相続税や贈与税の節税需要を取り込んで急成長してきた不動産小口化商品市場で、事業者の戦略転換が始まっています。
2027年1月から相続税や贈与税の評価方法が見直され、市場価格をより反映する方向となったためです。
これまで大きな販売材料だった評価圧縮効果が縮小すれば、「相続税を減らせます」という理由だけでは商品を販売できなくなります。
FPGやボルテックスなど関連企業が迫られているのは、単なる商品の見直しではありません。
顧客、商品、収益モデルを含めた事業そのものの転換です。
FPGは販売額47%減を見込む
制度改正の影響を象徴しているのがFPGです。
同社は2026年9月期、小口化商品を中心とする国内不動産ファンド事業の販売額について、前期比47%減の505億円を見込んでいます。
ほぼ半減です。
ただし、同社は不動産小口化事業から撤退するわけではありません。
収益性の高い案件を開発し、資産運用を目的とする顧客を取り込むことで販売回復を目指す方針です。
ここに、今後の不動産小口化市場を考える重要なヒントがあります。
節税需要が減るのであれば、投資需要を増やさなければならないということです。
節税商品なら低い利回りでも売れた可能性
これまで不動産小口化商品を購入する人にとって、投資収益はメリットの1つにすぎませんでした。
相続税や贈与税を大きく減らせるのであれば、利回りが多少低くても総合的には魅力的だったからです。
例えば投資として得られる収益が年間2%でも、相続時に大きな評価圧縮効果が得られるのであれば購入する理由になります。
ところが、評価圧縮効果がなくなれば話は変わります。
年間2%という収益そのものが、他の商品と比較されます。
国債と比べてどうなのか。
社債と比べてどうなのか。
上場不動産投資信託と比べてどうなのか。
現物不動産と比べてどうなのか。
節税という下駄を履かなくなった商品には、純粋な投資競争が待っています。
FPGが目指すのは収益性の高い案件
そのため、FPGが掲げる収益性の高い案件開発には重要な意味があります。
投資家が節税ではなく運用収益を見るようになれば、物件の取得能力が企業の競争力になります。
賃料収入が安定している。
立地がよい。
優良なテナントが入居している。
適切な価格で取得できている。
将来の売却価格が期待できる。
こうした不動産を商品化できなければ、投資家を集めることは難しくなります。
税務上の評価差ではなく、物件そのものの価値を見つける力が問われることになります。
ボルテックスは法人需要へ軸足
ボルテックスも大きな転換を迫られています。
同社では年間売上高の約2割にあたる200億円を小口化商品が占めてきました。
しかも、顧客の約7割が節税目的だったとされています。
2027年3月期には小口化商品の売上高が半減する見込みです。
そこで力を入れているのが、オフィスビルを法人向けにフロア単位で販売する区分販売です。
個人の相続税対策から、法人の資産運用へ顧客層を広げようとしているわけです。
法人には個人とは違う需要がある
法人が不動産を購入する理由は、個人の相続税対策とは異なります。
本業以外の安定収益を得たい。
余剰資金を運用したい。
インフレに備えて実物資産を保有したい。
将来の自社利用も視野に入れたい。
資産構成を分散したい。
こうした需要があります。
節税効果だけに依存しないため、優良な不動産を提供できれば一定の市場が期待できます。
一方で法人の財務担当者は、収益性や資産価値を厳しく確認します。
個人向けの節税商品をそのまま法人へ売ればよいわけではありません。
青山財産ネットワークスにも影響
青山財産ネットワークスも制度変更の影響を受けています。
同社は2026年8月、2026年12月期の連結売上高予想を従来予想から26%引き下げ、287億円としました。
株価も直近1年間で約3割下落しています。
市場が見ているのは、単年度の販売減少だけではないでしょう。
節税需要に支えられてきたビジネスを、今後どのような収益源へ置き換えるのかという問題です。
制度変更によって需要が構造的に減る場合、一時的な販売不振とは意味が違います。
新しい成長モデルを示せるかどうかが企業評価を左右します。
ADワークスグループは78%減
影響の大きさがさらに分かりやすいのがADワークスグループです。
2026年12月期の小口化商品売上高は、前期比78%減の50億円を見込んでいます。
売上高が約8割減るというのは、通常の景気変動だけでは説明しにくい大きさです。
税制によって生まれていた需要が、制度変更によって急速に消えていることを示しています。
事業者にとって怖いのは、売上高が減ることだけではありません。
節税を目的として集まっていた顧客を、純粋な投資家へ転換できるのかという問題があります。
撤退という選択肢もある
すべての企業が不動産小口化事業を続ける必要はありません。
フェイスネットワークは、1棟マンションの小口化商品を手がけてきましたが、税制改正の方針を受けて販売を取りやめました。
今後は主力の賃貸マンション開発に集中します。
これは合理的な経営判断とも考えられます。
市場環境が大きく変わったとき、無理に既存事業を維持するより、自社が強みを持つ分野へ経営資源を戻す選択肢もあるからです。
制度変更は、各社に「この事業を本当に続けるべきなのか」という問いを突きつけています。
税制に依存するビジネスの難しさ
今回の事例は、不動産業界だけの話ではありません。
税制上のメリットを販売材料とするビジネスには、常に制度変更リスクがあります。
税制優遇によって商品需要が生まれる。
市場が急成長する。
節税効果を前面に出した商品が増える。
利用者が急増する。
税負担の公平性が問題になる。
制度が改正される。
需要が急減する。
この流れは、さまざまな節税商品で繰り返されてきました。
制度によって生まれた需要は、制度によって消える可能性があります。
生き残る企業は何が違うのか
2027年以降、不動産小口化市場で企業間の差が明確になる可能性があります。
重要になるのは、税制以外の競争力です。
優良な物件を仕入れる力。
不動産価値を高める運用力。
安定したテナントを確保する力。
コストを適切に管理する力。
投資家へ十分な情報を提供する力。
最終的に適切な価格で売却する力。
これらは本来、不動産運用会社に求められる基本的な能力です。
節税効果が大きかった時代には見えにくかった企業の実力が、これから表面化することになります。
顧客との関係も変わる
販売方法も変わるでしょう。
節税商品であれば、税負担がどれだけ減るかを説明することが営業の中心になりやすくなります。
資産運用商品になれば、説明すべき内容は大きく増えます。
想定利回り。
賃料収入。
テナント状況。
建物の修繕計画。
周辺不動産の取引価格。
保有期間。
売却方法。
価格下落リスク。
投資家も、これらを理解したうえで判断する必要があります。
販売会社と顧客の関係も、節税提案から資産運用コンサルティングへ変わっていく可能性があります。
結論
2027年の評価ルール改正によって、不動産小口化商品を手がける企業は大きな戦略転換を迫られています。
FPGは収益性の高い案件を増やし、資産運用需要を取り込もうとしています。
ボルテックスは法人向けの区分販売へ力を入れています。
一方、フェイスネットワークのように小口化商品の販売から撤退する企業もあります。
どの選択が正解なのかは企業によって異なります。
ただし、共通していることがあります。
これからは「税金が減るから売れる」という市場ではなくなるということです。
税制が変わっても顧客が欲しいと思う商品を提供できるのか。
不動産そのものから十分な収益を生み出せるのか。
今回の制度改正は、不動産小口化商品の評価方法を変えるだけではありません。
関連企業に対して、節税ビジネスから資産運用ビジネスへの転換を迫る改正でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換