加します。

逆に、円高が進めば、資源価格の上昇による影響を一部吸収できる場合があります。

日本企業にとっては、資源価格と為替相場の両方を管理することが重要です。

価格転嫁できる企業とできない企業の差

資源価格が上昇する局面では、企業の価格転嫁力が収益を左右します。

価格転嫁力とは、原材料費や人件費などの上昇分を、販売価格に反映できる能力です。

例えば、独自技術や高い品質を持つ企業では、顧客が他社製品に切り替えることが難しい場合があります。

このような企業は、一定の価格転嫁が可能になることがあります。

一方、競争が激しく、製品の差別化が難しい市場では、価格転嫁が困難になる場合があります。

その結果、原材料費の上昇によって利益率が低下します。

また、価格転嫁には時間差が生じることがあります。

原材料価格が上昇した直後には利益が圧迫されても、数カ月後に販売価格を改定することで収益が回復する場合があります。

逆に、資源価格が下落した場合には、販売価格の引き下げを求められる可能性があります。

企業の収益力を評価する際には、価格転嫁の有無だけでなく、価格改定の時期や契約条件も重要になります。

先物取引や長期契約による価格変動リスクの管理

企業は資源価格の変動リスクを抑えるため、さまざまな方法を活用しています。

代表的な方法の一つが、先物取引などを利用した価格ヘッジです。

例えば、将来購入する銅の価格上昇を懸念する企業は、一定の条件で先物取引を利用することで、価格変動の影響を抑えることができます。

ただし、ヘッジ取引にはコストが発生する場合があります。

また、価格が下落した場合には、その恩恵を十分に受けられないこともあります。

さらに、実際に購入する原材料と先物市場の商品との間に価格差がある場合、リスクを完全に相殺できない可能性があります。

長期購入契約も重要な手段です。

一定数量を長期間確保する契約によって、供給の安定性を高めることができます。

ただし、長期契約であっても、価格が市場相場に連動する場合があります。

また、輸出禁止などによって供給そのものが停止すれば、価格ヘッジだけでは対応できません。

企業には、価格変動リスクと供給停止リスクを分けて管理することが求められます。

資源価格が下落しても利益が増えるとは限らない

資源価格が下落すれば、原材料を購入する企業のコストは低下します。

そのため、製造業にとっては一般に追い風となります。

しかし、資源価格の下落が必ずしも利益増加につながるわけではありません。

例えば、資源価格の下落が世界経済の減速によって発生した場合、製造業の販売数量も減少する可能性があります。

原材料費が下がっても、売上高が大きく減少すれば、利益は増えない場合があります。

また、販売価格が原材料価格に連動している企業では、資源価格の下落によって製品の販売単価も下がります。

さらに、高値で購入した在庫を保有している場合、価格下落によって評価損が発生する可能性もあります。

このように、資源価格の下落は必ずしも製造業全体にとって好材料とは限りません。

企業業績を分析する際には、資源価格の変動が需要、販売数量、販売価格、在庫評価などに与える影響を総合的に確認する必要があります。

投資家が企業決算で確認すべきポイント

資源価格の変動が大きい局面では、企業決算の分析が重要になります。

まず確認したいのが、資源価格に対する利益の感応度です。

企業によっては、資源価格が一定額変動した場合の利益への影響を開示しています。

次に、原材料費の動向です。

売上高が増加していても、原材料費の上昇によって利益率が低下していないかを確認する必要があります。

第三に、価格転嫁の進捗状況です。

販売価格の改定が進んでいるか、原材料費の上昇分をどの程度吸収できているかが重要です。

第四に、在庫評価の影響です。

資源価格の急落によって評価損が発生していないかを確認します。

第五に、為替相場の影響です。

ドル建て資源価格が変わらなくても、円安によって調達コストが増加する場合があります。

第六に、資源事業への設備投資です。

資源価格が高い局面で巨額の投資を行うと、その後の価格下落によって投資採算性が悪化する可能性があります。

これらの要素を確認することで、資源価格の変動が企業収益に与える影響を、より正確に把握できます。

結論

資源価格の変動は、企業収益に大きな影響を与えます。

しかし、資源価格が上昇すれば資源関連企業がすべて利益を増やし、製造業がすべて損失を被るという単純な構造ではありません。

鉱山会社では、販売価格の上昇が利益増加につながる可能性がありますが、生産数量や生産コスト、現地政府の規制などによって収益は変動します。

総合商社では、保有する資源権益の種類や事業構成によって影響が異なります。

電線メーカーや素材メーカーでは、原材料費の上昇を販売価格に転嫁できるかどうかが重要です。

自動車メーカーでは、電池材料の種類や調達契約、販売価格への転嫁力が収益を左右します。

建設業では、資材価格の変動と工事契約の条件が重要になります。

さらに、在庫評価や為替変動も企業利益に影響します。

資源価格が下落した場合にも、需要減少や在庫評価損などによって、利益が必ず増えるとは限りません。

今後、アフリカ諸国の輸出規制や重要鉱物の需要拡大によって、資源価格の変動が大きくなる可能性があります。

そのため、企業には価格転嫁、調達先の分散、長期契約、価格ヘッジ、在庫管理などを組み合わせた経営戦略が求められます。

投資家にとっても、資源価格の上昇や下落だけを材料に企業業績を判断することは適切ではありません。

重要なのは、企業が価格変動をどの程度吸収できる事業構造を持っているかという点です。

資源価格の乱高下が続く時代には、価格変動そのものよりも、その変動に対応できる経営力が企業の競争力を左右します。

これからの企業分析では、売上高や利益額だけでなく、原材料価格への感応度、価格転嫁力、在庫管理、為替リスク、投資採算性などを総合的に評価することが重要になるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年10月10日 「アフリカ『資源の呪い』脱却急ぐ 相次ぐ輸出規制、価格を押し上げ」

米地質調査所 2026年 Mineral Commodity Summaries

国際エネルギー機関 重要鉱物の供給網に関する分析資料

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