日本の大手銀行が、再び国内融資に力を入れ始めています。
日銀によると、3メガバンクやりそな銀行など都市銀行の国内融資残高は2026年8月時点で前年同月比7.9%増の280兆6,561億円となりました。
国内融資全体に占める都市銀行のシェアも46.8%まで上昇しています。
過去最低だった2025年5月の45.5%から反転しており、長く続いてきた大手銀行の国内融資シェア低下に変化が表れています。
なぜ大手銀行は、いま国内融資へ戻ってきているのでしょうか。
バブル崩壊後は国内融資のシェアが下がり続けた
現在とは対照的に、大手銀行の国内融資シェアは長期間にわたって低下してきました。
1991年には都市銀行が国内融資の7割弱を占めていました。
しかしバブル崩壊後、日本企業は過剰債務の削減を進めました。
企業が借金を減らし、設備投資も慎重になったことで、銀行から資金を借りる需要そのものが弱くなりました。
一方、銀行側も不良債権処理や再編を進めました。
都市銀行は統合によって現在のメガバンクへと集約され、2000年代後半以降は成長機会を求めて海外事業を拡大していきました。
その結果、国内融資における都市銀行の存在感は徐々に低下していったのです。
金利のある世界が銀行融資を変えた
転機となったのが、日本の金利環境の変化です。
長期間続いた超低金利の下では、銀行が企業へ融資しても十分な利ざやを確保することが難しい状況でした。
しかし金利が上昇すると、貸出金利も上昇します。
預金などで集めた資金の調達コストとの差を確保できれば、融資によって得られる収益は改善します。
つまり銀行にとって、国内企業への融資が再び魅力のあるビジネスになってきたわけです。
大手銀行の国内回帰は単なる営業戦略の変更ではありません。
日本経済が長く続いた超低金利から「金利のある世界」へ移行したことを象徴する動きと考えることができます。
設備投資とM&Aが巨額の資金需要を生んでいる
もう一つの大きな変化が企業側の資金需要です。
企業による設備投資やM&Aが活発になっています。
特に半導体やAI、データセンター、脱炭素、インフラなどの分野では、1件のプロジェクトでも巨額の資金が必要になります。
M&Aも同様です。
トヨタ自動車などによる豊田自動織機へのTOBでは、買収総額が約5.9兆円に達し、そのうち3兆円超を3メガバンクからの借り入れで賄ったとされています。
こうした数兆円規模の案件になると、銀行側にも大規模な資金供給能力と高度な与信管理能力が求められます。
そこで強みを発揮するのがメガバンクです。
大手銀行はM&A融資を成長分野として取り込む
大手銀行も体制を変えています。
例えば、みずほ銀行は2026年4月、M&A関連の貸し出し需要を取り込むため組織を再編しました。
プライベートエクイティファンドや不動産分野などを担当する組織をまとめ、M&Aに関係する投資家への営業を一体化しています。
M&Aでは買収企業だけでなく、ファンド、投資銀行、証券会社、法律事務所など多くの関係者が動きます。
その中心に銀行が入り込めれば、買収資金の融資だけでなく、さまざまな金融取引につなげることができます。
大手銀行にとってM&A融資は、単なる貸し出し以上の意味を持つようになっています。
370兆円を超える投資計画も追い風になる
今後は国の産業政策も銀行融資を押し上げる可能性があります。
政府はAIや半導体など戦略17分野について、2040年度までに官民合わせて370兆円超を投じる方針です。
巨大な設備投資には自己資金だけでは対応できません。
企業が銀行から借り入れたり、社債を発行したり、投資ファンドから資金を調達したりする必要があります。
その中で大規模融資を組成できるメガバンクの役割は大きくなります。
銀行にとっても、日本国内に長期的な資金需要が生まれるのであれば、国内融資へ経営資源を振り向ける合理性が高まります。
融資競争の裏側では預金争奪戦が起きる
ただし、銀行が融資を増やすためには原資となる資金が必要です。
その代表が預金です。
銀行は預金者から集めた資金などを企業や個人へ貸し出します。
そのため融資を拡大しようとすれば、安定した預金基盤の重要性も高まります。
ここで大手銀行と地方銀行の差が表れています。
2026年8月時点の預貸率は都市銀行が57.3%でした。
