売掛金を長期間回収できない場合、一定の要件を満たせば税務上の貸倒損失として処理できることがあります。
その代表的な制度が、法人税基本通達9-6-3による「形式上の貸倒れ」です。
継続的な取引を行っていた債務者について、その資産状況や支払能力などが悪化したため取引を停止し、一定の時点から1年以上経過した場合には、売掛債権から備忘価額を控除した残額を貸倒損失として損金経理することが認められています。
ここで重要になるのが「継続的な取引」という条件です。
単に売掛金を1年以上回収できなかったからといって、すべての売掛債権について形式上の貸倒れを適用できるわけではありません。
なぜ継続的な取引であることが求められるのでしょうか。
この点を理解すると、形式上の貸倒れが設けられている理由も見えてきます。
継続的取引とは何か
継続的取引とは、一般的には同じ取引先との間で商品販売やサービス提供などを反復して行う取引関係をいいます。
例えば卸売会社が小売店に毎月商品を販売しているケースがあります。
商品を販売するたびに売掛金が発生し、その後代金が支払われ、さらに新しい取引が行われます。
このように、
商品の販売
売掛金の発生
代金の回収
次の商品の販売
という取引が繰り返されている関係が典型的な継続取引です。
形式上の貸倒れでは、このような継続的な営業取引から発生した売掛債権が主な対象になります。
なぜ取引停止が重要なのか
形式上の貸倒れでは「1年以上」という期間が注目されがちですが、それ以前に重要なのが取引停止です。
例えば毎月商品を販売していた取引先の経営状態が悪化し、売掛金の支払いが遅れるようになったとします。
その結果、会社が新しい商品の販売を停止しました。
それまで継続していた取引が途絶え、その後長期間にわたって代金も支払われない。
こうした外形的な状況から、その売掛債権について通常の営業取引の中で回収できる可能性が著しく低下していることを捉えるのが形式上の貸倒れです。
したがって、
最後に商品を売ってから1年たった
という事実だけでは十分ではありません。
継続していた取引が、債務者の資産状況や支払能力などの悪化によって停止したという関係が重要になります。
1年の起算点にも注意が必要
形式上の貸倒れを判断するときには、1年間をどこから数えるのかも重要です。
取引を停止した時点だけを見ればよいわけではありません。
取引停止後に最後の弁済期が到来したり、最後の弁済が行われたりすることがあります。
その場合には、
取引停止時
最後の弁済期
最後の弁済時
のうち最も遅い時点から1年以上経過しているかを確認する必要があります。
例えば3月に商品の出荷を停止したものの、最後の売掛金の支払期限が5月だった場合には、3月から機械的に1年間を数えるわけではありません。
また、その後8月に一部入金があった場合には、その事実も考慮する必要があります。
形式上の貸倒れでは、日付の確認が非常に重要なのです。
単発取引ではなぜ使えないのか
これに対して、一回限りの取引を考えてみましょう。
例えば会社が所有していた不動産を別の会社に売却し、その売却代金の一部が未回収になったとします。
不動産売却は通常、その買主との間で何度も反復して行うことを前提とした取引とは限りません。
もともと一回限りの取引であれば、その後1年間取引がなかったとしても、それは異常なことではありません。
最初から次の取引が予定されていないからです。
したがって、
1年間取引がない
という事実をもって、債権の回収可能性が低下したと判断することはできません。
このため、たまたま取引した相手に対して発生した売掛債権については、取引停止後1年以上という形式的な基準による貸倒れの対象にはならないとされています。
不動産取引は典型的な例
法人税基本通達でも、継続的な取引を行っていた債務者には、たまたま取引を行った債務者は含まれないことが示されています。
その代表例として考えやすいのが不動産取引です。
例えば製造会社が不要になった土地を売却したとします。
買主との取引はその土地売却だけであり、今後も継続的に土地を販売する関係ではありません。
売却代金1000万円のうち200万円が未回収になり、1年以上支払いがなかったとしても、それだけを理由に9-6-3による形式上の貸倒れとして処理することはできません。
この場合には、法律上の貸倒れや事実上の貸倒れなど、別の要件を検討する必要があります。
実際の取引回数だけで決まるわけではない
もっとも、継続的取引かどうかは、単純に「何回取引したか」だけで判断するものではありません。
例えば通信販売会社が新しい顧客から初めて注文を受けたとします。
結果的にはその顧客との取引が一回だけで終わることがあります。
それでは、一回しか購入しなかった顧客はすべて「たまたま取引した債務者」になるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
通信販売会社では、一度購入した顧客について顧客情報を管理し、その後も継続的に商品を購入してもらうことを前提として営業活動を行っていることがあります。
このような事業形態であれば、実際の購入回数が一回だったという事実だけで、直ちに単発取引と判断することは適切ではありません。
通信販売では一回の購入でも継続取引になり得る
国税庁は、通信販売によって生じた売掛債権について、継続的取引との関係を示した質疑応答事例を公表しています。
