会計不正にはさまざまな手口がありますが、代表的なものの一つが売上高の過大計上です。
日本公認会計士協会が粉飾決算と判断した事例でも、売上高の過大計上は目立つ手口とされています。
なぜ売上高は会計不正の対象になりやすいのでしょうか。
その理由の一つは、売上高を増やせば利益を大きく見せやすいことです。
さらに売上高は、企業の成長性を判断する重要な指標でもあります。
売上高を操作すると、利益だけでなく会社そのものが成長しているように見せることができてしまいます。
売上高の過大計上とは何か
売上高の過大計上とは、本来計上できない売上を計上したり、本来より大きな金額で売上を計上したりすることです。
例えば実際には100億円しか売上がない会社が、会計処理によって110億円の売上があるように見せれば、10億円の過大計上になります。
売上が増えれば、それに対応する費用が同じように増えない限り、利益も大きくなります。
そのため、業績目標を達成したい企業にとって売上高は操作の対象になりやすい項目です。
特に決算期末に業績目標へわずかに届かないような場合、不正を行う動機が生まれる可能性があります。
架空売上とは何か
売上高を過大計上する最も分かりやすい方法が架空売上です。
実際には商品を販売していないにもかかわらず、販売したことにして売上を計上します。
例えば架空の取引先に1000万円の商品を販売したことにすれば、帳簿上は売上高を1000万円増やすことができます。
しかし、実際の取引がなければ代金は入ってきません。
そのため帳簿には売掛金が残ることになります。
架空売上を続けると、売上高だけでなく売掛金が不自然に増えていく可能性があります。
監査では、こうした売掛金について取引先への確認などを行い、取引が本当に存在するのかを確かめることがあります。
売上を前倒しする方法もある
実際の取引が存在していても、売上を計上する時期を操作すれば決算数字を良く見せられる場合があります。
例えば本来は翌期に計上すべき売上を、今期の売上として計上する方法です。
商品をまだ顧客に引き渡していないのに売上を計上したり、売上を認識するための条件を満たしていない段階で計上したりするケースが考えられます。
これを行えば今期の売上高と利益は増えます。
しかし、翌期に計上するはずだった売上を先に使ってしまったことになります。
翌期の業績目標を達成するため、さらにその次の期の売上を前倒しするという悪循環に陥る可能性があります。
小さな会計操作から始まった不正が、年々大きくなる理由の一つです。
循環取引とは何か
より複雑な売上操作として循環取引があります。
複数の会社が商品やサービスを順番に売買し、最終的に取引が一巡するような形を作ります。
書類上は会社間で取引が行われ、請求書や入金記録などが存在することがあります。
そのため単純な架空売上より実態を見抜くことが難しくなる場合があります。
しかし、経済的な実態を伴わず、売上高を膨らませることなどを目的として取引が組まれていれば問題になります。
取引が存在するというだけではなく、その取引にどのような経済的合理性があるのかを見ることが重要です。
なぜ売上高を大きく見せたいのか
企業が売上高を過大計上する背景には、さまざまなプレッシャーがあります。
例えば経営計画で高い売上目標を掲げている場合です。
目標を達成できなければ、経営陣の責任が問われたり、株価が下落したりする可能性があります。
社員の賞与や昇進が売上目標に連動していれば、現場にも強いプレッシャーがかかります。
銀行から融資を受けるために業績を良く見せたいという動機が生じる場合もあります。
売上高は会社の規模や成長力を示す代表的な数字であるため、操作の誘惑が生じやすいのです。
売上高だけ見ていると異変を見逃す
個人投資家が企業分析をするときにも、売上高だけを見るのは危険です。
例えば売上高が毎年大きく増えている会社があるとします。
一見すると順調に成長しているように見えます。
しかし、売上高と一緒に売掛金が急増していれば注意が必要です。
売上は計上されているのに、まだ代金を回収できていない状態が増えている可能性があるからです。
さらに営業キャッシュフローを見る方法もあります。
利益が大きく増えているのに営業キャッシュフローが伸びていない状態が長期間続いていれば、その理由を確認する必要があります。
もちろん売掛金の増加や営業キャッシュフローの悪化だけで、不正と判断することはできません。
急成長企業では売掛金が増えることもあります。
重要なのは、複数の数字を組み合わせて見ることです。
監査では売上高が重要なリスクになる
監査においても、売上高は重要な領域です。
売上取引が本当に存在するのか、適切な時期に計上されているのか、金額は正しいのかなどを確認します。
契約書や注文書、納品書、請求書、入金記録などを確認することがあります。
取引先から直接情報を得る確認手続きが行われる場合もあります。
特に決算日前後の取引は重要です。
翌期に計上すべき売上を今期へ前倒ししていないかを確認する必要があるからです。
監査人は、会社側の説明だけではなく監査証拠を集めながら売上高の妥当性を検討します。
不正リスクの開示にも注目したい
日本公認会計士協会が進めている不正に関する監査基準の改正では、監査人が特に重要と判断した不正リスクに関する事項をKAMとして監査報告書に記載することが想定されています。
改正後の基準は2028年3月期から適用される見通しです。
売上高の認識が重要な不正リスクと判断されれば、監査人がなぜその領域を重要と考え、どのような監査手続きを実施したのかを投資家が理解しやすくなる可能性があります。
監査報告書は、企業の決算数字を見るための補助的な情報として、これまで以上に重要になるでしょう。
結論
売上高の過大計上は、粉飾決算の代表的な手口の一つです。
架空の売上を計上する方法だけではありません。
実際の取引を本来より早く計上したり、経済的な実態に乏しい取引を組み合わせたりすることで、売上高が実態以上に大きく見えることがあります。
売上高を増やせば利益を大きく見せやすく、企業が成長しているようにも見せることができます。
だからこそ、売上高は会計不正の重要なリスク領域になります。
投資家も売上高の伸びだけで企業を評価するのではなく、売掛金や営業キャッシュフロー、監査報告書のKAMなどと合わせて見ることが重要です。
決算書の数字は一つだけを見るのではなく、数字同士のつながりを見る。
その視点を持つことが、企業の実態を理解する第一歩になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載