金は代表的な安全資産といわれます。
戦争や金融危機、インフレ、通貨不安などが起こると金が買われるというイメージを持っている人も多いでしょう。
それでは、安全資産である金の価格が大きく下落することがあるのはなぜでしょうか。
元の記事では、中東情勢への警戒が続いているにもかかわらず、金先物価格は8月19日と比べて9月29日時点で約10%下落したとされています。
安全資産という言葉は、価格が安全という意味ではありません。
ここを理解することが、金投資を考える出発点になります。
安全資産でも価格は変動する
まず確認しておきたいのは、安全資産と元本保証はまったく違うということです。
金には元本保証がありません。
1,000万円で購入した金が、いつでも1,000万円以上で売却できるわけではありません。
市場価格が下落すれば評価額も減少します。
安全資産と呼ばれるのは、特定の企業や政府の信用だけに依存せず、金融不安などの局面で資金の逃避先として選ばれることがあるからです。
価格そのものが安全なのではありません。
金には利息がない
金価格が下落する大きな要因の1つが金利です。
金そのものを保有していても利息は発生しません。
一方、国債を保有すれば利息を受け取ることができます。
国債利回りが1%のときと5%のときでは、金を保有する機会費用は大きく異なります。
安全性の高い国債から高い利回りを得られるようになれば、利息を生まない金を保有する相対的な魅力は低下します。
高金利が金価格の逆風になる理由です。
実質金利が重要になる
ただし、名目金利だけを見ればよいわけではありません。
重要なのが実質金利です。
例えば名目金利が5%でも、予想インフレ率が4%なら、単純化した実質金利は1%です。
一方、名目金利が5%で予想インフレ率が2%なら、実質金利は3%になります。
実質金利が高くなるほど、利息を生まない金の機会費用は大きくなります。
金価格を見るときに米国の実質金利が注目されるのはこのためです。
ドル高も金の逆風になる
金は国際市場で主としてドル建てで取引されます。
そのため、ドルの動きも重要です。
ドルが上昇すると、ドル以外の通貨を使う投資家にとって金が割高になります。
それが金需要を抑える方向に働くことがあります。
反対にドル安になると、金が相対的に購入しやすくなり、金価格の追い風になることがあります。
一般的には、金利上昇とドル高が同時に進む局面は金にとって厳しい環境になりやすいと考えられます。
買われ過ぎの反動もある
元の記事では、金価格が下落した背景として、それまでの買われ過ぎも指摘されています。
どれほど長期的な上昇材料があっても、価格が短期間に急上昇すれば利益確定売りが出ます。
例えば100で買った資産が短期間で150になれば、利益を確定したい投資家が増えても不思議ではありません。
新しい買い手が減少する一方で利益確定売りが増えれば、価格は下落します。
安全資産であることと、割高にならないことは別の問題なのです。
地政学リスクがあっても上がるとは限らない
戦争や国際情勢の緊張は金価格の上昇材料として知られています。
しかし、地政学リスクが存在すれば必ず金価格が上昇するわけではありません。
市場がそのリスクを既に織り込んでいる場合があります。
緊張が長期化すると、市場参加者が状況に慣れることもあります。
さらに、地政学リスクによる買いより高金利による売りの方が強ければ、金価格は下落します。
元の記事でも、中東情勢への懸念が続くなかで金の安全資産としての魅力が弱まっているとの見方が紹介されています。
複数の材料の強弱を見る必要があります。
株価上昇も金需要を弱めることがある
投資家が将来に楽観的になり、株式市場が上昇しているときには、安全資産からリスク資産へ資金が移ることがあります。
金を売って株式を買う。
国債を減らして株式を増やす。
こうした資産配分の変更です。
金そのものに悪材料がなくても、他の資産の魅力が高まることで相対的に売られる場合があります。
資産価格は、その資産だけの事情で決まるわけではありません。
中央銀行の買いがあっても下落する
中央銀行による金購入は、中長期的な金需要を支える要因になります。
しかし、それだけで金価格が常に上昇するわけではありません。
中央銀行が買っていても、ETFから大量の資金が流出したり、投資家による利益確定売りが増えたりすれば、価格が下落する可能性があります。
長期的な構造要因と短期的な価格変動は分けて考える必要があります。
中央銀行が買っているから金は下がらないということではありません。
安全資産としての役割は危機によって違う
危機にもさまざまな種類があります。
銀行への信用不安。
政府債務への不安。
インフレ。
戦争。
株式市場の急落。
急激な金利上昇。
それぞれの危機で投資家が求める資産は異なります。
現金が選ばれることもあります。
米国債が買われることもあります。
ドルが買われることもあります。
金が買われることもあります。
安全資産だからあらゆる危機で最も強いというわけではありません。
換金売りで金が下がることもある
金融市場が極端に混乱した場合には、意外な現象も起こります。
安全資産とされる金まで売られることがあります。
投資家が損失を抱え、現金を確保する必要が生じれば、利益が出ている資産を売却することがあります。
その対象が金になる場合もあります。
他の投資で生じた損失を補うために金を売ることもあります。
市場が混乱しているから金が必ず上昇するとは限らない理由の1つです。
日本では円建て価格も見る
日本の投資家には、さらに為替という要因があります。
国際的な金価格がドル建てで下落しても、同時に円安が進めば円建て金価格の下落幅は小さくなることがあります。
場合によっては、ドル建て金価格が下落しているのに円建て価格が上昇することもあります。
反対に金価格がドル建てで上昇しても、急激な円高が進めば円建て価格では上昇幅が小さくなる可能性があります。
日本で金を考える場合、金そのものと為替の両方を見る必要があります。
安全資産は役割で考える
金を見るときには、価格が上がるか下がるかだけで評価しないことも重要です。
金には利息がありません。
企業のように利益を生み出すわけでもありません。
一方で、特定の発行体を持たず、株式や債券とは異なる値動きをすることがあります。
そのため、資産全体を分散する役割を期待して保有されることがあります。
安全資産という言葉は、値下がりしない資産という意味ではなく、他の資産とは異なる性質を持つ資産と考えた方が理解しやすいでしょう。
結論
金が安全資産でありながら下落することに矛盾はありません。
安全資産とは、価格が保証されている資産という意味ではないからです。
金には金利上昇という逆風があります。
実質金利の上昇があります。
ドル高があります。
買われ過ぎからの利益確定売りもあります。
投資家のリスク選好が改善すれば、株式などへ資金が移ることもあります。
地政学リスクが存在していても、それ以上に強い売り材料があれば金価格は下落します。
元の記事で金価格が8月19日から9月29日までに約10%下落したことは、安全資産という言葉と価格上昇を同一視できないことを示しています。
金を見るときに重要なのは、安全資産だから上がると考えることではありません。
金利、インフレ、ドル、需給、地政学リスク、投資家心理などを組み合わせて考えることです。
安全資産にも価格変動リスクがある。
この当たり前の事実を理解することが、金という資産を正しく理解する第一歩なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月30日 夕刊 明暗分ける金と仮想通貨