売上の水増しは監査でどう見抜くのか 架空売上と前倒し計上をチェックする仕組み編

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企業が利益を大きく見せようとするとき、狙われやすい項目の1つが売上です。

実際には存在しない取引を売上として計上する。

翌期に計上すべき売上を当期へ前倒しする。

まだ顧客へ引き渡していない商品を販売済みとして処理する。

こうした方法を使えば、売上高と利益を実態より大きく見せることができます。

中国恒大集団では、2019年から2020年に総額5640億元、日本円で約13兆円の売上高が水増しされたとされています。

これほど巨額の売上水増しが行われたとすれば、監査では何を確認する必要があったのでしょうか。

売上監査の基本から考えてみます。

売上は利益を大きく見せやすい

企業の利益は、大まかに考えれば売上から費用を差し引いて計算します。

したがって売上を大きくすれば、利益も大きく見せやすくなります。

例えば本当の売上が100億円だった企業が、存在しない売上20億円を追加したとします。

費用が変わらなければ、その分だけ利益を大きく見せることができます。

売上高は企業の成長性を示す重要な指標でもあります。

売上が伸びていれば、

事業が成長している、

市場シェアが拡大している、

と投資家から評価される可能性があります。

そのため業績を良く見せたい経営者にとって、売上は粉飾の対象になりやすい項目の1つです。

架空売上とは何か

最も分かりやすい売上水増しが架空売上です。

実際には商品を販売していないのに、販売したことにして売上を計上します。

例えば12月に1億円の商品をA社へ販売したという取引を帳簿へ記録したとします。

しかし実際にはA社から注文を受けていません。

商品も出荷していません。

代金を受け取る権利もありません。

それでも帳簿上では、

売上1億円、

売掛金1億円、

と記録できます。

帳簿だけを見れば売上が存在するように見えます。

だからこそ監査では、帳簿の数字だけではなく取引の実在性を確認する必要があります。

取引先への確認が重要になる

架空売上を確認する方法の1つが、取引先から外部証拠を得ることです。

会社の帳簿には、

A社に1億円の商品を販売し、決算日に1億円の売掛金が残っている、

と記録されていたとします。

監査では必要に応じて、取引先に残高などを確認する手続を行います。

A社側でも同じ取引を認識していれば、企業内部の帳簿だけを見るより強い裏付けになります。

反対にA社から、

そのような取引は存在しない、

という回答が来れば重大な問題です。

なぜ会社の帳簿に売上が記録されているのか、追加の調査が必要になります。

入金されたから本物とは限らない

売掛金が後日入金されていれば、売上は本物だと思うかもしれません。

しかし不正が巧妙になると、それだけでは十分ではない場合があります。

企業側が一時的に資金を用意し、取引先などを経由して入金したように見せる可能性も考えられます。

売上代金が入金された後、その資金が別の形で相手へ戻っていることもあり得ます。

そのため監査では、

誰から入金されたのか、

どの契約に基づく入金なのか、

商品やサービスは実際に提供されたのか、

その後に不自然な資金移動がないか、

といった取引全体を見ることが重要になります。

売上の前倒しとは何か

架空売上とは別に注意が必要なのが、売上計上時期の操作です。

取引そのものは実在していても、本来翌期に計上すべき売上を当期に計上すれば、当期の業績を実態より良く見せることができます。

例えば3月決算の企業があるとします。

商品を顧客へ引き渡せるのが4月で、本来4月以降に売上を認識すべき取引だったとします。

それを3月31日以前の売上として処理すれば、当期の売上を増やすことができます。

翌期の売上を当期へ持ってきただけなので、取引そのものは存在します。

そのため架空売上より発見が難しい場合があります。

決算日前後の取引を見る理由

売上の前倒しを確認するうえで重要なのが、決算日前後の取引です。

3月決算であれば、3月末から4月初めにかけての売上を詳しく確認します。

商品はいつ出荷されたのか。

顧客はいつ受け取ったのか。

契約上、どの時点で企業の義務が履行されたのか。

請求書はいつ発行されたのか。

