2027年1月から始まる「こどもNISA」は、子どもの資産形成を支援する制度です。
しかし、この制度にはもう1つ大きな意味があります。
高齢世代に偏っている金融資産を、子や孫の世代へ早い段階で移すきっかけになることです。
日本の家計金融資産は約2,500兆円に達し、その6割超を60歳以上が保有しています。
一方、若い世代には教育、子育て、住宅取得など大きな資金需要があります。
資産を多く持つ世代と、お金を必要としている世代が一致していないのです。
こどもNISAは、この世代間の資産の偏りを動かす仕組みになる可能性があります。
日本の金融資産は高齢世代に集中している
日本の家計は、世界でも大きな金融資産を持っています。
その総額は約2,500兆円です。
問題は、その資産がどの世代に保有されているのかです。
60歳以上が家計金融資産の6割超を保有しています。
長年働き、住宅ローンの返済を終え、退職金などを受け取った高齢世代に金融資産が蓄積されること自体は自然です。
一方、20代、30代、40代には大きな支出があります。
結婚。
住宅取得。
出産。
子育て。
教育。
若い時期ほど資金が必要なのに、金融資産は高齢になってから増えるという時間的なずれが生じています。
相続だけでは資産移転が遅くなる
これまで世代間の資産移転で中心となってきたのは相続です。
しかし、長寿化によって相続が発生する年齢も高くなっています。
例えば親が90歳で亡くなれば、財産を相続する子どもは60歳代になっていることも珍しくありません。
そのころには、子ども自身もすでに一定の金融資産を持っている可能性があります。
一方、本当に資金を必要としていた30代や40代の時期には、親の財産はまだ親の手元にあります。
相続だけに依存すると、資産が必要な世代へ届く時期が遅くなるのです。
そこで重要になるのが、生前の資産移転です。
こどもNISAなら孫世代へ直接資金を移せる
こどもNISAでは0歳から投資できます。
祖父母が孫へ資金を贈与し、その資金をこどもNISAで運用することも考えられます。
年間投資上限は60万円です。
例えば祖父母が毎年60万円を孫へ贈与し、10年間積み立てれば、投資元本は600万円になります。
もちろん贈与税については別途考える必要があります。
しかし、資産移転という視点では、祖父母の金融資産を孫世代へ直接移せることに大きな意味があります。
祖父母から親、親から子という順番を待たず、若い世代へ資金を届けることができます。
現預金から投資へ動く可能性がある
日本の家計金融資産の特徴は、現金や預金の割合が高いことです。
約2,500兆円の家計金融資産のうち、1,100兆円超が現金や預金で保有されています。
割合にすると約45%です。
祖父母が預金として持っていた60万円を孫へ贈与し、その資金がこどもNISAを通じて投資信託などへ投資されれば、お金の性格が変わります。
高齢世代の預貯金が、若い世代の投資資金へ変わるのです。
こどもNISAには、世代間の資産移転と「貯蓄から投資へ」を同時に進める可能性があります。
投資されたお金は企業にも流れる
こどもNISAで投資された資金は、単に子どもの口座の中にとどまるわけではありません。
投資信託などを通じて、株式や債券などの金融市場へ流れます。
企業が成長するためには資金が必要です。
新しい工場をつくる。
研究開発を進める。
デジタル化を進める。
海外へ進出する。
新しい事業を始める。
家計のお金が資本市場へ流れることで、企業の成長を支える資金につながる可能性があります。
高齢世代の預貯金を若い世代へ移し、さらに投資を通じて企業へ流す。
これが進めば、こどもNISAは家計の資産形成だけでなく、日本経済のお金の流れにも影響を与える可能性があります。
祖父母にとっても生前に資金の使い道を確認できる
生前贈与には、相続とは異なる特徴があります。
相続では、自分が亡くなった後に財産が移ります。
そのため、自分の財産が子や孫にどのように使われるのかを見ることはできません。
一方、生前に孫のこどもNISAへ資金を提供すれば、その後の資産形成を見守ることができます。
孫の教育に使う。
成人後の資産形成につなげる。
親子で投資について学ぶ。
こうした使い方を祖父母自身が確認できます。
単なる節税ではなく、自分の財産を次世代のためにどう使うかを考えられる点にも意味があります。
資産を移せる家庭だけが有利になる問題もある
一方、こどもNISAによる世代間の資産移転には課題もあります。
祖父母が十分な金融資産を持つ家庭では、0歳から毎年60万円を投資できるかもしれません。
しかし、祖父母や親に経済的な余裕がない家庭では、同じように投資することは困難です。
こどもNISAは投資する資金そのものを政府が提供する制度ではありません。
家庭に資産があるかどうかによって、制度を利用できる程度に差が生じる可能性があります。
長期間の運用によってその差が拡大することも考えられます。
世代間の資産移転を促進することと、子どもの経済格差への対応は別の問題として考える必要があります。
祖父母の老後資金を先に確保する
世代間の資産移転を進める場合でも、高齢者が持つ資産をすべて若い世代へ移せばよいわけではありません。
祖父母自身にも長い老後があります。
生活費。
医療費。
介護費。
住宅修繕費。
高齢者施設への入居費。
こうした支出が将来必要になる可能性があります。
孫への贈与を優先した結果、自分の老後資金が不足すれば、最終的には子ども世代が支援しなければならなくなるかもしれません。
まず自分の老後資金を確保し、そのうえで余裕資金を次世代へ移すことが基本になります。
相続を待たずにお金を動かす意味
資産承継では、誰にいくら渡すかだけでなく、いつ渡すかも重要です。
80歳の人が持っている100万円と、20歳の人が持っている100万円では、使い道が異なる場合があります。
若い世代であれば、教育や資格取得などに使うことができます。
住宅取得の準備にも使えます。
さらに長期間投資することもできます。
資産を必要としている時期に移すことで、同じ金額でも活用できる時間が長くなります。
こどもNISAは、相続が発生するまで資産移転を待つという従来の考え方を変える可能性があります。
結論
こどもNISAには、子どもの資産形成だけでなく、世代間の資産移転を促す役割が期待されています。
日本の家計金融資産は約2,500兆円あり、その6割超を60歳以上が保有しています。
さらに1,100兆円超が現金や預金として保有されています。
祖父母がその一部を孫へ生前に移し、こどもNISAで投資すれば、高齢世代の預貯金を若い世代の長期投資資金へ変えることができます。
そして投資された資金は、金融市場を通じて企業の成長資金につながる可能性があります。
ただし、祖父母自身の老後資金を確保することや、資産を持つ家庭と持たない家庭の格差についても考える必要があります。
重要なのは、高齢世代から若い世代へ単純にお金を移すことではありません。
資産を必要とする世代へ、必要な時期に資金を移し、そのお金を将来の資産形成につなげることです。
こどもNISAは、日本に蓄積された金融資産を世代を超えて動かす、新しい資金循環の入口になる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に