2027年4月から、軽減税率の対象となる飲食料品の消費税率を8パーセントから1パーセントへ引き下げることが予定されています。
ここで食品スーパーや卸売業者などに特有の問題が生じます。
2027年3月までに8パーセントで仕入れた食品が、3月31日の閉店時点ですべて売り切れるわけではありません。
当然、在庫として4月へ持ち越される商品があります。
すると、8パーセントで仕入れた商品を1パーセントで販売するという取引が発生します。
本則課税では、この税率差が消費税の納付額や還付額に直接影響します。
税率変更日には在庫が残っている
小売業や卸売業では、商品を仕入れたその日にすべて販売するわけではありません。
数日分、数週間分の商品を在庫として保有するのが一般的です。
例えば2027年3月25日に食品を大量に仕入れたとします。
この時点では飲食料品の税率は8パーセントです。
その商品の一部が4月1日以降まで在庫として残り、新しい1パーセントの税率で販売されることがあります。
税率変更日を境として、仕入れと販売で異なる税率が適用されるわけです。
仕入れたときの8パーセントが1パーセントになるわけではない
税率が1パーセントへ下がったからといって、3月までに行った仕入れの消費税まで後から1パーセントに変更されるわけではありません。
税率変更前に8パーセントで行われた仕入れについては、その取引に対応する消費税額が存在します。
一方、4月以降に行う対象飲食料品の販売については、原則として1パーセントの売上税額が発生します。
したがって、一つの商品について見ると、仕入れ側では8パーセント、販売側では1パーセントという状態が生じることがあります。
本則課税では売上税額と仕入税額を比べる
本則課税では、売上にかかる消費税額から、控除できる仕入税額を差し引いて納付税額を計算します。
例えば単純化して、税抜100万円相当の食品を税率変更前に仕入れたとします。
8パーセントなら、仕入れにかかる消費税は8万円です。
その商品を税率変更後に税抜100万円で販売したと仮定すると、1パーセントの売上税額は1万円です。
この取引だけを単純に見れば、売上税額1万円に対して仕入税額8万円となります。
仕入税額の方が7万円大きくなります。
実際の申告では課税期間全体の取引を合計して計算しますが、税率変更をまたぐ在庫が還付方向に働く理由はこの数字から理解できます。
消費税の還付は利益が出たという意味ではない
仕入税額が売上税額を上回れば、一定の要件のもとで消費税の還付が生じる可能性があります。
ただし、還付は事業者の利益そのものではありません。
消費税の計算上、売上時に受け取った消費税額より、仕入れなどで負担し控除できる消費税額の方が大きかったため、その差額を精算しているものです。
売上が減少して赤字になっている会社でも還付が発生することがあります。
反対に、利益を出している会社でも消費税を納付することがあります。
利益計算と消費税計算は分けて考える必要があります。
在庫が多い会社ほど影響が大きくなる可能性がある
税率変更時にどの程度の影響を受けるかは、事業者によって異なります。
3月末にほとんど在庫を持たない事業者なら、8パーセント仕入れと1パーセント売上の組み合わせは限定的です。
一方、大量の食品在庫を保有するスーパー、卸売業者、食品メーカーなどでは影響が大きくなる可能性があります。
税率変更日前にどれだけ仕入れ、変更後にどれだけ販売するのかによって、消費税の計算結果が変わります。
2027年3月末の棚卸資産は、通常の在庫管理だけでなく、消費税の観点からも重要になります。
簡易課税では実際の仕入税額を使わない
ここで本則課税と簡易課税の大きな違いが表れます。
本則課税では、実際の仕入税額を使って計算します。
そのため、8パーセントで仕入れた在庫を1パーセントで販売するという税率差が税額計算に反映されます。
これに対して簡易課税では、実際の仕入税額をそのまま使いません。
売上税額にみなし仕入率を適用して仕入税額控除を計算します。
したがって、3月に8パーセントで仕入れた商品が4月に1パーセントで売れたという個別の税率差を、そのまま簡易課税の計算へ反映することはできません。
簡易課税では期首と期末の影響をならして考える
税率変更時には、簡易課税でこの在庫問題をどのように扱うかも論点になります。
税率引下げの開始時には、8パーセントで仕入れた在庫を1パーセントで販売するケースがあります。
一方、2年間の時限措置が終了するときには逆の現象が起こる可能性があります。
1パーセントの時期に仕入れた在庫を、税率が8パーセントへ戻った後に販売するケースです。
簡易課税を税率引下げの開始時と終了時の双方で適用していれば、こうした影響は一定程度ならされると考えられています。
ただし、途中で本則課税へ変更する場合などには別途検討が必要になります。
仕入れを意図的に前倒しすればよいとは限らない
8パーセントで仕入れて1パーセントで売れば還付が増える可能性があると聞くと、税率変更前に大量に仕入れればよいと考えるかもしれません。
しかし、経営上はそれほど単純ではありません。
食品には賞味期限や消費期限があります。
大量の在庫を抱えれば保管費用も増えます。
販売できなければ廃棄損失につながります。
さらに消費税の適用関係は個々の取引や課税方式によって異なります。
税額だけを目的として不自然に在庫を増やすのではなく、通常の販売計画や資金繰りを前提として考える必要があります。
税率変更日の棚卸しが重要になる
2027年4月1日の税率変更を迎える事業者にとって、どの商品をいつ仕入れたのかを把握することが重要になります。
特に大量の食品を扱う企業では、3月末時点の在庫状況を正確に確認しておく必要があります。
仕入日、適用税率、仕入金額、販売時期などのデータを適切に保存しておけば、税率変更後の消費税計算を検証しやすくなります。
会計部門だけではなく、購買部門、物流部門、店舗などとの連携も必要になります。
2年後には逆方向の税率差が起こる
今回の飲食料品の税率1パーセントは2年間の時限措置です。
2029年に8パーセントへ戻る予定であれば、その直前には逆の問題が生じます。
1パーセントの時期に仕入れた食品を、8パーセントへ戻った後に販売するケースです。
2027年の開始時には高い税率で仕入れて低い税率で売る。
2029年の終了時には低い税率で仕入れて高い税率で売る。
時限的な税率変更では、入口と出口で逆方向の影響が発生することになります。
結論
2027年4月から飲食料品の消費税率が8パーセントから1パーセントへ下がると、税率変更前に8パーセントで仕入れた食品を、変更後に1パーセントで販売するケースが発生します。
本則課税では実際の売上税額と仕入税額を使うため、売上税額より控除できる仕入税額が大きくなり、還付が生じる可能性があります。
一方、簡易課税では実際の仕入税額を使わないため、税率変更をまたぐ在庫の影響をそのまま計算へ反映することはできません。
この違いが、今回の税率引下げで本則課税と簡易課税の選択が重要になる理由の一つです。
また、税率1パーセントは2年間の時限措置であるため、2029年の税率復元時には逆方向の問題が生じる可能性があります。
食品事業者にとって2027年3月末の在庫は、単なる商品在庫ではありません。
いつ、何パーセントで仕入れた商品なのかを把握することが、税率変更後の消費税を正しく計算するうえでも重要になるのです。
参考
税のしるべ 2026年8月28日 令和8年8月31日号 自民税調が消費税率引下げに伴う税制上の課題対応を議論、中間申告制度の特例案など示す
税のしるべ 2026年9月4日 令和8年9月7日号 自民税調で消費税率引下げ時の特例案を提示、簡易課税制度の特例など3案