2027年1月から始まる「こどもNISA」では、0歳から年間60万円まで投資できるようになります。
子ども自身には通常、投資に回せる大きな収入はありません。
そのため、親だけでなく祖父母が孫の投資資金を提供するケースも考えられます。
そこで注目されるのが、相続対策との関係です。
祖父母が生前に孫へ財産を贈与すれば、祖父母が保有する財産はその分だけ減ります。
その資金を孫がこどもNISAで長期運用すれば、次世代への資産移転と資産形成を同時に進めることができます。
ただし、こどもNISAそのものに相続税を減らす機能があるわけではありません。
NISAと生前贈与と相続税は、それぞれ別の制度として整理する必要があります。
こどもNISAそのものは相続税の優遇制度ではない
まず確認しておきたいのは、こどもNISAは相続税対策のためにつくられた制度ではないということです。
こどもNISAは、子どもの長期的な資産形成を支援する制度です。
年間投資上限は60万円、非課税保有限度額は600万円です。
制度の対象となる投資によって生じた利益などについて、NISAの非課税措置を受けることができます。
一方、相続税は亡くなった人から財産を取得した場合に関係する税金です。
こどもNISAの口座をつくっただけで、祖父母の相続財産が減るわけではありません。
重要なのは、その口座へ入れる資金を誰が所有しているのかです。
生前贈与すれば祖父母の財産から離れる
祖父母が自分の財産を孫へ適切に贈与すれば、その財産は原則として孫の財産になります。
例えば祖父が孫へ60万円を贈与し、その60万円を孫のこどもNISAで運用するとします。
贈与が適切に成立すれば、60万円は祖父の財産ではなく孫の財産になります。
その後、孫の口座で投資信託を購入し、資産が増えた場合、その運用資産も孫の財産として形成されていきます。
このように、生前贈与によって祖父母から孫へ財産を移すことが、結果として将来の相続財産を減らす方向に働くことはあります。
ただし、それはこどもNISAの効果ではなく、生前贈与による資産移転の効果です。
年間60万円と110万円の関係
暦年課税による贈与税には年間110万円の基礎控除があります。
こどもNISAの年間投資上限は60万円です。
そのため、祖父母から孫への年間60万円の贈与だけであれば、金額としては110万円の基礎控除の範囲内です。
しかし、孫がその年に他の人から贈与を受けていれば、それらも確認する必要があります。
例えば祖父から60万円、祖母から60万円を受け取れば合計120万円になります。
110万円は贈与する人ごとに与えられる枠ではありません。
受贈者がその年に受けた贈与全体を確認することが重要です。
生前贈与すれば必ず相続税から切り離せるとは限らない
相続対策として生前贈与を考える場合には、贈与税だけを見てはいけません。
相続税には、生前に行われた一定の贈与を相続税の計算に取り込む仕組みがあります。
そのため、亡くなる前に贈与すれば、その金額が必ず相続税の計算から完全に切り離されるとは限りません。
さらに、誰が贈与を受けたのか、相続や遺贈によって財産を取得するのかなどによっても税務上の取扱いを確認する必要があります。
相続直前になって急いで資産を移せばよいという単純な制度ではありません。
こどもNISAを相続対策と組み合わせるのであれば、長期的な資産移転として考える必要があります。
孫への贈与には世代を飛び越える特徴がある
祖父母から子へ財産を相続し、その後、子から孫へ財産が移る場合、資産は2つの世代を順番に移動します。
一方、祖父母から孫へ生前贈与すれば、直接若い世代へ財産を移すことができます。
こどもNISAでは0歳から投資を始められるため、祖父母の資産と孫の長い投資期間を組み合わせることができます。
例えば70歳の祖父母が0歳の孫へ資金を贈与すれば、その資金は孫の側で何十年にもわたって運用される可能性があります。
単に財産を移すだけではなく、若い世代の時間を利用して資産形成につなげられる点に特徴があります。
名義だけ孫にしてはいけない
相続対策を意識するあまり、形式だけ孫名義にすることには注意が必要です。
祖父母が孫名義の口座へ資金を入れても、実質的に祖父母自身が管理し続けているのであれば、誰の財産なのかが問題になる可能性があります。
大切なのは、贈与した財産を祖父母自身の財産から明確に切り離すことです。
いつ、誰から誰へ、いくら贈与したのか。
その資金を誰の財産として管理しているのか。
こうしたことを明確にしておく必要があります。
相続税対策では、口座名義よりも財産の実態が重要です。
孫への贈与だけで相続対策を考えない
相続対策は、生前贈与だけで完結するものではありません。
祖父母自身の生活資金。
将来の医療費や介護費。
自宅などの不動産。
生命保険。
相続人間の財産配分。
相続税の納税資金。
こうした問題を総合的に考える必要があります。
孫のこどもNISAへ毎年資金を移した結果、祖父母自身の老後資金が不足しては意味がありません。
また、特定の孫だけに多額の財産を移せば、将来の相続で家族間の不公平感につながることもあります。
税金だけでなく、家族全体の資産承継として考えることが重要です。
相続発生後より生前の方がお金を生かせる場合もある
世代間の資産移転を考えるときには、税金とは別の視点もあります。
祖父母が長生きすれば、子や孫が財産を相続する時期も遅くなります。
孫が財産を受け取るころには、すでに中高年になっている可能性もあります。
一方、生前に資金を移せば、教育、就職、結婚、住宅取得など、お金を必要とする時期に支援できます。
さらに、こどもNISAで長期運用すれば、若い世代が持つ長い時間を資産形成に利用できます。
財産をいつ渡すかという問題は、税額だけでは判断できません。
お金を最も有効に使える時期に移すという考え方もあります。
相続対策より資産承継と考える
こどもNISAと生前贈与を組み合わせる場合、「相続税をいくら減らせるか」だけを目的にすると制度の本質を見失いやすくなります。
祖父母の資産をどの世代へ移すのか。
いつ移すのか。
孫の教育や人生にどう役立てるのか。
祖父母自身にはいくら残しておくのか。
こうした問題を考える方が重要です。
相続税対策というより、家族の資産を次世代へどのように承継するのかという視点で考えると、こどもNISAの役割が分かりやすくなります。
結論
こどもNISAそのものは、相続税を軽減するための制度ではありません。
非課税になるのは、制度の対象となる投資によって生じた利益などです。
一方、祖父母が孫へ資金を生前贈与すれば、適切に贈与が成立することで、祖父母から孫へ財産を移すことができます。
その資金をこどもNISAで長期運用することで、世代間の資産移転と孫の資産形成を組み合わせることができます。
ただし、生前贈与と相続税には別のルールがあります。
贈与した金額が必ず相続税の計算から切り離されるとは限りません。
また、祖父母自身の老後資金や家族間の財産配分についても考える必要があります。
こどもNISAを相続対策の道具としてだけ見るのではなく、祖父母から孫へ資産と資産形成の時間を引き継ぐ仕組みとして考えることが重要です。
相続が発生してから財産を渡すだけではなく、生前に必要な世代へ資金を移す。
こどもNISAは、日本の家族の資産承継を考え直すきっかけになる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に