土地の取得や利用を適正に把握するためには、国だけでも、地方公共団体だけでも十分とは限りません。
今回の提言では、国、都道府県、市町村がそれぞれの役割に応じて分担し、連携体制を構築して「重層的に対応」すべきとしています。
土地取引に関する情報を国が把握し、地域の実情に近い地方公共団体と共有する。そして必要に応じて現地調査や指導監督につなげていく。
土地行政が、それぞれの行政機関による個別対応から、国と地方が連携する仕組みへと変わる可能性があります。
なぜ重層的な対応が必要なのか
土地に関する問題には、2つの異なる側面があります。
1つは、土地取引に関する情報を広く把握することです。
もう1つは、その土地が実際にどのように利用され、地域にどのような影響を与えているのかを確認することです。
土地取引情報を全国的に把握するという点では、国の役割が重要になります。
一方、実際の土地利用については、その地域に近い都道府県や市町村が重要な役割を担うことになります。
今回の提言では、こうした役割を組み合わせて対応する必要性が示されています。
国は土地取引情報を把握する
提言では、届出対象面積未満の土地取引情報について、国が把握して地方公共団体への提供等を行う仕組みを構築すべきとしています。
ここに国の重要な役割が見えてきます。
現在の届出制度には面積基準があるため、基準未満の土地取引は届出制度の対象外となります。
そこで、届出対象かどうかだけに依存せず、国がより幅広く土地取引情報を把握する方向性が示されています。
国が土地情報を集約し、それを必要な地方公共団体につなぐという仕組みです。
都道府県は指導監督で重要な役割を担う
都道府県については、さらに具体的な役割が提言されています。
資料では、周辺地域に悪影響を生じさせるような土地利用であっても、土地利用関連法では必ずしも禁止されていないものが存在することを、法規制の「隙間」として問題視しています。
そこで、国土利用計画法に基づく土地利用基本計画に「不適切な土地利用」に該当する行為を明示し、都道府県による指導監督の根拠とする方向性が示されています。
つまり都道府県は、土地情報を受け取るだけではなく、一定の場合には実際の土地利用に対して指導監督を行う役割を担う可能性があります。
土地の情報把握と行政による対応をつなぐ存在として、都道府県の役割が重要になりそうです。
市町村は地域に最も近い行政機関
今回の資料では、市町村について都道府県ほど具体的な権限が示されているわけではありません。
一方、提言では国、都道府県、市町村が役割に応じた分担と連携体制を構築し、重層的に対応すべきとしています。
土地が実際に存在する地域に近い行政機関として、市町村もこの連携体制に含まれています。
特に無届事案については、登記情報との照合などによって把握し、現地調査に入ることが提言されています。
ただし、現地調査を具体的にどの行政機関がどのように担当するのかについて、今回の資料では詳細まで示されていません。
市町村の具体的な役割については、今後の制度設計を確認する必要があります。
地方公共団体が届出基準を変えられる可能性
今回の提言では、地方公共団体に関してもう1つ重要な方向性が示されています。
土地取得時に必要となる届出の対象面積について、全国一律で引き下げるだけでなく、地方公共団体による引下げも可能にすべきとしています。
これは土地規制の地域化ともいえる動きです。
土地をめぐる状況は地域によって異なります。
そのため、全国共通の基準だけではなく、地域の実情に応じて地方公共団体が届出対象を広げられる仕組みが検討されています。
実現すれば、地方公共団体は国が定めた制度を運用するだけでなく、地域の事情に応じて情報把握の範囲を広げる役割も持つ可能性があります。
国から地方へ情報を流す仕組みが重要になる
国と地方公共団体がそれぞれ情報を持っているだけでは、重層的な土地行政にはなりません。
重要なのは情報をつなぐことです。
今回の提言では、届出対象面積未満の土地取引情報を国が把握し、地方公共団体へ提供する仕組みの構築が求められています。
国が全国的な土地取引情報を把握しても、その情報が土地の所在する地域へ提供されなければ、実際の土地利用の確認にはつながりにくくなります。
反対に、地方公共団体が地域で土地利用上の問題を把握していても、必要な取引情報がなければ状況を十分に確認できない場合があります。
国と地方を情報で結ぶことが、今回の制度見直しの重要なポイントです。
登記情報との照合も連携の入口になる
無届事案への対応でも、行政機関の連携が重要になります。
提言では、登記情報との照合によって無届事案を把握し、現地調査に入るなど、対応を強化すべきとしています。
土地取引に関する届出情報と登記情報を照合して無届の可能性を把握し、その後必要に応じて現場を確認する流れです。
情報上の確認と地域での現地確認を組み合わせるのであれば、行政機関相互の情報共有が欠かせません。
土地に関する情報を個々の行政機関の中だけにとどめない仕組みが重要になります。
取得後の利用状況も共有対象になる可能性
今回の提言では、土地を取得した後についても継続的に把握する方向性が示されています。
届出後に利用目的を変更した場合には再届出を求め、土地利用の継続的なモニタリングを可能にすべきとしています。
つまり、行政が把握する情報は土地取得時点だけではありません。
取得時の利用目的と、その後の利用目的の変更を継続して把握する仕組みが検討されています。
土地取引情報、登記情報、利用目的に関する情報などを国と地方公共団体がどのように共有するのかも、今後の制度設計では重要になるでしょう。
企業は所在地ごとの制度確認が重要になる
企業側から見ると、国と地方公共団体の役割分担が変われば、土地取得時の実務にも影響する可能性があります。
特に注意したいのが、地方公共団体による届出対象面積の引下げです。
これが制度化されれば、同じ面積の土地を取得する場合でも、所在地によって届出の要否が異なる可能性があります。
全国に事業所や店舗、工場、倉庫などを持つ企業では、全国共通の面積基準だけを社内マニュアルに記載しておけばよいとは限らなくなります。
土地が所在する地方公共団体の基準まで確認する仕組みが必要になる可能性があります。
役割分担の詳細はこれから決まる
今回の提言では、国、都道府県、市町村が役割に応じて分担し、連携体制を構築するという方向性は示されています。
一方、それぞれが具体的に何を担当するのかについて、すべてが明確になっているわけではありません。
例えば、無届事案の現地調査を誰が主体となって行うのか、国から地方公共団体へどのような情報が提供されるのか、市町村にどのような権限を持たせるのかといった点は、今回の資料だけでは分かりません。
国土交通省は提言を受け、国土利用計画法など関連法の見直しも視野に入れ、具体的な制度や施策を検討するとされています。
今後は法律の改正内容とともに、行政機関相互の役割分担にも注目する必要があります。
結論
今回の土地規制見直しでは、国、都道府県、市町村がそれぞれ単独で対応するのではなく、役割を分担して重層的に対応する方向性が示されています。
国は土地取引情報を幅広く把握し、地方公共団体へ提供する仕組みを構築することが求められています。
都道府県については、「不適切な土地利用」に対する指導監督の役割が想定されています。
さらに市町村を含めた連携体制を構築し、無届事案や実際の土地利用にも対応していく考え方です。
企業側でも、全国共通の法律だけでなく、土地が所在する地域の制度を確認する重要性が高まる可能性があります。
土地行政は、国か地方かという二者択一ではありません。
全国的な情報を持つ国と、土地利用の現場に近い地方公共団体をつなぎ、それぞれの強みを生かして管理する仕組みへ変わろうとしている点が、今回の提言の重要な特徴といえるでしょう。
参考
企業実務 2026年10月号 土地の取得・利用に関する規制の見直しを求める提言がまとめられる