通信販売会社が顧客から一度注文を受け、その後の購入実績がなかった場合でも、会社が顧客情報を管理し、将来も継続反復して商品を購入してもらうことを期待しているような取引形態であれば、継続的な取引を行っていた債務者として取り扱うことができる場合があります。
これは現在のビジネスにも重要な考え方です。
インターネット通販やサブスクリプション型サービスなどでは、
最初の取引は一回
でも、
事業モデルとしては継続購入を前提としている
というケースが珍しくありません。
したがって継続的取引かどうかは、取引回数だけではなく、その企業の営業形態や顧客との関係を含めて判断する必要があります。
貸付金には適用できない
継続取引との関係でもう一つ注意したいのが貸付金です。
例えば商品販売を長年続けていた取引先に対して、運転資金として1000万円を貸し付けたとします。
その後、取引先の経営状態が悪化して取引を停止し、貸付金も1年以上返済されなかったとします。
長年の取引関係があるため、
継続的な取引先なのだから1年以上たてば貸付金も形式上の貸倒れにできる
と思うかもしれません。
しかし、9-6-3による取引停止後1年以上の貸倒れは、売掛債権についての取扱いであり、貸付金その他これに準ずる債権は除かれています。
したがって、同じ債務者に対する債権であっても、
商品販売から生じた売掛金
資金援助によって生じた貸付金
を区別する必要があります。
債務者が同じだからといって、すべての債権を同じ方法で貸倒処理できるわけではありません。
売掛金という勘定科目だけで判断しない
ここから実務上重要になるのが、会計上の勘定科目だけで判断しないという点です。
帳簿に「売掛金」と記載されているからといって、当然に9-6-3の対象になるとは限りません。
反対に、「未収金」という勘定科目だから絶対に対象外というわけでもありません。
重要なのは、その債権がどのような取引から発生したものなのかという実質です。
商品の販売や役務提供などの継続的な営業取引から生じた債権なのか。
資金の貸付けによるものなのか。
固定資産の一回限りの売却によるものなのか。
まず債権の発生原因を確認する必要があります。
税務では勘定科目の名称だけではなく、取引の実態を見ることが重要なのです。
取引停止の理由も記録しておく
形式上の貸倒れを検討する場合、会社側で残しておきたいのが取引停止の記録です。
例えば、
支払遅延が続いたため出荷を停止した
信用調査で財務状態の悪化が判明した
債務者から資金繰りが厳しいとの連絡があった
何度督促しても支払いが行われなかった
といった経緯です。
取引停止から数年後に税務調査が行われた場合、当時の担当者が退職していることもあります。
「なぜ取引を停止したのですか」と質問されても、記録がなければ説明できません。
形式上の貸倒れは外形的な基準を利用できる制度だからこそ、その基準を満たしていることを示す資料を残しておくことが重要です。
継続的取引を判断するために何を残すのか
継続的取引だったことを説明するためには、通常の営業資料も重要な証拠になります。
例えば、
過去の請求書
納品書
売掛金元帳
入金記録
基本取引契約書
受注履歴
顧客台帳
取引先とのメール
などです。
これらを確認すれば、
いつから取引していたのか
どの程度の頻度で取引していたのか
いつ取引が停止したのか
最後の弁済はいつだったのか
といった事実を把握できます。
ECなどの場合には、顧客管理の方法やリピート購入を前提とした事業モデルを示す資料が意味を持つ場合もあります。
一年以上という数字だけを見ない
形式上の貸倒れについて最も危険なのは、
1年以上未回収なら貸倒れにできる
と覚えてしまうことです。
実際には、
どのような債権なのか
継続的な取引なのか
なぜ取引を停止したのか
1年の起算日はいつなのか
担保は存在しないか
といった複数の条件を確認する必要があります。
1年という期間は重要ですが、それだけで貸倒損失の損金算入が決まるわけではありません。
形式上の貸倒れという名前のとおり、一定の外形的事実を利用する制度ではありますが、その前提となる取引関係まで確認する必要があるのです。
結論
法人税基本通達9-6-3による形式上の貸倒れでは、継続的な取引を行っていた債務者との取引が、その資産状況や支払能力などの悪化によって停止したことが重要になります。
単発の不動産売却など、もともと一回限りの取引については、その後1年以上取引がなくても、それ自体から回収可能性の低下を判断することはできません。
そのため、取引停止後1年以上という基準による形式上の貸倒れは原則として利用できません。
一方、実際の取引回数が一回だったとしても、通信販売のように事業の仕組みとして継続反復した取引を予定している場合には、継続的取引として認められることがあります。
つまり重要なのは、
何回取引したのか
だけではありません。
どのような取引関係だったのか
という実態です。
形式上の貸倒れでは「1年以上」という数字が目立ちます。
しかし、本当に確認すべきなのは、その1年間が始まる前にどのような継続的取引が存在し、なぜそれが停止したのかという事実なのです。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 「連載『不良債権に係る税務上の取扱いの再確認』税理士・東辻 淳次 第5回/回収不能の場合の貸倒れ」
国税庁 法人税基本通達 第9章第6節 金銭債権の貸倒れ
国税庁 タックスアンサー 貸倒損失として処理できる場合
国税庁 通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