これに対して第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%となっています。
預貸率とは、預金に対してどの程度の金額を貸し出しているかを示す指標です。
例えば預金100円に対して貸出金が60円なら、預貸率は60%です。
数字が高くなるほど、預金に対して多くの資金を融資へ振り向けていることになります。
地方銀行ほど預金の余裕が小さくなっている
都市銀行の預貸率57.3%に対して、第二地方銀行は77.3%です。
両者には20ポイントの差があります。
これは大手銀行の方が、預金残高に対して融資余力を持っていることを示しています。
一方、地方銀行は預金に対してすでに多くの資金を貸し出しています。
ここで預金そのものが減少すると、新たな融資を増やしにくくなる可能性があります。
特に地方では人口減少に加えて、相続による預金流出という問題があります。
地方に住んでいた親が亡くなり、東京や大阪などに住む子や孫が預金を相続すると、その資金が都市部の金融機関へ移動することがあります。
地域金融機関にとっては、長年蓄積されてきた地域の預金が相続をきっかけに地域外へ流出することになります。
預金流出が地方企業の問題になる理由
預金の問題は銀行だけの問題ではありません。
地域金融機関の預金が減れば、地域企業へ融資するための資金基盤も弱くなる可能性があります。
地方の中小企業にとって、メガバンクが必ずしも主要な取引銀行とは限りません。
地元企業の事業内容や経営者、地域事情を把握している地方銀行や信用金庫が重要な資金供給者になっています。
その地域金融機関が預金不足から融資に慎重になれば、設備投資や事業承継、新規事業などに必要な資金を調達しにくくなる可能性があります。
大手銀行の国内融資回帰と地方銀行の預金減少は、別々の問題ではありません。
日本国内の資金がどこに集まり、どこへ貸し出されるのかという一つの大きな変化として見る必要があります。
大手銀行は預金以外の資金も使い始めている
大手銀行にはもう一つの選択肢があります。
自ら集めた預金だけに頼らず、外部投資家の資金を融資に活用する方法です。
三井住友銀行が米資産運用大手ニューバーガー・バーマンと共同で投資ファンドを組成する動きなどがその例です。
銀行がすべての融資資金を自分のバランスシートで抱えるのではなく、投資家の資金を組み合わせる仕組みです。
巨額の設備投資やM&Aが増えていけば、こうした銀行と資産運用会社を組み合わせた資金供給も重要になる可能性があります。
銀行を見るときは貸出金だけでなく預金を見る
銀行の競争を考えるとき、どうしても融資残高や貸出金利に目が向きます。
しかしこれから重要になるのは、その裏側にある預金です。
融資を増やせるかどうかは、どれだけ安定した資金を集められるかにも左右されます。
大手銀行は企業の大規模な設備投資やM&Aを取り込みながら国内融資を増やしています。
一方、地方銀行は人口減少や相続による預金流出という構造的な問題に直面しています。
金利のある世界では、銀行同士の競争は「どこへ貸すか」だけではありません。
「どこから資金を集めるか」という預金獲得競争も同時に激しくなっていくのです。
結論
大手銀行の国内融資回帰は、日本の金融環境が大きく変わったことを示しています。
都市銀行の国内融資残高は2026年8月時点で280兆6,561億円となり、国内融資シェアは46.8%まで回復しました。
背景には金利上昇による利ざや改善と、企業の設備投資やM&Aによる資金需要の拡大があります。
一方で、融資を増やすためには預金などの安定した資金が必要です。
都市銀行の預貸率が57.3%なのに対して、第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%となっており、地域金融機関の資金余力には違いがあります。
さらに地方では、相続などを通じて預金が都市部へ流出する構造的な問題もあります。
これからの銀行業界を見るうえでは、大手銀行の融資拡大だけを見るのでは不十分です。
設備投資とM&Aによる巨大な資金需要、大手銀行の国内回帰、預金獲得競争、地方から都市への資金移動までを一つの流れとして見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