この5年ほどで急成長してきた不動産小口化商品市場が、大きな曲がり角を迎えています。
足元の市場規模は年間約3,000億円に達するとみられています。
ところが、これまで市場拡大を支えてきた相続税や贈与税の節税効果が、2027年1月から大幅に縮小する方向です。
すでに販売額を大幅に減らす企業や、小口化商品の販売そのものから撤退する企業も出てきました。
今後起こるのは単なる市場縮小ではなく、事業者の淘汰とビジネスモデルの再編かもしれません。
5年ほどで急成長した3,000億円市場
不動産小口化商品は、オフィスビルやマンションなどを500万円や1,000万円といった単位に分けて販売する商品です。
個人では購入することが難しい都心の大型不動産にも、比較的少額から投資できます。
管理を事業者に任せられるため、現物不動産を直接保有するより手間が少ないというメリットもあります。
こうした特徴から市場は拡大してきました。
しかし、急成長の最大の要因の1つとなったのが、相続税や贈与税の評価圧縮効果でした。
市場価格と税務上の評価額との差を利用することで、大きな節税効果を得られる商品が登場したからです。
需要の中心は投資ではなく節税だった
不動産小口化商品は形式上、不動産投資商品です。
購入者は賃料収入などから分配を受けます。
ところが、実際の購入目的を見ると、必ずしも利回りを求める投資家ばかりではありませんでした。
象徴的なのがボルテックスです。
同社では小口化商品の顧客の約7割が節税目的だったとされています。
仮に業界全体でも同じような傾向があったとすれば、評価ルールの変更は市場に非常に大きな影響を与えます。
節税効果がなくなれば、商品を購入する理由そのものが消える顧客が大量に存在するからです。
すでに販売額は急減している
制度変更は2027年1月からの予定ですが、企業業績への影響はすでに表れています。
FPGは2026年9月期の小口化商品を中心とする国内不動産ファンド事業について、販売額を前期比47%減の505億円と見込んでいます。
ADワークスグループも2026年12月期の小口化商品売上高を前期比78%減の50億円と見込んでいます。
ボルテックスは年間売上高の約2割にあたる200億円を小口化商品が占めてきましたが、2027年3月期には半減する見通しです。
青山財産ネットワークスも2026年8月、2026年12月期の連結売上高予想を従来予想から26%引き下げ、287億円としました。
税制改正が施行される前から、すでに市場は新しいルールを織り込み始めています。
市場がゼロになるわけではない
では、年間約3,000億円の市場は消滅するのでしょうか。
そこまで単純ではありません。
不動産小口化商品には、節税以外にも一定のメリットがあるからです。
高額な不動産へ比較的少額から投資できる。
複数の物件へ資金を分散できる。
不動産管理を事業者へ任せられる。
賃料収入を受け取ることができる。
現物不動産より小さな金額で投資できる。
こうした特徴に魅力を感じる投資家は残るでしょう。
問題は、節税効果を除いたときにどれだけの需要が残るかです。
利回り競争が始まる可能性
これまで節税効果が大きければ、多少利回りが低くても商品を販売できた可能性があります。
例えば、投資としての利回りが十分高くなくても、相続税を大きく減らせるのであれば、購入者にとって総合的なメリットがありました。
しかし、その節税効果がなくなれば状況は変わります。
投資家は純粋に収益性を比較するようになります。
預金。
国債。
社債。
上場不動産投資信託。
株式。
そして現物不動産。
不動産小口化商品も、こうした他の金融資産と正面から比較されることになります。
金利が上昇している環境では、特に厳しい競争になります。
物件取得価格がより重要になる
不動産小口化商品の収益性を高めるためには、優良な不動産を適切な価格で取得する必要があります。
しかし、都心の優良物件は多くの投資家が狙っています。
取得価格が高くなれば、賃料収入に対する利回りは低下します。
それでも節税効果が大きければ販売できた時代とは違い、これからは購入価格そのものに厳しい目が向けられます。
事業者の物件取得能力が競争力を左右することになります。
単に都心の有名なビルを小口化すれば売れるという市場ではなくなっていくでしょう。
手数料にも厳しい目が向く
節税効果が縮小すれば、商品に含まれる各種コストもこれまで以上に重要になります。
物件の取得価格はいくらなのか。
投資家への販売価格はいくらなのか。
その間にどの程度の利益や手数料が含まれているのか。
運用中の管理費はいくらなのか。
売却時にどのような費用が発生するのか。
こうしたコストが最終的な投資収益を左右します。
節税という大きなメリットがあった時代には目立たなかったコストが、純粋な投資商品として比較される時代には大きな差になります。
撤退する企業も出てくる
すでに事業戦略を変更する企業が出ています。
フェイスネットワークは、1棟マンションの小口化商品を手がけてきましたが、税制改正の方針を受けて販売を取りやめました。
今後は主力の賃貸マンション開発に集中します。
これは市場再編を象徴する動きです。
節税効果を前提にしなければ採算が合わない商品や事業者は、市場から退出する可能性があります。
反対に、不動産そのものの収益力で顧客を集められる事業者には市場が残ります。
新しい顧客を探す企業も
市場縮小に対して、各社は新しい需要を取り込もうとしています。
FPGは収益性の高い案件を開発し、資産運用ニーズを取り込むことで販売回復を目指しています。
ボルテックスは、法人向けにオフィスビルをフロア単位で販売する区分販売へ力を入れています。
つまり、相続税対策を求める個人から、純粋な資産運用を求める個人や法人へ顧客層を変えようとしているわけです。
商品を変えるだけでなく、誰に売るのかという営業戦略そのものが変わり始めています。
淘汰によって市場が健全化する可能性
市場縮小というと悪いニュースに見えます。
しかし、長期的には市場の健全化につながる可能性もあります。
節税効果だけでは商品を販売できなくなれば、不動産の質そのものが問われます。
収益力の高い物件を取得できる企業。
適切な価格で商品化できる企業。
管理能力の高い企業。
情報開示が充実している企業。
売却まで含めた運用実績を積み上げている企業。
こうした事業者が選ばれるようになります。
反対に、評価圧縮効果だけを販売材料としてきた商品は淘汰されるでしょう。
3,000億円市場の中身が変わる
今後注目すべきなのは、市場規模だけではありません。
仮に年間3,000億円だった市場が1,500億円に縮小したとしても、その1,500億円が純粋な投資需要によって形成されるのであれば、市場の性格は大きく変わります。
節税目的の資金は、税制変更によって急速に流出します。
一方、投資目的の資金は、商品に十分な収益性がある限り残ります。
したがって、今回の税制改正は市場を単純に縮小させるだけではなく、需要の質を変える可能性があります。
結論
年間約3,000億円まで成長した不動産小口化商品市場は、大きな再編期に入っています。
これまで成長を支えてきた相続税や贈与税の節税需要が、2027年の評価方法見直しによって大幅に縮小するからです。
すでに販売額を大幅に減らす企業や、事業から撤退する企業も出てきました。
今後は、すべての事業者が同じように生き残れる市場ではなくなるでしょう。
節税効果がなくても投資家が買いたいと思う不動産を提供できるのか。
適切な利回りを確保できるのか。
購入から運用、売却まで透明性の高いサービスを提供できるのか。
これらが企業の競争力になります。
不動産小口化市場で始まっているのは、単なる縮小ではありません。
税制によって拡大した市場から、不動産そのものの価値によって選ばれる市場への再編です。
2027年以降、どの企業が残るのかを見ることで、不動産小口化商品の本当の競争力が見えてくることになりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換