米国の長期金利が5%を超えるような環境では、金を持つ意味について疑問が生じます。
米国債なら利息を受け取ることができます。
一方、金には利息がありません。
それなら金より米国債を持った方が有利ではないかという考え方です。
しかし、金と米国債は同じ役割を持つ資産ではありません。
利回りだけを比べても、本当の違いは見えてきません。
米国債には利息がある
米国債の大きな特徴は、保有することで利息を受け取れることです。
例えば単純化して利回り5%の債券に1,000万円を投資したと考えれば、年間50万円に相当する利回りです。
もちろん実際の収益は購入価格、残存期間、為替、税金などによって変わります。
それでも金利がほとんどなかった時代と比べれば、債券そのものの魅力が高まることは確かです。
高金利になるほど、利息を生まない金には強力な競争相手が現れることになります。
金には利息がない
金を1キログラム保有しても、1年後に金が増えているわけではありません。
配当も利息もありません。
収益を得るには、基本的に購入価格より高い価格で売却する必要があります。
このため金利が上昇すると、金を保有する機会費用が大きくなります。
米国債で高い利回りを得られるのに、なぜ利息を生まない金を保有するのかという疑問が強くなるからです。
元の記事で金価格が下落した背景にも、米長期金利の高止まりがあります。
それでも金が保有される理由
それでは、高金利になれば金は不要になるのでしょうか。
そう単純ではありません。
金と米国債では、資産の性質が異なります。
米国債は米国政府が発行する債務です。
投資家から見れば資産ですが、米国政府から見れば負債です。
一方、金には発行体がありません。
誰かの債務ではなく、特定の政府や企業が支払いを約束している資産でもありません。
この違いが、金融システムや政府債務への不安が高まったときに重要になります。
信用リスクの構造が違う
米国債には米国政府という発行体があります。
したがって、その価値は米国政府の信用や財政、金融市場の状況と無関係ではありません。
金には発行体が存在しません。
特定の企業が倒産したから金そのものの価値がなくなるというものではありません。
特定の政府が財政難になったから金そのものが消滅するわけでもありません。
この意味で、金と米国債では信用リスクの構造が根本的に異なります。
米国債にも価格変動がある
米国債というと安全な資産というイメージがありますが、市場で売買される債券の価格は変動します。
特に金利上昇局面では、既に発行されている債券の価格は下落しやすくなります。
例えば低い金利で発行された債券を保有しているとき、新しく高い金利の債券が発行されれば、古い債券の魅力は低下します。
そのため満期前に売却すれば損失が発生する可能性があります。
米国債は利息があるから価格変動リスクがないということではありません。
残存期間によってリスクが違う
米国債を見る場合には、満期までの期間も重要です。
短期国債と長期国債では金利変動への反応が違います。
一般的に、満期までの期間が長い債券ほど金利変動による価格への影響が大きくなります。
長期金利が大きく上昇すれば、長期国債の価格が大幅に下落する可能性があります。
金と米国債を比較するときには、単に米国債という1つの資産として考えるのではなく、どの期間の国債なのかも確認する必要があります。
インフレでは立場が変わる
インフレも両者の魅力を左右します。
固定された利息を受け取る債券では、物価が大きく上昇すると受け取るお金の実質的な価値が低下します。
例えば5%の利回りがあっても、物価が5%上昇すれば、購買力という観点ではその利回りの意味は大きく変わります。
一方、金は通貨の購買力低下を警戒する局面で買われることがあります。
ただしインフレを抑えるために金利が大きく引き上げられれば、金価格には逆風になります。
インフレだから必ず金が有利という単純な関係ではありません。
実質金利が判断材料になる
金と米国債を考えるうえでも実質金利は重要です。
名目金利が高く、インフレ率が低ければ、債券から得られる実質的な収益は大きくなります。
この環境では金にとって厳しくなりやすいでしょう。
反対に名目金利が高くても、それ以上にインフレ率が高ければ、実質的な利回りは低くなります。
その場合には、利息があるという米国債の優位性を名目金利だけで判断することはできません。
5%という数字だけではなく、その5%にどれだけの実質的な価値があるのかを見る必要があります。
日本の投資家には為替がある
日本の投資家が米国債と金を比較する場合には、為替を無視できません。
米国債をドル建てで保有すれば、ドル円相場の影響を受けます。
米国債から5%の利回りを得ても、その間に大幅な円高が進めば、円換算した資産価値が減少する可能性があります。
金についても国際価格は主としてドル建てです。
ドル建て金価格が下落しても円安が進めば、円建て金価格が下がらないことがあります。
日本の投資家にとっては、金と米国債の双方に為替という重要な要素が加わります。
金と米国債は目的が違う
最も重要なのは、金と米国債を単純な競争相手として考えないことです。
米国債には利息収入を得る役割があります。
満期まで保有することで、一定のキャッシュフローを見込みやすいという特徴もあります。
一方、金には利息がありません。
その代わり、特定の発行体を持たず、通貨価値や金融システムへの不安に備える役割があります。
つまり、どちらが優れているかではなく、何を目的として保有するかによって意味が変わります。
両方を持つという考え方もある
資産運用では、必ずどちらか1つだけを選ばなければならないわけではありません。
米国債と金は異なる局面で異なる値動きをする可能性があります。
金利が高く安定している局面では、債券の利息収入が魅力になります。
インフレや財政、通貨への不安が強まれば、金が注目される可能性があります。
異なる特徴を持つ資産を組み合わせることで、特定の経済環境への依存を小さくする考え方もあります。
5%という数字だけで決めない
米長期金利が5%を超えると、その数字には強いインパクトがあります。
利息を生まない金より5%の利回りを持つ米国債の方が魅力的に見えるのは自然です。
しかし、その5%が将来も続くとは限りません。
インフレ率も変化します。
為替も変動します。
債券価格も動きます。
金価格も変動します。
さらに財政や金融政策への評価も変化します。
1つの利回りだけで長期的な資産の役割を判断することはできません。
結論
金と米国債のどちらが魅力的なのかという問いには、単純な答えはありません。
米国債には利息があります。
金には利息がありません。
高金利環境では、この違いは米国債にとって大きな強みになります。
一方で米国債は米国政府の債務であり、金には特定の発行体がありません。
金は通貨価値や財政、金融システムへの不安に備える資産として異なる役割を持っています。
さらに日本の投資家には為替リスクがあります。
したがって、5%の米国債と利息ゼロの金という数字だけを比較するのでは不十分です。
利息を得たいのか。
購買力の低下に備えたいのか。
金融システムとは異なる資産を持ちたいのか。
資産全体を分散したいのか。
目的によって両者の意味は変わります。
金と米国債はどちらか一方が常に優れている資産ではありません。
異なる役割を持つからこそ、経済環境が変化したときに両者の魅力も変化するのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月30日 夕刊 明暗分ける金と仮想通貨