日本のメガバンクが国内融資を再び拡大しています。
日銀によると、3メガバンクやりそな銀行など都市銀行の国内融資残高は、2026年8月時点で前年同月比7.9%増の280兆6,561億円となりました。国内融資全体に占めるシェアも46.8%まで上昇しています。
注目したいのは、単に融資残高が増えていることではありません。
都市銀行の国内融資シェアはバブル崩壊後、長期的に低下してきました。その流れが30年以上を経て変わり始めていることに大きな意味があります。
1991年には都市銀行が国内融資の7割弱を占めていた
バブル経済が崩壊した1991年ごろ、都市銀行は国内融資の7割弱を占めていました。
当時の日本企業は銀行借入への依存度が高く、銀行にとって企業融資は中心的なビジネスでした。
ところがバブル崩壊によって状況が変わります。
不動産価格や株価が下落し、企業には過剰な債務が残りました。
銀行側でも大量の不良債権が発生します。
企業は新たに借金をして投資するよりも、既存の借金を返済して財務体質を改善することを優先するようになりました。
銀行にとって国内で貸出先を増やすことが難しい時代が始まったのです。
失われた30年で企業の借金離れが進んだ
日本経済が長期停滞に入ると、企業の設備投資も慎重になりました。
将来の売り上げが大きく伸びると期待できなければ、企業は借金をしてまで工場や設備を増やそうとはしません。
さらに大企業を中心に利益や現預金を積み上げ、投資に必要な資金を自社で用意できる企業も増えました。
銀行から見れば、信用力の高い大企業ほど借金を必要としないという状況が生まれます。
銀行同士が限られた貸出先を奪い合えば、貸出金利は低下します。
そこに日本銀行の超低金利政策が重なり、国内融資で十分な収益を得ることが難しくなりました。
メガバンクは海外へ成長の場所を求めた
国内で融資を増やしにくくなる一方、世界では成長を続ける地域がありました。
そこでメガバンクは海外事業を拡大します。
米国やアジアなどで企業融資やプロジェクトファイナンス、M&A関連金融などを拡大し、国内だけに依存しない収益構造をつくっていきました。
国内では都市銀行の統合も進みました。
現在の3メガバンクを中心とする体制が形成される一方で、国内融資に占める都市銀行のシェアは低下を続けます。
1991年に7割弱だったシェアは、2025年5月には45.5%まで低下しました。
30年以上続いた大きな流れでした。
2025年5月の45.5%が転換点になった
ところが、ここから変化が始まります。
都市銀行の国内融資シェアは2025年5月に45.5%まで低下した後、上昇に転じました。
2026年8月には46.8%となっています。
わずか1.3ポイントの上昇と見ることもできます。
しかし重要なのは上昇幅ではなく方向です。
30年以上にわたって低下傾向にあったシェアが反転しているからです。
背景には、日本の金融環境と企業行動の両方が変化したことがあります。
金利のある世界で国内融資の採算が改善した
最大の変化の一つが金利です。
超低金利時代には、銀行が企業へ資金を貸しても貸出金利が低く、十分な利ざやを確保することが困難でした。
利ざやとは、簡単にいえば資金を運用して得る金利と資金を調達するために支払う金利との差です。
金利が正常化すると貸出金利も上昇します。
もちろん預金金利など銀行の資金調達コストも上昇しますが、貸出金利との適切な差を確保できれば融資収益は改善します。
これまで採算面で魅力が低かった国内融資が、再び銀行の収益源として重要になってきたのです。
大企業が再び巨額の資金を必要としている
企業側にも変化があります。
AI、半導体、データセンター、脱炭素などを中心に大規模な設備投資が増えています。
さらに企業再編やM&Aも活発になっています。
大型の設備投資や企業買収では、数千億円から数兆円規模の資金が必要になる場合があります。
企業が豊富な現預金を持っていたとしても、すべてを自己資金で賄うとは限りません。
銀行融資や社債などを組み合わせて資金を調達します。
ここで大規模な資金供給能力を持つメガバンクの強みが生きてきます。
5.9兆円のTOBが象徴する巨大融資
象徴的なのが、トヨタ自動車などによる豊田自動織機へのTOBです。
買収総額は約5.9兆円とされ、日本企業同士のM&Aとして過去最大規模となりました。
そのうち3兆円超を3メガバンクからの借り入れで賄ったとされています。
3兆円という金額を考えると、現在のM&Aが銀行にとってどれほど大きな融資機会になっているのかが分かります。
こうした大型案件では単に資金を用意すればよいわけではありません。
企業の信用力や買収後の返済能力を分析し、巨額の与信リスクを管理する必要があります。
大規模案件の経験や専門人材を持つメガバンクが強みを発揮しやすい分野です。
国内回帰は昔の銀行融資への逆戻りではない
メガバンクが国内融資を増やしていると聞くと、1990年代以前の銀行中心の金融に戻るようにも見えます。
しかし実際には性格が異なります。
かつては企業の日常的な資金調達を銀行融資が幅広く支えていました。
現在伸びているのは、M&A、半導体、AI、データセンター、大規模設備投資、プロジェクトファイナンスなど巨大な資金を必要とする分野です。
さらに銀行自身も、預金だけで資金を賄うのではなく、投資ファンドや機関投資家の資金を活用する方法を模索しています。
つまり国内回帰とは、昔の融資モデルへの回帰ではありません。
新しい産業投資や企業再編に対応した国内金融への転換と見る方が実態に近いでしょう。
今度は預金を誰が集めるかが重要になる
融資を増やせば、その原資となる資金も必要になります。
そこで重要になるのが預金です。
大手銀行が国内融資を増やすほど、安定した資金調達基盤の価値は高まります。
一方、地方では人口減少や相続によって預金が都市部へ流出する問題が起きています。
つまりメガバンクの国内回帰は、大企業向け融資だけの話ではありません。
銀行同士の預金獲得競争にもつながっていきます。
これから銀行を見るときには、どれだけ貸しているかだけでなく、どれだけ預金を集められるかにも注目する必要があります。
結論
メガバンクの国内融資シェアは、1991年の7割弱から長期的に低下し、2025年5月には45.5%まで下がりました。
ところが2026年8月には46.8%へ上昇しています。
この反転の背景には、金利のある世界への移行による融資採算の改善と、設備投資やM&Aによる企業の資金需要の拡大があります。
特にAIや半導体などの巨大設備投資や数兆円規模のM&Aでは、大規模な資金供給と与信管理ができるメガバンクの強みが発揮されます。
したがって現在起きている国内回帰は、単純に昔の銀行中心社会へ戻る動きではありません。
長く続いた企業の借金離れと銀行の海外展開という流れが変わり、日本国内に再び巨大な資金需要が生まれ始めたことを示しています。
そして融資競争が激しくなれば、次に重要になるのが融資の原資となる預金です。
大手銀行の国内回帰を理解するためには、これから始まる銀行の預金争奪にも目を向ける必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