帳簿にはいつ売上として記録されたのか。

こうした日付を照合します。

決算日をまたぐ数日の違いによって、利益が大きく変わる場合があります。

これが売上の期間帰属を確認する重要性です。

翌期に大量の返品があれば注意する

決算直前に売上が急増し、決算後すぐに大量の返品が発生していたらどうでしょうか。

不自然な動きです。

決算前に無理に商品を販売した形にして、翌期に返品処理している可能性も考える必要があります。

そこで監査では、決算後の返品や値引きなどを確認することがあります。

決算日だけを切り取るのではなく、その前後の取引を見ることで不自然な売上を発見できる場合があります。

前年や予算との比較も手掛かりになる

データ分析も売上監査では重要です。

例えば毎月100億円前後だった売上が、決算月だけ突然200億円になったとします。

もちろん大型案件があれば正当な理由かもしれません。

しかし理由を確認する必要があります。

前年同期と比較する。

予算と比較する。

月別に比較する。

商品別に比較する。

地域別に比較する。

営業担当者別に比較する。

さまざまな角度から分析すると、異常な動きが見えてくることがあります。

異常があるから粉飾とは限りません。

異常を見つけ、理由を確認することが重要なのです。

経営者の説明だけでは十分ではない

決算月に売上が急増した理由を経営者に質問したところ、

大型案件が集中した、

と説明されたとします。

それだけで監査を終えることはできません。

契約書。

出荷記録。

引き渡し記録。

入金状況。

取引先から得られる情報。

こうした証拠と経営者の説明が一致しているかを確認する必要があります。

監査では質問も重要ですが、質問への回答を客観的な証拠で裏付けることがさらに重要です。

恒大問題では完成と引き渡しが重要になる

不動産会社の売上監査では、一般的な商品の販売とは異なる難しさがあります。

住宅や不動産開発では、1件当たりの金額が大きく、完成や引き渡しの状況が売上計上に大きく影響する場合があります。

帳簿上では引き渡し可能な状態になっていても、実際の現場では工事が終わっていなければ重大な問題です。

中国当局によるPwC中天への処分では、恒大の開発案件について監査記録と実際の状況が一致しないケースが多数あったとされています。

売上監査では、

契約書があるか、

帳簿に記録されているか、

だけではなく、

現実に売上を認識できる状態になっていたのか、

まで確認することが重要になります。

巨額粉飾ほど単純とは限らない

約13兆円もの売上水増しと聞くと、

これほど大きければ簡単に発見できたのではないか、

と思うかもしれません。

しかし巨大企業では、もともとの取引金額も非常に大きくなります。

多数の子会社。

多数の不動産開発案件。

大量の契約。

複数年度にまたがる取引。

こうした中に不適切な売上が入り込めば、単純に総額だけを見ても発見できない場合があります。

だからこそ監査では、個々の取引を確認すると同時に、データ分析によって全体の異常を探すことも重要になります。

結論

売上の水増しには、大きく分けて取引そのものが存在しない架空売上と、実在する取引を本来より早く計上する前倒しなどがあります。

架空売上では、本当に取引が存在するのかを確認することが重要です。

売上の前倒しでは、売上を計上した時期が正しいのかを確認する必要があります。

取引先への確認。

契約書。

出荷や引き渡しの記録。

入金状況。

決算後の返品。

決算日前後の取引。

売上データの異常な変化。

こうした複数の証拠を組み合わせて監査します。

中国恒大問題が示しているのは、売上監査では帳簿上の数字だけでなく、取引の実態を見ることが重要だということです。

売上が記録されていることと、売上が本当に成立していることは同じではありません。

監査人に求められるのは、その数字の裏側にある現実まで確認する姿勢なのです。

次回は、不動産会社の売上監査はなぜ特に難しいのか、完成と引き渡しの判断が巨額の利益を左右する仕組みを取り上げます。

参考

日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 恒大不正、逃げられぬPwC

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