年末調整が終わると、経理担当者は源泉徴収票や給与支払報告書の作成・提出業務を行います。
しかし、新任担当者から最も多く聞かれる質問の一つが、
「源泉徴収票と給与支払報告書は何が違うのですか」
というものです。
実際、この二つの書類は記載内容が非常によく似ています。
そのため、「同じ書類を提出先だけ変えている」と思われることもあります。
しかし、制度上の目的や提出先は大きく異なります。
今回は、給与支払報告書と源泉徴収票の違いを整理してみます。
源泉徴収票とは何か
源泉徴収票は、会社が従業員へ支払った給与と源泉徴収税額を証明する書類です。
正式名称は「給与所得の源泉徴収票」です。
記載される主な内容は、
・年間給与収入
・給与所得控除後の金額
・所得控除額
・源泉徴収税額
・扶養親族情報
などです。
従業員本人に交付されるほか、一定の場合には税務署へ提出されます。
税務署はこの情報を利用して所得税の課税内容を確認します。
つまり、源泉徴収票は所得税のための資料です。
給与支払報告書とは何か
給与支払報告書も記載内容はほぼ同じです。
しかし提出先が異なります。
給与支払報告書は従業員が住んでいる市区町村へ提出します。
市区町村はこの情報を利用して住民税を計算します。
つまり、給与支払報告書は住民税のための資料です。
所得税と住民税は別の税金であるため、それぞれの課税機関へ情報を提供する必要があります。
なぜ同じような書類が二つあるのか
所得税は国税です。
国税は税務署が管理しています。
一方、住民税は地方税です。
地方税は市区町村が管理しています。
税務署と市区町村は別の行政機関であるため、それぞれに給与情報を提出する仕組みになっています。
その結果、
・税務署向けの源泉徴収票
・市区町村向けの給与支払報告書
という二つの書類が存在しています。
制度上は異なる書類ですが、実務上は同じ給与データから作成されることがほとんどです。
提出先は誰なのか
源泉徴収票は、
・従業員本人
・税務署
へ交付または提出します。
一方、給与支払報告書は、
・従業員の住所地の市区町村
へ提出します。
例えば従業員が10人いて、それぞれ異なる自治体に住んでいる場合は、複数の市区町村へ提出することになります。
このため、給与支払報告書の提出業務は意外に手間がかかります。
提出対象にも違いがある
従来は、税務署へ提出する源泉徴収票について一定の提出基準が設けられていました。
例えば年末調整済みの一般従業員の場合、給与が500万円を超える者などが提出対象でした。
一方、給与支払報告書は原則としてすべての従業員について提出します。
このため、
「給与支払報告書は提出したが、税務署へ源泉徴収票は提出していない」
というケースもありました。
この違いが、実務担当者にとって分かりにくいポイントの一つでした。
令和9年から何が変わるのか
令和9年1月以後に提出する給与所得の源泉徴収票については、大きな制度改正が行われます。
給与支払報告書を市区町村へ提出した場合、
税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされる
という「みなし提出特例」が導入されます。
これにより、税務署への源泉徴収票提出が不要になります。
従来の二重提出が解消されるため、企業の事務負担軽減が期待されています。
給与支払報告書の重要性はむしろ高まる
みなし提出特例によって源泉徴収票提出が不要になっても、給与支払報告書の重要性は変わりません。
むしろ、
・住民税課税資料
・源泉徴収票みなし提出資料
という二つの役割を担うことになります。
提出漏れや記載誤りがあれば、
・住民税計算への影響
・税務情報への影響
の両方が発生する可能性があります。
今後は給与支払報告書の正確性がこれまで以上に重要になります。
経理担当者が理解しておきたいポイント
年末調整実務では次のように整理すると分かりやすくなります。
源泉徴収票
→所得税のための書類
給与支払報告書
→住民税のための書類
提出先
→税務署と市区町村
記載内容
→ほぼ同じ
令和9年以降
→給与支払報告書提出で源泉徴収票提出を代替
この関係を理解しておくと、制度改正への対応もしやすくなります。
結論
給与支払報告書と源泉徴収票は記載内容こそ似ていますが、目的と提出先が異なる別の書類です。
源泉徴収票は所得税のために税務署へ、給与支払報告書は住民税のために市区町村へ提出する仕組みになっています。
令和9年からは源泉徴収票のみなし提出特例が導入され、税務署への提出が不要となる場面が増えます。
しかし、それによって給与支払報告書の重要性はむしろ高まります。
経理担当者としては、二つの書類の違いを理解するとともに、給与支払報告書を正確に作成・提出する体制を整えておくことが重要です。
参考
・国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」
・総務省「個人住民税に関する資料」
・地方税共同機構「給与支払報告書提出に関する資料」
・税のしるべ 2026年5月25日号「源泉徴収票のみなし提出特例での給与支払報告書の電子的提出義務の判定は『提出すべき源泉徴収票』で枚数は改正前の提出範囲」