インボイス制度では、適格請求書発行事業者ではない免税事業者などから課税仕入れを行った場合でも、一定期間は仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置があります。
令和8年度税制改正では、この経過措置が2年間延長されました。
一方で、大口の取引については経過措置を利用できる金額に新たな制限が設けられます。
令和8年10月1日以後に開始する課税期間から、同じ取引先からの課税仕入れについて経過措置を利用できる上限額が、年間10億円から1億円へ引き下げられます。
経過措置にはもともと上限がある
インボイス制度の経過措置は、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れについて、一定割合の仕入税額控除を認める制度です。
しかし、無制限に適用できるわけではありません。
1つの取引先から行う課税仕入れについて、経過措置の対象にできる金額には上限が設けられています。
改正前は、同一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、1年または1事業年度当たり10億円が上限とされています。
令和8年度税制改正では、この上限が大幅に引き下げられることになりました。
10億円から1億円へ引き下げられる
令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、同一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、経過措置を利用できる上限が1億円になります。
これまで10億円まで対象にできたものが、1億円までに縮小されることになります。
上限を超える部分については、経過措置による仕入税額控除を利用できません。
したがって、大口の免税事業者などと継続的に取引している課税事業者にとっては、消費税負担に影響する可能性があります。
会社全体で1億円という意味ではない
ここで注意したいのが、1億円という上限の考え方です。
会社が行うすべての免税事業者などからの仕入れを合計して1億円という意味ではありません。
基本的には、同一の適格請求書発行事業者以外の者から行う課税仕入れについて判定します。
例えば、免税事業者である取引先A社から年間8,000万円、取引先B社から年間7,000万円の課税仕入れを行ったとします。
合計すると1億5,000万円になりますが、それだけを理由として1億円を超えたと判断するものではありません。
取引先ごとに経過措置の対象となる課税仕入れの金額を管理することが重要です。
1社から2億円仕入れた場合
例えば、ある課税事業者が適格請求書発行事業者ではない1社から、1事業年度に2億円の課税仕入れを行ったとします。
新しい上限が適用される課税期間であれば、経過措置の対象として考えられるのは1億円までです。
残る1億円については、この経過措置による仕入税額控除を受けることができません。
さらに、経過措置の対象となる1億円についても、仕入税額相当額の全額を控除できるわけではありません。
その時期に適用される7割、5割、3割などの控除割合によって計算することになります。
つまり、金額の上限と控除割合という2つの制限を確認する必要があります。
なぜ上限を引き下げるのか
インボイス制度の経過措置は、制度変更による急激な影響を緩和するための措置です。
特に小規模な免税事業者との取引関係が急激に変化することを防ぎ、制度へ段階的に移行する役割があります。
一方、非常に大きな金額の取引まで長期間にわたって経過措置の対象にすると、インボイス制度の原則から離れる範囲も大きくなります。
そこで、経過措置そのものを延長する一方、大口取引については利用できる範囲を縮小する仕組みになっています。
小規模な取引への配慮を続けながら、大口取引については通常のインボイス制度へ移行させる方向と考えることができます。
取引先ごとの年間仕入額を把握する必要がある
上限が1億円になると、経理実務にも影響します。
これまでも取引先が適格請求書発行事業者であるかどうかを確認する必要がありました。
今後は、それに加えて、適格請求書発行事業者ではない取引先ごとの年間課税仕入額を把握することが重要になります。
特に年間取引額が1億円前後になる取引先については、期中から累計額を管理しておく必要があります。
決算時になって初めて上限超過に気付くより、日常の経理処理の段階で把握できる仕組みを整えておく方が安全です。
基幹システムの対応も必要になる
大企業などでは、仕入先が多数存在します。
そのため、取引先ごとの課税仕入額を手作業で集計するのは現実的ではありません。
会計システムや購買システムで、インボイス登録の有無と取引金額を取引先単位で管理できるようにする必要があります。
さらに、経過措置の対象額が1億円へ近づいた段階で把握できる仕組みがあれば、決算時の計算負担を軽減できます。
今回の改正は税率計算だけの問題ではなく、取引先マスターや会計システムの管理方法にも関係する改正です。
取引条件にも影響する可能性がある
経過措置の上限が1億円へ引き下げられると、大口の免税事業者などとの取引では、買手側の消費税負担が増える可能性があります。
そのため、取引先がインボイス登録をするのかどうかが、これまで以上に重要になるケースも考えられます。
ただし、インボイス登録の有無だけを理由として一方的に不当な取引条件を設定してよいわけではありません。
税務上の負担と取引上の対応は分けて考える必要があります。
まずは自社の消費税負担がどの程度変わるのかを正確に把握することが出発点になります。
結論
令和8年度税制改正では、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、仕入税額控除の経過措置が2年間延長されました。
その一方で、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から、同一の取引先について経過措置を適用できる課税仕入れの上限が、1年または1事業年度当たり10億円から1億円へ引き下げられます。
1億円を超える部分については、経過措置による仕入税額控除を利用できません。
また、1億円までの部分についても、その時期に適用される7割、5割、3割などの控除割合によって仕入税額控除を計算します。
今後は、取引先がインボイス発行事業者かどうかだけでなく、適格請求書発行事業者ではない取引先ごとの年間取引額まで管理することが重要になります。
経過措置の延長と1億円への上限引下げは、セットで理解しておく必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集